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第四話

・お酒は二十歳になってから。

・お酒は節度を持って楽しみましょう。

・最近飲んだお酒:「金麦」「金麦香り爽やかエールタイプ」(第三のビール)

※個人的には金麦の方が好きです

「勇者明海よ、いよいよをもってイブシー市に居座る敵を討ちに行く時がきた。旅に必要な装備や消耗品は用意した。そしてこれをお主に託す」

 アルコーからは、他の人に聞こえないぐらいの大きさの声で「これは儂のとっておきの蒸留酒だ。薬にもなる(と思い込んでいる)」と言われスキットルのようなものを手渡されたが、どうやら明海の飲みっぷりを気に入っていたのだろう。

「そして、今回の討伐にはお主の護衛そして共に戦ってもらうため、勝手ながらこれと一緒に向かってもらいたい」

 明海の後ろからやってきたのは、明海よりも少し若い騎士の格好をした男だった。女王であるアテナと同じ色をしたブロンズヘアに、スッとした目鼻立ち。そして国王ストロングと違って筋肉質で引き締まった長身の体躯。明海がすぐに一目ぼれしたのは間違いない。

「僭越ながら、勇者様とご同行させていただくアルコー王国第一王子ノーマン・アルコーであります」

 片膝をついて明海の手の甲に口づけをするその所作は自然でよどみのない動きだった。

「明海よ、我が愚息ではあるが、剣術の腕は確かである。お主の右腕として使ってくれたまえ」

「はい、ありがたきお言葉」

(こんなかっこいい人をお供につけてくれて)



 城を出ると、すでにイブシー市に向かうための旅団が待っていた。旅団と言っても、今回は少数精鋭となるため、補給部隊と多少の戦闘部隊で構成されていた。

 ノーマンと一緒に馬車に乗ると、すぐに旅団は出発をした。

「明海、改めてよろしく」

「よろしく、ノーマンさん」

「僕のことはノーマンで構わないよ」

 先ほどの所作といい、気さくに話すその姿は明海にとって理想的な王子様として映っている。

「まさか女性が勇者として召喚されるとは思わなかった。だけれども、私の母、いえ、女王から明海の実力は確かであると聞いている。明海と一緒に戦えるのを楽しみにしているよ」

「ありがとう。国王から、剣の実力が確かということを聞いたけれど」

「小さい頃から修練を積んできたからね。王の息子という立場に恥じないよう頑張っているよ」

 謙遜をせずともと思ったが、王の息子という立場がノーマンを作っているのだということが垣間見える。

「そういえば、召喚をしたと言っていたけれど、どうやって私を召喚したの」

「それは……」

 明海が聞くと、ノーマンは一瞬目をそらし、少し気まずそうな顔をしていた。

「召喚の手配はシュミットが手配してくれたのだが……古から伝わる資材を用意し、それを(いけにえ)として召喚の儀を行うんだ」

 どうやらソシャゲーにあるような、魔方陣を描いて詠唱するようなものではないらしい。

「へえ、資材ってやっぱり古くから伝わる宝物とかを使うの」

「いや、酒を」

「酒」

「そう、お酒」

 なんとなくそれで明海自身が召喚されるのはわかった気がする。

「へ、へえ……どれだけのお酒を」

「麦酒、葡萄酒、蒸留酒問わず、王の間ぎっしりに持ってきて、それを皆で飲む。そんな中で、王家に伝わる古酒を飲んだ術者である女王が詠唱して明海が召喚された」

 シュミットが持ってきた召喚の手順が書かれたものは間違っているのではないかと思う。

「ところで、女王との修練はどうだったのかな」

 さすがの明海でも予想通りの反応を示していたので、気を利かせてノーマンは話題を切り替えた。

「ええ、とてもたくさん飲めた……いえ、様々な魔法の使い方を学ばせてもらったよ」

 明海が修練でたくさん飲んでいたことは間違いないが、座学でも魔法のことについてアテナから教わっていた。



「この世界ではお酒を素として魔法を扱います。ただ、お酒と言っても多種多様なものがあります。麦酒、葡萄酒が基本の魔法になるけれど、お酒の濃度によっても威力が異なったりします」

