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第六話

・お酒は二十歳になってから。

・お酒は節度を持って楽しみましょう。

・最近飲んだお酒:「アサヒスーパードライ」(生ビール)

 アルコー王国を出発してから二日目の晩、日中の惨状(二日酔いで誰も彼もがうなだれていた)ことを思い出し、みんながお酒を飲む量を抑えていた。明海も空気を読み、飲む量を控えていた。


 そして夕食を食べていくらか語っているうちに、明海とリーシュの女性同士で仲良くなっていた。


「リーシュのところで作っている葡萄酒とグラッパおいしいね」


「ありがとうございます。実家が葡萄を栽培していまして、それを原料に葡萄酒を作って販売しているんです」


 この遠征の間、王国側としても明海の飲む量によって財政を圧迫させるわけにもいかなく、明海に提供されていた酒類は、家庭で飲める安価な麦酒や葡萄酒、ウイスキーぐらいだった。ウイスキーに関しては素材の味よりもアルコールの匂いが強く、明海が社会人一年目に仕事で疲れて家と職場を往復することで精一杯だった頃に、自宅で飲んでいた缶チューハイやスーパーマーケットのプライベートブランドのウイスキーの味を彷彿とさせ、明海にとっては苦い思い出として脳裏によみがえった。それでも酒が飲めるのでいいかなと割り切っていたが。


 今回リーシュの行商隊の提供してくれたグラッパはぶどうの搾りかすを発酵させて作った蒸留酒、すなわちアルコールの度数が高いお酒である。思いがけず手に入ったこのお酒は、ささやかながら明海に今回の遠征を頑張ろうというモチベーションアップをもたらしてくれる好材料になってくれた。


「葡萄酒はやっぱり、燻製製品のような味の強い食べ物が多く流通する都市に向けて納品する予定だったから、スパイシーな香りがありながらもコクがあって渋みはそこまでないものを持ってきているのかしら」


「その通りです。明海さん、すごいですね!」


 アルコー王国から持ってきた葡萄酒は、誰でも飲みやすいテーブルワインにあたるものだったので、また違う味わいの葡萄酒を堪能することができ、明海はご満悦だった。しかしながら、こういうのはグラスで飲みたいが、戦いのための旅の途中であるためグラスは持って来られない。それにどうやら、グラスの杯自体はあるらしいが、高級品であるため、滅多に使われないらしい。そういえば、召喚された日の宴会でもみんな木樽のジョッキばかりでアテナ女王ですら金属製の器だったような気がする。


「私の実家で作っている葡萄酒も、皆さんが気軽に飲めるようなものから、アルコー王国の王家に献上するようなものまで幅広く作っていて、そのグラッパは、シュミットさんのお店でも飲めますよ」


「えっ、シュミットってあの?」


 明海が尋ねるとリーシュの代わりにノーマンが答えた。


「ああ、シュミットは王国の家臣の立場もあるけど、元々は飲み屋の主人でもある。そういえば言ってなかったね。王国に戻ったら、お店に行ってみるといい。父いわく、取り扱っているお酒の目利きがいいらしい」


 王国や周辺都市の現状について詳しく教えてもらっていたところ、宿屋兼食堂を営んでいると言っていたが、飲み屋だということをぼかして言っていたのだろう。この戦いが終わったら飲みに行こう。


「そういえば、メルロー家の葡萄酒の中でも最近有名になってきているものがあると母から聞いている」


「アレですか……持ってきてはいますけど」


 それを聞くとリーシュは恥ずかしながらも、荷馬車から一本の瓶を持ってきた。その瓶のラベルには『愛娘の葡萄酒』と書かれており、リーシュの父親が親バカであることを想像に難くなかった。


「これは、生産の工程のうち、ブドウの収穫から葡萄を踏む作業、樽詰めを私一人でやったものなんです。味は父が作ったものに比べると劣るのですが、その……」


「まあ一定のファンがいたりして、メルロー家の作る中でも有名な葡萄酒の一つなんだ」


 なるほど、一定のファンというのは男性がほとんどなのだろう。


 リーシュから手渡しでその『愛娘の葡萄酒』を受け取ったが、リーシュはだいぶ顔を赤くしていた。そんなに恥ずかしがらずともと明海は思ったが、リーシュとしては明海に飲んでもらうということ自体にどこか恥ずかしさを感じていたようだった。


 実際に『愛娘の葡萄酒』を開けて飲んでみると、リーシュの謙遜とは裏腹にとても美味しかった。赤ワインかと思ったが、白ワインで、次飲む機会があれば白身魚やオリーブと一緒に飲んでみたかった。まだ何本かあるようだし、イブシー市でハムを買って飲んでみよう。


「私の……おいしいですか?」


「リーシュ、おいしいよ」


 もじもじしながらも、明海からおいしいという感想をもらって、リーシュはとても喜んでいるようだった。


「そういえば、メルロー家が葡萄酒づくりをしているというのを言っていたけど、どこにあるの」


「アルコー王国から見ますと北西にあたるところでしょうか。アルコー王国の領土にありますが、隣接するギョショー市との境にあるんです。ギョショー市は港があって貿易の要になっているだけじゃなくて、魚の水揚げが多いので、商品を卸すのにもちょうどいいところなんです」


「そうなんだ。行ってみたいなあ」


「明海さんのような勇者がいらっしゃるということであれば、父も母も大喜びで歓迎しますよ。是非私の大切な人としてご紹介させてください」


 大切な人という表現が気になったが、この時明海は、山梨県へワイナリー見学に行った時のことを思い出していた。


 山梨県は、葡萄の収穫量が多く、多くのワイナリーがある。中には無料や有料で試飲ができるワイナリーがあり、それぞれのワイナリーで大量に試飲をする明海に対して店員が困った顔をしていたのをなんとなく覚えている。その代わりというわけでもないが、ワインを赤白それぞれ宅配便で送らなければならないほどに購入をして、友人たちと飲んだりもしたが。


 また、葡萄園ということは、見渡す限り丘一面に葡萄の木が生い茂っているのだろう。どこかその山梨の風景と、召喚されたこの世界の風景と混ぜ合わせて想像をしていた。


 戦いが終わった後の葡萄園見学を楽しみにしておきながら、リーシュからもらった葡萄酒とグラッパをそれぞれ丸々空けて、この日の野営は終わった。

予告:次回更新は8月9日日曜日の予定になります。

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