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第24話 時を超えた邂逅

 考古学ギルドでは赤髪の女性の指揮の下、巨大な棺の掃除をしているところだった


「すみません、今何しているんですか?」


「古代王国のものと思わしき遺跡から発掘された棺の清掃中だ。精密なルーン文字の装飾からして中に入っているのは死人ではなく、休眠中の……おっと、申し遅れた。私はスザンナ。僭越ながら、このギルドを取り仕切っているものだ」


「ここでも古代王国か……どうして古代王国に関するものがここに多くあるんだ?」


 それはだな、これを見てもらうとわかりやすいと地図を広げる。


「大昔のこの大陸のものを再現したものだ。人と魔族の住まう大陸はわかれておらず、ひとつながりであった。最も大崩壊と呼ばれる災害で大陸は分断され今の形となり、古代王国は滅びたが」


 大崩壊という聞きなれない言葉に、サンゼンは首をひねるのを見て、スザンナは大崩壊の説明を始める。


「ああ、大崩壊というのは古代王国イーリスが失われた災害でね。詳細は不明だが、ほぼ無限に魔力を引き出せる賢者の石などを筆頭とした、イーリスの発達した文化のほぼすべては大崩壊によって失われたという」


「でもこうやって見つかっているんですよね? どうしてですか?」


「ふむ……わかりやすく言えばここはイーリスの端だったのだよ。それ故ここに考古学ギルドが設立され、短い間にこうやって遺物が見つかっている」


 短い間に、と陽子は首をかしげる。


「ああ。設立されて七年。きっかけとなったのはやはり古代王国の事にまつわる詩だったな」


 詩一つでギルドができるなんてすごいなあと、目を輝かせる陽子をよそに、ローゼスは何かを考える。


「何か質問でもあるのか? 清掃の間はまだ私の管轄でないのでね。話でもしようではないか」


「その詩を広めたのが誰か、気になってね。そこまでの影響力を持つのは一握りの宮廷楽士でもなければ難しいのじゃないかしらってね」


「ああ。はじめは無名の詩人が奏でたものを娯楽都市の貴族に買い取られたらしくてね。それ以降市民の古代王国への注目が増したと聞いたね」


「そう言えば、二人の王様の演劇にすごいお金が使われているって聞いた……でもあっちでは優しい王様が死んじゃってあまり好きじゃなかったな……」


「絵本ではそこらへんソフトになっていたのかもしれないわね」


 長くなりそうだと判断したスザンナはぱんと手を叩いて話を中断させる。


「古代王国で何があったかは興味深くはあるが、今ある遺物が優先だ。可能ならば、清掃を手伝ってはくれないか?猫の手も借りたい。それに、一刻も早く遺物の調査をしたいの思っているのでね」


 掃除なら任せてっ、いいこと思いついたのと陽子は作業スペースに降りていく。そのの中心に鎮座する黒光りの棺には未知の言葉が綴られていて今も脈打つように光を放っていた。


