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第十四章 誕生日パーティー


 王家にとっても一大イベントである、第一王子アステール様の誕生日がいよいよやってきた。

 アステール様の誕生日は私にとっても一大事。

 名実ともに婚約者となった彼を、一番近くで祝うことができる大切な日。

 この日に向け、私は色々と準備を重ねてきた。


「お嬢様、こちらで宜しいですか?」

「ええ」


 父が今日のために用意してくれたドレスを身に纏う。

 薄い生地が何枚も重なった紫色が綺麗なドレスは、もちろんアステール様を意識したものだ。

 グラデーションが掛かっており、裾が一番濃く、上がって行くにつれ薄くなっている。

 キラキラとした素材を使っているので、見た目もとても華やかだった。

 白いレースが胸元と手首、そしてドレスの裾の部分に使われている。

 首元にはネックレスを付け、耳にもイヤリングを付けた。腰元には細いチェーンを二重に巻いている。

 高めのヒールは長時間は厳しいが、少しでも良く見せたいと思うので我慢するしかない。

 髪は、珍しく巻いてみた。巻いて緩くアップにしてみたのだけれど、似合っているだろうか。

 普段はしない髪型なので、アステール様の反応が少しだけ心配だった。

 あとは服装に負けないように化粧をし、荷物を持つ。

 アステール様へのプレゼント。

 恒例の刺繍入りハンカチだ。今年は今までよりも気持ちを込めて縫い取りをした。

 他にも何か……何ならお菓子でも焼きたかったのだが諦めた。

 食べ物系はアウトだとお達しが来ているからだ。

 何せ、王子というのは味方も多ければ同じくらい敵も多い。

 そして誕生日パーティーには色んな人が来るのだ。

 味方の振りをして毒を盛る……なんてことだって十分考えられる。

 そういうことを防ぐためだし、アステール様の安全を考えれば当然の措置だと納得するしかなかった。


「ハンカチだけというのは味気ないけど……」


 今まで一度だって気にならなかったのに、恋というのは侮れない。

 それでも、他に良さそうなものも思いつかなかったし、メインはデートとそこでの買い物なのだ。別にいくら用意したところでオマケでしかないので、これで行くしかないと腹を括った。


「リュカ、行くわよ」


 リュカが入ったキャリーケースを持ち上げる。

 ドレスに猫毛がつかないようにと、メイドのコメットが先に入れておいてくれたのだ。

 今日のお出かけにはリュカも連れて行くことになっている。

 別に誕生日パーティーに参加させるわけではない。

 パーティー中はノヴァ王子の部屋に居させて貰って、リュカにはミミとトトと遊んで貰おうということなのだ。

 ミミとトトはノヴァ王子にとても懐いていて、離れることを嫌がる。

 学園に行く時も毎日鳴いて、大変らしい。

 そんな二匹。

 誕生日パーティーは、学園に行く時とは城自体の雰囲気が違うだろうし、いつもと違うのは二匹だって察すると思う。

 そんな中、二匹を部屋に置いて、ノヴァ王子は誕生日パーティーに出席しなければならないのだ。

 使用人に二匹を見てもらうつもりではあるけれど、二匹はあまりその使用人には懐いていないらしく、任せきるには不安がある。

 誕生日パーティー中、二匹は大丈夫だろうかと心配したノア王子は、堪らずアステール様に相談したのだ。

 それに対し、アステール様はリュカを一緒に居させるのはどうかと提案した。

 二匹はリュカに懐いているし、リュカもあの二匹のことが好きだ。

 一緒にさせておけば、多少いつもと違う留守番でもなんとか乗り切れるのではないか。

 それにノヴァ王子も賛同し、ふたりにお願いされた私は、当日リュカを連れて行くことに合意した……というわけだった。


「ノヴァ殿下もしっかり猫好きになっているわね」


 リュカを連れてきて欲しいとお願いされた時のことを思い出し、くすりと笑う。

 アステール様と一緒にやってきたノヴァ王子は申し訳ないけれどと謝りながらも「あいつらのために」と言ったのだ。


「あいつらが、少しでも安心できるなら、やれることはやってやりたいんだ。義姉上やリュカには迷惑を掛けるけど……できれば、ミミとトトと一緒にいてやってくれると嬉しい」


 もちろん私はその願いに頷いた。

 二匹に会えるのはリュカも喜ぶし、力になれることがあるのなら力になりたいと思うからだ。


「リュカ。ミミとトトに会いに行きましょうね」

「にゃあ」


 キャリーケースを持って、中にいるリュカに話し掛けると、彼からは可愛い返事があった。

 最近、リュカはより私を信頼してくれるようになったのか、全ての鳴き声が甘えた感じになって、とても可愛いのだ。

 何かを要求する時の声ですら、甘えが混じっており、仕方ないなという気持ちにさせられる。

 じっとこちらを見つめてくる目はキラキラとしており、それがまた可愛くて、リュカを見ているだけで一日が過ぎてしまうと言っても過言ではない。


「さ、行こうか」


 キャリーケースを持って、玄関ロビーに降りていくと、同じく準備を整えた父と母が待っていた。

 貴族は全員参加が基本だが、弟は留守番だ。

 今日の誕生日パーティーには年齢制限があり、参加は十五才以上と定められているから。

 パーティーや昼から始まるが夜まで続くし、酒類も振る舞われる。そしてなんといっても参加人数が多いから。

 国内貴族ほぼ全員が参加するパーティー。子供まで呼ぶと、大変な人数になってしまう。

 それでもアステール様が小さい頃は、同い年くらいの子供の参加は許されていたのだけれども。

 まだ子供のアステール様が、大人だけに囲まれるのは良くないという国王の考えだった。

 彼が十五才になってからは十五才以上と定められたが、もちろん私は例外である。

 何故なら私は彼の婚約者だから。

 さすがに誕生日パーティーに婚約者を呼ばないということはあり得ないので、年齢制限ができてからも例外的に参加を認められていた。


「行ってらっしゃい、姉様」


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