第34話 再会
鏡を通ってすぐ何かが飛びついてきてびっくりする。
飛びついてきたのはくろだった。本当にうれしそうに抱き着いているように感じた。
そして、それに続くように涙ながらにローゼスが抱きしめる。
普段は気丈にふるまっているが、本当は繊細な彼女の一面を垣間見た。
「ヨーコ……よかった……本当に、本当に……!」
「ああ、本当に生きててよかったよ嬢ちゃん……へへっ、いい歳なのに涙出てきやがった」
「お帰りなさい、マスター。本当によかったデス」
「……おかえり。また会えてよかった」
一同はそれぞれの言葉で再開を喜ぶ。
「お互い、何があったかを話をしましょうぞ、お茶でも飲みながら。お客人達もそれぞれなにか調べていたようですからな。」
中庭でテーブルを囲んでお茶を飲みながら陽子は話をする。飛行船の中の街の事、聖女の務めの事。……そしてルインメーカーの事も。
「なっ……ルインメーカー相手に!? また無茶をしたの!?」
「まあまあ、確かに危なかったのは事実ですが、被害を抑えられたのもお客人の勇気があっての事。そこは素直に褒めてあげて欲しいですぞ」
「そうは言っても……そうだ、私たちでくろの事をしらべていたのよ。その話をしたいわ。姉様……シルファ姉様の事は覚えている? 彼女に協力してもらってね」
そう言って、ローゼスは何冊かの本を取り出す。
「調べてもらった結果、くろの持つ力は魔法をかき消す力だということが判明したわ」
「でもよ、ずっと思っていたんだが、嬢ちゃんが使ってるときとかは勢いとか空間とかいろいろ削っていたよな。魔法をかき消す力じゃあ、説明ができないんじゃないか?」
話を聞いたり本を読んでもそれに対する正しい答えが出ないように感じた。
陽子は安直に聞いてみることにした。
「ねえ、メリーさん……どうしてくろの力の事をしっていたの?」
「――メルエール――様からのお告げがあったのよ。貴女の持つ――くろがその力を持つと」
途切れ途切れに話す様は言葉を選んでいるように感じられて、ますます怪しく感じられた。
そこでローゼスがヨーコは勇者として命張っているんだから、もうちょっと正直に話したらどうなのと問い詰める。
「待って、ローゼスさん。きっと、事情があると思うから……メリーさん、いつか聞かせてね?」
メリーは時が来れば、必ず全てを話すと約束をする。
「陽子、さっきルインメーカーの話のときに、異変を引き起こしている魔力を強く感じたと言っていた。 おそらくそれが最後の異変。あなたたちが追うべき存在」
えっとローゼスが声を上げる。そして気まずそうに陽子の方を見る。
「……今度は止めないでね? あいつはそこらへんの賊とはわけが違うのだから。それでメリー、あいつはどこに向かったのかしら?」
言いよどむメリーにせっつくローゼス。
メリーは重々しく、海を超えた魔族領に向かったと答える。
「魔族領って本当か!? サンモニカの騒ぎからそう時間がたっていないのに、ヒトが渡るのは少々危険だと思うぞ?」
「主殿は嘘は言ってませんぞ。 ですが、お客人のいうこともまた事実。ここは遠回りになるかもしれませんが、魔王の太鼓判を頂くのが最も近道かと」
魔王の太鼓判?と首をかしげる陽子にサンゼンは説明する。
魔族領全土は魔王による王政が敷かれていて、その魔王直々の太鼓判ならば、人であったとしても悪い扱いを受けることはことは大分少なくなるだろうと。
それを聞いて妙に詳しいわね。どうして?と首をかしげるローゼスに、昔の戦争に参加してたんだと何気なしに答えるのを見てローゼスは驚く。
「戦争って……一番最近の戦争でも50年前よ? あなた一体いくつなの!?」
「ああ、いう必要もなかったから言ってなかったが今年で67だ。これでも、スティックメンだとまだ若い方だし、実際にまだ気持ちは若いつもりだぜ?」
その『気持ちは若い』っていうのがもう老けている何よりもの証拠でしょうに……と呆れたような表情でサンゼンを見るローゼスだったが、それと同時にサンゼンの強さに納得する。
「まあ、上を見ればもっと強いのもいるんだけどな!」
そんなサンゼンの言葉に、少し和やかになった空気でランピィがとある提案をする。
それは、ランピィが直近の魔族の状況を調べている間、サンモニカで観光をしながらこれからの事について話をしていくというものだった。
