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黒の聖女の冒険譚~思い出をアルバムに収めて~  作者: ぬけ助
第3章 過ぎ去りし時から愛を込めて
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第16話 荒野を超えて

 草木に囲まれた関所を超えると一転、荒野が広がっていた。


「わぁ……遠くまで見通せるね……でもあまり隠れられないから危ないかも……」


 ええ、それは正しいわよとローゼスは弓矢を構え空へと矢を放つ。

 グエという声と共に大型の鳥が空から落ちてきた。


「ここら辺を縄張りにしているハゲワシね。頭が良くて石を空から落としてきたりするから危ないのよ。それに、サフランシは巡礼者のための最低限しか整備されていないから、道沿いでも学術都市ほど平和じゃないのも覚えておいて! 噂をすればほら!」


 岩陰から賊が姿を現す。ひげもじゃの男がにやついて金をよこせと言わんばかりに手を差し出す。

 本当なら根切りにするんだけどねとため息をつきながら、ロープを手に取ってナイフの峰で岩へと叩きつけそのまま岩に縛り付けた。


「やっぱりローゼスさん強いね……でも、ここに縛られたらちょっとかわいそうじゃない?」


 これでもだいぶ手加減しているのよと困ったように頬をかく。定期的に人の往来があるし、本当に死にそうになっていたら誰かが助けると思うと続けて歩を進める。

 しばらく歩いていた二人だが、地平線に独特な形状をした宮殿が見えてくる。しかし視界を遮るようにハゲワシの群れがこちらに向けていくつもの石を投げてくるのをみて何とかベールで防ぐが数が多くて、これはまずいと思い来た道を戻り始める。


「サフランシが見えてきたのに戻らないといけないなんて……!あの数は弓矢だけでは射貫いている間にやられるわ!ヨーコも危ないからいったん引いてどうするか考えましょう!」


「さっきの岩まで戻ってきたけど……どうしよう? 一気に魔法でどうにか……あっ。」


 何か閃いたのと聞くローゼスに、頷いて倒すことはできないかもだけどびっくりさせて石を落とさせることならできるかもしれないと答えて、閃いたことを教える。


「なるほど……やってみる価値はあるわね。石を失えば攻撃手段は減るからそこまできたら近接戦やいっそ逃げて振り切ることもできるわ。」


 気づかれないようにじりじりと近づいて、様子をうかがう。

 ここからならいけるという場所まで迫ったら、陽子は風の谷で聞いた風音草の歌と、変異した草の飛ばしてきた風の刃をイメージしながら音を紡ぐ。

 その瞬間、小さいものの大量の風の刃の群れが相手の群れへとぶつかる。不意打ちにパニックを起こした数匹が騒ぐとあとは連鎖的に大騒ぎとなりハゲワシの群れは石を失ってしまった。


「いまよ!早く離れましょう!」


 大騒ぎのむれをよそに橋って突っ切る二人。それに気づいた何羽かが追ってくる。

 石こそないものの、その嘴や爪は脅威で、街を目前にして追いつかれてしまう。


「引き撃ちするにも相手が速すぎるわ。うまいことくろで距離を取れない?」


「よう、巡礼者の嬢ちゃん達。そんなことしなくてもいいぜ」


 街から駆け出してきたヒトに陽子は目を疑う。棒人間そのものがこちらへとかけてくるからだ。

棒人間はハゲワシの元へと高く跳躍すると舞踏のごとき格闘術でまとめて地面へと叩き落す。


「この数で石なしなら、こんなものか……礼は後にしてくれ。あっちに群れがいるのを確認したから叩き落してくる」


 そういって棒人間は陽子達が来た道を駆けていき、小さくなってしまった。


「……流石スティックメンね。栄華都市の黄金宮殿を昔からずっと守り続けているだけの事はあるわ」


 街に入りながら、聞きなれない種族を聞いて陽子は首をかしげる。


「私たち一般的なヒト種族の祖先にあたる種族で、魔法が使えない引き換えにその名の通りの鋼の肉体を持つのよ。今では栄華都市以外では見かけなくなったけど、この都市がヒトの中心だった黄金時代では沢山いたって話よ」


 私の知らないことがたくさんあるね……と、陽子は頬をかく。確かにこの街では先ほどのような棒人間たちがいる。少し勇気を出して一緒に撮ってもらえませんか?声をかけてみる。

