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第十二章 お城にて


「それで? 朝に見たふたりの雰囲気が昨日までと全然違うんだけど? 一体どういうことなのか説明してくれるんでしょうね?」


 アステール様と恋人同士になった次の日の昼休み。学年が違うにもかかわらず教室までやってきたソラリスがにっこりと笑った。

 私としてはいつも通りアステール様と登校しただけのつもりなのだけれど、彼女には気づかれてしまったようで笑顔が少し怖い。


「え、えーと……その話なんだけど」


 ソラリスに隠すつもりはない。むしろ早めに報告しなければならないと思っていたくらいなので、彼女から来てくれたのは有り難い。だが今は、今だけはタイミングが悪すぎた。


「スピカ」


 ――あああああ。タイミングが……!


 予想していた通りの人が笑みを浮かべて現れる。

 姿を見せたのはもちろんアステール様だ。

 昨日、約束した通り、わざわざ迎えに来てくれた彼は私の姿を見つけると、嬉しげに目を細めた。


「迎えに来たよ」

「あ、ありがとうございます」


 ――アステール様、格好いい。


 いつも通りのはずなのに、何故かアステール様が輝いて見える。

 透明感のある紫色の瞳は眩いばかりだし、すっきりとした頬のラインは彼の精悍さを底上げしているように思える。

 いや、彼自身が、名のある芸術家が人生を賭けて作り上げた彫刻のように完璧なのだろう。

 染み一つない男性のものとも思えない美しい肌は見惚れるばかりだし、眉の形も綺麗だ。

 一分の隙もないと言えばいいのか、全てのパーツが美しく、欠点らしい欠点が見当たらない。

 とにかく、今の私にはいつも以上に彼が素晴らしい存在に見えていた。

 これが惚れた欲目というやつか。いや、アステール様が素敵なのは以前からだし当然のことだから、ようやく私にも正しく見えるようになっただけなのかもしれない。


 ――私、大分色ぼけているわよね。


 昨日、ついに己の想いを認め、それを告げたのが切っ掛けになったのだろうか。

 とにかくアステール様が格好良く、素敵に見えている。

 かなり浮かれているなと、これではいけないと分かっているけれども、長いすれ違いをこえ、ようやく恋人同士になったのだ。しばらくの間はこのフワフワした幸せを堪能させてもらってもバチは当たらないと思いたい。

 ドキドキしながら彼を見る。アステール様は私の近くにいるソラリスを見て、不思議そうに首を傾げた。


「あれ? フィネー嬢? 君は一年なのにどうしてここに?」


 話しかけられたソラリスは、さささっと余所行きの顔を作ると、見本のような美しいお辞儀を披露した。


「ごきげんよう、殿下。プラリエ公爵令嬢とお昼を一緒にどうかと誘いにきたんです」

「そうだったんだ。でもごめん。今日は私が先約なんだ。ね、スピカ」

「はい」


 返事をし、ソラリスの方を向く。

 わざわざ二年の教室まで来てくれたのに申し訳ないが、先に約束したのはアステール様なので謝るしかなかった。


「せっかく来てくれたのにごめんなさい。でも、そういうことなの」

「先約があるのなら仕方ないわ。約束をせずに来た私が悪いんだし、気にしないで」


 謝罪すると、ソラリスは笑顔で首を横に振った。


「私も一緒に……ってわけにはいかなそうよね。ああ、大丈夫。私、空気は読める方だから。ちゃんと退散するわ。でも――」

「でも、何?」


 話の続きを促す。

 ソラリスは私の腕を小突きながら言った。


「今度、時間ができたらでいいからスピカの屋敷に遊びに行ってもいい? そこで詳しい話を聞きたいんだけど」


 目が逃がさないと言っている。

 私としても話を聞いて欲しいところなので頷いた。


「ええ、いいわ」

「良かった! じゃあ、また! ……お邪魔しました、殿下。私はこれで失礼致します」

 優雅にお辞儀をして、ソラリスが出て行く。それを見送っていると、アステール様が私の手を握った。

「スピカ」

「は、はい……」


 返事をし、アステール様を見る。彼はにこりと笑いながら言った。


「君とフィネー嬢は本当に仲が良いよね。それで、聞きたいんだけど、彼女の言う詳しい話って何のこと?」


 笑っているのに、どこかこちらを伺うような声音に、私は首を傾げながらも答えた。


「え? アステール様のことでずいぶん迷惑を掛けたり、話を聞いてもらったりしたので。その、関係に変化があった時は教えて欲しいって言われていたんです。その話、ですけど」

「へ……私のこと?」


 アステールがキョトンとする。その頬が少し赤くなった。

 ポリポリと頬を掻く。


「あ、そうか。恋人関係になったことを協力してくれた友人に報告……ってところかな」

「ええと、はい……そんな感じです」

「……そっか」


 嬉しげな顔をされ、なんだかとても恥ずかしくなった。

 だけど、彼が喜んでくれることは私だってすごく嬉しい。



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