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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
6章 別離のプロポーズ

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93.列車上の決闘 -楽しい電車旅を-

 3人が後方車両に向かってから間もなく。

 エルナが不意に表情を険しくしてリーンハルトに呼びかけた。



「ねぇ、ちょっと。」

「どうした?」

「……要人達が乗ってる3両目、何か嫌な感じがする。」

「どんな感じだ?」

「明確な悪意ではないけど……何かこう、急に寒くなったような感じっていうのかしら。」


 言葉で表しにくいらしく、エルナは考え込むようにううんと唸る。


「……いや、十分だ。なら中の警護はヤンに任せてオレらの方から増員に向かおう。」

「動力部の方なら、貴方達2人がいいと思うけど。どう?」

「そうだな。エルナ、後方の気配は?」

「……急にやな感じ。でもハーマンが向かってるし、1番嫌な雰囲気を感じる8両目はルイホァとシュウゴが足を止めてる。」

「なら、ここには特務隊員もいるし2人で行ってくれ。」


 ヒロタダの言葉に合わせて周りの隊員もリーンハルトに問題ないと告げる。


「分かった。ならケイ、さっさと前方車両に向かうぞ。ヤン、聞いてたな?」

『もちろんよ。1分後にVIPの護衛に向かうわ。』



 リーンハルトが手招きすると、ケイはうなずき一つでついていく。

 4、5両目の連結部にたどり着くと、リーンハルトはひょいひょいと車両の上に上り、腰の鞄から鉄製の太いワイヤーを取り出してカーブでわずかに車両が傾いたタイミングで器用に3両目に爪を引っ掛けた。


「車両の上を通るぞ。」

「了解です。」


 中を通らないのはなるべく敵の警戒をあげないこと、要人達やメディアに外でのトラブルを悟らせないことが目的だ。

 説明しなくとも何となく察するできた部下にリーンハルトは僅かに口角を上げつつ、素早く2両目の連結部に向かった。

 ケイもさすがの身体能力でリーンハルトが繋いだ安全綱を頼りにしつつあっさりと辿り着いた。


 そこにはヤンがおり、少々驚いた顔をしながらも期待通りと言わんばかりに笑った。


「お早い到着で。」

「当たり前だろ。前の状況は?」

「不審物および不審者なし。乗組員は操縦者3名、警備員2名、接客員6名、他特務隊員のみよ。」

「オッケーだ。行くぞ。」

「失礼いたします。僭越ながら当車両限定のお食事のサービスをさせていただきたく思います。この旅もあと僅かになりましたがーー。」


 ヤンは2人と入れ違いであたかもサービスかのように乗組員に扮して中に入った。

 先程まで女性のような口調だったにも関わらず急に低い声で礼儀正しく話すものだからケイは一瞬だけそちらを振り返ってしまった。



「変幻自在……!」

「何言ってんだ? 行くぞ。」

「あっ、はい。」


 ケイは慌ててリーンハルトについていく。

 前方車両の操作室に向かうとそこは教科書で見たことがある蒸気機関車とは一線を画していた。

 従来の蒸気機関車が動力としていた発電機などは存在しない。それにシュウゴがボイラーをお遊び、などとぞんざいに告げた理由も納得というほどに小さな機材が置いてあるばかりだ。



