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「そう……そうよね」


 確かにシリウス先輩とは違う。

 女性の友人を招くのにわざわざ許可を取る必要はないだろう。

 それに正直な話、報告に行くのは躊躇われた。


 ――やっぱり気まずいし……。


 先ほど、アステール様から逃げ出してきたこともあり、今、彼と顔を合わせたくはなかった。

 大体どんな顔でアステール様の前に立てば良いのかも分からない。

 アステール様の『友人』発言はソラリスによれば、私のことを好きだから出たものだという話だけど、直接彼からそう言われたわけではないので、百%信じることはできなかった。


 ――いや、そうかなって納得はしているけど!


 ……分かっている。私はずるいのだ。

 もし違っていた場合が恐ろしいから、傷が浅くなるよう自分で逃げ道を作っているし、だから今だってこんなことを言ってしまう。


「……私、アステール様に嫌われてしまったかもしれない」

「は? いきなり何を言っているの? っていうか大丈夫? どこからその話は出たわけ?」

「だ、だって、考えてみたら私、アステール様の言葉も聞かずに逃げたのよ? そのまま戻りもせずに。……愛想を尽かされても仕方ないと思わない?」


 確率はゼロではない。

 今までは確かに私のことを思っていてくれたかもしれないが、逃げ出したことで完璧に愛想を尽かされた可能性だって……あると思うのだ。


「……スピカって結構面倒な性格してるのね」

「う……」


 ズバリ告げられ、言葉に詰まった。

 自分でも自覚があっただけに言い返せなかったのだ。


「だ……だって」

「そういう考え方をしているから変な誤解もしやすいし、されやすいんだなって、今話を聞いただけでも分かったけど。うーん。私はあれくらいでアステール殿下がスピカを嫌いになるとかあり得ないと思うから気にしなくて良いと思うけどな」

「そ、そう、かしら」

「勇気を持って話し掛ければ、解決、解決!」

「……」


 そうだと良いのだけれど。

 期待をもってソラリスを見る。申し訳ないとは思うけれど、もっと背中を押してもらいたかった。


「スピカは考えすぎでファイナルアンサー! それより、今は猫の話をしよう? 私、めちゃくちゃ楽しみなのよね! 前世ぶりの猫! 抱っこさせてくれるかなあ」


 問題なんて何もないと言わんばかりの彼女の言葉が頼もしくて、笑みが零れる。


「ふふ、ソラリスは本当に猫が好きなのね」

「そうなの。だからスピカが猫を飼ってるって聞いて、本当に嬉しい」


 裏のない笑顔が素敵だった。

 彼女と話していると、マイナスに陥りがちな思考がプラスに上がっていくような、そんな気がする。

 偶然ではあったが、ソラリスと友人になれて良かったと心から思えた。

 最初は、関わり合いになることはないと本気で思っていたのに。

 とはいえ、いくら勇気づけてもらったとはいえ、アステール様のことが解決したわけではない。

 状況は何も変わっていないのだ。

 ソラリスが言う通り、どこかで彼とはちゃんと向き合い、話し合わなければならないだろう。

 それは分かっているけれども、後ろ向きな思考のある臆病な私は、できるだけ先延ばしにしたいと思ってしまう。

 それは何故か。

 先ほどついに認めてしまった恋心が、逆に私の邪魔をしてくるからだ。

 今、アステール様の顔をまともに見られる気がしない。

 好きな人が、私のことを好きなのだと。

 その事実が嬉しい以上に恥ずしくて、会話するのも難しいのだ。


 ――も、もう少しあとで。心の準備ができてから。


 それまでは、少し距離を置かせてもらおう。

 でなければ、恥ずかし過ぎて無理だから。できれば、登下校も勘弁してもらいたい。

 何せアステール様の距離は近い。馬車の中は特にだ。

 腰を抱き寄せられたり、頬に触れられたり、今、あの距離で迫られたら……羞恥で爆発してしまう予感しかなかった。


 ――う、うん。無理。


 想像して首をブンブンと横に振る。

 しかし、問題はいつまで距離を置くか、だ。

 具体的には決められないけど、私がアステール様と向き合えると思えたら。

 ちゃんと彼と話せると確信できたら、その時はきっと。


 そんな自分勝手なことを考える私は、アステール様が逃げた私を見て、もしかして私に嫌われてしまったのではないかと考え、ショックを受けていることなど、全く想像もつかないのだった。


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