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子猫たちを預かることになった私だったが、両親の説得は思ったより簡単に終わった。
リュカを拾った時だってあっさり快諾してくれたことを思い出せば、まあ大丈夫だろうとは思っていたが、本当にすぐだった。
事情を話して、一時的に置きたいと言えば、「好きにしなさい」と笑いながら頷いてくれたのだ。
ちなみに同じ轍を踏みたくなかった私は、カミーユにも相談に行った。
猫が増えるということにやはりカミーユは良い顔をしなかったが、一時的なものだと告げると渋々頷いてくれた。
喧嘩したままだったら、絶対に承知してくれなかっただろう。仲直りしていて本当に良かった。
「ここがあなたたちの部屋よ」
「にゃー」
私の隣の部屋に三匹の子猫を放つ。
彼らに用意した部屋は広いだけで最低限の家具だけで特別な調度品の類いもない、普段は閉められている部屋だ。
とはいえ空調は整っているし、窓から外も見える。一時保護に使うだけなら十分だ。
子猫たちは先に医者に診せ、健康状態を確認してもらった。
リュカの時と同じように、大きなたらいでザブザブ洗ったので、子猫たちはピカピカだ。
シリウス先輩が用意してくれたご飯と水皿を持って帰って来たので、空腹の子猫たちに食べさせる。
「にゃあ、にゃあ、にゃあ!」
にゃあの三重奏だ。元気が良くて結構なことである。屋敷の使用人たちにも事情を話し、協力してもらえる人には世話の手伝いをお願いした。
コメットにはたらいで猫たちを洗うのを手伝ってもらったが、洗い終えた猫たちが走り回るのを追いかけたことで体力を使い果たしたようだ。すっかり疲れた様子で先ほど部屋を出て行った。そのあと、別のメイドがお茶を運んできたところを見ると、今は休憩を取っているのだろうか。できればゆっくり休んで欲しい。
子猫のパワーに、皆が振り回されているのだ。……というか、三匹というのがしんどい。何せ皆、好き放題に動き回るから。一匹だけを見ていればいいのと違い、あちらこちらに気を配らなければならないのは結構大変だ。
「お疲れ様。健康状態には問題がなかったみたいでホッとしたよ」
「アステール様……ありがとうございます」
一通り世話が終わったタイミングでねぎらいの言葉を掛けてくれたアステール様にお礼を言う。彼も子猫の世話を手伝ってくれた……というか、屋敷には彼も一緒にきていたのだ。万が一、保護を反対されたら連れて帰らねばならないからという理由だったのだが助かった。今はひとりでも多く手が欲しい。
アステール様は手際良く子猫たちに食事をあげ、トイレの世話もしてくれた。
リュカで慣れているのもあるのだろう。その手つきは迷いがなくしっかりとしていて頼もしい。
「アステール様に来て頂けて助かりました……。子猫三匹ってこんなに大変だったんですね。知らなかったです……」
「本当だね。皆、元気なのは良かったけど、こちらは振り回されて大変だ」
「リュカのように、何を言っているのか分かるわけではありませんしね」
子猫たちを見つめながらしみじみと呟く。
リュカの声が聞こえた時はとても驚いたが、今ではむしろ良かったなと思っている。毎回ではないが、何を考えているのか分かるというのは有り難いのだ。
特にリュカの場合は強い感情ならほぼ確実に分かるから、色々と助かっていた。
「声が聞こえないって当たり前のはずなのに、どうして何を考えてるか分からないんだろう。この子達も聞こえれば良いのにって、今日だけで五度以上も思ってしまいました」
「五度は多いね。でも私も似たようなものかな」
部屋の中を元気よく走り回る子猫たちを眺めながら、アステール様と話す。
子猫たちはお互いの尻尾を追いかけているようで、くるくると同じ場所を走り回っている。だが、ベランダに小鳥が止まったのが見えたのか、三匹揃って窓に張り付いてしまった。
鳥たちを食い入るように見つめている。小さな猫たちは何をするのも可愛く、疲れたのは本当だが、それ以上に愛しい気持ちになった。
「……可愛い」
目を輝かせながら小鳥を見つめる子猫たちに心が癒やされた。どれくらいの期間になるのかは分からないが、しばらくは子猫たちと過ごすのだ。目一杯愛情を注いで、飼い主となる人たちに渡してあげたいと思う。
ふたりでぼんやりと猫たちを眺め続ける。ふと、隣の部屋から大きな鳴き声が聞こえてきた。
「にゃあ! にゃあ!!(僕を放ってどこにいるの! こっちにきて!)」
「リュカ!」
反射的にアステール様を見る。彼もまずいという顔をしていた。
「子猫たちに気を取られてすっかりリュカのことを忘れていたね。お冠なのも無理はない……スピカ、とにかくリュカのところへ」
「はい!」
子猫たちをチラリと見る。彼らは窓の外の景色に熱中しているようで、私たちのことは気にも留めていない。それを確認し、部屋を出た。隣の自室の扉を開けると、待ちかねたと言わんばかりのリュカがこちらを見ていた。
「リュ、リュカ……」
「にゃあ!(遅いの!)」
「ご、ごめんなさい」
ばたん、とその場に横向きに転がるリュカを一生懸命撫でる。リュカは拗ねた様子だったが、拒絶したりはしなかった。むしろもっと撫でろと要求してくる。
「なあ!(どうして来てくれなかったの! 僕、待ってたのに)」
「ごめんね……私が悪かったわ……」
撫でられながらも、自分が怒っていることをアピールしてくるリュカ。彼は立ち上がると、今度はアステール様の足下に行き、頭を足に擦りつけ始めた。
「なあ、なあなあ(お兄ちゃんもひどい)」
「うん、悪かったよ。ごめん」
心の声が聞こえ続けるだけに、罪悪感がすごい。
子猫だけにかまけていてはいけないのだということを実感した。リュカだって、私が学園に行っている間留守番をして待っているのだ。最低でも声を掛けるくらいはするべきだった。
アステール様とふたりで必死にリュカを撫でる。
アステール様はリュカの頭を、私は彼の背中を中心になで続けた。しばらくなすがままだったリュカはやがて満足したのか私たちから離れ、設置されたトイレへと向かう。
そうして中へ入り、やけにキリッとした顔で用を足した。
「……」
「……」
用を足し終わったリュカが、ざくざくと砂を掻く。それをふたりで見つめた。リュカはトイレの縁をしつこく掻いたあと、ゆっくりとした動きで中から出てきた。そうしてひとこと。
「にゃあ」
「……もしかして、トイレをしたくて待っていたのかしら」
わりと寂しがりなところがあるリュカならそれもありそうな気がする。アステール様がハッとしたように言った。
「今のは私たちが悪かったわけだし、お詫びというわけではないけど、おやつを上げてもいいんじゃないかな」
「そう……ですね」
アステール様の提案に頷いた。
リュカは未だ拗ねているようだし、少しくらいご機嫌を取ってもいいかもしれない。
「リュカ、お菓子をあげるわ」
「にゃあ!(お菓子!)」
私の言葉を聞き、リュカの目がパッと輝く。
何度かお菓子をあげているうちに『お菓子』という言葉を覚えてしまったようだ。
途端、機嫌を直しスキップするかの如く駆け寄ってくるリュカを見て、お猫様とは現金なものだなとつくづく思った。