「青年、ボイラーは初めて見たかい?」

「ハイ。リニモ自体もそんなに乗らないので。」


 任務といえどもの珍しそうに見ていたケイが微笑ましかったのだろう。操縦者の1人がケイに気さくに話しかけてきた。


「これはあくまでも “雰囲気作り” のためのものだ。蒸気機関車だと煙突のような場所から煙が出ているだろう? それを演出するためだけの装置さ。」

「本当に観光目的のものなんすね。」

「そうだね。こういうものが無ければ速く走れるのだろうけど……ただこの車両の目的は観光だからね。無駄ではないんだよ。」

「外から見てたらそれこそレトロな雰囲気出るでしょうしね。」

「ああ、仕事が終わったら見てみるといい。」



 ありがとうございます! と人懐っこい笑みを浮かべた。リーンハルトは微笑ましげに見ながらも、ケイと話す操縦者は恐らく信頼たる者であろうとあたりをつけた。

 ならば、と横目でその場にいる人物達を観察する。操縦者に関しては特務隊も遍歴をしっかり確認したはずで恐らく裏切り者はいないだろう。

 特務隊員についてもヤンが選別した者だ。そういないと信じたい。

 ならば最も濃厚なのはやはり接客員か。


 リーンハルトはそれぞれの顔を一巡した。


 不意に1人と目が合い、彼女はリーンハルトから視線を露骨に外した。



「オイ、アンタ。」

「……如何なさいましたか? 特務隊員様。」

「今背に隠しているものは何だ?」



 僅かに眉が動く。

 恐らく鎌掛けが成功したのだろう。

 リーンハルトがその嘘に気づいた時から数瞬遅れて彼女は背から鉄棒のようなものを取り出し、近くにいた接客員に振るおうとする。


「させるかよ!」


 リーンハルトは【氷柱】を出して鉄棒の軌道を逸らせると、彼女はすぐに自身の不利を察してリニモからの脱出を試みるかのように窓に手をかける。

 開けることすらもどかしかったのか、肘鉄を喰らわせて破ると彼女は何の能力を使ってか器用に車外に出た。



「他隊員この場の警備にあたれ! VIPに悟らせるなよ!」

「「「了解!!」」」


 リーンハルトはそれだけ告げると、身体強化と氷で器用に上っていく。

 案外すぐに追いついてしまい、女性は顔を青くする。



「来ないで!」

「……?」



 まるで身投げをするかのようにじりじりと車体の端に寄る。

 この女性は戦う手段を持たないのだろうか。

 ふと後方車両に置いてあったバールや不要なものの存在を思い出し、リーンハルトはとある可能性にぶつかった。


「お前、能力ない人間だな?」

「悪い?! 新人類の貴方達にはわからないでしょうね!」


 リーンハルトは彼女の言葉に対して表情を全く変えず威圧的な態度を取り続ける。それに慄いたのか、彼女は聞いてもいない情報を次々と口にする。


「……旧人類が『Dirty』に手を貸すのはおかしいって思ったんでしょ? でもそんなの貴方達AAの偏見よ。

 私たちだって新人類だとしても大切と想う人はいる。そんな人たちを助けたい、だから新人類優位主義を掲げる『Dirty』に迎合するの。」

「自分たちの不利益は考えないのか?」

「実際、新人類の方が優秀じゃない! 優秀な人間が治めた方が無駄な争いもないわ!」


 リーンハルトの目つきが更に険しくなる。

 その様子に彼女は小さく悲鳴を漏らす。



「……本当にそう思ってるなら別にかまわねぇよ。ただ、人の命を沢山奪って上に立つ、それが本当に正しいのか? それにお前が言う理論こそ旧人類に失礼だし、オレたち新人類でも旧人類関わらず大切に想う人がいる。

 お前の意見は人を尊ぶ人間に対する侮辱以外の何でもねぇよ。」



 ヒロタダの家族も、エルナやシュウゴ、ケイの友人も、ハーマンやオリヴィアの同僚も、ルイホァが出会った子どもたちも、どこにでも旧人類はいて、自分たちと変わらず、生活を営んでいる。

