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 あっさりと言われ、目を瞬かせた。

 今まで自分が考えてきたことを片っ端から否定され、だけども全く言い返せなくて、ただ呆然と立ち尽くす。

 そんな私に彼女は言った。


「それにね、言っておきたいんだけど、攻略云々の前に私、自分ではない別の人を好きな男をどうこうしようなんて思わないの。できあがってるカップルを潰すのも趣味じゃない。どっちかっていうと、壁になって見守りたいタイプ。だからアステール殿下を取られる~とか思わないで欲しいかな。全くそんな気はないから」

「と、取られるなんて……アステール様は私のものじゃないわ」

「はいはい。でもま、そういうことだから。納得してくれた?」

「……ええ」


 彼女の言葉に頷く。

 さすがにここまで言われては疑いようもなかった。

 彼女はアステール様を攻略する気がない。ゲームなんてしていない。

 そして彼はちゃんと私を好きでいてくれて……それならアステール様を受け入れるという選択を取れるのかもしれない、と。


「あ――」


 そこまで考え、先ほどの出来事を思い出した。みるみるうちに血の気が引いていくのが分かる。


「どうしたの?」

「わ、私、さっきアステール様に『友達になんてなれない』って言われたばかりだった……」


 嬉しくなった気持ちが一気に地に落とされた気持ちだった。

 そうだ。私がここに逃げて来た理由。それをすっかり忘れていた。

 アステール様は私とは――。


「友達になりたくないって、そりゃそうでしょ。アステール殿下はあなたとどうあっても恋人になるつもりでいるんだから。万が一にも友人にはならないって、つまりは絶対に諦めないって言われてるだけじゃない。何、そんなことも分からないくらい動揺してたの?」

「え……」


 何を言っているんだとばかりに言われ、彼女を見た。


「そ、そうなの? アステール様のさっきの言葉はそういう意味?」

「むしろそれ以外の意味に取りようがなかったと思うけど。アステール殿下も説明しようとなさっていたのに、あなたが話を聞かずに逃げ出すから」

「だ、だってあれは……!」


 アステール様の口から決定的な言葉を言われたくなかったのだ。

 もしそれを直接聞かされたら立ち直れる気がしない。

 しどろもどろに説明する。話を聞いた彼女はうんうんと頷いた。


「なるほど、それは仕方ない。好きな人に対しては臆病になるっていうのは分かるわ。逃げ出してもしょうがない。恋する乙女なら当たり前の反応よね、許す」

「え」


 軽く告げられた言葉に目を見開いた。彼女は「ん?」と首を傾げる。


「あなたもアステール殿下が好きなんでしょ。でも、私とくっつくからと思って口に出すのを我慢していたって、そういう話よね? 恋が叶わないなら友人にって、健気~。私なら絶対に無理」

「へ?」


 ――好き? 私がアステール様を?


 彼女から飛び出した言葉が頭の中をグルグルと回る。


「でもまあ、もう我慢する必要もないし、ラブラブハッピーエンドだよね~」

「ま、待って……待って……私がアステール様を好きって……」

「好きなんでしょ? 見れば分かるって」

「……」


 またしてもズバリ言われ、私はもう何も言えなかった。

 私はアステール様に恋をしないように今まで頑張ってきたつもりだったし、実際上手くやってきたと自分で思っていた。それなのに、自分で気持ちを自覚する前に、今まで接点のなかった他人に指摘されてしまうなんて……そんな愚かな話があるものか。

 だが、こうして指摘されなければ私はいつまでもアステール様への気持ちを認められなかっただろう。自分のことだ。それくらいは分かる。


 ……いつの間に彼を好きになっていたのだろう。


 いつ、と聞かれても答えられないけれど、好きなのだろうと言われて、否定できなかった時点で認めてしまったも同然だった。

 今までずっと否定してきた気持ち。

 好きになってはいけない。いずれ離れることが決まっている人だからと一生懸命自身に言い聞かせてきた。

 でも、もう意地を張らなくても良いのかもしれない。

 アステール様に惹かれている。彼の側にいたいと思っている自分を認めてもいいのかもしれない。彼に応えても……構わないのだ。


 ――あ。


 初めて認めた気持ちに勝手に顔が赤くなっていく。そんな私に彼女は言った。


「自覚できたようで何より。あとはふたりでちゃんと話し合ってね……って、まあ私が言わなくてもその辺りはさすがに分かっているか。あ、そうそう。それともうひとつっていうか、実はこっちが本題なんだけど」

「何?」


 急にもじもじとし出したソラリスを見る。彼女は握手を求めるように右手を差し出してきた。


「?」

「同じ転生仲間同士、私とお友達になって下さい!」

「え」

「元々私、あなたが悪役令嬢じゃないなら……私と同じような記憶を持つ普通の女の子なら友達になって欲しいって、今しかないって、そう思って追いかけてきたの。お願い!」

「え、え、え……」


 差し出された右手を呆然と見つめる。

 ソラリスは頭を下げ、私が手を取るのを待っている。その手が微かに震えていることに気がついた。


 ――あ。


「都合のいいこと言ってるって分かってる。最初にあんな啖呵を切ったくせにって思われても仕方ないって。でも、今、あなたと友達になりたいって思っているのも本当なの……!」


 必死で告げられる言葉にはどこにも嘘は感じられなかった。

 彼女が本気で私と仲良くなりたいと思ってくれているのが痛いくらいに伝わってくる。

 だから私は彼女の手をそっと握り返した。


「……その、よろしく」


 躊躇わなかったといえば嘘になる。だけど、友人になって欲しいと言われたことが私にはとても嬉しかった。

 ずっと欲しかった同性の友人。

 まさかこんな形で得られるとは思ってもいなかったが、まあ、いいのではないだろうか。

 ソラリスがパッと顔を上げ、満面の笑みを浮かべる。


「ありがとう!」

「ううん。私こそ。ずっと同性の友人が欲しかったから嬉しい」

「私のことはソラリスって呼び捨てで呼んで。あなたのことはスピカって呼んでも良い?」

「ええ、構わないわ」


 同性から呼び捨てで呼ばれるのは初めての経験だと思いながら頷いた。

 つられるように笑顔になる。

 ふと、今更ではあるが授業をサボってしまった事実が気になってきた。


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