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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第3章 過ぎ去りし時から愛を込めて
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第17話 棒人間サンゼン

「いやはや新しいお客人ですな! スティックメンはスティックメンの血で描かれた棒人間から生まれるとは本当なのでしょうか? いやはや興味深い。お客人には猪のようなまっすぐさを感じさせますな」


 いやあ、それほどでもと笑って協調する棒人間の男を見て、

メリーは止めなくてもいいかと思って陽子とローゼスを迎えた。


「いやあ嬢ちゃんら凄いな! こんなでかい館持ってるし面白い執事もいるしで!」


 気に入ったならよかったとメリーは答える。


「自己紹介。私はメリー。館の主……の代理」


「俺はサンゼンっていうんだ。よろしくな!」


 館の案内をするためにこっちだよと呼びかける陽子。それに応えてすぐに行くとサンゼンは駆け出す。それからしばらくして感嘆の声が聞こえる。どうやらかなり気に入ったようだ。


「ランピィ、とりあえず今のうちに部屋を決めておいて。」


 ほほほ、にぎやかになりましたなと笑いながらランピィも立ち去る。

 メリーとローゼスの二人きり。


「……ローゼスはああいうの苦手?」


 その問いかけにそうじゃないけど、ちょっと熱すぎるかなと息を漏らす。こっちも後衛に回れるからとりあえず頼りにはしているとフォローを入れて自分の部屋に戻っていった。

 それならいいんだけどと、見送るメリー。

 次の日、ラサイト金山に向かうために三人で準備をしていた。


「とりあえず、ラサイト金山について教えてくれない?」


「金山だ。一応今も少しだけだが掘ってるんだぜ? 毒ガスが噴き出して中層以降が閉鎖されて、ガスの薄い表層だけで何とか採掘をしているって感じだな。ガス自体のやばさだけじゃなくて、あのガスに適応した生き物の巣になってるのがやばいんだ。大体毒を持ってる」


 それは厄介ねと、ローゼスは考え込む。

 それをよそにサンゼンは話を続ける。


「それでダイナマイトだけど、奥の方の硬い岩盤の傍にしかないと思うぞ。中層を突破できればの話だが、そこまで行けば流石にガスも届いていないんじゃないかな。ただ……」


 その言葉に首をかしげる陽子。


「そもそも、崩落ごと削ってもらったらどうなんだ? そうすれば、ダイナマイトはいらないからな」


 ちょっと!何度も崩れてくるってって言ってたじゃない!陽子一人にそんな危ないことさせるつもり?とローゼスは頬を膨らませる。


「うーん……でもそれもいい方法かもしれないよローゼスさん」


 陽子がいいっていうならいいけどさ……危ないよ?とやはりローゼスは心配なようだ。とりあえず件の崩落のところまで行くかと鏡に向かう。


***


 山に囲まれた唯一の世界樹への道は巨大な崩落によって完全に防がれていた。

そこでは棒人間たちが拳で殴って採掘している。サンゼンが言っていたように砕いた先から崩れてきている。


「おーい、作業一度止めてくれ。ちょっと試してみたいことがあるんだ」


 試したい事ってなんだ?とわらわらと棒人間たちがやってくる。


「この嬢ちゃんは岩盤を削れるんだとよ!」


 と開口一番サンゼンは期待させるような発言をした為、それを聞いていた陽子はびっくりした表情に。

かくして面白いものが見れそうだという期待の視線を周りから向けられた事で、崩落した岩盤の前に立った陽子は期待に応えないとと言う決意を込めてくろに命じたのだった。


「え、えっと……よろしくお願いします……それじゃあ……黒よ!岩盤を削れ……!」


 渦が岩盤に触れると粒子として呑み込まれていく。

少しずつだが削られていっていく。しかし、危ない!崩れる!と叫んだローゼスが蔦でヨーコを手繰り寄せ、中断させた。

 その直後、ガラガラと岩石が陽子の居た場所まで崩れ落ちる。


「はあ、はあ……よかった、間に合った……」


「ごめんな……できるかもと思ったが、キツかったか。崩れるのも丸ごとやればいいとか思ってたが、上から一気にずり落ちてくるなんて思ってもなかった。」


 陽子にそうやって詫びるサンゼン。期待に沿えず、申し訳なさそうに陽子は俯く。

 棒人間たちは気にすんなってフォローを入れながら、再び作業に戻った。


「……とりあえず家でこれからどうするか話し合うか。行こう」


***


 サンゼンの家に戻った三人は机を囲んでこれからどうするかを話し合っていた。


「あらためて、金山のダイナマイトを探しに行くんだけど……」


「詳しい話をすると金山は今も採掘されている表層、毒ガスで閉鎖された中層、硬い岩盤で覆われた深層の三層からなっていてダイナマイトがあるのはおそらく深層だな。トロッコはおそらく使い物にならないが、トロッコのレールに沿って歩けば深層まで行くのは難しくないはずだ」


紙に簡単な地図を書きながら説明をする。


「適応した毒持ちの奴らがヤバいってのは話したよな。それ以外にも面倒なのがあってな……」


 その言葉に陽子は何だろうと首をかしげる。


「『出る』んだよ。閉鎖して数百年っていうのに、奥から声をしたって言ってるやつがたくさんいる。気のせいとか風の唸りとかでは説明できないほどにな」


「でるって……お化け?でも死んだ人って神様に迎えられて……ローゼスさん?」


 ローゼスは顔を蒼くして、ぼんやりとしていた。

 心配した陽子に揺さぶられて、はっとする。


「あーええっと……毒ガスに適応した生物の話だったっけ? 少しぼーっとしちゃってごめんね」


 お化けが出るんだってと、陽子に言われてびくっとする。


「ローゼスさん……もしかしてお化け……怖いの?」


 な、なんのこと?と冷や汗をだらだらとさせながら目を泳がせている。そんな彼女に陽子は大丈夫と、手をつないで温かさを伝える。

 陽子の献身でようやく落ち着きを取り戻し、息を吐く。


「……恥ずかしいところを見せたわね。……ありがとう」


「まあユーレイが出たとしても俺がぶん殴ってやるから安心しろよ。ローゼスさん」


「……ローゼスでいいわ。代わりにあなたもサンゼンと呼ぶけどいい?」


 ああいいぜローゼス!と満足気に腕を組む。それで、ユーレイはいいとして毒ガスと生物の問題だなと話を戻す。


「毒ガスの満ちた場所に適応する……思い浮かんだのはターマイトね。適応力が高くて、敵がいないとすぐに繁殖して巨大化する。成体の装甲は硬いから手を傷めないようにね」


 へへ、そんなやわに見えるかい?と笑うサンゼンに、やわもなにも棒じゃないと、ローゼスは突っ込む。そんな二人におかしくなってしまってついつい笑ってしまう陽子。

 対策会議という名の談話はゆったりと進んでいった。

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