 それにも関わらずなぜ彼女はそれから目を背け、優劣をつけたがるのか。リーンハルトには全く理解できなかった。


 彼女は下唇をぐっと噛む。

 それがどんな心情から来る行為か、そんなこと考える暇もない。


 リーンハルトは揺れる車体を躊躇いなく蹴り、女に急接近し、彼女の鳩尾に容赦なく拳を叩き込んだ。

 泡を吹いてぐらりと傾く彼女の身体を易々と掴むと、それを先頭車両の連結部の足場にあっさりと運んだ。


「さて、ケイはうまくやるかな。」


 楽しみだと言わんばかりにリーンハルトは声を上擦らせて独り言を呟いた。














 ヤンは要人達の乗る車両の中で顔を顰めたい思いだった。

 後部車両や前方車両の屋根を歩く音や戦闘による衝撃は僅かであるがこちらにも響いてくる。


「……どうにかするんじゃなかったのかしら、リーンハルト。」

「どうかしたか?」

「いえ。」


 元カイロ支部副部長だったヤンは顔見知りの元支部長の問いかけを笑顔で流す。

 もちろん何も策を講じていないわけではない。

 ケイはハーマンとリーンハルトに言われたことを実行していた。



「いいな、それ以上余計なことをしたらボイラーの燃料にするからな。」

「ヒッ……。」


 ケイと残った隊員はすぐに不審な動きをした残りの2人を捕らえた。そして、ケイはハーマンとリーンハルトが言ったように、眉間に皺を寄せ、口角を上げながら襟を掴みながら言った。

 お前が炎を掲げながら言えば1発だ、と言われたのだ。案の定、不審者はあっさりと白旗を揚げた。


 何となく腑に落ちない思いをしつつ、もう1つリーンハルトに告げられた任務を果たすために操縦者に声をかける。



「あの、すんません。ウチの班長からボイラーを使ってこういうことしろって言われてるんですけど。」


 ケイに手渡された作戦書を見て操縦者は困惑した表情を見せた。


「いや、設備的には可能だがそんな火力ここには……。」

「火力なら問題ないっすよ。それに、終わった後の水もウチの班長が。」


 その言葉を聞いて、なるほどと彼は頷いた。


 それから間もなくだった。

 煙突から煙を出し、急激に熱されて生まれた水蒸気による音、汽笛が鳴り響いたのは。




「おお、凄いな。何の音だ?」

「かつての蒸気機関車は石炭を燃料としてボイラーを用いて発電を行なっていました。現代では燃料など使わずとも発電は可能です。……懐かしの遺構を楽しんでいただくために汽笛や煙突を設けたのです。」

「そうか……まるで昔にタイムスリップしたようだ。」

「現代の技術を以ってしてもタイムスリップだけは成し遂げられていませんからね。」



 元支部長と要人は車窓の外で棚引く煙を見つめる。

 ちょうど曲がり角に差し掛かり、先頭車両の煙突が蒸す煙がよく見えた。

 こんな演出は予定ではなかった。

 恐らくリーンハルトの部下が行なったことだろう。

 要人達の注意はそちらに向き、まるで上や後方車両での戦闘に気づいた様子は無かった。


「やってくれたわね。」


 ボイラー付近で僅かな燃料に汚れながら操縦者とケイは手を合わせていた。


















 無事任務が終わり、ほぼ無傷のリーンハルト班はリニモから降りることになった。ケイはワイシャツを黒々としてしまったが、要人達の警備も現地特務隊員に引き継がれた。

 仕事を終えて一息つくヤンにケイはひょっこりと接近してきた。大概彼も気配を隠すのが上手くなってきている。



「ヤンさん、1つ聞きたいんすけどいいっすか?」

「何かしら?」


 答えたくなかったらいいんすけど、と前置きをして彼は尋ねた。


「普段って女性っぽい口調なのに、さっきすげーかっこいい話し言葉だったじゃないすか。何でかなーって。」

「あ、それ私も気になった!」

「ちょっとアンタ達……。」


 どこから聞きつけたのかルイホァも現れ、それを追ってエルナとハーマンもやってきた。彼らは呆れたように2人を見つめていた。



「いいのよ。アタシは物心ついた時から可愛いものとか綺麗なものが好きでね。言葉もそうよ、女性の話す言葉って柔らかくて綺麗じゃない? だから気づいたら自然とそういう話し言葉になってたのよ。

