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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第3章 過ぎ去りし時から愛を込めて
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第22話 いざ、サンモニカへ

「ん……朝だね……」


 目覚めと共に支度を始める陽子だったが、頬に風がそよぎ首をかしげる。


「あれ……窓、開けて寝てたっけ? それに……懐中時計はどこだろう?」


 普段とは違った場所に置いていたことに気づくのにしばらくかかったが、なんとか支度を終えてドアを開くとローゼスが待っていた。


「おはよう、ヨーコ。珍しく遅かったわね。サンゼンが三人そろうまで待とうっていってて二人で待ってたのよ」


「それなら急がないとね、わわっ……」


 急いで向かおうと、つんのめりそうになった陽子をローゼスが手を取って何とか持ちこたえる。


「そんなに焦らなくていいわ。サンゼンは空腹は最高の調味料とか言って待ってたし」


「ありがとうローゼスさん」


 どういたしまして、危なっかしいんだからとちょっと困ったようにローゼスは微笑んで共に食堂に向かった。


「来たか!今日は朝からすごい肉だぞ!」


 まちかねてたサンゼンはこちらに手を振る。

それからは、食事をとりながらこれからどうするかを話し合っていた。


「まず、サンモニカへは歩きだと五日はかかる。幸い、途中で村があるから補給はできるが……三人ともなると荷物も多くなるしな。荷車、じっちゃんに頼んでみるか」


「雨季だから、雨に降られる可能性も高いわね。晴れてくれるといいんだけど……」


***


 旅の荷物をまとめ、サンゼンの言う通りおじいさんの元にやってきた三人。


「サンゼン、こないだ馬に無茶をさせたから、しばらく休ませないといけないんじゃ。それとも何か他に用事があるのか?」


 荷車が欲しいと頼むサンゼンに、おじいさんは丁度余りがあったようなと倉庫へと向かう。

しばらくして彼は荷車というには、少々小さなものを引いて戻ってきた。


「人の手で引けるようにされたものじゃ。お前が引っ張っていくならこれをタダでやろう。漢として、女子供を護るんじゃぞ」


 二人の方に振り返り任せておけとグッとサムズアップする。


「だがこのままだと小さいのう、大きくすれば長旅にも耐えられるじゃろうからサンゼン、木材を取ってきておくれ。歳だから一人だとつらくてのう」


 おう!と威勢よく製材所から、新しい木材を持ってくる。

それから、おじいさんは器用に木材を取り換え、車輪を新しくして、生まれ変わった荷車の車輪を回してみる。

滑らかに車輪が回るのを見て、頷づく。


「ほれ、出来たぞ。もし仲間が多くなって乗り切れなくなったら、わしがまた大きくしてやるからの」


「わぁ……これが私たちの荷車? みて、私が座ってもまだ余裕があるよ!ローゼスも!」


 無邪気にはしゃぐ、陽子を微笑ましく思いながら横に座る。荷物の分を差し引いてもあと四人ぐらいは座れそうだ。


「よし……二人とも乗ったな。それじゃあ行くぞっ!」


 と、勢いよくけん引しようとするところを止められる。不満げな表情をするサンゼンに、さとすようにおじいさんは語る。


「お前まで無茶してどうするんじゃ。確実に、地道に歩いていくんじゃ」


「地道……か。ありがとうじっちゃん」


 魔物や賊などを相手することがあったものの、荷車のおかげで旅の最初は順調そのものだった。

夜、雨風が凌げる場所で焚き火を囲んで夕食を取る。


「こうやるとキャンプみたいだね……」


 安堵したかのようにふうと息を漏らしながら、陽子は焚き火に手をかざす。


「乾パンもう一個くれよ。明日も頑張って引っ張っていかないといけねえからさ」


 しょうがないわねと、ローゼスは自分の分をサンゼンに分け与える。


「ありがとよ。嬢ちゃんは勇者って使命を負って、旅を始めたんだろうけど、ローゼスはどういうきっかけで始めたんだ?」


「……罰を与えるためよ。ルインメーカーの噂は知っている?」


「ああ、槍一本で村を廃墟へと変えるっていうとんでもない噂だな。それがどうかしたのか?」


「私は見たのよ。巨大な槍で母親を刺し貫かれるのを。たった一晩で廃墟になった故郷を。だから、あいつに報いを受けさせるのよ」


「……わりい。辛いことを思い出させてしまったな。」


「いいのよ。……そういえばサンゼン、当然のように旅についてきているけど大丈夫なの?」


 もっと強い奴と戦って自分を磨きたいからなと、細かいことを気にしていない様子でサンゼンは乾パンを平らげる。

そうやってすぐ食べちゃうんだからとあきれ顔のローゼス。


「ふふっ、サンゼンさんがいると少し空気が明るくなるわね」


「……嬢ちゃんがいてこそだぞ。そのくろの力とやらに興味を持ったってのも、ついていくきっかけだからな。とりあえず胸張っていいぞ。使いこなせるのは嬢ちゃんだけだからな。触れ合っているときの感情でわかる。」


 そう言われて、陽子はちょっと照れながらも胸を張って見せるむふーと可愛らしいどや顔も一緒に。

 似合う似合うと拍手するサンゼン。


「そうだ……写真とろう?」


 よし来たとカメラマンになろうとサンゼンはカメラを渡すように促す。


「……三人で一緒に写りたいな」


 嬢ちゃんらしいやとわらって詰めて座る。

 背には荷車。横には仲間。必死にカメラを掲げてうまく写真を撮って……としようとする陽子に

ローゼスは蔦でサポートする。

彼女の協力もあって、なんとか写真を収めることができた。これもまた旅の思い出のアルバムに収められるだろう。


「また見る時が楽しみだなこりゃ。 にしてももう遅いな。寝るぞ!」


「ええ、そうね。 おやすみなさい」


それぞれ寝袋に潜り込んで眠りにつく。焚火の温かさで次第にまどろみ、静かに夢の中に沈んでいった。

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