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第29話 立ち込める暗雲

 急いで多くの護衛を付けて、住人達を町から避難させる。

 急な避難に各方面から非難が出たが、海賊が襲ってくるので迎え撃ちたい、とギルドが伝えると、

そのような非難は鳴りを潜めた。皆、海賊の被害に辟易としていたのだ。

これからどうするのと、陽子はシェリー達に聞く。


「私はエミーと共に、チャーリー三世のところに行き、赤金貨をどうにかします。あなた達はリンと共に海賊、特にガルム三世をどうにかしてください。攻め込む海賊をどうにかすれば、船を使ってガルムの元に向かえるはずです」


 頷いて、お互いを信じて駆け出す。港には、小さな海賊船がすでに止まっており、大量の海賊が冒険者たちと交戦していた。

 シェリー達は貴族街に向かったが、うまくやってくれるだろうと信じて、戦闘に加わる。


「くそっ、本当にどこにいたんだってぐらい海賊が多いな、まとめてぶっ飛ばせないのか……?」


「私にお任せください」


 リンが構えているのは大型の魔法銃。小型の大砲とでも言わんばかりのそれを海賊船の一つに向けて発射した。爆ぜる閃光と共に水柱が立つ。その衝撃に唖然とする他の冒険者に、宙を舞う海賊。

