第25話 純白のオートマトン
マスター発言の後、スザンナたちギルド員に連れ出されて調査が行われた。
彼女たちが戻ってくるころには、もうあたりは暗くなっていた。
「いやはや、鍵となる魔力の主をたどってマスター認証とはよく考えられているな。恐らく複数人で起動させること前提になっていたのだろう」
「調査で何か分かったことあるのかしら?」
待ってましたと言わんばかりに紙を広げる。
そこには図を中心に大量の文章がかかれており、情報の奔流ともいうべきこの量を、ほんの数時間で調べだしたのかと陽子達は驚いた。
「まずはこのオートマトン……定義的に彼女とする。彼女の名前だが、古代の言葉で明かりを意味する言葉が綴られていた。発音はまだ解析が必要だが……」
「うーん、意味から取ってそのままアカリなんてどうかな?」
その言葉に頷くオートマトン改め、アカリ。
「それじゃあ、アカリさんで」
「あ、安直だな……まあいい。わかりやすさは多くに勝る。レンガに含まれていた物質をイーリスセラミックスと名付けたのもわかりやすさからだ」
ほかにわかったことは?とローゼスは彼女を見ながら言う。
「考古学的観点からすると、初めて発掘された機能しているイーリス時代とみられるオートマトンであるが、ゴーレム学からすると汎用性が高く頑丈、そして器用であると特徴づけられる。脆弱性を持たずに高機能を実現しているのはさすがといったところだな。そして……」
そういって純白のかばんを取り出す。
「起動後に棺を調べたところ、装備品の入ったこれがあったことを教えておく。汎用性の高さを生かすための道具箱といったところか。中には周囲の魔力を集めて形成するバトンと盾、そして回路に干渉して腕力を増幅させる腕輪。他にもまだ用途不明なパーツがあるのでこれらは引き続き調査するとしよう」
説明を聞きながら陽子はかばんを見ていたが、はっとした表情をして、アカリに背負ってみることを提案してみる。
「こうデスカ?」
するとまるで体の一部であるかのようによくなじんでいた。
「かばんの中に空間転移のルーンがかかれていたがもしかしたら……君、バトンと盾をイメージしてくれるか?」
言われた通りイメージしたのだろうか。アカリの手元に取っ手が現れ、棒と盾を形成する。
「ナゼカ、使い方がわかる気がシマス……長く眠っていたハズなのに」
そう言って軽く構えてみる。
「結構いけてるじゃねえか。にしても大きな盾だな?」
「地面ニ立てかけるコトで、疑似的ナ壁となりマス」
「へへっ、漢なら正面から受け止めてこそってやつだな。気に入ったぜ」
「ですが、ワタシは漢では無いハズ……アナタが漢気を大事にする方というのは認識しまシタ。マスターはどうですカ? 漢気ありますか?」
えっとたじろぐ陽子にローゼスが、まあいざってときの胆力はある方ねと頷いた。そんなあなたに、何度も助けられたしと少し照れくさく笑いながら。
「……ふむ。かなり言語能力が高い。純粋な兵士以外の用途で作られたのだろうか。だが、今日はもう遅いし、解散としよう。君たちも宿屋に戻った方がいいだろう」
解散の合図と共に宿屋へと戻ろうとする四人だったが、スザンナに止められる。
「ちょっと待った、アカリは私個人で引き続き調査したいから残りたまえ。当然のようについていくんじゃないよ」
ナゼ?と首をかしげるアカリ。そんな様子に呆れて言葉を続ける。
「マスターについていくという考えは理解するが 、君は一応発掘された遺物として国に報告しなければならない。それを聖女とはいえ一介の冒険者に連れ出されてはこちらの立つ瀬がない」
それを聞くと、アカリさんもここに残った方がいい気がするけど……と首をかしげながら陽子は考え込む。それを見てアカリはスザンナに言葉を返す。
「ワタシはナゼ生まれたのですか?」
「今はわからない。だが、それを調べるのが私たちギルドの役割だ」
「調べるダケでは見えないモノを見たいデス。恐らくそこに真実がアルと思われマス」
スザンナは再び驚愕した。ゴーレムにこのような高度な感情を持たせることができるということに。
それならば、自らの常識の中で調査するよりもいっそ……
「……うむ、君の言うことも確かだ。それならば彼女たちと共に旅立ち、何のために生まれたのか、自分で見つけてくるといい」
「感謝シマス、スザンナ様。いつか必ず、戻ってきマス」
こうやっていると、別れを惜しむ親子のようだなと苦笑いするスザンナだったが、ありがとうと礼を言う陽子達の言葉で表情を戻して、見送ることにした。
「さあ、私の気が変わる前に行きたまえ」
月光があたりを照らす中、4人の影が宿屋へと戻る。明日からまた旅立ち、サンモニカへと向かう。
そこに待ち受けている試練を陽子はまだ知らない。
***
次の日、朝食を取った陽子達は村の人々に礼を言ってから再び旅立つ。
「昨日はいろいろあったわね……新しい仲間もできたことだし」
「これからヨロシクおねがいしマス」
荷車に座って伸びをするローゼスの横に座るアカリと陽子。そんな二人を見て陽子に妹ができたような気分で微笑ましいなとローゼスは微笑む。相変わらずサンゼンはけん引役を引き受けて張り切っている。
「皆乗ったか? 行くぞー」
街道に出ると仄かに潮風が香る。そろそろサンモニカが近いのだろう。
しかし、サンゼンの提案で休憩を取ることになった。
「前と同じペースで歩こうとしたら思ったより疲れてな。やっぱり人数増えたからか……」
サンゼンは肩を回して一息つく。村から街道に出るまで休みなしで歩き続けていただけあってさすがに表情に疲れが出ている。
「そういえば、アカリさんのカバンに腕力を高める腕輪っていうのがあったよね?」
「コレですか? マスター」
そういって、腕輪を装着すると変形して大ぶりの光の輪に変化する。
「ちょっと三人で乗ってみるから行けるかどうかやってみようよ」
そういって改めて荷車に乗る陽子。サンゼンとローゼスも座って準備万端だ。
「俺がここに座ることになるとはなあ。アカリ、行けそうか?」
「試してみマス」
アカリはそういって軽く荷車を押す。すると、淀みなく動き始める。
「大丈夫そうデス。これなら長時間の運行も可能デショウ」
それを聞いて一度は喜ぶ一方でサンゼンは複雑そうな表情をするのを見て、陽子はどうしたのと首をかしげる。
「いや、漢として引っ張られてばかりなのは何とも言えなくてな」
「でも休憩していたんだから、たまには仲間に甘えなさいよ」
それを聞いてサンゼンはそれもそうか、恩に着ると寛ぎ始める。
「皆で出来ることをやっていこう……アカリさん、出発して大丈夫だよ!」
「マスター、ワタシの事はアカリで大丈夫です。ではアカリ、出発シマス」
その後は、アカリにけん引されながらの、順調な旅だった。アカリは睡眠も必要ないといって、夜も歩き続けてくれたおかげで想定よりも早くサンモニカへとたどり着いた。