第七話
・お酒は二十歳になってから。
・お酒は節度を持って楽しみましょう。
・最近飲んだお酒:「アルパカ」(白ワイン)
アルコー王国を出てから三日目。イブシー市に入ったらしい。市の中心部に近づくにつれて、ある匂いが漂ってくることに気づいた。
「これは燻製の匂い?」
「そう、イブシー市特有の匂いなんだ。港町では潮の匂いがするように、イブシー市では中央工場以外に家庭でも燻製が日常的に行われているから市内どこでも燻製の匂いがするんだ」
少しお腹が空いてくるような、それよりかは、ベーコンだとかを食べながらお酒を飲みたくなるような匂いに明海は戦闘というよりも、戦った後に早くウイスキーやグラッパなどの蒸留酒を飲みながら燻製料理を食べたいなと、ノーマンが聞いたら残念な気持ちになるであろうことを思っていた。
「もうすぐ市街地に入り込むけど、作戦の通りに」
「ええ」
今朝、出発前に作戦会議を開いていた。
イブシー市の中心部は周りを壁に囲まれており、平常時は市の南北それぞれにある門を通って入っていく。どうやら、常時開いている門から忍び込んだうえで敵は占領したらしい。今は門が閉じられており、容易に入ることは難しいだろう。
イブシー市中心部を占領する敵は大軍というわけではないことを斥候から聞いていた。なので、市の中心部に入ったら、戦闘部隊で敵を各個撃破及び足止めを図る。その間に、明海、ノーマン、リーシュで工場にいる幹部を討つというものだった。
補給部隊の一部が同伴する案も考えられたが、早急に倒すということが難しくなることから、却下された。では、明海の魔法のための物資提供はどうするかというと。
「結構、重たいな」
ノーマンが葡萄酒樽一つと、グラッパの入った瓶数本を背負っていくこととなった。
樽一つでもかなり重いのに、それも難なく運べるというのもノーマンの地の強さなのだろう。しかし、ノーマンは酒に弱い。
門が近づくとともに作戦は開始された。
「明海、頼む」
ノーマンの一声を合図に、明海は手に意識を込め、直前に飲んでいた何杯かのお酒を意識する。意識したお酒に含まれるアルコールが腕から手にまで上ってきたと感じるまでになった頃合い
「それっ」
力が抜けそうな明海の掛け声とは裏腹に放たれた強大な魔法光線は堅く閉ざされていた門とその周りの壁を跡形もなく消し去っていった。
「作戦開始!」
ノーマンの掛け声とともに、アルコー王国の兵士たちが市内中心部に突撃していく。
斥候が言っていたように、敵は街の中に点在していた。逆に市民の姿を見かけることはなく、占拠されてから数日経っているため、どこかに避難をしているのか、それともどこかに捕らわれているのだろう。
先陣を切っている戦闘部隊が各々敵に当たっていき、明海とノーマン達が進む道を作っていく。
市街地中心部に入る。魔法を放つ直前にお酒を飲んでいた明海であるが、本当は腸詰めを食べながら麦酒が入ったグラスを空けたかったなと一人嘆いていた。しかしながら激しい動きが多くなるため、麦酒がダメになることが見えていることと、突入後の市街地戦で魔法弾を多く撃つであろうことから、腸詰めに思いを馳せながら麦酒の樽を空けることとなった。
昨晩飲んでいた時は、明海のことをそれなりにたくさん飲む人なんだろうなあと思いながら見ていたリーシュだったが、樽を空ける姿を見たリーシュはその姿に驚くとともに、なんて凛々しい人なんだろうと変な方向に明海のことを尊敬ではない何か別の感情で捉えていた。
ゲリラ的に、各路地から現れてくる敵に対して、兵士がそれぞれ当たっているが、それでも兵士をすり抜けて、こちらにやってくる敵は明海が魔法で撃っていた。
ビールは腹が膨れるという人もいるが、明海にとってはそうでもなかった。自分で生ビールのサーバーから注げるという飲み放題のお店に行けば、ピッチャー換算で何杯かわからない量を飲み、そして瓶ビールで提供されるお店があればそれも少なくとも一ケース分は飲み干し、周りをドン引きさせたこともしばしばあった。
魔法を連射し、魔力の残量とともにそろそろアルコールも抜けてきたと感じたぐらいに、ついに中心部の燻製工場にたどり着いた。
「よいしょっと」
ノーマンが背負っていた葡萄酒の樽とグラッパの瓶を下した。
「ノーマンありがとう」
樽から、リーシュが回復魔法を使うため、彼女が飲む分だけの葡萄酒を木のジョッキに注ぎ、残りを明海が飲み干す。
「ノーマンも飲む?」
「いや、私はいい」
明海が進めるとノーマンは苦笑いをして断った。本当に飲めないんだなと明海は、イケメンなのに残念だと少ししょんぼりした気持ちになった。
それから、グラッパの瓶を明海が背負って、工場に突入した。