「それじゃあ、飲むお酒の量によっても」

「そう、それによって魔法を放てる量も変わってくる」

「つまり、今の話を勘案すると『魔力=魔力の量と質』というのは魔力とはすなわち、どれだけアルコールを飲めるかということとどれだけ度数の高いアルコールを摂れるかということになることですね」

「そう、お酒に強い人ほど魔力が強いということ。だから、明海の飲みっぷりを見てまさにこの世界を救う勇者の召喚に成功したと実感したわ」

 明海としては、いきなり召喚されて訳の分からないうちに国王との飲み会に参加させられ、王国の危機を救うことになっていることに面食らっていたが、召喚された理由をなんとなく理解した。

「それと飲むお酒によって、攻撃の種類を工夫させる必要があるわ。例えば、麦酒のように比較的アルコールの度数が低くてたくさん飲めるようなものであれば、弓のようにいくつも打てるような小さな魔法の弾にしたり、濃度が高くなるにつれて威力を大きいものにしていく。これが通常魔法を撃つコツ。そして、威力が高い分、濃度の高いアルコールを摂る必要がある、ジョウイ魔法があるわ」

()()魔法ですか」

「いいえ、()()魔法よ」

 言っている言葉のニュアンスが若干違う気がしたので明海が怪訝そうな顔をしていると、アテナが言い直した。

「つまり、それは蒸留酒を多く摂ることで放てるものよ」

 なんだそれはとも思ったが、なるほどわかりやすい。しかしながら、クレイジーな魔法だ。

「蒸位魔法は威力がとても高いけれど、濃度が高い分あまり飲める量が少なくなる。お酒に弱い人の場合はオーバーフローしてしまうわ」

「オーバーフローとは」

「飲みすぎたら人はどうなるかしら」

「私は飲みすぎたことは一度もありません」

「そうだったわね……そうじゃなくて、普通の人はどうなるかしら」

「吐く」

「そのとおり。そしてしばらくは行動ができなくなるから、お酒が飲めない人は魔法には手をつけられない。そしてお酒が飲めるからと言って飲みすぎてもだめなの」

「なるほど」

「蒸位魔法を撃つイメージとしては、初めに練習した時のように大きな魔力を撃つ形でいいわ」

「ビームとか元●玉を撃つイメージですかね」

「ええと」

「すみません、聞き流してください。そういえば、魔法には属性というのはあるのですか」

 明海が尋ねるとアテナは頬に手を当て、首を傾げるポーズを取った。

「火や水、風、土、雷といった概念があったらしいのだけど、今はどの魔法も特にないのよね。あ、ただ、どこかの国では竜殺しの秘酒があると聞いたこともあるわ」

 剣と魔法のファンタジーの世界に来たからにはそういった属性もあるのだろうと思ったのだが、この世界はアルコール濃度の高い魔法かそうでもない魔法にほとんど二分されているらしい。

「そういえば、アテナ様もお酒を飲まれるということで、魔法は」

 それならと、質問を変えてみた明海だったが

「魔法を使えるけれど、私が使うのは攻撃魔法よりも補助魔法が得意なの。例えば、攻撃や防御の強化もできるし、魔力補助もできるわ」

「魔力補助というのはなんですか」

「私の魔力を相手に分け与えるの」

「つまり、お酒を飲めない人に与えると……」

「うふふ」

 アテナの笑顔がその時だけとても怖く見えてしまった。



「おーい、明海、大丈夫か?」

「あ、いいえ、大丈夫。ちょっと色々思い出していて」

「そう、ならいいけど」

 旅団を運ぶいくつもの馬車はイブシー市に向けて北上していた。イブシー市はアルコー王国に比べると若干寒く、冬場の蓄えのために燻製などを作り始め、その技術がとても高いことから、燻製製品が名産となった。

「そういえば、イブシー市まではどれぐらいかかるのかを聞いてなかった気がしていて」

「三日程度で着くよ。その間野営をすることになるけれど」

「なんとなく想像していたことだけど、キャンプと思えば大丈夫」

 三日間のキャンプでどれだけおいしいお酒を飲めるか楽しみだったが、補給物資にも限りがあるので、明海にしては珍しく節制を誓った。

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