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意外な一面。

 


(えっ!? えええええっ!?)


 彼は何と国王が住うカステッロ城へと入っていく。門番は彼を通した。私が唖然としていると彼は私を招く。


「早く来てください」


 門番は当然私を見て「あの方は?」と彼に訪ねる。


(下民で唯の女優の私は入れないに決まっているじゃないっ!)


 門前払いされると思ったが


「彼女は私の婚約者です」


「なるほど、分かりました。お通り下さい」


 身に覚えの無い肩書きに「へ?」とアホ面を晒してしまう。


 彼は見下す視線で「ですよね?」と言ってくる。


 それにぽっと頬を染めた私は思わず「はい♡」と答えて彼の後に続いた。


 門番は首を傾げたが、「まっいっか」と彼と私を見送った。





 城の中でとんでもない光景を目の当たりにした。憧れて止まない王妃様が赤髪の11歳の少女を叱っていた。少女は巻き髪を黒いレースのリボンで縛ってあり、赤いふりふりなドレスが可愛らしい。王妃様の服装は30代という事もあり質素な機能性重視なデザインだった。


「私の言う事が訊けないのっ!?」


「だってっ! 同い年の子は遊んでいるのにっ私は毎日お勉強じゃないっ! ジーノは良くて何で私は遊んじゃいけないのっ!?」


「あの子には無理だから……じゃなくてっ。アンナは女だから男に舐められない様にしないといけないのよっ!」


「全然意味が分からないっ! 男の人はお母様と違って優しいじゃないのっ!?」


「アンナにはまだ分からないと思うけど、あれはろくでなしよっ! 信じちゃ駄目っ!」


「お母様は私の事が嫌いだからそんな事言うのでしょうっ!? お母様なんてっ大っ嫌いっ!」


「アンナっ! 待ちなさいっ!?」


 王妃様の制止を無視して赤髪の少女は走って逃げた。


「何で分かってくれないのよ」


 王妃様は米神を抑えた。


 アウロラは何処の母親も娘に男を信じるなと言い聞かせるんだと遠い目をした。


 王妃様は私達に気付いた。


「……あら。どちら様ですか? 私今とても機嫌が悪いので話しかけないでくれます?」


 王妃様は背を向けて廊下を背筋をピンと伸ばした姿勢でスタスタ歩く。私達はそれを無言で眺めた。


 彼は「後をつけましょう」と王妃様を無表情でゆっくりと追いかける。私も王妃様の様子が気になって後に続いた。


 途中で彼は王妃様とは別の方へと歩く。質素な扉があった。彼は徐に鍵をポケットから取り出すと何食わぬ顔でそれを鍵穴に挿した。


 ガチャ


 扉を開く。扉の先は使用人専用の薄暗い通路だった。


「さあ。行きましょう」


(彼は城の使用人なのかしら?)


 アウロラは今更ながら彼の正体が気になった。


「貴方は一体何者ですか?」


 彼は面倒くさそうに振り返って私の顔を見た。


「そういえば……名乗ってませんでしたね。私は宮中伯見習いのフィデリオです。今はまだ大学生です」


 宮中伯見習いと訊いて叫びそうになった。


(宮中伯ってエリート中のエリートじゃないっ!? 嘘でしょっ!?)


 宮中伯とは宮廷での書記官という事で大臣にあたる役職だ。王族以外が目指せるのは文官では大臣や宰相が限界だろう。


 アウロラは身分が違いすぎて恐ろしくなり歩みを止めた。


 フィデリオは「おや?」と首を傾げた。


「私が宮中伯見習いだと知ると大概の女性は獲物を得た獣の目になりますが……」


「わ、私は彼女達と違って臆病ですから」


 臆病な自分を変えたくて女優になった。発生練習をしたから、呂律が回らなくなる事は減った。少しだけ、自信がついたけど、まだ足りない気がする。何が足りないのかは全く分からない。周りの気が強い女性達が羨ましい。どうしたら、あんなに強くなれるのだろう?


「……そうですか」


 つまらなさそうにフィデリオは使用人の廊下を進み始めた。


(そうよね。フィデリオ様には関係ない話ですよね)


 何故か知らないが気分が落ち込む。フィデリオの後を追ってみる事にした。





(えっ!? えええええっ!?)


 格式高い家具や調度品が並ぶ広い部屋。天井や壁には金縁で植物が描かれている。使用人専用の味気ない廊下を通った後だからこそなお衝撃を受けた。


(ここは王族の部屋でしょうっ!?)


「フィデリオ様っ! 引き返しましょうっ!」


 思わずフィデリオの服を引っ張って引き返そうとしたが……逆に腕を引っ張られた。引っ張られた勢いでフィデリオの胸に飛び込んだ形になった。フィデリオは自然とアウロラを抱きしめた。男の人に免疫のないアウロラは顔が赤くなった。


「静かにして下さい。バレたら首が飛びますよ」


 慣れてるのかアウロラに興味ないのか、顔色ひとつ変えずに奥にある扉をフィデリオはじっと見つめる。


(くっ首っ!? がとっ飛ぶっ!?)


 あたふたと無言で焦った。


 フィデリオはあろう事かその扉を僅かに開いて覗いた。


(ひえええぇぇぇぇっ!? 何ですかこの人っ!? 怖い者知らずですかっ!?)


 フィデリオはアウロラに「こっちに来て下さい」と口ぱくで伝えてきた。アウロラは渋々フィデリオに従って扉を覗く。


 中は……


(え? くまちゃん? うさぎちゃん? ファンシーなぬいぐるみばかり……子供部屋? えっ!? あれはっトニア様っ!?)


「またやってしまった。私って何でいつもああなの? またアンナに嫌われちゃったじゃない。どうしようアルトゥーロ」


 大人の女性並みに大きなクマちゃんのぬいぐるみを抱きしめる王妃。周りにはファンシーな大小様々なぬいぐるみが王妃を見守る様に置かれていた。


「……そうよね。謝らないとね。明日こそは謝ってみせるわ」


 因みに完全な王妃の独り言である。フィデリオとアウロラは一言も発してない。


 アウロラは静かに扉から離れた。フィデリオもそれに続き、使用人通路に戻った。アウロラは何も発する気にならなかったが、フィデリオは敢えて言った。


「凄いギャップでしょう?」


「……」


 アウロラは何とも言えない表情をした。




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