プロローグ
・お酒は二十歳になってから。
・お酒は節度を持って楽しみましょう。
・最近飲んだお酒:「舞美人 木槽絞り」(日本酒)
その部屋には国王以外に国の中枢を担う者数名が円卓を囲んでいた。
国王はあくまでも平静に見える様子ではあるが、その周りの数名は険しい表情であったり、事態の打開に向けて何かできないか、焦燥感にかられている様子が見て取れた。
数日前の兵士からの報告は、自由都市イブシー市内に謎の集団が多数現れ、市内中央にある工場が占拠されているという報告だった。
その辺の盗賊団が襲撃したのだろうと思い少しの兵を派遣させたのだが、返り討ちに遭う始末となってしまった。
そして今がまさに、命からがら帰ってきた兵士からの報告を聞き終えたところである。
「敵を侮っていたのう。その辺の頭をおかしくした盗賊団かと思っていたが。して、その敵はどのように名乗っていた。差し詰めどこかの国が裏から手を引いているような勢力かの」
同じように思っていたのか頷いている家臣もいた。
「それが……」
「どうした」
その兵士は変な顔をしていた。具体的にどのように変かというと、笑ってはいけない場面であるはずなのに笑いをこらえようとひくひくと口元を歪ませ目線は必死に下を向けており、それがさらに皆の注目を浴びてしまい、より滑稽さを増していた。
「団名を『ゲコゲコ団』と名乗っており……」
その場の空気が一瞬固まったが、皆々何とも言えない表情になっていた。国王に至っては兵士がなぜ変な表情をしていたのかが合点がいったように、笑いをこらえるのに必死になっていた。
何て変なやつらなのだろうと、場の空気が弛んだが、兵士の次の言葉で国王だけは厳しい表情をすることになる。
「相手の団長はプレジデント・シラフと名乗っており、『酒は毒水。毒水はこの世界からなくす』と国王に伝えるよう言われました」
「シラフ……だと……」
国王の表情が険しくなると、雰囲気が重々しくなった。
「国王、そのプレジデント・シラフとやらをご存じなのですか」
家臣の一人が尋ねると苦虫を嚙み潰したような顔をして頷いた。
「奴とは昔一回相まみえたことがある。それはまだ儂の父が国王だったころ、儂は剣の修練を終え、一日の疲れを癒すために、街の酒場まで繰り出して行った時、その酒場に奴がいたんじゃ。そこで食べ物も頼まず、飲み物も水しか飲まないでなよなよした口調で、店にいる女の子たちにちょっかいをかけていたのじゃ。しかもそれだけではなく当時まだ付き合っている段階であった儂の妻にも手を出そうとしていたのを見て、蒸留酒を瓶ごと奴の口に突っ込んでやったわい。そこから外に放ってやったのは覚えておる」
国王の若い頃の愚勇伝を聞いている皆々は苦笑するばかりだったが、国王だけは当時のことを思い出し、はらわたが煮えくりかえってきたのだろう。険しい表情のままだった。
国王が腰を上げ、険しい表情のまま何を言うかと思いきや、
「とりあえず、昔のあいつのなよなよした顔を思い出したらイライラしてきたから、宴会じゃ」