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「保護猫活動って大変だって聞きます」


 保護して、病院に連れて行って、人に慣れさせて、可愛がってくれる里親を探す。

 大人猫なら去勢手術や避妊手術。

 お金も手間も掛かる大変な活動だ。


「猫たちの里親を探すことにも繋がるからと、このカフェを作ったようだね。ここにいる子たちは、皆、里親募集中だから、気に入った子がいれば、面接して譲って貰うということもできるらしい」

「素晴らしいですね。カフェにすれば猫たちと触れ合えるし、どんな性格の子なのか分かります。何度か通ってお迎えしたい子がいればというのは良いと思います」

「君ももう一匹、とか思う?」


 どうだろうと尋ねてくるアステール様に首を横に振る。


「今はリュカだけで十分ですから。カミーユのためにもこれ以上は増やせませんし、リュカを蔑ろにしたくないんです」


 リュカだけに今は愛情を注ぎたい。

 リュカは何匹か増えても気にしない……というか、ノヴァ王子の猫たちと関わっている様子から見ても、どうやらかなりお兄ちゃん風を吹かせるタイプなので、むしろ喜ぶかも知れないけれど。


「そうだね。でもいつか、もう少し賑やかになってもいいと思わない?」

「いつか、ですか?」

「うん。君と私が結婚したら、かな」

「……っ」


 未来の話を当然のようにされ、赤くなった。先ほど買ったばかりの指輪が目に入り、余計に恥ずかしくなる。


「ア、アステール様……」

「どうかな。私は、無理のない程度なら増えても可愛いかなと最近思うようになったんだけど」

「そ、そう、ですね」

「君と猫たちに囲まれた生活はきっと幸せだと思うんだよ」


 楽しそうに告げられ、私も釣られるように笑った。

 確かに、その未来は楽しいしかなさそうだ。


「……賛成、です」

「うん。じゃあ、結婚したあと、改めて話し合おうね」

「……はい」


 先の約束が嬉しい。ふたりで顔を見合わせ、笑い合う。小ぶりの猫が近づいてきた。

 ここにいるのは大人猫ばかりなのだけれど、かなり小さな子だ。

 リュカよりも一回りは小さい。


「にゃあ」


 可愛い声は柔らかく、なんとなくだけれど女の子なのかなと思う。

 猫は私の足に頭を擦りつけてきた。尻尾が立っているので、好意的なのは分かる。


「スピカ、撫でてみたら?」

「……良いのでしょうか」


 どうしようかなと思っていると、アステール様が言った。


「自分から近づいてきた場合は構わないと店員も言っていたじゃないか。様子を窺いながら程度なら大丈夫じゃないかな」

「……」


 アステール様の言葉に背中を押された気持ちになった私は、そっと手を伸ばし、猫の背中を撫でた。

 ここくらいなら怒らないかなと思ったのだ。猫の尻尾が更に高く上がる。どうやら喜んでくれているらしい。

 そのまま猫は私の足の上にころんと転がった。

 猫の温かい体温が愛おしい。リュカもよくこうやって足の上に転がってくるなあと思いながら求められるままに撫でていると、店員がやってきた。


「あら、気に入られましたね」

「そう、ですか?」

「ええ、お腹を見せていますし。きっとなんとなく気に入ったんでしょうね」


 店員がしゃがみ込み、猫の頭を撫でる。

 普段から世話をしてくれている人だからか、猫の方も普通に受け入れている。

 ゴロゴロという音が聞こえてきた。かなり上機嫌な様子だ。

 店員が笑顔で言った。


「良かったら、この子におやつをあげてみませんか? 別料金になりますけど、お勧めですよ!」

「おやつ、ですか?」


 そういえば説明にもあったなと思いながら聞く。店員は大きく頷いた。


「ええ。おやつはお客様からいただける特別なものという認識がこの子たちにもありますから。あげれば喜びますよ~」


 実際、おやつという言葉に猫は反応しているようだ。耳がピクピクと動いている。

 リュカも『おやつ』は覚えているので、やはり自分の好きなものに対しての記憶力はかなりのものなのだろう。


「なーん」


 猫が起き上がり、期待するようにこちらを見る。丸い目がキラキラと輝いていてとても可愛い。というか、こんな顔をされて「駄目です」と言えるわけがなかった。

 すでに半分以上、気持ちが傾いていることを自覚しつつも店員に尋ねる。


「……ええと、太ったりとかは大丈夫なんですか?」

「はい、大丈夫ですよ。ちゃんと健康管理はしていますから」


 さらりと返され、アステール様を見る。彼が頷いてくれたのを確認し、言った。


「えっと、じゃあ、はい、せっかくですので買います」

「ありがとうございます~。良かったね、モモ。おやつ貰えるって!」

「にゃあ!」


 モモと呼ばれた猫が嬉しそうな声で鳴く。

 もうおやつを貰えることを分かっているのだ。

 尻尾は天高く真っ直ぐに伸び、目は更に輝きを増している。

 期待がすごい。


「はい、どうぞ。こちらをあげて下さいね」


 店員が渡してくれたのは、私もよくリュカに上げているペースト状のおやつだった。

 封を開ける。途端、他の猫たちまでこちらを見た。中には駆け寄ってくるものもいる。


「わっ……」

「すいません。皆、このおやつが大好きなので。気にせずモモにあげちゃって下さい」

「は、はい……」


 皆の熱い視線が気になると思いつつも、おやつを差し出すと、モモは嬉しそうに舐め始めた。

 その姿は可愛く、自然と顔がほころぶ。


「可愛い……」

「可愛いですよね~。あ、はい。ゴミはこちらで処分致しますので。ありがとうございました。モモ、良かったね~」

「なー」


 ひと鳴きし、モモは私たちから離れていった。その様子は、用は済んだと言わんばかりで、まさにお猫様と呼ぶに相応しい姿だ。

 アステール様が笑いながら言った。


「いやあ、なんというか、リュカを思い出したよ」

「分かります。おやつに対する食いつき方がそっくりで……ふふ、こういうところはどの猫も同じなんですね」

「ノヴァのところの猫もおやつに対する執念はすごいって言ってたな。いつもは仲良しなのに、おやつを食べる時だけは取り合いになるんだってさ」

「へえ……」

「特にミミが食欲旺盛で、トトのおやつを取ってしまって困っているってノヴァが言ってた」

「多頭飼いならではの悩みですね……」


 自分の猫の話をするのも楽しいが、人の猫について聞くのも楽しい。

 のんびりとソファに座り、欠伸をする猫を観察したり、自分の猫との違いを探したりと楽しい時間を過ごした。



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