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サイコロ

作者: 天ノ川 雨

初めて書いた作品です。どうぞよろしくお願いします。

 分からない...。僕は、数学のベクトルが苦手であった。放課後の教室で勉強しているのはぼくだけだったので、分からない所をいつも教えてくれる友達はいない。

 僕の掃除担当場所が職員室なので、職員室に入る機会は多かったが、質問をしに行くことはなかった。先生だらけの所にわざわざ行きたくはなかったが、数学のテストで良い点数をとりたかったので、行かざるを得なかった。

 職員室の扉を開けると、自分のクラスの担任と目が合った。担任の先生は、職員室の扉の近くに机があるので、すぐに目が合ったのだ。しかも、先生は数学科で、僕は先生の授業を受けているので、すぐ質問しようと思った。


 分からなかった問題は、あっさりと解決してしまった。自分が見落としていたポイントを丁寧に解説してくれたので、あやふやになっていた部分も理解できたのだ。

 先生は教えるのがうまく、他の数学科の先生からも評判が良かった。

 しかし、先生は少し変わったところがある。人に教えるときや人と話すときは必ず手にサイコロを持っているのだ。

 先生が生徒と面談するとき、サイコロを片手に握りしめたり、手の中で転がしていたりしていたので、一部の生徒からサイコロ先生と呼ばれているのだ。ある生徒と先生のこんな会話を噂で聞いたことがある。

「先生は、サイコロが好きなんですか?」

と、先生が聞くと、

「ああ、そうだ。」

と、先生は答える。生徒はそれに対して、

「なんで好きなんですか?」

と聞くと、先生は、

「好きだから好きなんだよ。」

と苦笑いしながら答えたそうだ。

 僕は、先生がなぜサイコロをいつも持っているのか気になった。

 聞こうとしたが、噂通りの聞き方では、先生のサイコロに対する思いを聞き出せないと思った。

 そこで僕は先生に

「先生、先生はそのサイコロにどんな思い出があるんですか?」

と聞いた。先生は驚いた顔をした。

 先生は机の傍にあった椅子を僕の前に出して、

「聞きたいのなら、ここに座れ。」

と言った。

 テストまでの日数もまだあるし、今日はちょうど部活もなかった。何より先生のサイコロの話が聞きたかったので、先生が出した椅子に座った。

 先生はいつも通り手の中でサイコロを転がしながら昔の話を語り始めた。



 私には親友がいた。同い年で小中高全て同じのサイコロ好きの親友が。

 高三の冬、私と親友は同じ大学を受けた。

 私は先生から実力を出せば入れないことは無いだろうと言われたが、親友の方は大学にはいるのは難しいだろうと言われていた。

 私達は受験の前の日の夕方に勉強会をして、私は親友の分からないところを教えていた。

 勉強会を終えて帰るときに、親友は小さな箱をかばんから取り出し、箱を開け私に見せた。

「これはサイコロ?」

箱の中には2つのサイコロが入っていた。

「明日の受験に受かるためのお守りだよ。」

と言い、親友は私に1つのサイコロを渡してくれた。その後、二人で励ましあい、家へ帰った。

その夜、私は親友に間違えて押しえていたことに気がついたのだ。

 私の時代は、電話も普及していなかったから、親友にそのことを伝えることが出来なかったのだ。私は不安になって、親友からもらったおまもりを強く握りしめていた。

 受験当日、親友は試験会場に来なかった。私はまた不安になった。しかし、今は試験に集中せねばと思い、実力をしっかりと出して、受験を終えた。

私が家へ帰ると、親友の両親が来ていた。2人とも黒い服を着ていた。

嫌な予感が脳裏をよぎった。

 私の母が泣きながら私にこう言った。

「今は信じられないかもしれないけど、あなたの友達が交通事故にあったの。」

「え?」

 私は息が詰まった。友人を亡くしてしまったのだ。私は手に持ったサイコロを落としてしまった。

 それから、私は大学へ行くことが出来たが、どうも勉強する気になれなかった。親友を亡くした不安で眠れないこともあった。

親友の母親がそんな私を見て、親友の夢と親友がサイコロを好きな理由を教えてくれた。

 親友は教えることが上手な学校の先生になりたいと夢を持っていたそうだ。それを聞いたとき、私はその夢を託されたような気がした。

 そして親友がサイコロを好きな理由は、親友の好きな数字に由来している。

親友の好きな数字はラッキーを意味する7の数字だ。

サイコロは対面の数を足すと、必ず7になる。 サイコロを二つ同時に転がして出る目を足すと、7になるときがある。

 つまり親友は、私と一緒にいれば、どんなことが起きても、ラッキーなことがあると伝えたかったのだそうだ。

 親友の母親は、私に親友が受験の日に大切に持っていたサイコロをくれて励ましてくれた。

 私は残りの大学生活を亡くなった親友の夢を叶えるために頑張ったのだ。



 僕は申し訳なかった。先生の辛い過去を掘り起こしてしまったのではないかと思ったからだ。

 先生は流した涙を拭うと、机の引き出しから、サイコロの入ったアクリルケースを取り出した。そのケースに自分の持っていたサイコロをいれ、私にこう言った。

「ありがとう」

と。

僕は、先生の声色がいつもより暖かいような気がした。

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