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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第3章 過ぎ去りし時から愛を込めて
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第19話 びっくりしちゃったな

 改めて世界樹への道の崩落に戻ってきた。今度はダイナマイトを持っている。


「作業やめ! ダイナマイトでドカンと吹っ飛ばすから離れていろ」


 棒人間たちは懐かしいなとありし日を思い浮かべながら、岩盤傍にダイナマイトを仕掛けるサンゼンを見ていた。仕掛け終え、距離を取って、点火する。導火線はみるみると縮んでいきダイナマイトに到達する前にサンゼンが耳をふさげと叫ぶ。

耳をふさぐと同時に、耳をふさいでてもなお耳をつんざく轟音。それは、崩落を一瞬で消し飛ばした。

消し飛んだのを確認した棒人間たちは大喜び。


「凄い音だったね……でもこれで世界樹まで行けるのかな?」


「ええ。そうなるわね。だからこそ、急がないといけないわ。風の谷みたいに何かが起こっているはずだし」


 その言葉に不安になって表情を曇らせていたところに奥から陽子が見たことのある日傘姿の女性、フタバが歩いてきていた。


「お久しぶりですわね、陽子様。そちらのお二方はどなたですの?」


「ローゼスさんとサンゼンさん。私の仲間だよ」


「仲間! 素敵な響きですわね。『困難は仲間で分け合え』貴方達なら乗り越えられますわよ。」


 フタバを見て二人が警戒している。どうしたのと声をかける陽子に視線を合わせずにじっとフタバを見ている。


「あなた……ヒトじゃないわね? どうして魔族がここに?」


「ふふ、レディには秘密がつきものですわ。世界樹ですが急いだ方がいいですわよ? 私はそろそろ海が見たくなりましたのでこれにて、ごきげんよろしゅう」


「あっ、おい! 待て! ……どうする、嬢ちゃん? あいつを追うのもありだとは思うが……」


 フタバさんの言葉を信じて、世界樹に急ごうという陽子に不安そうな顔をするローゼス。

 彼女はあまり人を信じすぎるのも考え物だという。


「でも一度助けてもらったから、信じたい」


 嬢ちゃんがいうならいいけどさとサンゼンは、少しむくれたローゼスにちょっかいをかけながら納得する。


「もう、サンゼンったら……そういうサンゼンだって怖いものあるでしょう?」


 ああ、一度見たら我慢ができなくなる饅頭……と言いかけたところでふとくろに視線をやる。


「……そういやこの黒いのって一体何なんだ?ずっと気になったんだが」


 私のペットだよとくろをなでようとすると手に収まるように擦り寄ってくる。

不思議な力を持っているけどそんなの関係ないとばかりに優しく撫でている。


「……それ本当に大丈夫な奴か? 俺ぐらいに鍛錬を積むと、相手の気から感情を読み取れたりするようになるんだが……そいつからは『何も感じない』ぞ」


 ローゼスにも似たようなことを言われたことを思い出して俯く。危険だったとしてもくろはくろだからと言って抱きしめる。


「わりい……俺の勘が鈍ってただけだったかもしれない。そうやって嬢ちゃんに触れている間は『喜んでいる』みたいだな……でもさっきは本当に何も感じなかったんだ……ますます不思議な奴だなそいつは……」


「おーいサンゼン! 世界樹行きの馬車に乗っていくかい!」


 じっちゃんありがとうと手を振るサンゼン。今回はあまり歩かずに済みそうだ。

馬車に揺られながら世界樹へと向かう三人。世界樹の周りには花畑が広がり、季節折々の花びらが舞っているというサンゼンの話を二人は楽しく聞いていた。


「そういや、嬢ちゃんの黒いのの力みたいなの、ローゼスにはあるのか?」


「ええ、異能なら持っているわ。草花を味方に……腕に蔓を巻いているのはファッションじゃないのよ?」


と、腕をまくってブレスレットの様に収まっている蔓薔薇を見せる。


「ほー……となると、世界樹はさぞかしローゼスにとっていい場所だろうな。」


ええとその言葉に同意して、外の様子をみたローゼスがわっと声を上げる。


「花畑が食い荒らされている! それにあれは……ターマイト!? それも城サイズの……進む先……まさか!」


「そのまさかだ! あいつ世界樹を食い荒らす気だぞ! じっちゃん、出来るだけ急いでくれ!」


 馬の嘶きと共に加速する馬車。揺れが激しくなりひっくり返りそうになるが何とか馬車にしがみついて耐える。

どうか間に合いますように、そう祈りながら必死にしがみついている陽子であった。


***


 一方、世界樹では兵士たちが迎撃の準備をしていた。

あんなのどうにかできるのかと悲観的な空気が漂っていたが、ある人物の発言で空気が変わった。


「こんな時だからこそ、守るべきものへの愛で乗り越えましょう!」


 ざわめく一同。

 それもそのはず、彼女は光の女神の聖地であるエタンセル大聖堂の司祭、ひいては光の女神信仰の女教皇リーベだからだ。愛は全てを救うと教えを布教するために放浪していることが多いが、このタイミングでこの場所にいたのは神憑り的なものを感じさせた。


「俺……少し頑張ってみようと思う」


 ある一人の兵士の声に呼応してそう言った声が増えていき、接近中との報を受けて勇ましく駆け出す兵士たち。兵士がターマイトの群れと交戦するなか、ローゼスがさきほど見た巨大ターマイトがゆっくりと世界樹の方へと歩を進ませていた。


「まずい!アレを世界樹に近づかせるな! 魔導砲の準備はまだか!?」


「魔導砲、魔力充填完了しています! いつでも行けます!」


 撃ての号令共に巨大な魔法の塊がターマイトに命中し、爆ぜる炎がその巨体を包み込む。

しかし致命傷には至らずその動きをわずかに鈍らせたに過ぎなかった。


「傷ついた人は下がって! 私が治療します!」


 そういって次々と負傷兵に手を触れて治療していく教皇。

そのおかげもあってか、徐々に兵士たちの勢いがターマイトの群れの勢いを上回り始めた。


「兵士は現状維持で群れの掃討を! 魔術師たちはあの巨大対象の拘束を急げ!」


 魔術師たちはサンダーネットを唱える。電撃の網がターマイトに絡みつく。抵抗でもがいて酸を吐き出すそれをみて隊長が叫ぶ。


「まずい! 酸だ! 兵士! 退避、退避ー!!」


 しかし間に合わない、このままでは……諦めかけたその時、


「黒よ、酸を削れ!」


 救世主が現れた。

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