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序章 どうやら乙女ゲー転生だったらしい



「悪役令嬢のあなたになんて、負けないんだから!」


 ――あ、私って乙女ゲー転生だったのか。


 この世界に生を授かって、十七年。ようやく判明した事実に私は目を瞬かせた。


◇◇◇


 私が、『私』であると認識したのは、今から十年ほど前、七歳の時である。

 突然、見知らぬ記憶が頭の中に流れ込み、当時は随分と混乱したものだ。

 意味も分からず泣きわめいた私はそのまま熱を出し、一週間ほど寝込んだ。そして目覚め、自らの置かれた状況を理解し、思ったのだ。


 ――で? 私はなんの世界に転生したの?


 どうやら自分が、今生きている世界とは別の世界で生きていたということは分かった。

 蘇ったのは、その時の記憶だということも理解した。

 今いる世界は魔法が発展しているが、前世は科学技術が発展した世界だったのだ。

 つまりは異世界転生を果たしたのだろう。

 異世界転生。

 WEB小説などでよくある、鉄板の設定である。

 私がまだ生きていた頃、異世界転生ものの小説はよく読んだ。なんなら愛読していたと言ってもいい。

 それらの小説では、だいたい主人公の転生した場所は、思い入れのある小説やゲーム、漫画、アニメの世界であることが多く、物語の主人公たちはそのチートな知識を利用して、転生した世界を楽しく生きていたのだ。

 きっと私もそれに違いない。

 私にこうして前世の記憶が蘇ったのは、きっとそのためだ。これから私は物語の主人公として、あれやこれやのイベントに巻き込まれつつも回避し、電撃的な恋に落ちたりするに違いない!


 ――こうしちゃいられない。私がどの世界に転生したのか、しっかり自分の記憶を確認しなくちゃ!


 ウキウキワクワクである。

 転生先は大好きだった漫画だろうか、ゲームだろうか。それとも小説だろうか。

 できれば、平和なものがいい。あと、希望を言わせてもらえるのなら、話の内容を覚えている世界だとよりありがたいのだけど。


 そうして自分の今置かれている状況と、自らの知識。それらを照らし合わせた結果、一週間後には結論が出た。

 どうやら私はただ、異世界転生しただけらしいという結論に。


「嘘でしょ」


 気づいた時には愕然とした。

 ここはお約束的に、私の大好きなゲームの世界とかに転生しているのが筋というものではないのだろうか。

 だがどう考えても、ここは私の知るどの世界とも違うような気がする。


「そっか……。ということは、記憶が蘇ったのは偶然で、単に異世界転生しただけか……」


 異世界転生が嫌なのではない。

 だけど、期待していただけにショックは大きかった。

 原作知識を利用して、チート三昧。人生楽しく生きていけると思っていたのだから当然だろう。

 だがまあ、気にしても仕方ない。

 こうして生まれ変わってしまったからには、この今の私としてここで生きていくしかないのだ。それくらい分かっている。

 私が生まれ変わったのは『スピカ・プラリエ』という名前の公爵家の長女だ。

 生まれ変わり先は、テンプレともいっていいくらいのファンタジー世界。国王を頂点とした身分社会だった。

 公爵家の長女ということは、ピラミッドのほぼ頂点。

 裕福で、社会的地位もある。生まれ変わり先としては、ありがたいと手を合わせるべきところだろう。

 とはいえ公爵家の長女ともなれば、色々な習い事や婚約者なるものも存在する。

 結婚は個人の自由にならないのが当たり前で、親から与えられた婚約に従うのが当然の社会なのだから、私も粛々と受け入れた。

 私が婚約したのは、この国――ディオン国の王子であるアステール様だ。私よりひとつ年上で、物腰が非常に穏やかな方。髪は輝くような金髪で、瞳は透明感のある紫色。

 そんな彼と私は、私が十歳の時に婚約をし、今に至っている。

 不満は特にない。

 恋愛感情こそ抱いてはいないが、アステール様は尊敬できる素晴らしい方だ。

 職務に忠実で、民のことを思いやり、誰に対しても公平で、皆に慕われている。

 そんな方となら、人生を共に歩んでいくことも十分に可能だろう。

 公爵令嬢として生きて行くことを受け入れた時から、婚約については覚悟していた。

 自由にならない人生だが、自分がかなり恵まれた立場にいることくらいは分かっている。

 こうなれば仕方ない。私も腹を括り、将来王妃となるための勉強をしっかりしようではないか。そして与えられた役目を受け入れ、果たそうではないか。

 そんな風に思っていた。


 つい、先ほどまでは!


 王立魔法学園の入学式。

 去年入学した私は、今年は在校生として、入学式の準備を手伝っていた。

 王立魔法学園は、王侯貴族が十五歳から通うことを定められている学校だ。

 ここでは座学や魔法、剣の取り扱いやダンスレッスンなど、貴族に必要な様々なことを団体生活の中で学ぶことができる。

 もちろん貴族の子供は皆、個人的に教育を受けている。通常なら『学校』など必要ないのかもしれない。だけど学校という場は、新たな交友を築くにはとても優れた場所で、通うことが義務づけられていた。

 自国の王子と共に勉学ができるかもしれない。普通なら関われるはずのない未来の公爵、侯爵と友人になれるかもしれない。また逆に、下位の貴族たちの自分たちにはない考え方を学べるかもしれない。

 そういう面を国は重視したのだ。

 そんなわけで去年入学し、今年二年になった私は、新入生を入学式の会場まで案内する役目を負っていたのだが、その時すれ違った金髪碧眼の美少女に憎々しげに言われてしまったのだ。


「悪役令嬢のあなたになんて、負けないんだから!」


 と。

 そして言われた瞬間、私は理解した。

 もう、十年も前に結論をだしていた問題。その回答がようやく今、与えられたのだということを。


「……乙女ゲー。よりによって、乙女ゲー転生……」


 やはり私は自らの推測通り、二次元的な世界に転生していたようだ。

 だって彼女は私のことを『悪役令嬢』だと言った。


『悪役令嬢』。


 女性向け乙女ゲームのヒロインのライバルとして登場する、爵位が高く、大体は王子と婚約していて、鼻持ちならない女のことである。

 彼女はゲームヒロインを虐め、ヒロインの恋をひらすら邪魔する存在として知られている。そして最後は婚約者に見捨てられ、婚約破棄をされるのだ。ちなみにその婚約者は、ほぼ100%メイン攻略キャラである。まさに悪役令嬢は、ヒロインにヒーローを献上するためだけに存在する女といっていいだろう。

 そんな彼女の結末は悲惨で、自らの悪事を皆の前でつまびらかにされたあとは、国を追放されたり、酷い場合は斬首ということもあり得るらしい。

 なんて恐ろしい話だ。

 前世の世界でものすごく流行っていた『乙女ゲーム』。その悪役令嬢という役どころに自分が配置されていたのだと知り、私は思わずこめかみを押さえた。




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一迅社ノベルス様より『悪役令嬢らしいですが、私は猫をモフります3』が2022/8/1に発売しました。電子書籍版も発売中。よろしくお願いいたします。
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