「ローゼスさん! サンゼンさん! なんだかとても綺麗だよ!」


 好奇心旺盛なのは年相応みたいねとローゼスは微笑ましく感じて、同じく興味ありげなサンゼンとともに作業スペースへと降りていく。

それぞれがギルドの人にモップを手渡され、埃にまみれた床を掃除し始めるローゼスとサンゼンだったが陽子はレンガの山を前に黒を構える。


「嬢ちゃん何する気なんだ?」


「こうするんだよ。黒よ『汚れ』を削れっ」


遺物らしきレンガはそのままに、みるみる砂埃がくろへと吸い込まれていく。


しばらくそうやってくろへと吸い込ませるのをみて上からスザンナは感嘆の域を漏らす。


「見る見るうちに綺麗になっていくな。しかも遺物を壊さずに。これは素晴らしい」


 その言葉に陽子は視線を上げてどういたしましてと笑顔を返す。

 しかし、それがいけなかった。

 足元の不注意を招き、水の入った桶に片足を突っ込んでド派手に転んで、桶が水をばらまきながら宙に舞う。

 しかも、そのはずみで棺の蓋を突き飛ばしてしまったのだ。


「わ、わ………ごめんなさい! そんなつもりじゃなくて! うう、どうしよう……」


「そう重く考えなくていい。それよりも怪我はないか?」


 騒ぎにスザンナも急いで降りてくる。そして、立てるか?と陽子に手を差し伸べる。

そして一同は開かれた棺を見る。そこにはヒト型に整えられた白いゴーレムが休眠していた。


「おーすげえな。ゴーレムって言ったらもっと粘土の塊みたいなものだと思ってたが」


「一般的なゴーレムはそうだが、このような高度でヒト型に近いものをオートマトンという。これもイーリス文明の片鱗だな。さて、調査をしなければ。危険かもしれないから私から離れるように」


 彼女は傍に人がいないことを確認するとゴーグルをかけて、様々な道具で未だ眠るオートマトンの調べながらメモを取っていく。

 しばらくしてメモを書き終えた彼女は、興味深いと呟いてメモの束を机に置く。


「この純白ともいえる外殻……美しいな。この物質自体は陶器に似ているが、陶器の持つ脆性を克服しており、金属のような靭性を持ちながら、陶器故に金属の様に錆びない。そしてこのヒトのものを模した手と脚は汎用性が高く、様々な仕事に適しており……」


 難しい言葉に陽子は首をかしげ、サンゼンは頭を抱えている。


「コホン、わかりやすく言うとこのゴーレムに使われている素材は壊れにくくて丈夫、そして長持ちするということだ。解析すれば完全再現とはいかないが、この外殻に近しいものを作ることが可能になるだろう。イーリスで作られたセラミック、イーリスセラミックスと名付けよう」


 解析と聞いて陽子は分解しちゃうんですかと心配げにオートマトンの方に視線をやる。


「いや、幸運にも質こそ劣るもののレンガにも同様の物質含まれている事を確認したのでね。そのため、この物質の解析でオートマトンを傷つける必要はない。君がレンガの汚れを削ってくれたから気づけた。感謝するよ」


 その言葉を聞いて安心したとほっと胸をなでおろし、まだ休眠しているオートマトンに視線を戻す。


「この子……どうやったら起きるのかな?」


「長期保存のために時を止めているようだ。こういった場合は時の魔力を流し込むことで起動させることができる。時を止めて保存。古代人の発想には驚かされるよ」


 時の魔力ってなんだ?十二の属性があるってのにまだあるのか?とサンゼンは首をかしげる。

ローゼスは光と闇の複合で太陽と月の巡りを表していると姉様に聞いたわと教える。

そんな二人に頷くスザンナだったがギルドメンバーからあることを報告されて頭を抱える。


「ああ、こんな時に依りにもよって闇の魔力源が不足するとは……次の入荷は来月……それまでおあずけとは何たる……」


 そんな彼女を見て、陽子は闇の魔力なら私がと声を上げる。

はっとしてスザンナは陽子の顔を、特に目を凝視して納得したように頷く。


「なるほど珍しい、学術都市と世界樹を守ったと噂の『黒の聖女』とはあなたの事だったか。お力添え感謝する」


 えっ、初めて聞いたと驚きを隠せない陽子をよそに、スザンナは機械を取り出して陽子に魔力を注ぐように促す。

 促されるままに、手をかざして念じると機械が動き出す。光と闇が巡り、時の鍵となってオートマトンを目覚めさせる。

オートマトンから蒸気を噴き上げるのを見て、スザンナはついガッツポーズを取ってしまう。古代遺物の調査が生きがいの彼女にとって、感動の場面であった。

むくりと起き上がって周囲を見回すオートマトン。視線のそれぞれを見返し、最後にもう一度陽子の方を見やる。

そして、それが発した言葉に一同は驚愕する。


「カギにアナタの魔力を確認しました 。アナタがワタシのマスターですネ?」

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