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◇◇◇
ソラリスと友人になって一週間ほどが過ぎた。
あれから私と彼女はさらに仲良くなり、まるで昔からの友人であったかのような気にさえなっていた。
シリウス先輩とも相変わらず昼休みにおしゃべりをしている。新しい友人ができたことを告げると自分のことのように喜んでくれたが、やはりと言おうか、気にしていることをズバリ指摘されてしまった。
「お前、いつまでアステール殿下を避け続けるつもりだ」
「えっ……」
シリウス先輩の言葉に頬が引き攣った。何故なら私は彼が言う通り、あれからずっとアステール様を避けていたからだ。
あの時、私は彼の言葉を聞きたくなくて逃げ出した。
友達にもなれないと思われているのが辛くて、拒絶の言葉を耳にするのが嫌で逃げ出したのだ。だがそれはソラリスの言葉を聞いて、誤解だったらしいと理解した。
ソラリスの話が全部正しいとは思わないけれど、間違いだとも思わなかったのだ。だから多分、彼女の推測が正解だったのだろうと思っている。
私はアステール様に拒絶されたのではないと、今は分かっている。
彼にきちんと逃げたことの謝罪をしなければならないと理屈では理解している。私たちは話し合わなければならないのだ。
それなのに、なぜそれをしないのか。その答えはとても簡単。
……恥ずかしいからだ。
アステール様は私を好きで、私も彼のことが好き。
ソラリスのおかげで、いわゆる両想い状態だと気づいた私は、とてもではないが彼と顔を合わせられなかったのだ。話し合おうと決意しても、視界の端っこに彼が映っただけで、恥ずかし過ぎて逃げ出したくなる……というか、実際に逃げた。
それからずっとアステール様を避けている。
毎日の登下校も一緒に行くのを止めた。彼が迎えに来るよりも早く屋敷を出て、彼の馬車に乗るのを回避した。
馬車の中でふたりきりなんて、今の私が耐えられるわけがない。
しばらくアステール様と一緒に登下校はしないと真っ赤な顔で両親に告げると彼らは何かを察知したのか、「しばらくはしょうがないね」と言ってくれた。父が城に手紙を出してくれたおかげで、それからアステール様の迎えはなくなっている。
だが、アステール様はめげない人だった。避けられても気にしない……というか、余計に燃えるタイプだったみたいで、昼休みどころか休憩時間まで私の教室にわざわざやってきては私に話し掛けようとしてくる。
そうすれば、皆に「殿下はスピカ様のことが相変わらずお好きですわね」なんて揶揄われるわけで……それにも耐えられなかった私は、とにかく必死でアステール様を避け続けた。
今や彼の姿が見えるや否や全力ダッシュの日々だ。
「……恥ずかしいんです」
最近の自分の所業を思い出しつつも、シリウス先輩に正直に告げる。
自分が最低なことをしているという自覚はあった。
避けられていると分かっているのに勇気を出して話し掛けてくれるアステール様に対する己の行い。どう考えても酷すぎる。
――でも、仕方ないじゃない。恥ずかしくて……目を合わせるのも無理なんだもの。
これも全部アステール様を好きだと自覚してしまったのが悪い。しかも……両想いらしいのだ。あの素敵な人と両想い……。考えただけで頭から湯気が噴き出しそうだった。
「お前……」
私の態度に何かを見たのか、シリウス先輩が目を見開く。そうして特大のため息を吐いた。
「……いい加減に腹を括れ。後悔してからでは遅い。分かったな?」
「え……は、はい」
何のことかと思いつつも頷く。覚悟を決めなければならないのは私だって分かっているのだ。
今日こそはアステール様と話そう。いや、やはり明日。無理だったから明後日と、ずるずると引き延ばしている現状ではあるけれど、前に踏み出さなければならないと分かっている。
「あ、明日にでも……」
できるとは思わなかったが、なんとか気持ちを口にする。世にも情けない顔をした私を見たシリウス先輩はもう一度大きなため息を吐いた。