 それでも海賊の勢いは衰えず、冒険者との乱戦にもつれこむ。

 乱戦ではリンの魔法銃は相性が悪い。味方を傷つけてしまうからだ。なので、小型の魔法銃に持ち替えて応戦する。

 陽子達も負けじと、それぞれの方法で海賊たちと交戦する。

 一同が加勢してから、冒険者側の勢いが増すが、押しきれると思うたびに沖の海賊船の大砲による反撃を受けて後退せざるを得ず、一進一退となっていた。


「あの砲撃さえなければ、押し切って船を使ってガルムのところに近づけるのに……!」


 ローゼスが悔しげにつぶやく。


「それにしても、どうやってタイミングを計っているんだ? もしかしたら……」


 そう言って、サンゼンは気絶した海賊の懐を漁ってみる。


「なるほどな。望遠鏡なんかで覗きながら赤金貨で戦闘音を聞いていたのか。金貨を回収して隔離するんだ! 盗み聞きされなければ多少攻撃が緩むかもしれない!」


 冒険者の協力で、海賊の持つ赤金貨は集められ、ギルドへと隔離されていく。

 次第に砲撃は精細を欠くようになり、少しずつではあるが海賊たちを押し込んでいく。

 そしてついに、海賊たちはいっせいに退却を始めた。

 逃がすものかと、追撃をしようとしたときもう何度目かの、砲撃が轟く。

 砲撃は、何と海賊船を破壊し、海賊たちの撤退を封じたのだ。

 その行動は、『成果なくして撤退は許さない』というガルム三世の冷血さを表していた。そして、船が破壊されたことでガルム三世の元に行く手段も失われてしまった。

 どうしようと陽子はあたりを見回す。漁船はいくつかあるが海軍の船は今は出払っているようで、対抗できそうな船がなかった。


「おい、あれを見ろ!」


 一人の冒険者が一隻の船を指さす。

 貴族街側の海岸から小型艇がやってくる。操舵しているのは、エミーだった。


「これで行きましょう! ガルム三世の元へ!」


***


 時はさかのぼって、シェリーとリンは避難する住人に紛れて貴族街を駆けていた。

 目標はもちろん、チャーリー三世の屋敷だ。

 館を前にして、二人は顔見合わせる。


「私たちだけで、どうにかできますか……?」


「信じてくれたのだから、応えるしかありませんよ」


 ギルドめがけての砲撃があったことから、チャーリー三世はここに来るのを知っているだろう。

 それでも、街のために引くわけにはいかない。エミーは覚悟を決めて門から顔を出して様子を見る。私兵が慌ただしく警備しており、正面から行くのは難しそうだった。


「……正面から行くつもりですか? こちらの厨房を通るルートが安全です」


シェリーは既に鉤爪ロープを使って壁をよじ登っており、エミーも急いで登る。


「シェリーさんっていつもこんなことして――」


 静かにするようにと、口を押えられるエミー。シェリーが指さす先には門番が一人、厨房に入る扉を見張っていた。

 エミーは狙撃を頼まれているんだと察し、魔法銃を取り出して狙撃する。

気を失った門番の横をすり抜け、驚くコックやメイドたちの間をとおりぬけ、クローゼットの中で私兵をやり過ごす。

 魔法銃で武装している以上、見つかれば面倒なことになるだろう。

 なので、リスキーではあったがエミーとシェリーは魔法銃をここに隠し、エミーはクローゼットにあったメイド服に着替える。


「なんだかとても懐かしいです」


「そんなこと言ってる場合ではありませんよ。あまり時間はないかもしれませんので。エミーは魔法が使えましたよね?」


「一応、氷の魔法をある程度は……」


「戦う時は、あなたの魔法に頼ることになるかもしれません。いきましょう」


 クローゼットの戸をゆっくり開けて、こっそりと屋敷の上の方へと向かう。

 他のメイドたちに紛れながらチャーリー三世のいる三階にいき、部屋の掃除の素振りをして空き部屋から天井裏に入り込む。


「チャーリー三世の部屋は警備のゴーレムがいますので。ここを通るほうが安全かと」


 二人は、チャーリー三世の部屋にたどり着き、ベランダへと降りて耳を澄ませる。

 部屋に気配が一人しかないにもかかわらず、彼はベッドで何者かと話をしている。部屋の金庫からあふれるほどの宝飾品などの貴重品。

 その中にはエミーが盗まれた宝飾品も交じっており、エミーはぐっと、こぶしを握り締めながら怒りをこらえていた。

 

『おいチャーリー! 話が違うじゃないか! 財宝は山分けじゃなかったのか!』


「俺の金貨がなければ碌に略奪もできないのに、山分けとは図々しいなガルム!」


『ぐぬぬぬ……お前の盗んだ富でふんぞり返っているのが気に入らなかったんだ!』


 手下が忙しく働いているというのにそれぞれのリーダーが仲間割れしているのに、二人はため息をつきたくなったが口を押えた。聞くに堪えないガルムとチャーリーの三世同士の罵倒合戦が始まり、

鉤爪ロープをベランダから垂らして脱出経路を確保してからこっそりと部屋に入る。


『俺もお前と同じようにドクロを持っているんだからな! お前がいなくたって――』


「赤金貨の流通止めて、逆にお前たちを捕えることもできるんだぞそれでいいのか?」


『貴様ー!! ガルムを舐めてたら痛い目を見ることをいずれ教えてやる!』


 三世同士の言い合いに呆れながら、エミーとシェリーは体を伏せながら近づいていく。


「ちょっと待て誰か来て――ぐわぁっ!!」


 不意を突いてベランダにあったレンガで頭を殴り、気絶させた。


『あぁ!? 聞こえないな!? おい、返事しろ!』


 気絶させたシェリーは、チャーリー三世を縛り上げ、ベッドに散らばっていた赤金貨を捨てる一方でエミーは彼が持っていた、赤いドクロを手にする。

 どうやら、赤金貨に使われた結晶と同じものでできているが、相当に禍々しいオーラを放っていた。


(これを介して、盗み聞きをしていたのですね。でもこんな禍々しい結晶を私、初めて見ました……)


 そうやって、エミーがまじまじと見ていたら、ドクロが跳ねるかと思うような大声でガルムが大声でがなり立てる。


『おいチャーリー! お前、自分の船を持っていたよなあ! それですぐに金庫の財宝の半分をよこせ! そうしないともう安心して眠れないと思え!』


 その大声で意識を取り戻したチャーリーは自分が縛られている事に驚いていた。

 そして、目の前の二人を見て目を丸くする。


「ち、違うんだ、俺は……俺は……そう! ガルムの奴に脅されて!」


 この期に及んで、自分のやったことから逃れようとするチャーリーにごみのような目で見るシェリーと憤慨するエミー。


「先ほどの罵倒合戦をお聞きしたところ、ずいぶん仲が良いようですが」


「そうですよ! 私の作品を返してください!」


 震え声で、何のことやらと言い逃れようとするチャーリーにシェリーはとどめを刺す発言をした。


「それに、すでにギルドに海賊との癒着の件は報告してありますので、逃げられませんよ」


 それを聞いてもう逃げられないと思ったのか、大声で私兵を呼ぶ。この階がざわつき始めるのを感じて、

エミーとシェリーは先ほど垂らしたロープから脱出する。


「これからどうしますか?」


「先ほど、ガルム三世の言っていたことを覚えてますか?」


「えっと……自分の船で金庫の財宝を半分持って来い、でしたっけ」


「大体あってます。それを利用してガルムの海賊船に近づきましょう。赤金貨は捨てましたので先ほどの会話は聞かれてないはずですので」


 貴族街の海岸には、貴族私有の船が泊まっている。チャーリーの持つ船は彼のイメージとは反して質素な小型艇であった。

 実は、エミー達姉妹とシェリーは操舵などの船の操作技術を教え込まれていた。

 本来メイドのする仕事ではないが、貴族の遊覧程度ならば、華があるほうが良いということなのだろう。

 エミーは舵輪を握り、シェリーは帆を張る。


「行きましょう。」


「……不安ですけどよし、行きましょう!」


 月を覆い隠すように、立ち込める暗雲が彼女たち、ひいては陽子達のこれからの試練を予感させた。

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