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焦ったい。

 


 カステッロ城から出ると街は夕暮れ色に染まっていた。


 あれからアンナ様は私に文字を教えて、フィデリオ様はアンナ様に良く分からない難しい事を教えていた。


 アンナ様は宣言通り厳しかった。でも、厳しいのは優しさだと何となく分かる。甘やかす事が優しさとは限らない。


 アウロラは後ろに佇むフィデリオに尋ねた。


「私に見せたかったのは、王妃様や殿下が頑張るお姿ですか?」


 フィデリオ様は女性の王妃様や王女殿下の頑張る姿を私に見せる事によって自信を付けて欲しかったのかもしれない。


「そうですね。演技をする貴女には自信がまだ足りないと思いました」


「……お見通しでしたか。どうして私にそこまでしてくれるのですか?」


 胸がドキドキした。期待をしていた。


「『魔女の恋』は興味深い演目でして、見た目が魔女にぴったりな貴女に期待していたのですが……まぁ見事に期待を裏切ってくれました」


「……すいません」


(私は何期待していたのよっ!? 馬鹿馬鹿っ!)


 頭をぽかぽか叩きたい気分だ。


「しかし、貴女は徐々に演技が上手くなっていきました。ミスも減りました。今日の演技はまぁまぁでした」


「そ、そうですか」


(下手じゃなかったのですか? 素直じゃないなぁ)


「もっと上を目指せると思い、こうして城まで連れてきました」


「それほど、『魔女の恋』を完璧に演じて欲しいと? 男性には人気の無い演目ですよ?」


 フィデリオは目元を優しく細めた。アウロラはドキッと胸が高鳴る。


「それが良いのです。人が求める物語とは、現実では味わう事の出来ない非現実的な物語です。『魔女の恋』が男性から人気が無いのは、内容が当たり前だと感じたからです」


(醜い顔の男性と顔を傷付けた魔女との恋が当たり前?)


「多くのピアチェーヴォレの男性は、女性の魅力は外見では無いと思ってます」


「えっ。そうなんですか?」


「ええ。『可愛くしていれば良い』と言うのは女性の存在そのものが可愛いと思って言っていると思いますよ」


(知りませんでした)


「隣国は外見を重視するのか『魔女の恋』は男性にも人気です。面白いと思いませんか?」


「……フィデリオ様の独特な考えが面白いです」


(フィデリオ様は私に別の世界の見方を教えてくれる)


 世界が広がる感覚が楽しかった。


「私が面白いですか? 初めて言われました」


 フィデリオは瞬きを繰り返して意外そうにしている。


「ああ、なるほど、こうして自分が思っている事を話す事は滅多に無いからですね。アウロラさんは話しやすいです」


 またフィデリオは目元を和ませた。


(く、口説いているのっ!? はっきりしない感じが焦ったいっ!?)


 胸がドキドキして煩い。こんな感覚は初めてだ。


「王女殿下は貴女に文字を教えている時楽しそうでした。是非、今後とも仲良くしてあげて下さい」


 王女殿下と聞き、胸が少し騒ついた。フィデリオと王女の間には割り込めない信頼関係が築かれている。それが心底羨ましかった。


「……フィデリオ様は私といて楽しかったですか?」


 訊いてしまって後悔した。ここで「いいえ」と言われたら、この胸の高鳴りはどうすれば良いのか分からない。


「楽しく無ければ誘ってません」


(……良かった。片想いぐらいなら許して下さるわよね)


 身分差故に両想いにはならないと思っていた。


「貴女とならば、この国を支えていけるかもしれません。貴女に仕事を依頼してもよろしいですか?」


「……仕事ですか?」


「はい。私の妻になり、私と共に小さなお姫様を支えて頂きませんか?」


 演技で泣くのは下手なのに、今は勝手に溢れてくる。止める方法は分からなかった。


「はい。私の旦那様」


 この人の隣に相応しい女優になってみせる。アウロラはそう心の中で硬く誓ったのであった。




 

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