 でも、気づけばこんな逞しくなっちゃってねぇ。スポーツ選手だったら最高なんでしょうけど。」


「そんなことないわよ。」

「そんなことない!」



 ヤンの言葉を否定したのは女性2人だった。

 そこへ報告を終えたリーンハルト達も寄ってきた。



「だってアンタが教えてくれる化粧って間違いないし。そういうセンスは間違いない、綺麗なものよ。」

「そうそう、それにヤンだってお肌綺麗だし!」

「……なんか少し違う気がするが。」


 ハーマンは2人に言うが、2人は意味が分からないらしく首を傾げる。それを聞いていたケイもへにゃりと柔らかく笑うと続けた。


「オレも関係ないと思いますけど。見た目も性別も関係ない、好きなことを突き詰めた、って感じで勇気を貰えるんじゃないっすかね?」



 えへへ、と照れる彼らにヤンは目を丸くした。

 しかし、3人の真っ直ぐな言葉に腹を抱えて笑い出した。

 後ろで黙って聞いていた面々は顔を見合わせた。



「そういえばかっこいい口調については教えてないわね。その理由はこれよ。」


 4人はその写真を覗き込む。

 それは若いヤンと小柄な女性、そしてヤンによく似た息子が2人並んだ家族写真だった。

 彼は懐かしげに目を細めた。



「やっぱり、息子にはかっこいい自分を見せたいじゃない?」



 次に見た彼の笑顔は間違いない、父親の顔だった。

 ハーマンとケイは顔を見合わせると頷き合う。


「それは分かる。」

「あー、オレも父さんのかっこいい格好見ると頑張んなきゃなってなります。」

「……はは。」

「うーん……。」


「女の子達は厳しいんですね。」

「あはは、私は尊敬してるけどね。ヒロタダくんは?」

「僕もですよ。」



 その様子を見て離れていたオリヴィアとヒロタダが苦笑いを浮かべていた。何も話さないリーンハルトを盗み見ると眩しそうにその光景を見つめるばかりであった。



「……オレだって、昔は尊敬してたさ。いつか、あんな風にってな。」

「リーン……。」


 その言葉を聞いたシュウゴは僅かに視線を彼に移したが何かを口にすることはなかった。オリヴィアは決して笑顔を崩すことはない。


「さて、じゃあさっさと帰る準備すっぞ〜。」

「あ、リーンハルトさん戻ってきてたんすね!」

「お前相変わらず普段は鈍いのな。だが、今回はお手柄だったぞ!」


「リーンハルト、私も頑張ったよ!」

「おー、ハーマンとシュウゴに聞いたぜ〜。」


 無邪気にリーンハルトに駆け寄る2人をエルナは羨ましそうに見ていた。

 ヤンはリーンハルト班の交流を見ながら傍らに立っていたハーマンに話しかけた。



「ハーマン、お願いがあるの。」

「遺言以外なら受け取る。」

「アンタも大概意地が悪いわよ。」


 壊れたライターを手でいじりながらハーマンは胸ポケットからガムを取り出した。禁煙のために頑張っていると聞いた。


「リーンハルト達を頼むわよ。それにアタシの息子代わりのヴィリやセイも。」

「自分でどうにかすることを勧めるが。」

「……アタシじゃダメなのよ。元ウルツ班の歪な絆は仲間同士じゃどうしようもないわ。」


 やれやれと首を横に振る。


「じゃあ後者は。それこそお前が手に負えなきゃどうしようもないんじゃないか?」

「そっちの方が心配いらないわよ。アンタの班にいい友だちも、いえ悪友もできたしね。ただ一波乱やっちゃいそうな気もするわぁ。」

「……。」


 ハーマンは内心で確かにと思いながらため息をついた。



「そん時には周りの大人が支えてやらないとな。だが、お前も易々と死ねると思うなよ。」

「……承知したわ。」



 ハーマンの言葉に笑いを小さくこぼすと彼はゆったりと頷いた。


【こぼれ話】


今更ですが、査定の時の班所属は以下のような感じでした。

カジェタノ→パウル班

ドロシー、フェベ→モニカ班

セイ→ヤン班

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