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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
6章 別離のプロポーズ

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94.人間1年生のお暇

「イッチヨー、イチヨウー?」

「何だニヨウ。」


 隠された研究所で年端もいかない少年が研究者の名を呼ぶ。それを見てしまった一研究員のスミは厄介ごとが起きそうだと嫌な顔をする。


「ねぇねぇ僕も外に出たーい。」

「我慢しなさい。」

「えぇー? イチヨウ外に出てたじゃん!」

「仕事だ。お前は大事な検体なんだ。」

「ちぇー。」


 ニヨウは冷たい口調につまらなそうに唇を尖らせた。

 背を向けたイチヨウを見つめたが時間にすればわずかだった。そしてすぐに、そーだ、と悪い顔でにやりと笑った。


 数十分後、それに気づいたスミの悲鳴が研究所内に響き渡った。












「ひっさしぶりに外に出たな〜。」



 ニヨウは背伸びをしながら春めき始めた空気を肺一杯に吸い込む。

 久方ぶりに出た外の景色はニヨウにとって眩しいものばかりだ。開発された建物、公園に息吹くさまざまな緑、色んな表情をする人。

 学生が楽しそうにカエルのたまごみたいなお菓子を食べている。確か、昔のお菓子ブームが巷では流行っていると言っていたか。


 あんなに美味しそうに食べていると気になってしまう。ニヨウも他の人間達に倣って並んでみた。


「おばさん、これください!」

「5ダーラーだよ。」


 ダーラー、それは値段であるが普段買い物などをしないニヨウにとっては理解のできないやりとりだ。


「何言ってんのさ。お金とるなんて詐欺だよ。」

「何言ってんだい! お金貰わずに商品をやれるわけないだろ散った散った!」

「えぇ〜?」



 面倒だな、やっちゃおうかな。

 ニヨウが手をバキバキと鳴らした時だった。

 すると横から急にぬっと大きな手がニヨウの手を掴みそれを止めた。


「おばさん、すんません! オレが払うんで2つにしてもらっていいっすか!」

「金払ってくれりゃ何でもいいよ! そのガキしつけときな!」

「あざっす! ほれ、行くぞ!」

「えぇ?」


 突如現れた制服姿のケイは手早くタピオカを貰うとそのままニヨウの手を引いてその場を離れた。

 ニヨウはどうして彼がここに現れたのだろうと思いながらどこか他人事のように思いながら彼とともに走り出した。











「何で逃げたの〜?」

「いや、アンタ、ニヨウって奴だろ!」

「そうだけど、何で分かるのさ?」

「イチヨウさんと顔そっくりだからすぐに分かったわ。」


 はぁ、とため息をつきながら頭を抱えた。


「ん、アンタって年上か? イチヨウさんの弟さんって言ってたしでも、明らかにオレより歳下の顔……?」

「ああ、気にしないでよ。僕、そういうの嫌いだし。」

「そうか。ならタメ語で話すわ。」


 あっさりと受け入れると彼はタピオカを啜る。それを見たニヨウは真似て一気に啜るが喉に勢いよく粒が入ってきて咽せる。

 なんてものを食べているんだと思いながら咳をしているとケイは隣で笑った。


「何でこんなのが人気あるの?!」

「何でだろうな。オレも滅多に食べないから分からねーけど。寄り道も久しぶりだし。」

「友だちいないの?」

「いるわ! 失礼な奴だな!」


 今日はオフで買い物行ってたんだよ! と怒りながらシューズの入っている手提げを掲げてみせた。



「そういえば君の名前はケイ・ロペスだっけ。リーンハルト班所属17歳、職業高校生、バスケ部所属。出身地はーー。」

「合ってる合ってる! 何なんだよ止めろ!」

「何で?」


 不思議そうに首を傾げるニヨウにケイは頭を抱えた。まるで人間1年生だ。配慮のかけらもない上、話に脈絡もない。


「急に自分の個人情報一方的に言われたらビビんだろ。そっちこそ何で知ってるんだよ。」

「僕、AA所属歴のある人は全員覚えてるよ。」

「すげぇな。……そもそも研究所から出たことあるのか?」

「外の世界は知ってるけど、この身体でジパングに出たのはほぼ初めてかな。」


 ニヨウの言葉に違和感を覚えながらもふぅん、と飲み込む。


「ケイはバスケするんでしょ、見してよ〜。」

「見し……まぁボールはあっけど。」

「やった〜。将来のプロバスケ選手のプレイを見られるなんて儲けモン〜。」


 ケラケラと笑う彼に気分を良くしたのか、ケイは一瞬にやけてしまう。しかし、ふと疑問が湧き上がってきた。



「……ニヨウは兄貴と違ってオレのこと被験者とか細胞提出とか言わねーの? あと兼任やめろ、とか?」



 少しばかり警戒しながら尋ねると彼は愉快そうに笑った。


「僕は興味ないかな。」

「そうなのか?」


 拍子抜けしたように尋ねるとニヨウは綺麗に笑う。


