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第十三章 乙女の悩み


 二匹の子猫を見に行ってから、数日が経った。

 アステール様とは順調。恋人関係となってからの彼はますます優しくて、私は幸せの海に漂っているような心地だった。

 一緒に登下校をし、昼休みは一緒に食事を取る。

 私たちの関係の変化に周囲は驚いた様子だったが、すぐにそれは収まった。

 何せ、私たちは元々婚約者という間柄なのだ。それを考えればむしろ今まで別行動していた方がおかしい。今の方が普通ではないかという風に思われたのである。

 今の私たちは、正しく恋人同士として振る舞っている。それは嬉しいし、願ってもないことなのだけれど、私はひとつ切実な、アステール様にも相談できない悩みを抱えていた。

 あの城に行った日から考え続けているというのに、未だ答えが出ない。

 それは何か。

 アステール様の誕生日プレゼントをどうするかという、おおよその人たちにくだらないと断じられる、だけど私にとってはどこまでも重要な悩みである。


「……本当に、どうしよう。何も思いつかないわ」


 今年はちゃんと恋人として参加して欲しいと言われている、アステール様の誕生日パーティー。

 私もその願いに応えられるよう、全力で挑むつもりだった。

 そしてそのためには何をしなければならないかと考え、誕生日プレゼントをどうするのかという問題に早速行き当たったのだ。

 誕生日の人にプレゼントを贈る。それは当然だし、相手が恋人とくれば、そのハードルは著しく上がることは間違いない。

 きっとアステール様も期待しているだろう。

 それが分かっているのに適当なものは贈れなかった。

 アステール様ならなんでも喜んでくれるのは分かっている。

 だけど、それは私が嫌なのだ。

 恋人らしいものを贈りたい。そう思うのは当然のことだろう。

 ちなみに今までは、毎年ハンカチに刺繍をしたものをプレゼントしていた。

 手作りだし、ハンカチなら邪魔にならない。

 処分だってしやすいだろうという観点から選んでいたのだが……その考えはなかなかに割り切りすぎていて怖いな、と今なら思う。

 それだけに恋人となった今年はいつもと違うものを贈りたいと思うのだが、考えれば考えるほどドツボに嵌まっていく。そんな気がした。


「いくら考えても何も思いつかない。誰か……誰かに相談したい……」


 相談。

 そこで真っ先に思い出したのはシリウス先輩だ。だが、すぐに駄目だと振り払った。

 だって、恋人のプレゼントを異性に相談するとか、普通に考えてもないと分かるからだ。

 アステール様が嫌がるのは目に見えているし、もし逆の立場なら私だって嫌だと思うから。

 だから、協力を要請するのなら同性。そして同性の友人なんてたったひとりしかいない私は、彼女を――ソラリスを頼るしかないわけで。

 放課後を待った私は彼女の教室へ行き、帰り支度をするソラリスを捕まえたのだった。


「お願い、私に協力して……」


 頼れるのはあなたしかいないと訴えると、彼女は笑って胸を叩いた。


「いいわよ。でもその前に、アステール殿下とのアレコレを聞かせてね。そのあとなら、私にできる協力ならしてあげるから」

「なんでも話すわ!」


 以前、約束していたことを取り立たされ、私は秒で頷いた。

 元々ソラリスには話す予定だったし、その部分を話さないと私の悩みは分からないだろう。そう思ったからだ。


「そうこなくっちゃ。ええと、スピカの屋敷に行けばいいの? アステール殿下は?」

「殿下は城に帰られたわ。ソラリスに話があるからってちゃんと言ってあるから安心して」

「そう、了解。じゃ、行きましょう」


 思いのほか乗り気で頷いてくれたソラリスに感謝しつつ、ふたりで迎えの馬車に向かう。

 屋敷の私の部屋に入ると、彼女は早速リュカを構いながら私に言った。


「で? ふたりの関係はどうなってるの? もちろん詳しく教えてくれるのよね?」


 本題に入るのが早い。

 それだけ気になっていたのだろうが、思わず苦笑してしまった。それでも彼女のお陰で色々助かったし、今後も助けてもらいたいので順を追って話す。


「あのね……」


 アステール様に告白し、きちんと恋人同士になったと告げると、彼女はリュカを抱き上げ、「良かったじゃない」と笑ってくれた。


「そうだろうなとは思っていたけど、やっぱり直接当事者に聞くものよね。おめでとう、スピカ。アステール殿下も喜んでいらっしゃったでしょう?」

「え、ええ」


 彼女は何度もうんうんと頷いた。


「ふたりが無事、くっついてくれて私も嬉しい。邪魔する気はないから、遠慮なくイチャイチャするといいわ」

「イチャイチャなんて……」

「してないとでも言う気? 最近、あなたたちの仲が良いことは皆の噂になっているんだからね」

「う……」


 言い返せなかった。

 だけど仕方ないではないか。ようやく何も気にすることなく、アステール様と共に過ごせるようになったのだから。一緒にいると嬉しいし楽しいのだ。この時間がいつまでも続けば良いと思ってしまう。


「ま、婚約者と仲が良いんだから、誰も文句なんて言わないけど。で? スピカの相談って何? 私に何か話があったんでしょう?」

「そ、そう。そうなの……!」


 ひととおり話したことで、ソラリスは気が済んだらしい。

 相談内容を尋ねてきた。


「実はね、近々、アステール様のお誕生日パーティーがあって……」


 プレゼントに何をあげればいいのか分からない。そう悩みを告げると、彼女はふんふんと頷き、とんでもないことを言った。


「私を上げます~じゃ駄目なの?」



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