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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
6章 別離のプロポーズ

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90.花が咲く

 ヒロタダとヴィリが雑談しているとふと通りの向こうの人影が目に入った。



「ヒロタダさん、何かあの人ら妙じゃありません?」

「そうですね。一応、連絡しますか?」

「いや、ここは様子を見る。もし標的が動けば、僕が相手側ヒロタダさんが店・人側で防衛、残り2人に攻撃に回ってもらう。」


 ヒロタダは二重壁で守ると言った彼の意図を理解して頷く。

 通信機でメッセージを後方2人に送る。話に夢中になっていたが、2人ともすぐにヒロタダとヴィリに視線を送ってきた。

 ヴィリは【超聴力】で相手の様子を窺っている。それを聴く彼は何故か浮かない顔をしていた。



「どうしました?」

「……3人ともずっとバレンタイン死ね、失せろ、言葉の通り爆発させてやるって爆弾所持をほのめかしているんですが。」

「……。」



 妬みの類だろうか。

 呆れた様子のヴィリは背広を一応着ていく。どうやらすぐにも能力を使いそうな気配がするらしく、彼は話を聞きに向かった。

 しかし、ここで予想外のことが起きる。

 どうやら私服警察官だろうか、先んじて声をかけてしまったのだ。さすがのヴィリも焦ったように走り出した。



「すみません、少しお話を伺ってもよろしいですか?」

「ッヒ、」


 男の1人が小さく悲鳴をあげた。

 こんな人の多い場所で迂闊に声をかければ何をするか分かるまい。

 しかも、ヴィリは事前に能力で聴いたが、彼らは情報など持ち合わせていない。


 男の1人が警察官を振り払って驚くべきことを叫んだ。



「恋人なんて全部別れちまえばいいんだー! 【炭粉】!」



 その場にいた人の内、能力に驚いた人、恐怖を覚えた人、様々いただろう。しかし大半は思ったはずだ。


 なんてことを叫んでるんだと。

 ヴィリは呆れながらも近くにいた警察官を後ろに引っ張った。


「【重力】!」

「【無効化】!」


 人が逃げ惑う中、ヴィリは能力を使った本人と周囲の炭を地面に落とす。炭の粉に触れると皮膚がチリチリと焼けたような感覚がした。しかし、ヒロタダの能力を浴びたものはただの煤と化す。


