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第13話 決戦、風の谷

「なるほど~ナイトベールの応用を四日かけて……ヨーコさん頑張ったんですね~これは私からの奢りです。ゆっくり召し上がってください~」


 喫茶店でシルファからケーキが振舞われる。妖精族に伝わるケーキを人でも満足できる大きさで焼き上げたものらしい。その素敵な装飾に魅了され、陽子は写真に収める。

 ケーキを味わっていると、ローゼスが戻ってきた。陽子が呪文の練習をしている間、準備をしていたらしいが、深刻そうな顔をしている。


「とりあえずお疲れ様ヨーコ。よく頑張ったわね。私もあなたが頑張っている間に下調べをして来たわ。想像以上に厄介なことになっているわ。」


 その言葉に自分がもたもたしていたからではないかとか考えて、陽子は心配そうな顔をする。

ローゼスはそれを否定するように頭を撫でながら話を続ける。


「琴が盗まれたぐらいから、あの谷で風音草が変異を起こしてエルフ達を襲っているらしいのよ。そして近いうちに、変異した風音草の群れが街に浸食してくるかもしれないということ。」


 風音草といえば数日前に学院でお茶としていただいたあの葉の事だろう。そのような葉が人を襲うなんて想像がしにくくて陽子は首をかしげてしまう。見てもらったほうがはやいと言わんばかりに陽子の手を引いて二人で風の谷へと向かう。


「えっ……あそこで首をもたげているのが変異した風音草?」


 ローゼスは頷いて、矢をつがえて草を射抜く。

 射貫かれた草はあっさり力尽きるがすぐにそのそばから別の草が首をもたげる。

 そしてお返しといわんばかりにローゼスへと向けて風の刃を飛ばしてくる。


「させないっ!ナイトベール!」


 ローゼスへと伸ばした夜の帳が風の刃を遮る。

 その隙にローゼスが跳躍し振り下ろされたナイフによってなで斬りにされる。


「この方法で数を減らすにはあまりにも多すぎるわ! 発生源を探らないと! ヨーコ! はぐれないようについてくるのよ!」


 草をバッサバッサとなぎ払い活路を切り開くローゼス。

 陽子ははぐれないように彼女の背についていきながら、ベールを広げて二人への反撃を防いでいた。

 そんな行進が一時間ほど続いたのち、視界が開ける。崖から見下ろすと木々に囲まれた集落が見える。


「あそこがウィンドエルフの里よ! 幸い、まだ浸食され切ってないみたいね!」


 もう少しかかりそうだね……少し疲れたから休みましょうと陽子は息を吐く。

 そこに、茂みからガサガサと動く音。二体の異形が姿を現す。


「コノチ、ワレラクサノ、モノ」


「スプリガン……ヨーコ、構えて!」


 ヨーコめがけて振り下ろされた爪をすんでのところでベールで受け止め、偏りを利用して押し返す。相手がひるんだ隙にくろが飛び出し、活力を削り取る。活力を失い弱ったところにルナボルトによる追撃で、一体を茂みへと叩き込んだ。

