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第八章 罪と罰

「わあ……子猫だ、可愛い……!」


 ソラリスが目を輝かせる。

 あれから彼女を連れて屋敷に帰ってきた私は、自室でリュカを紹介した。

 リュカは初めて見る人間に驚き、腰が退けていたが、ソラリスは慣れたように彼に近づいた。


「こんにちは。私、ソラリスって言うの。宜しくね、リュカくん」


 目を丸くしてソラリスを見つめるリュカ。黒目の部分が大きくなっており、とても可愛い。そんなリュカに彼女がそっと手を近づける。その手のにおいをリュカは確かめるようにクンクンと嗅いだ。


「ふっかふかのもっふもふだ。えー、可愛い~」


 ソラリスが背中を撫でたがリュカは逃げなかった。どうやら危険人物ではないと分かってくれたようだ。頭を撫でられても嬉しそうに目を細めていて、リュカは本当に人懐っこい子なんだなと思った。


「にゃあ」

「あっ、可愛い声……死ぬ」


 甘えた声を聞き、ソラリスが笑み崩れる。顔がだらしなく緩んでいた。気持ちはとても分かる。もうこの時点で彼女が相当な猫好きだということは理解した。


「猫、好きなのね」

「だからそう言ったじゃない。前世ぶりの猫、最高。ねえ、この子、足が短いね。マンチカンみたい」

「私もそう思うわ」


 足の短い猫種、マンチカンの名前を出され、同意した。ソラリスがリュカの顎を擽りながら言う。


「この世界って不思議よね。日本の文化とファンタジー的な文化が混ざり合って。乙女ゲーの世界だからって言われたらすごく納得ではあるんだけど」

「そうね」


 顎を擽られたリュカが嫌そうな顔をする。彼は顎を触られるのがあまり好きではないのだ。


「リュカは額を撫でられる方が好きなの。顎は好みではないから触らないであげて」

「そうなの? 珍しいね。でも確かに嫌そうな顔をしてるなあ。うん、分かった。嫌なところを触ってごめんね」


 素直に顎から手を離し、額を撫でる。リュカはホッとしたような顔でゴロゴロと言い出した。


「他に触られて嫌なところってある?」

「後ろ足は嫌がるわね。あとはお腹は触って欲しい時と触って欲しくない時があるみたい。尻尾は触っても嫌がられないわよ」

「へえ。尻尾はOKなんだ。ほら、猫じゃらしで遊んであげよっか」


 テーブルの上に無造作に置いてあった猫じゃらしをソラリスが手に取る。遊んでもらえることに気づいたリュカが元気よく鳴いた。


「にゃーん!(やった!)」


 嬉しそうに近くにあった爪とぎに行き、背中を丸めて爪を研ぎ始める。これはリュカの、「今からやってやるぜ」という気合いを入れる儀式みたいなものなのだ。遊んでもらえるのが嬉しくて堪らないというリュカと猫との触れ合いに笑顔になるソラリス。ふたりを見ていると、私も楽しい気持ちになってきた。


「ほら、ほら、捕まえてご覧なさい」

「にゃっにゃっ」


 ソラリスが上手く猫じゃらしを動かし、リュカに捕まらないようにする。その動かし方は巧みで、見ているだけでも勉強になる。


「上手ね」

「前世で猫を飼っていたって言ったでしょう? あー、久しぶりの猫。楽しい。私もまた猫を飼いたいなあ」

「家族が猫アレルギー持ちって言ってたわね」

「そうなの。さすがにそれじゃあね、無理にお願いもできないし。ね、猫グッズとかあったら見せてよ。前世のものとどう違うのか見てみたい」

「良いけど、私は猫を飼うのが初めてだから違いなんて分からないわよ?」

「良いの、良いの! 私が分かるから」


 リュカと遊びながらソラリスが言う。

 前世と今世の猫グッズの違い。

 ちょっと興味があるなと思った私は、猫グッズが締まってある場所へ向かった。

 ゴソゴソと探っていると、ノックがする。


「はい」

「お嬢様、宜しいですか? お茶をお持ちしましたが」


 声を掛けてきたのはコメットだった。入室許可を出すと、彼女は銀のワゴンカートを押して部屋に入ってくる。

 リュカと楽しげに遊んでいるソラリスを見て目を細めた。


「あの方がお嬢様のお友達ですか?」

「そうなの。ソラリス・フィネー。一年生よ」

「お嬢様が同性の友人を連れてくる日が来るなんて……」


 じんと、感動したようにソラリスを見つめるコメットに苦笑する。

 両親と同じ反応だなと思ったのだ。

 屋敷に連れてきた時、まず両親に紹介したのだが、同性の友人だと言った私に、彼らは非常に驚いていた。取り巻きはいても友達はいない。それを両親もよく知っていたからだ。


「……学園を勝手に早退してきたことは問題だが……それはそうとして、お前に友人ができたのはめでたいね。ソラリス嬢と言ったか。娘と仲良くしてくれると嬉しいよ」


 そんな風に言って笑っていた。

 そのあとソラリスには「スピカって友達がいないの?」と真顔で聞かれ、傷口を抉られた気分になったが、「大丈夫よ。私も同じだもん」と続けられたことには驚いた。

 彼女はもと平民で今は貴族という少し変わった経歴を持つ人だ。平民時代には友人はいたものの、貴族になったことで嫌われてしまったのだと言う。


「『お貴族様と遊べるわけない』って言われちゃってね。私もそんなことを言う友達は要らないなって思って。だから正真正銘、私の友達はスピカだけよ!」


 もしかしなくてもものすごく重たい話だったのではないだろうか。それを笑って言うソラリスの強さに驚いた。

 テーブルにお茶の用意をし、コメットが出ていく。ソラリスにお茶をしようと声をかけると、彼女は「ちょっと休憩」と言い、猫じゃらしを持ったままこちらにやってきた。


「久しぶりだけど、子猫ってすごい勢いあるね。ぴょんぴょん飛び回るんだもん。びっくりしちゃった」

「リュカも楽しかったみたいだから。ありがとう」


 椅子をすすめ、ふたりでテーブルを囲むように座る。コメットの用意してくれたお茶を飲みながら話すのは、先ほど言っていた猫グッズのことだ。

 特に「カリカリ」が「マルル」だと教えると、彼女はとても驚いていた。


「何、そのピンポイントな違い。いやまあ、確かに全部一緒とは思わないけど……!」

「そうなのよね。だから前世の知識がそのまま使えるってわけじゃなくて……」

「微妙に面倒だね。はー、でも面白い。ね、今度私もお店に行ってみたいんだけど。連れて行ってくれる?」


 この世界の猫グッズをたくさん見てみたいのだという彼女の言葉に頷いた。


「いいわ。じゃあ今度、一緒に行ってみましょうか」

「約束だからね」

「ええ」


 にこにこと笑うソラリスと約束を交わす。予想外にできた友人との交流一日目はこんな感じで、大成功に終わった。



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一迅社ノベルス様より『悪役令嬢らしいですが、私は猫をモフります3』が2022/8/1に発売しました。電子書籍版も発売中。よろしくお願いいたします。
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