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 丸まった姿が驚異的に可愛い。あまりの可愛さに悶絶していると、アステール様がやってきて一緒に段ボールの中を覗き込んできた。


「……寝てるね」

「はい。疲れたのだと思います」

「そうだろうね。それでその……話によると、明日、この子の食事を買いに行くようだけど」

「はい。先生からいただいた食事は、先ほどのと、明日の朝食分だけですので。明日、学園が終わり次第、店に向かいたいと思っています。他にも必要なものはあるでしょうし」


 まずは、その店がどこにあるのかを調べるところから始めなければならないけれど。

 可愛い愛猫のためだ。それくらい頑張って調べてみせると思っていた。

 アステール様が、こほんと、なんだか妙にわざとらしい咳払いをする。


「アステール様?」

「い、いや。その、だね。私も明日の買い出しに付き合おうかと思って」

「え? いえ、アステール様にご迷惑を掛けられません。今日もずいぶんと引き留めてしまって、お仕事に差し支えがありますでしょう?」

「大丈夫! 問題ないから!」

「え、は、はあ……」


 妙に必死な様子だ。何なのだろうと思ってアステール様を見る。彼はコホンともう一度咳払いをした。


「ええと、つまり私には十分に時間があるんだ。だから、是非、君の買い物にも同行したいと思っている」

「アステール様に喜んで頂けるようなものではないと思いますけど……」

「私は楽しいんだ!」

「……あ、はい」


 力強く訴えられ、私は驚きつつも頷いた。そして気づいたことを口にしてみる。


「もしかして、アステール様って、猫が相当お好きなのですか? 今まで存じませんでしたけど」


 アステール様は何故か唖然とし、五秒ほど黙った後、こくりと頷いた。


「……実はそうなんだ」

「そういうことでしたら!」


 大喜びで頷いた。

 どうにも普段のアステール様とは違うと思っていたが、なるほど、どうやら彼は猫が好きだったらしい。だからここまでついてきたし、明日も買い物に付き合いたいと申し出てきたのだ。


「分かりました。それなら一緒に参りましょう。猫好きなら行きたいですよね。分かります」


 私も前世で、友達と一緒にペットショップにいくのが楽しかった。猫は飼えないけれど、猫の餌やおもちゃなどを見ているだけで、心がときめいたのだ。

 その気持ちを覚えていたので、アステール様の言い分は十分に理解できた。


「……そんな感じ、かな」


 なぜかがっかりした声でアステール様が呟く。私の視線に気づくと慌てて笑顔を作った。


「それで? 名前はどうするの?」

「名前ですか? リュカと名付けようと思っています」


 私が即答すると、アステール様は目を瞬かせた。


「へえ。もう考えていたんだ。いい名前だと思うけど、何かその名前にした意味でもあるの?」

「いえ……そういうわけではないのですが」


 口ごもった。

 本当はある。

 前世で猫を飼えなかったころ、もし自分が猫を飼ったらどんな名前をつけようか、妄想していた時があった。その時に雄猫なら『リュカ』と名付けようと思ったのだ。

 それを思い出したからの回答だったのだが……アステール様に言えるわけがない。


「なんとなく、です」


 誤魔化すように笑う。ありがたいことに、アステール様はそれ以上追及しないでくれた。

 段ボールの中を覗き込み、その頭を少し撫でる。

 子猫は熟睡しているのか、目を覚まさず、ぐっすりと眠っていた。


「リュカ、か。いい名前をもらったね」

「ふふ、ありがとうございます」


 アステール様が立ち上がる。そろそろ時間は夕方に差し掛かろうとしていた。さすがに城に戻らなければまずいだろう。


「お帰りになりますか? その、もし時間がおありなら、お茶でもと思ったのですけれど」


 王子が来たというのにお茶一つ出していなかった。

 子猫のことがあったから仕方ないとは思うけど、さすがにこのまま帰してしまうのは抵抗がある。


「うん。残念だけど」

「そう……ですか。そうですよね」

「君とお茶というのは魅力的だけど、時間がね。だからまた今度、誘ってくれるかな?」


 残念そうに言われ、頷いた。


「お仕事がありますものね。本当に、長々とお引き留めして申し訳ありません」

「私が勝手に残ったんだ。スピカのせいじゃない。あ、見送りはいいよ。リュカを見てやって」

「はい」


 アステール様が出て行くのを部屋の中から見送り、リュカのところに戻る。リュカは気持ちよさげに眠っており、起きる気配はなさそうだ。


「あ……」


 そういえば、トイレを用意するのを忘れていた。

 猫トイレ。

 前世ではトイレシートなるものがあったが、こちらの世界ではどうするのがいいのだろう。

 悩んだ私は、とりあえずトイレになりそうな水切りかごのようなものを探し出した。

 高さが低いので、子猫でも十分に使えるだろう。

 使わなくなったシーツを敷き、契約している水の精霊を呼び出して、裏側に防水の魔法を掛ける。


「あとは……砂もいるのよね」


 猫は砂をかくものだと聞いている。だから入れ物を二重にし、砂を入れた。

 猫用の砂なんてない。これも買えるのなら買わなくてはならないだろう。ある程度の出費は覚悟しよう。幸い、使い道のなかったお小遣いならかなりの額が手元にある。

 このお手製のトイレをリュカが使ってくれるかは分からないが、とりあえずは準備をし、一息ついた。

 ハードな一日で、とても疲れた。ソファに腰掛け、ぐったりとしかけたところで「あ」と思い出す。


「そうだ。お父様とお母様に報告……」





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