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第28話 ざわつく夜

 エミーが依頼を書いている間、陽子達は冒険者から話を聞いていた。

 曰く、海賊は増えており被害は甚大。

 曰く、記念硬貨を一万ゴールド金貨として使うことを提案したのはやはりチャーリー三世だったということ。

 曰く、貴族がそのように記念硬貨を扱うようになってから海賊が襲撃するようになったこと。

 曰く、そんな経緯から、記念硬貨を多くある所が、海賊に襲われるという『呪いの金貨』と噂になっていること。

 そのような話を聞いているうちに、エミーは一万一千ゴールドで赤金貨を買い取ると、依頼を貼りだせば、その場の冒険者がいくつか交渉を持ちかけてきた。記念硬貨が千ゴールドの得になるならば、ということで手放す人が少なからずいたのだ。

 そうやって少しずつだが赤金貨が集まっていく。時には商人がまとめて買い取りを申し込んできたりもした。

 しばらくしたらローゼスとサンゼンとも合流して、羽振りよくエミーが赤金貨買い取っていくのを見ていたが、サンゼンがあることをつぶやいた。


「そういえばさ、エミーを襲った海賊が気になることを口走っていたんだよな。『我々にとって迷惑なのだからな』ってさ」


 ――この娘がしようとしている事は我々にとって迷惑なのだからな!

 その言葉はまるで、エミーが何をしようとしていたか知っていたかのようであった。その言葉の謎はギルドにいる間には解けなかったが、とりあえず、あとで自分の店で買い取りますと言って、切り上げてきたエミーと共に店に戻ることにした。

 エミーを守るようにして歩いていたが、さすがに蹴散らされたのが効いているのか、襲撃されることはなかった。

 店ではシェリーとリンが出迎えてくれて、上の階で簡素ながら少し遅い夕飯を取ることができた。

上の階には賊が踏み入ってないようで、綺麗なままであった。


「これがサンモニカの海の幸か……うめえな」


「これぐらいなら、造作もないことです。ですよね、エミーさん」


「はっ、はいぃ……そうですね……」


 少し凹んでいるのを見て、陽子は首をかしげていたが、おいしい夕食に舌鼓をうって、綺麗に食べてしまった。

 そして、皆で食後のお茶を飲みながら、賊について話すと、シェリーは呆れたようにため息を漏らした。


「メイドのころから、せっかちで危なっかしいのですから。少しは落ち着くことを学んだらどうですか」


「ううっ、メイド時代は私の方が先輩だったのに……って、そんなことよりも! 赤金貨ですよ赤金貨! そんなに多くないですけど、集めてきましたよ!」


 そう言って革袋に入っていた赤金貨を取り出してテーブルに出す。

 それで、陽子も気づいた。金貨の山から、かすかに『怖さ』を感じることに。

 サンゼンも複雑そうな表情をして、その山を見つめていた。

 一枚手に取って、エミーは言葉を漏らす。


「やっぱり見て思うのですが、この金貨って貴族好みのデザインですね。私ならもう少しシンプルなデザインにしますね。なんといっても、普通だと結晶での装飾はしないはず……」


