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 小さく悲鳴を上げつつもなんとか頷く。アステール様は嬉しげに私に近寄ると、キュッと手を握った。


「嬉しいな。スピカ、今日は楽しいデートにしようね」

「……はい」


 ドキドキしながらも頷く。

 アステール様が乗ってきた馬車を使い、店が集まっている大通りへと出る。馬車から降りると、アステール様は私の手を握り、目の前まで持ち上げると笑って言った。


「今日はこうしてずっと手を繋いでいること。デートなんだから構わないよね?」

「は、はい」

「じゃあ、まずはショッピングかな。スピカが私の誕生日プレゼントを買ってくれるんだっけ?」


 悪戯っぽく微笑まれる。優しい笑みにときめきながらも肯定した。


「そ、そうです。一緒に、買うものを選ぶのも楽しいなと思いまして。あ、もちろんアステール様が欲しいものがあるのなら、それが一番なのですけど」


 一緒に選ぶのもプレゼントになるかと思ってはいるが、アステール様が欲しいものがある場合は話が別だ。それなら、彼が欲しいものを買ってあげたいとそう思う。

 一応、お小遣いは全額持ってきたし、大抵のものは買えると思う。

 ……国の第一王子であるアステール様が満足するものが買えるのかと多少不安にならないでもないが、大丈夫だと思いたい。


「うーん、特別欲しいと思っているものはないんだよね」


 一応、聞いてみたが、返ってきたのはこんな頼りにならない言葉だった。でもまあそうだろうなとは思う。

 分かってはいたし、だからこそ一緒に選びたいと思っていたのだから。


「じゃあ、一緒に探しましょうか」

「うん、そうだね。スピカと一緒に店を回るの、楽しみだよ」

「私もです」


 話しながら、まずは近くに見えた雑貨店に入ってみる。雑貨店には色々気が引かれるものがあったが、誕生日プレゼントに適していると思えるものはなかった。

 だけど、あれやこれやと言いながら雑貨を見ている時間は楽しく、求めているものがなくてもそれはそれで良いかと思ってしまう。

 また別の店に行けばいいだけのことだし。


「次の店に行きましょうか」


 ふたりで適当に、目に付いたお店に入っていく。

 だけどなかなかこれといったものが見つからない。

 アステール様は何でも良いと言ってくれるのだけれど、私はそれでは納得できなかったし、妥協するのも嫌だったからだ。


「……なかなか決まらない」


 確かに選ぶ時間も楽しいとは思っていたが、何も決まらないというのはそれはそれでストレスになる。

 とはいえ、買わないというのはなしだ。だって付き合って初めての誕生日でデート。何も買えませんでしたは、私の心にダメージが残る。

 何か、何かないかと焦っていると、アステール様が「ねえ」と話し掛けてきた。


「スピカ」

「な、何でしょうか」


 返事をする。アステール様が手を繋いだまま私に言った。


「ひとつ、これが良いなと思うものがあるんだけど」

「えっ……!」


 まさかまさかのアステール様の発言に目を見開く。先ほどまで何も欲しいものはないし何でも良いと言っていた人の発言とは思えなかった。

 だけど、欲しいものがあると言って貰えるのは助かる。


「な、何でしょうか。何でもいって下さい!」

「何でもって……大袈裟だな。実はね、前から欲しかったんだけど、これをスピカに頼むのは違うかなあと思って言わなかったんだよ。でも、スピカが悩んでいるようだから」

「……違う?」


 アステール様が一体何を欲しがっているのか、皆目見当もつかないと思っていると、彼ははにかむように笑った。


「スピカと、何かペアになるアクセサリーが何か欲しいなって思って。ただ、それは私がスピカに贈りたかったんだ。でも、このままじゃ、何も決まらないし、それならお互いにお互いのアクセサリーを贈るって形にしたらどうだろうと思って」

「ペアアクセサリー……」

「どうかな。駄目かなあ」


 いかにも恋人同士ですとアピールするようなものを強請られ、目を丸くした。

 窺うようにアステール様が私を見つめてくる。慌てて頷いた。


「ア、アステール様がそれで良いのでしたら、私は別に……」

「スピカも私とお揃いのアクセサリー、身につけてくれる?」

「……いただけるのでしたら……はい」


 恋人たちが身につけるペアのアクセサリー。それを付けて欲しいと言われて嬉しかった。

 アステール様とお揃い。

 考えるだけで恥ずかしくて、でもそれ以上に嬉しく思えてしまう。


「良かった。嫌だって言われたらどうしようかと思ったよ」

「そ、そんなこと言うはずありません」


 アステール様のことが好きなのだ。恋人同士特有のアイテムを持ちたいと言われて、喜ばないはずがない。そう言うと、アステール様は嬉しそうに頷いた。


「分かってる。でも、大丈夫だと思っても不安になるんだよ。もしかして、なんて考えてしまう」

「……分かる気がします」


 好かれていると分かっていても、もしを考える気持ちは私にもあるので理解できる。

 頷くとアステール様はホッとしたように笑った。


「良かった。じゃあ、早速だけど行こうか。実は目を付けていた宝石店が近くにあるんだ」

「えっ、あ……」


 ぐいっと手を引っ張られる。

 慌ててアステール様についていったが、まさか店まで決めていたとはびっくりだ。

 それだけ、私と揃いの何かが欲しいと思ってくれていたのだろうけど。


「嬉しい……な」


 そんな風にアステール様が思ってくれたことが幸せだ。

 私は嬉しい気持ちを噛みしめながら、アステール様と一緒に彼が目を付けていたという宝石店へと足取りも軽く向かった。




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