 承諾を得て、前に立つと左右で独特なポーズをとる二人の棒人間に囲まれながらの写真撮影。後ろには黄金宮殿がそびえたっている。


「よし、撮れた。ここに来るの初めてだろうから教えておくけど、慣れてないなら宿屋は高くても、表通りの宿に泊まるべきだよ。スティックメンの知り合いがいればそこに泊めてもらうって手もあるが」


 ありがとうと頭を下げる。良い巡礼をと手を振って見送られる。


「おーい、嬢ちゃんたち。無事だったか」


 ハゲワシを蹴散らし終えたのか、肩を回しながら二人に声をかける。

 さっきはありがとうございましたと礼をする二人に、助けになったならよかったと笑う。


「にしても、嬢ちゃんたちタイミング悪いな。今作業中なんだが殴っても殴っても崩れてくるから時間がかかるのなんの」


 殴るって何を?と陽子は首をかしげる。どうやら世界樹への道が崩落で塞がってしまっているので彼らは殴って岩を砕いている最中なのだという。それを聞いて複雑そうな表情をするローゼス。


「嬢ちゃん何か言いたそうだな、言ってみてごらんよ」


「それ殴ったときの衝撃で岩が崩れているんじゃ……と思ってね」


 ふと静かになる。怒らせてしまったのだろうかと、戦う準備はと考えながら陽子を庇うようにの前に立つ。

 しかし、男の納得したように手を打つ音でその沈黙は破られた。


「あっ、そういうことか……その発想はなかった。だが、岩はどうするんだ?」


 その言葉にローゼスはかつてシルファに見せてもらったあるものを思い浮かべていた。『フェアリーボム』……轟音と閃光と共に炸裂する妖精たちに伝わる悪戯用の魔道具。シルファは護身用にいつも抱えている。もし炸裂が爆発だったなら、崩落を一瞬でどけるのに役に立つだろうと、男に話す。


「ああ、それなら今は閉鎖されちまっているが、ラサイト鉱山に行けばダイナマイトが残っているかもしれないな……拳でどうにもならない問題があるから頭の端に追いやられていた。思い出させてくれてありがとうよ。早速取ってくるか」


 ちょっと待ちなさいと止めるローゼス。さっき拳でどうにかならない問題があるって言ったばかりでしょうと指摘する。


「そうだったな。毒ガスだよ。鉱山で毒ガスが噴き出して、拳じゃどうにもならないってなって、閉鎖されちまったんだ」


「……うーん、ガスなら、くろで削っていけばいいんじゃないかな?そうすると私はそれに専念することになるけど」


 いいと思うとローゼスは頷く。凄いことができるんだな!と驚く男。見てみたいから俺もついていくぞとかなり乗り気のようだ。


「でも今日はここまで来るのに疲れたし、休憩したいな……表通りの宿屋だっけ?」


 それなら俺の家に上がるといいよと男が言う。陽子を庇うように立つローゼス。


「……わりい。自己紹介してなかったな。俺はサンゼンっていうんだ。頭使う仕事は他の賢いのに任せて宮殿の警備の仕事をしてんだ。嬢ちゃんたちは?」


「私は……夢宮陽子。最近旅を始めたばかりなの。で、こっちがローゼスさん。バウンティハンターなんだよ。」


 珍しい名前だなと陽子の名を聞いてにっと笑う。噂の血薔薇か、賊は減ることはいいことなんだがなあと苦笑いしながらサンゼンは道案内をする。宮殿の傍の長屋の一部屋に通される。


「どうだ? ちょっと狭いが住めば都っていうだろ? 嬢ちゃんたちはベッド使うといい。俺は床で寝るからな」


 陽子は緊張しながらあたりを見回す。流れでそのまま上がってしまったが、そもそも異性の部屋に上がったことがないのでこんなに殺風景なものなのかと困惑する。しかし、鏡があるのに気づくと安堵したほうに息を吐く。


「さ、サンゼンさん……私たちの拠点だったら床で寝なくていいと思うの……どうかな…?」


 それならもちろんついていくぞ、昔は床で寝ていたんだが、ベッドの柔らかさしるとどうもなとサンゼンは頭をかくのをよそに、陽子は懐中時計を通してメリーに呼びかける。


「『繋げる』のね。了解。やり方はわかってるね?」


 はい!と元気に答えて、少し埃っぽい鏡に懐中時計を触れさせる。


「できた。一度戻ってきたらどう?」


「サンゼンさん。鏡に触れれば私たちの拠点に行けるから、一緒に行きましょう?」


 よしきた!と陽子が触れるよりも先に触れて行ってしまった。陽子以上にせっかちね……とちょっと困ったようにローゼスは笑う。

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