「オッ、オレは関係ねぇし!」

「待てよ! 爆発させるっつったろ!」


 ヴィリに1人拘束された時点で残りの2人は慌てて逃げ出す。

 しかし、それは叶わない。

 煤から飛び出したのは、待機していたリーンハルトとシュウゴだ。2人は煤だらけになりながらも的確に逃げた青年たちの元に現れる。



「爆弾持ってんのはお前だな。余計なことしたら、分かってるな?」

「……ッ、」

「覚悟もねぇのに武器を持つんじゃねぇよ。」

「そっちも逃げないように。」


 シュウゴももう1人の青年をあっさりと確保した。

 リーンハルトは羽交い締めしていた青年の胸元から爆弾を取り出すと、青年を気絶させ、押さえつけていたシュウゴの横に放った。



「大した威力もねぇ爆弾だな。」


 その場で線をいくつか切るとあっさり解体を済ませてしまった。

 客は自然と掃けており、店員や通報を受けてきた警察が駆けてきていた。それとともに3人の元へヒロタダが寄る。



「3人とも怪我はないですか?」

「オレは平気。」

「オレもです。」

「皮膚だけ少し赤みがありますが、他は問題ありません。」

「にしても揃ってみんなもあたりの店も真っ黒だな。」


 ヒロタダが笑う。

 しかし、4人ともさーっと顔を黒から青にした。

 恐る恐る背後を見るとあたりの店のショーウィンドウはもちろん花屋の花も煤を被ってしまい黒くなっている。


「……最悪すぎだろ。」

「というかその状態で告白はアウトだな。」

「僕もそう思う。」


 シュウゴは重々しくため息をついた。

 さて、どうしようかと4人が肩を落としたところ、先ほどの女性がひょっこり顔を出した。



「あの、ありがとうございます。店内は無事でした。」

「無事なら良かったです。でも店の外のバレンタイン人気の花、煤だらけになってしまいましたよね……。」

「一応、手続きが済めば不利益申請で返金が行われますが。」


 ヒロタダとリーンハルトは店員に頭を下げていたが、店員さんも恐縮そうに頭を下げ始めるものだから堂々巡りになっていた。


「ごめんなさい、リーンハルトさんの注文は後日になるかと思いますが、シュウゴさんが先ほど言ってたものについては、これ。」

「へ?」


 髪についた煤を払いながら店員の方に向かうと彼女の手には厳重に袋に包まれたものがあった。


「花束ではないのですが、ハーバリウムという観賞用の置物です。入っている花は、そこで煤を被っているものなんですけれども花言葉はーー。」


 4人は目を見開く。

 それを聞いたシュウゴは目元を柔らかくして、小さく礼を述べた。





 それから会う約束があるため着替えたいという彼を自宅近くに送り、勤務日である3人は本部への帰路へとついた。

 叩いてはきたがまだまだ身体は黒ずんでおり煤くさい。


「やー、でも店員さんもファインプレーだったな! いいもの買えて良かった。」

「そうだな。今日は商売にならないのは不憫だけど、あれだけの真心があれば大丈夫そうだな。」

「シュウゴも着替えなきゃいけねーほど汚れたのはご愁傷様って感じだけどな。約束の時間に間に合うといいけどな。」


 リーンハルトが時折クシャミをしながらも笑っていた。ヴィリはメッセージで簡単な報告を送りながら、無意識のうちに話していた。


「大丈夫だと思いますよ。ミホさんもシュカさんの家でお菓子作って一度家に帰ってから行くって言ってたんで。」

「あれ? シュカってシュウゴの妹だよな?」

「そうですけど、あ。」



 しーんと静まり返った車の中で、ヒロタダの「大丈夫じゃない……。」というごく小さな呟きが響いた。














 もちろんそんな車内の事情は知らない。

 何とも言えない疲労感に苛まれながらもシュウゴは自宅への階段を上る。唯一の幸いは良い店員さんに会えたことだろうか。


 彼は自宅の扉を開けていつも通り小さくただいまと声をかけるがキッチンの方で騒いでいる妹たちには聞こえていないらしい。

 見覚えのある靴があった気もしたが、おしゃれなエルナやいつもとは違うものを履いてきたミホの靴により、自分の知らない友人が来ているのかくらいの感覚で彼はリビングの扉へ向かった。

 どうやら先日のオリヴィア宅でルイホァと話していたことは頭にないようである。



 一方リビングでは、片付けやラッピングも終わり、人数分にそれぞれ分け、最後に余ったものの試食会を兼ねた女子会をしていた。


「でもエルナも可愛いことするよね! リーンハルトのだけハートマークつけるって。」

「バッバババカ言わないでよ! どうせ気づかないでぱくぱく食べておわりよ!」

「あー、そうかも。」

「何か2人の話だとリーンハルトさんの鈍いところしか分からないんだけど……。」


 騒ぐエルナの横でシュカが呆れたように言う。

 この時点でルイホァは玄関が開いたことに気づいていた。しかし彼女はにやりと笑うばかりで特に口を開くことはしなかった。

 ここでその気配に気づかないエルナが標的をミホに絞る。



「ミホこそ、さっきは聞かなかったけどシュウゴの好きなとこ言ってみなさいよ! 顔以外よ顔! あと頭!」

「私としては嬉しいですけど……本当に生活力のない兄で大丈夫ですか?」


 気の毒に、ルイホァは苦笑する。

 しかしミホは慌てて手を横に振る。



「私には勿体ないくらいよ、だって何か夢中になれるものを持ってる人って素敵でしょ? それに人を助けた時に見せてくれる真剣な表情とか、優しい言葉とか、好きだなぁ……。」

