第20話 世界樹防衛戦
「何とか間に合った……よかった……」
そう言いながら、その場にへたり込む。
よくやったぞ嬢ちゃん!と労うサンゼンだったが、巨大なターマイトを見て、あんなにでかいとさすがに俺の拳でも通らないぞと弱音を吐く。
「あなたの弱音、初めて聞いたわ。でも確かに、難しいわね……」
世界樹が食い荒らされるなんてことはあってはならない。
そうは言っても、あの巨体を貫けるものがないならどうすればと三人で悩む。
「そういえばローゼス、草花を味方にできるって言ってたよな」
頷いて、それがどうしたのと返すローゼス。花畑は食い荒らされていて十分な力を発揮できないだろうと答える。
「植物なら、あるじゃないか。俺たちの後ろに!」
「後ろ……世界樹……えええ!? 私に世界樹を味方につけろというの!?」
とんでもない提案に驚きを隠せずに混乱するローゼス。
できるかと、サンゼンは問いかける。
「できる、出来ないことはないけど、世界樹の管理者たちが許してくれるかどうか……」
その言葉をきいてリーベ教皇が責任は私が取るのであなたたちの愛のままにやっちゃってくださいと、口をはさむ。
「……よし。なら、二人とも俺の言う通りに動くんだ。あとはそとから魔力をありったけ用意できれば、突破できるかもしれない。世界樹には防衛用の魔導砲があったよな?あれ用の魔力をありったけ寄こしてくれれば……」
「スティックメンは魔法使えないはずなのに何に使うの?」
「俺の『とっておき』だよ。魔法は使えないが、魔力を使えないわけじゃないぞ?」
防衛施設の魔力を使うなら、私が許可を取ろうと隊長が名乗り出る。
兵士たちを酸から守ってくれた礼だと思ってくれと付け加えて。
「よし……なら、いっちょやるか!」
第二部隊、魔力源の運搬をという隊長の命令で魔力源が三人の元へと運ばれる。しかし、魔術師部隊の集中が限界に近く、拘束が解けるのも時間の問題だ。
「今のうちにやることを言っておく。ローゼスは世界樹であいつを雁字搦めに、嬢ちゃんは勢いを削ってローゼスの補助をするんだ! 俺は二人を信じているからな!」
拘束解けましたという報告をきくやいなや陽子はくろを掲げて勢いを削る。水の中にいるかのようなゆったりとした動きで振り下ろす顎をサンゼンは往なしてローゼスの方を見上げる。
「……世界樹よ、ブルーム家の命に応えよ」
ごご、と枝が動きターマイトを雁字搦めにする。
「あとは俺が皆に応える番だな……」
そういって一人、前に進む。
「サンゼン! あなたまさか!?」
それは相手次第だなといって前に跳躍して全力で気合を溜めて叫ぶ。その叫びに呼応するかのように魔力がサンゼンの拳に集まっていく。
「お前を打ち倒す!これが今、『俺の望むすべて』だ!!」
膨大なエネルギーと共に巨大ターマイトに突撃していくサンゼン。衝突に伴う激しい爆発。土煙が消えた後には体に大きな風穴を開けてこと切れたターマイトとその傍らで倒れているサンゼンがいた。
それを見て陽子が駆け出そうとしたが、ローゼスがそれを止める。
彼女は最悪の事態を想定しながら、ゆっくりとサンゼンの元に歩み寄る。
しかし、サンゼンは弱弱しく手を動かしてまだ生きていることを教える。
「へへっ……どうだ。俺の『とっておき』は……」
「どうだじゃないわよ! あんな無茶! ……死んだんじゃないかって心配したじゃない! ほら、肩を貸すから陽子のとこに戻りましょう」
「ローゼスさん! サンゼンさん! 大丈夫!?」
ローゼスは目を拭って、何とか生きてるけどとこれからどうすればいいかを悩むように言葉を紡ぐ。
するとそこに、満足したかのような表情で女教皇が歩いてくる。
「あなたの愛、伝わりました。 応急手当ですが……ロイヤルタッチ!」
そういってサンゼンに触れるとたちまち傷が癒えていく。
助かるといって息を吐くサンゼン。先ほどよりもだいぶ表情に余裕ができ、一人で立ち上がれるほどになった。
「そんな、最高位の回復魔法を……ありがとうございます!」
陽子のその言葉に、愛は世界を救いますあなたの愛を忘れないように、といって彼女は立ち去った。
彼女の背を目で追う陽子だったが、彼女が息絶えたターマイトを通り過ぎるときを何かがピカっと輝くのが見えた。
「ちょっと、ヨーコ! 危ないわよ!死んだとはいえ、何があるか……」
そういってよせやいと言うサンゼンを改めて背負って、ローゼスは追いかける。
落ちていたのは宝石がちりばめられたティアラだった。
「綺麗……だけど、あの時に感じた『怖さ』がある……メリーさんが言っていたのはこれの事だったのかな」
あの時と同じように、くろを構えて命じる。黒よ、魔力を削れと。
再び膨大な粒子が黒へと吸い込まれていくのを見て、サンゼンはほうと驚きの声を上げる。
「とりあえず、拠点に帰りましょうか。これからどうするか、考えないといけないわ」