「だって人間には限られた時間しかない。限られた命しかない。なら、今できることをやるのが普通、ってやつなんでしょ? 君の人生なんか知ったこっちゃない。」

「言い得て妙だけど何か皮肉っぽいのな。」

「それに僕、戦っても弱いし。ま、やる時が来たらやるけど。君らを利用することは不可欠なわけ。それに見てて面白いしね。僕も1つ聞きたいんだけど。」

「ん?」



 ケイはきょとんと目を丸くした。



「僕って何言っても大概嫌な顔させちゃうし話続けるの嫌がられるんだけど何でかな?」

「……自覚ないんだな。」


 ケイはため息をつくと通信機をプラプラと目の前に出してみせる。


「それを理解するには人との交流が不可欠だ。なら、オレと連絡先を交換しようぜ!」

「へ?」


 虚を突かれたのかニヨウは目を丸くした。


「ルイホァが怒ってた理由がわかるぜ。お前に足りないのは圧倒的に配慮とか言葉の選択だ。」

「……分かってて僕と交流しようとするなんて物好き。」

「でもお前は興味あんだろ? 他人とか人間に。」



 先程買ったタピオカを掲げてみせる。

 確かに、自身の興味に従って購入したことに変わりはない。逡巡し、ケイの言葉に納得すると彼は頷いた。

 それを満足げにケイは笑う。


「オレは人の性格を決めつけることはしねー主義なんだよ。特務隊入る前に決めつけで嫌な思いしたからな。」

「……それは謝罪するよ。」

「何でニヨウがすんだよ。」


 ケイは笑うと蹲み込んで、とにかく、と話を続けた。


「だから、とりあえず人間1年生卒業を目指そうぜ。まずはバスケ見学だ!」

「ケイ、すごく失礼じゃん。それにバスケ見学で卒業できると思えないけど〜?」

「オッ、オレは勉強とかは苦手なんだよ! ほら、行くぞ!」


 ケイにぐいぐいと手を引かれ、ニヨウは愉快そうに笑いながら素直についていく。

 相変わらず毒は吐くが、なぜか先ほど感じた警戒は一切見せず笑顔を浮かべていた。















 それから数時間、2人でストバスのコートで楽しんでいた。

 そこへ自動車が1台停まり見覚えのある2人が顔を覗かせた。それに気づいたケイは車に寄って行った。


「ヒロタダさん、ハーマンさん! 珍しいっすね、2人でドライブ。警備とかっすか?」

「ケイも制服でストバスなんて珍しいな。一体誰と……。」

「ちょうどオレ達の探し人だな。」


 ハーマンがケイの後方にいるニヨウを指差すと、ヒロタダがああ、と困ったように笑う。

 すると後部座席からこれまた見覚えのある男性が扉を勢いよく開き、ズカズカとガニ股でニヨウの元へ向かった。



「どうしたのイチヨウ。珍しく眉を吊り上げて。血圧上がるよ〜?」

「誰のせいだと思っている? お前が無断で外出しなければ問題はなかった。」

「へぇ、僕のせい。なら申請すれば外出して良かったの?」

「本部内と言っただろう。」


 額に血管を浮き上がらせ、ニヨウの眉間に指を突き刺しながら低い声で言う。しかし、ニヨウは痛くも痒くもないといった様子でボールを抱えながら心配そうに見つめるケイに笑いかけた。


「本部内なら通信機を使わなくてもケイと話せるね?」

「……おお。」


 思わぬ言葉に驚いたが嬉しくなり頰を紅潮させた。ヒロタダは訝しげに見つめるのみであったがハーマンは助手席から顔を出す。



「ケイ、正直なところソイツ大丈夫か? だいぶ配慮に欠けた話し方だが。」

「まぁ、別に。根は悪くない奴だと思うんで大丈夫でしたよ。」

「……ならいいんだが。お前はどうする? 送るか?」

「オレは近いんで大丈夫っすよ!」

「じゃあ置いて帰るね!」



 颯爽と後部座席に乗り込もうとするニヨウをケイが待て待てと止めた。彼は純粋に理由が分からなかったのかケイの顔を覗き込んだ。

 何故か得意げな表情を見せる彼にニヨウは不審に思ったのか首を捻る。


「人間一年生よ、タピオカを奢ってもらって、こうやってバスケ一緒にやった友達に言うことが2つあるだろ。」

「えー? ないよ。……サヨナラ〜とか?」

「惜しい! こう言うんだよ覚えとけよ?」


 ニヤリと企み顔でケイは言った。



「今日はありがとう。またね、だ。」


「……成る程、世話になった礼を言って再会を願うわけね!」

「言葉にするとありがたみがないな。」

「僕もそう思います。」


 イチヨウの言葉にヒロタダは頷いた。

 しかし、ニヨウは全く気にする様子を見せず、車外のケイにニヨウは素直に告げた。



「今日はありがとう。また本部で会おうね!」

「おう! またな!」



 車で本部に向かう4人をケイは見送った。

 それから帰ろうと鞄と手提げと飲みかけのタピオカを持った。しかし、すぐに彼は気づいた。

 自身の飲みかけのものがすでに無くなっていることに。



「何も言わずに人のものまで飲むとか図々しすぎかよ。」


 さすが人間1年生、と笑いながら彼は帰路についた。

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