「ただい……ま……?」




 場の空気が固まった。

 ルイホァがブハ、と噴き出した以外音はならない。

 次に動いたのはエルナだった。



「ちょ、アンタ何で帰ってきてるのよ?!」

「いや、ここオレの家……。」

「そうだけど! お兄ちゃん、ヴィリさんから何か言われなかった?」

「別に……。」


 チッとシュカは露骨に舌打ちをした。

 お腹を抱えたルイホァはひーひーと涙を流しながら冷静に尋ねた。


「何でそんな真っ黒なの?」

「たまたま男の子が能力を暴発させてね。それよりルイホァ、オレの気配気付いてたでしょ。」

「ノーコメント! ほらほら、シュカ、エルナ、一時退散しよ!」


 ギャーギャー騒ぐ2人にコートを渡すと力づくで引っ張っていく。

 流石だなと思っているシュウゴにルイホァは高くつくよ、と囁くとそのまま退室してしまった。



「ちょっと、いつまで固まってるの?」

「へぁ、はい?!」



 いつまでも固まっているミホにシュウゴはいつも通りの声で話しかける。

 彼女の中では聞かれてなかった? セーフ? でも結局このあと言わなきゃいけないしと、大会議が行われていた。


「さっきの話だけど。」

「う……うん?」


 あ、聞かれてた。終わった。

 ずぅん、と音が聞こえそうな勢いで彼女は顔色を悪くした。



「オレは見かけとか、能力とか、関係なしに人としっかり向き合える。そんなミホが好きだけど。これをしっかり言えば、ミホに男の人が近づいてきた時、怒っていいんだっけ?」

「は、え、?」


 あまりにも唐突な内容と不思議な言い回しにミホの脳内会議は突如終わりを告げ、思考が止まった。

 その惚けた顔を見てシュウゴは、彼女の思考を悟ったらしく、1人納得したように頷いてから口を開いた。



「付き合ってください。これで伝わる?」

「……はい、」



 良かった、と笑うシュウゴの顔から目が離せない。

 しかし、急に意識が戻ってきたらしく、彼女は赤い顔をしっかりと彼に面向けて伝える。


「私も、好きです!」

「うん。」

「だから、その、チョコも、受け取ってください! それで!」

「それで?」


「……他の女の子からは貰わないで。」



 小さくさっきの3人と同僚さん以外、と言うと珍しくシュウゴが声を出して笑った。

 彼はこんな風に笑うんだ、と思うと先程の緊張も解け、ミホも一緒に笑った。









「はぁ〜いいなぁ〜。」

「いいじゃん。私たちもおこぼれ貰えたし。」


 はて、カフェに来てこれで何度目だろうか。

 シュカがトイレに行っている間、エルナは決まり文句を先ほどから何度も繰り返している。


「ふと思ったんだけどさ。」

「リーンハルトの話?」

「そうじゃなくて、オリヴィアの話。」


 ルイホァはオリヴィア? と首を傾げる。

 彼女について、エルナは先日のモニカの事件から少し気がかりだったのだ。

 エルナはそこで初めて彼女が婚約者を『Dirty』に殺されたことを知った。ルイホァは直接的には聞いたことがなかったが、リーンハルトとパウルから薄らとかつての班にオリヴィアの婚約者がいたことは聞いていた。


 気持ちだけを考えればいつ折れたっておかしくはない。

 そして先日入った彼女の自宅。

 あの荷物の少なさ、まるでーー。



「幸せになる恋もあれば不幸になる結婚もあるってことよね。……あたしはとりあえず生きたもん勝ちって思うけど。」

「私は命と引き換えにでも本懐を遂げられれば、って思っちゃうけど……。でもやっぱりみんなには生きて幸せでいてほしいよね。」

「うん。」



 2人はシュカが戻ってくる前にさらに料理を増やしてしまおう! と追加注文をする。

 ちなみに後日、リーンハルトがハートのついたクッキーなど全く気づかずにエルナの目の前で咀嚼し、周囲の人全員に叩かれたのはまた別の話であり、リーンハルトが贈った花に喜ぶも、その横のルイホァにまるで同じ花を贈り失笑することになるのもまた別の話である。


【こぼれ話】


 この世界のバレンタインは男性から女性へのプレゼントが一般的ですが、現代の日本のような商戦は特にないです。ですがやはりカップルや夫婦の外出は増えるようですね。

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