努力。
私は彼に認めて貰う為に日々努力した。団長は止めてくるが、私は発声練習に勤しんだ。
「舌足らずの方が可愛いのにっ!」
団長に可愛がって貰っても嬉しくなかったので無視した。
舞台の上でミスする事が減った。「なーんだつまんないの」と客が残念がっていた。彼は、いつもでは無いが王都での公演では客として席に着いているのを度々見つけた。彼を見つけるのが私の楽しみであった。彼は私がミスを連発するとゴミを見る様な目で観ていたが、ミスが減っていくと表情が和らいでいった。(ただの無表情)
そして、今日、再び『魔女の恋』の魔女を演じる事になった。
(あの時ミスった屈辱を今日は晴らす!)
私は気合いに満ちていた。
魔女の見た目は妖艶な女性。でも、心は素敵な恋がしたいと願う純情な乙女だ。まさに私の様だと思った。カッコいい権力のある男は女性の憧れ。魔女は権力者の男となら素敵な恋が出来ると期待した。しかし、どの権力者も魔女の外見ばかりを褒めていた。
魔女は気付いた。魔女もまた、権力者の男に外見とお金にしか期待していなかった。恋なんて生まれなかった。魔女を取り合って男達は戦おうとした。魔女は自分の美貌を呪った。美貌さえ無ければ、彼らの本当の気持ちが分かったのに……。
そこに一人の醜い男が現れた。醜い男は魔女を見て「貴女の魅力は外見では無い」と言った。欲しかった言葉に魔女は嬉しくて泣いた。醜い男となら心を通わせる事が出来る。魔女は顔を傷つけるのを迷ったが、醜い男が一緒にいてくれるのならばと、顔を傷つけた。
権力者の男達は魔女の外見にしか興味が無かったので、魔女の元から去った。醜い男は魔女を「美しい」と褒めた。魔女は嬉しくて、醜い男が美しく思えた。心が美しい事が大事なのだと魔女は学んだ。
「外見が醜い男よ。私は貴方を心から美しいと思う。外見など些末な問題。心が何よりも肝心だという事を教えてくれた貴方に私の愛を捧げます」
醜い男の頬にキスをして舞台は幕を閉じた。
舞台から見た観客席の男性の反応は退屈そうだ。女性は楽しそうだ。彼は無表情で何を思っているのか分からなかった。
天幕から魔女役の黒いドレスのまま出ると彼がいた。しかし、女性達に囲まれていた。彼は和かに対応している。
「美女に囲まれて、私は幸せ者です。私を駄目な人間にしてどうするつもりですか?」
女性の一人は「わざとねっ!? わざと優しくするのでしょうっ!?」と怒る。
女性の一人は「私達は眉間にシワを寄せた貴方が好きなのにっ!」と残念そう。
女性の一人は「内心。私達を見下していると思うと堪らないわ」と頬を染める。
アウロラは衝撃を覚えた。女性が男性にナンパする所を人生で初めて見たからだ。
(噂に聞いた事がある! カルマ人の血を引く男性にならば、ピアチェーヴォレの女性はナンパをするらしい!)
物珍しい光景に嫉妬するのを忘れていたアウロラであった。
彼は益々笑みを深める。
「滅相も御座いません。皆さんとっても可愛らしいですよ」
女性三人はぞぞっと鳥肌が立った。
「酷いわっ!」
「あんまりよっ!」
「奴等と同じ台詞を吐くなんてっ!」
ふんっ! と女性三人は鼻息を荒くして去って行った。
アウロラは彼女達に同情した。
(ナンパ男の台詞に拒否感が出たんだね)
涙がほろりした。
彼は彼女達が居なくなると、眉間にシワを寄せた。
「はぁ。面倒くさい」
アウロラはそんな彼にキュンとなった。
「アウロラさん。今日の公演観させていただきました」
「あっ。はい」
声を掛けて貰って嬉しくてもじもじする。
彼はにっこりと笑った。
「相変わらず下手ですね」
(ガーン)
盥が落っこちてきた様な衝撃を覚えた。これがゴミを見る様な目だったのならば嬉しかった。彼はそれを知っていてわざと笑顔だったのかもしれない。
(鬼畜だわ!)
アウロラは半ベソだった。
「貴女の勉強になる人物がいます。ついて来てください」
彼はゆっくりと歩き出したので私は付いて行く事にした。