第12話 夜の帳はまじないと共に
拠点に戻るやいなや、書庫で魔法書探しを始める。
途中からランピィ達も加わり、書庫を一通り調べた結果、夜の帳を纏うことで攻撃を逸らし、身を守る『ナイトベール』という呪文が陽子のできそうな範囲で有用そうなことが判明した。
「いやあ、探せばあるものですな! 後々に使えそうな物も見つかりましたしあとはお客人の頑張り次第ですぞ」
陽子はランピィにありがとうと礼を言って魔法書を受け取る。すっかりあたりは暗くなっていたが、今だからこそ練習をしておきたくて中庭に出る。
街燈が照らす中、あたりの夜の帳が自らの周りに集まってくるのをイメージして集中をする。少しずつ陽子の周りに夜の帳が渦巻きだす。
休憩をはさみながら繰り返し練習した甲斐もあり、日付が変わるまでには基本の夜の帳を纏うところまではできるようになった。
「ルナボルトの時もそうだけど、素質ある。とりあえず、今日は眠って朝にも同じことができるか試してみて」
見守るメリーの言葉に頷き、おやすみなさいと言って眠りにつくために、自室のベッドに潜り込む。
朝起きて、朝食を済ませたのち、改めて魔法の練習をする。しかし思ったように、纏うことができない。夜にはできていたのにと焦ると集中が散漫になり、ついには呪文が解けてしまった。
落ち込む陽子の元に洗濯物を干しにきたランピィが通りがかる。
「どうやらうまくいってないようですな。ですがそれもそのはず今は太陽が昇っていますからな。ないものをイメージしながら集中するのはなかなか難しいものですぞ」
どうしようと悩む陽子にランピィはいっそ、私の様に仮面でもかぶってみます?あえておどけて見せる。それを聞いて、陽子ははっとする。
再び、集中する。先ほどとは違って、目をつぶって暗闇のなかで夜の帳が集まるのをイメージする。
「お見事、お客人! ただ、実戦ではやらないほうがいいですぞ。前が見えないと危ないですからな」
ランピィの言葉から、どうやらうまくいっているようだ。目を開くと確かに夜の帳が渦巻いていたが、目を開くと同時に霧散してしまった。
それから何度も繰り返し集中とイメージを繰り返し、ついには目を開いたままでも、しばらくの間夜の帳を維持ができるほどになった。
「頑張っているみたいね、ヨーコ。でもそろそろ休んだ方がいいわ。少し疲れているように感じるから。先にベッドに行ってて。少しだけ手助けできるかもしれないから。」
言われた通りベッドで待っているとローゼスがいくつかの小瓶と花を持ってやってきた。
これが何か尋ねる陽子に対してローゼスはすぐにわかるわと小瓶の蓋を開けると周囲に優しい花の香りが広がった。
「姉様と作った香油よ。気に入ってくれるといいんだけど……」
ありがとうと微笑んで、その優しい香りとひだまりを受けているうちにそのまま優しい夢の世界へといざなわれた。
目覚めるころには、夕闇があたりを包むようになっていたが、疲れがとれていて元気はつらつとしていた。少し勇気を出して魔法の応用を練習してもいいかもしれないと思い。中庭に出る。
纏う夜の帳に偏りを与えることで、疑似的な盾を生み出す。これができる様になればより有効な防御手段になる。しかしこれが難しく、できるようになるまでに苦労することになった。
陽子がこれができるようになったのは三日後の事だった。