 もう一体はローゼスの方にとびかかるが、あっさりと往なされそのまま崖下へと落ちていった。


「草もここら辺にはいないようだし、少し休憩を取りましょうか。」


 ローゼスはそう言って、乾パンと飲料水をヨーコに手渡す。   


「本当ならもっといい場所なんだけどね……あなたにも聞かせてあげたいわ。風音草の歌を。」


 歌?と陽子は首をかしげる。

 そんな陽子に対して、終わってからのお楽しみと、笑うローゼス。

 これから谷をさらに進む。再び、先ほどの様に草の群れを相手にすることになるだろう。気を引き締めるためにも、いまはつかの間の休息をとることにした。


***


 再びの進攻。先ほどと同じくローゼスが活路を切り開き、ヨーコが後ろからベールで二人まとめて風の刃による反撃から身を守る。


「それにしても本当に厄介ね……切っても切ってもきりがないわ……」


 そう言いながらも流れるように草の群れを切り伏せていく。

 駆け足でまた一時間かけて谷をくだり、ウィンドエルフの集落へとたどり着く。


「ほら、あそこを見て。まだ全滅しているわけではなかったようね」


 彼女がそういって指さす先には木の上の建物に籠城しているエルフ達が見える。

建物に近づくと、数人のエルフが弓を構えて警戒しながら降りてくる


「あなたたち、どうやってここに? まさか風の谷を突破したの?」


 頷いて、事情を説明しようと足を踏み出す陽子を引き戻すローゼス。

 さっき陽子がいた場所から巨大な草が首をもたげていた。間一髪であった。

 横一文字で切りはらおうとするが硬質な茎に歯が立たず、弾かれてしまう。ナイフが通らないことを確認すると結構集中しないとだからあまり使いたくないけどと呟いて、巨大な草を握り締めて念じる。すると狂い咲きの末、枯れてしまった。


(疲れからして、できても後二回ね……)


 その光景にざわめくエルフ達。あるものは喜び、またある者は驚く。

 少なくともこの状況を打破してくれると信じてか、一人のエルフが降りてくる。身なりからして族長だろうか。


「あのような強引な手段を取っといて、人間に頼むのも虫が良すぎると思うのですが、あの祭壇に行ってください。私たちは被害を抑えるので手一杯で親玉をどうにもできなかったのですが、あなたたちなら何とかできるかもしれません」


「生エロ生エロ、クサヲコエテモリニ」


 祭壇に近づくと音痴な歌と竪琴が奏でられる音が聞こえてくる。押し寄せるような勢いの草を相手にしながら祠に入ると、スプリガンが竪琴をかき鳴らしていた。


「その竪琴を返しなさい!」


 ナイフで威圧しながらそう叫ぶローゼスに気づいたスプリガンは威嚇する。どうやら渡す気はないようだ。


「コノチ、ワレラクサノ、モノ! カミノウタデ、クサフヤシテ、エルフクウ! ダガ、エルフノマエニ、オマエラ!」


「相手はやる気のようね……ヨーコ、もしあなたが気が進まないなら私一人でやるわ」


「いいえ、私も戦うわ!あんな草が増えたら苦しむ人が増えてしまうから!」


戦闘態勢を取るのをみてスプリガンは竪琴を奏でる


「スゴク、スゴク、オオキイ」


 雑な演奏と共に巨大な草が三本一斉に生えるのを見てローゼスはこぶしを握り締める。異能で仕留められるのはあと二回。残りは異能に頼らず仕留めなければならない。ナイフは通らないとなると……

ローゼスは弓に持ち替え、頭に狙いを付ける。できるだけ最小限の動きで風の刃を避けながら、確実に射貫いていく。矢が尽きるころにようやく一体倒した。


「しぶとい……! ヨーコ! 大丈夫?」


「はい、なんとか……でも攻撃が激しくて……!」


 いなす、かわす、ベールで受け止める。陽子の方は防戦一方のようだ。そしてついには、ベールではじき返した後に抉れた地面に足を取られて転んでしまう。


「させないっ! 枯れろっ!!」


 その機会を逃さんとばかりに頭を振り上げた草へと詰め寄り握り締め、枯らせる。あと一回。あのスプリガンが乗っている草を枯らせば……と最後の草を見て目を見開く。


「オワリダ」


 草はすでに照準を二人に合わせていて、勝利を確信した相手は軽く音を奏でる。

しかし、陽子がローゼスを抱きしめ、くろへと念じる。


「黒よ、空間を削れ! 今だよローゼスさん!」


 上から迫る死を凌ぎ、素早く立ち上がったローゼスは、ふらついているスプリガンの上へと飛び上がり、ナイフの一刺しで草もろともとどめを刺した。


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