 確かに、と思いながら陽子も勇気を出して、金貨を手に取って、まじまじと見る。

 エミーの言う通り、金貨の表面には複雑な模様が入っており、紋章のようでもあった。

 さらにエミーは、こうやって集めてようやくわかったのだけど、と前置きを置いて発言する。


「この金貨、魔力がこもっています」


「この悪い気が、魔力だというのか? 俺の知るものとはだいぶ違うようだが」


「とりあえず、今日は眠りましょう。サンゼン様、あとどれぐらいあれば解析できそうですか?」


「俺ができるのは解析って程じゃねえよ。ただ、この悪い気の正体をつかむならあと五十枚ほどあれば……行けるか?」


「明日どれぐらい依頼で集まるか、ですね! ゲストルームがあるので、皆さまもゆっくり休んでください! 私が掃除しましたので! 私が、掃除しましたので!」


 強調して言ってきた理由はリンとシェリーの会話からすぐに分かった。普段はリンが掃除しているので、久々に掃除した自分を褒めてほしかったのだろう。

 久々だからといって、メイドの腕が衰えているわけではなく、綺麗なゲストルームに陽子は目を輝かせる。


「あっ、すごくきれい! ありがとう、エミーさんっ」


 ふふん、私だってやればできるんですよと胸を張るエミーに、リンは微笑ましくしていた。

 仲間もゲストルームに行き、各々のベッドで休みを取る。


***


 眠れない夜。陽子は目覚めて、月明かりに照らされる部屋を見て回る。

 様々な品が館の物に劣らず美しく、皆を目覚めさせないようにこっそりと写真を撮った。

 その中に、鏡があり、館とつなげようか、でも許可取っていないと考えていたら、唐突に店の外から戦闘音が響き渡る。

 窓から見下ろすと、衛兵隊と海賊たちが戦っていた。海賊の数は少なくとも二十人は下らなかった。

 対して衛兵隊は八人ほどと、明らかに分が悪かった。


「大変! どうしよう、起こさないとだめだよね……?」


「大丈夫よ。今の音で目覚めたから。皆を起こして回りましょう!」


 ローゼスと協力して皆を起こして回る、エミー達は騒ぎに気付いてすでに下に降りているようで、

 一同が下りたころにはすでに集まって戦う準備をしていた。エミー達は形は違うが、それぞれ魔法銃を手にしていた。

 私は上から援護射撃しますと、エミーは長い銃身を持つ魔法銃を持って、息巻いていた。ローゼスも同じく援護射撃すると、二人で二階に登って行った。

 リンは大型のものを、シェリーは小型のものを二つ持っていたが、シェリーがリンに魔法銃を手渡す。


「乱戦ですのでリン様も私の物をお使いください。衛兵隊を傷つけると大変ですので」


「ご厚意感謝します。では皆様、参りましょうか」


 リンは鍵を開けて、一同は乱戦へと身を投じる。

 衛兵やアカリがひきつけている横から攻撃を加えて、一人また一人と無力化していく。

 援護射撃も効いていた。視覚外からの攻撃は海賊にとって恐怖そのものであった。

 最終的に全員を無力化して、衛兵たちが海賊をお縄にするのを見ていたが、なぜこのタイミングで襲撃をしてきたのだろうか。

 午前中、夕方、深夜。繰り返し襲撃されており、何か際立った理由があるとしか思えなかった。


***


 それから二日後。

 散発的に海賊が襲ってくるのでギルドに協力を仰いで護衛してもらいながら、何とか赤金貨をサンゼンが調べるための量を集めることに成功した。

 正体を暴くのはギルドでやるということになり、ギルドに赤金貨の袋を持ち込んだ。

 皆が固唾をのんで見守る中、サンゼンは赤金貨に帯びた気を読み始めた。


「――これは、なるほど……あの言葉はそういう意味だったのか」


「何かわかったのサンゼン?」


 サンゼンはこれを伝えるべきか迷った。確実にパニックになるからだ。

 まずは、リンに赤金貨の依頼を完了扱いして買い取りをやめるように言う。完了扱いとなり依頼が破られて、買取ができなくなったのを確認して、皆にこう告げた。

 何者かが、赤金貨を通じて俺たちの声を盗み聞きしていると。

 皆がざわつき、赤金貨を手放そうとしてエミー達に詰め寄るが、依頼はもう完了しましたとリンがきっぱりと断る。


「……だから、海賊が隠し場所を漁ることができたのですね」


 こんなのどう考えてもチャーリー三世の仕業じゃないか、許さないという声が上がり、なし崩し的にチャーリー三世の捕縛とガルム三世の討伐の依頼がでた。


「おいおい、今そんなことやったら――!」


 サンゼンがそう叫んだ時には、遅かった。

 ドガァ、バキバキ、ギルドの屋根を突き破って、砲弾がテーブルの一つを破壊した。

 海賊船の砲撃だった。

 ギルドは水を打ったかのように静かになる。

 声を盗み聞きされているということは、こちらの作戦も計画も筒抜けだということだ。


「とりあえず解散だ! あいつら総力上げて襲ってくるぞ!」


「あと、赤金貨はこのギルドに置いていってください! 危険を呼びます!」


 冒険者たちは皆赤金貨を捨て、街へと駆け出して襲撃に備える。

 総力戦が始まろうとしていた。

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