「いいと思う! 皆はどうかな?」
陽子を目を輝かせながら、その提案に乗る。
そしてそれに続いて、それぞれの言葉で提案に乗る一同。
「お客人、私が調べに行く前にこれで写真でも撮りましょうぞ」
直したカメラを取り出して。三脚に取り付ける。
ワタシが取りましょうかと、尋ねるアカリにいいえ、結構ですとランピィは返す。
「ついでですので、時間差で撮影できるようにしてみましたぞ。この螺子を巻いて……ほら笑って笑って!」
素早く皆の後ろに回り込みランピィ含めた一同が写真に収まった。
「あはは……ランピィさん、凄いぶれてる……」
「なんか幽霊が出たみたいになっているな!」
「やれやれ、本来ならば回り込んで仮面を整えるぐらいはできたはずですが……もう少し螺子を巻くべきでしたな」
出てきた写真をみてやいのやいのとにぎやかにしているのをメリーは静かに見守っていた。
***
ランピィを見送ったのちに、海賊がいなくなって平和になったサンモニカに一同はやってきた。
まだ復興は始まったばかりだが、心なしか明るくなった雰囲気に嬉々として写真に街の風景を収めていく陽子を微笑ましく見ながら、一同は出発前にランピィが言っていたことを思い出していた。
「件の魔族の事だが……まさかクアトラーダムで会いましょうとは思わなかったな」
「イーリス王城跡地……今では地獄のクアトラーダムですカ……」
「入ったら、戻ってこれないなんて話があるけど……それだと出てきている彼女は何者なの?」
話し込んでいるところに陽子が心配そうに輪に入ってくる。
「フタバさん、クアトラーダムにいるんだってね……ちょっと怖いよね。でも、悪い人じゃないよきっと。私を助けてくれたんだし……」
「そもそも、魔族領に行かねえと、クアトラーダムにもいけねえし、そろそろ観光と行こうじゃねえか 俺は酒場で一杯やってこようかな。それじゃあな嬢ちゃん、ローゼス、アカリ!」
はあ、昼間からお酒なんてとローゼスは呆れる。
「私は店を見て回ろうかな。二人もおいでよ」
「うん、わかったよ! 行こうっ、アカリ!」
ハイ、マスター!とアカリは承諾して三人で街を歩く。
まず足を運んだのは洋服屋。着替えなども買って、店を出ようとしたところ、
港町だからか、水着なども売っていた。今は夏真っ盛り。海水浴をするにはいい時期だろう。
「ここら辺は海がきれいだからね……そうだ、合流したら海水浴でもしない? 私もちょっと水着を探してみるわ」
突然の提案にえっと声を漏らす陽子。
自分に合う水着があるだろうか……と心配になってきょろきょろと見回す。
何とか、体に合うものがあった。しかし……
(これちょっと……サイズはぴったりだけど、ちょっと……)
手に取るのも憚られるようなあぶなげな水着だった。
勇気を出して手に取ると、運悪く店員に鉢合わせる。
「お似合いだと思いますよ! さあさあ!」
女性の店員にそう言われてしまい、引くに引けなくなった陽子は買うことにしたのだった。
なによりも変に迷って騒ぎを大きくしたくなかった。
「流石サンモニカね……いろいろあって迷ったわ。ヨーコも買ったの?」
「う、うん……」
少し頬を染めて気まずそうに頷く陽子に、首をかしげるローゼス。
店前で待っていたアカリと合流して酒場に向かうのだった。
「……あのね、ルインメーカーの事だけどね。怖かった。ランピィさんが助けに来なければ死んじゃうんだと思った」
「そうね……あいつは女子供でも構わず殺す。私の母もそうだった。一回だけ、一戦交えたことがあるけど、一人では遠く及ばず、一矢報いて生きて帰るだけで精いっぱいだった。片目を奪うだけでね……」
「えっ……片目見えていなかったの? まるで見えているかのように狙ってきていたけど……」
その言葉にローゼスは驚く。
唯一、一矢報いたという誇りで今まで生きてきたのに、それが揺るぎかねないことを言われたからだ。
「……次会うときは必ず決着を付けましょう。皆がいるから、力を合わせればきっと……」
「ソウデスネ。荷物はワタシに任せて、サンゼンさんに合流してください。海水浴の旨を話しマショウ」
「そうね。飲んだくれて喧嘩でもしてなきゃいいんだけど……合流したら他の買い物も済ませてしまいましょう」
そう言って三人は、サンモニカの街を歩いてゆくのだった。