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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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番外編:モニカ

※ちょっとだけ残酷なシーンがあります

『やーい、雷女! いつか角でも生えてブサイクになんぜ!』

『人を食う神様と一緒だ! あっち行け!』




 私は幸せだった。

 でも、私は人一倍不器用だった。能力が発現して間もなく、普通は多少なり能力の制御というものを本能的に覚えるらしい。だけど、私の能力は膨らむ一方で、全く制御なんてされる気配がなかった。


 私の能力なんて、せいぜい停電した時の非常用発電くらいで、現代には不要なものだった。


 両親は、突如現れた私の能力を疎み、歳の離れた旧人類であろう妹を可愛がった。当時の私も妹のことはなによりも可愛いと思っていたし、何も疑問はなかった。

 能力だって、自分のものとは認めたくなかったけど、唯一認めてくれる人がいたから別に嫌なものではなかった。


「モニカの雷は神様からの贈り物なんだねえ。」

「でも、みんなモニカのこと怖いとか化け物っていうよ?」


 幼い頃、暖炉の前でのんびりと編み物をする祖母に言われた言葉は今でも記憶に残っている。私の疑問に彼女は困ったように笑いながら答えてくれた。


「それはみんながモニカの優しい心を知らないからだよ。モニカがその能力で誰かを助けてあげればみんな分かってくれる。贈り物を嫌いになっちゃいけないよ。」

「……分かった、モニカ好きでいるね!」




 そのやり取りの数ヵ月後、祖母は亡くなった。

 病を拗らせたそうだ。

 それから私の味方はいよいよいなくなったが、祖母の言葉が私の支えだった。だから、両親にこう言われた時も絶望しなかった。


「お前の能力は危険だ。強い力は必ず制御する術を身につけなければならない。だから、お前はエリートコースに行くんだ。」

「それって、AAが主催する……?」

「ああ、正直今のお前は手に負えない。何かあるたびに発電されてはオレ達は殺されてしまう。」


 父の言葉に、ああ、私はこの人達の家族ではないんだなとどこか他人事のように感じていた。


「分かった。私はエリートコースで頑張ってなりたいものになるよ。パパもママも、元気で。私をここまで育ててくれてありがとう。」


 たぶん、私の言葉は彼らの心を酷く抉ったのだろう。言われて初めて、私の感情に触れたくらいなのかもしれない。

 でも私もこの人達の子、残酷にも家族との別れより新しく出会える自分と同じ境遇を持つ人たちとの出会いや人の役に立てる仕事ができるが楽しみでしょうがなかった。



 それが私が10歳の時の話。



 私はこの時から何となく人と距離を置くことが傷つかない方法だということに気づいていた。今思えば何で可愛くない子どもだろう、と思う。

 なるべく控えめに、敬語を使って距離を取る。気づけば人付き合いが苦手で、引っ込み思案な人間になっていた。


 加えて能力が強力で同い年の中では圧倒的な能力、飛び級をしてもさほど困ることのない才能を私は持っていたらしい。

 だから、孤立していた。

 でも、傷つかないならそれでよかった。


「ねぇ、あなたモニカって言うんだよね? 私ゾエ・ケーレマンスっていうの。仲良くしようよ。」

「……ゾエさんは、私の噂を知らないんですか?」

「知ってるよ、雷神でしょ?」


 私に恐れた子ども達が名付けた名前を彼女は明るく言う。


「私のエリアではね、雷神っていうのは畏多くも強い神様なのよ。でも、あなたは人間でしょ? そんなのどうってことない。」

「……そう?」

「モニカ、あなたってもしかして神を自称するようなおこがましい人間なの?」


 ゾエさんの言葉に必死で首を横に振る。

 すると彼女は良かった、と笑った。



「別にここにいる人間なんて化物揃いでしょ? それにほら、3つか4つ下のピンク頭の強い奴いるらしいけど飛び級試験落ちたらしいじゃない! やっぱり完璧な人間なんていないのよ。」


 がははと大らかに笑う彼女に私の肩の力は抜けた。ちなみにピンク頭の強い奴、とは当時面識はなかったがリーンハルトさんのことだ。

 彼も飛び級の対象になったそうだが、考課が足りなかったらしく、後々ウルツさんに説教されたという話を聞いた。


「私も最近こっちに来てまだ友達いないのよ。だから仲良くしてくれると嬉しいな。えーと、」

「モ、モニカ! モニカ・クルーズです!」


 突如大声を出した私に驚いたゾエさんはもちろん、周囲の人たちも目を丸くしていた。でも、彼女はフェベさんによく似た笑みを浮かべるとよろしく、と私の手を握ってくれた。











「もう、いい加減になさい!」

「ごめんね、オリヴィア。」

「貴女、笑えば誤魔化せるなんて思ったら大間違いよ!」


 大怪我をしたゾエさんに憤慨しているのはオリヴィアさんだった。私が17歳の時、初めてオリヴィアさんに出会った。

 彼女は能力自体はエリートコースの対象となるレベルのものではなかったけど、自主志願した上で類稀なる頭脳を駆使して、飛び級を重ねており、偶々来ていた実習で出会ったのだ。

 思い返すと、確かに柔和な笑みを浮かべていることもあったが、今よりも顔に出やすくいつも真面目に怒っているようなイメージだった。


「モニカ、貴女は怪我してないでしょうね?」

「大丈夫ですよ?」

「……怪しい。」


 スペシャリストの彼女の目を誤魔化すことは叶わない。すぐに血の滲んだ箇所を発見されて掬い上げられる。なんやかんやと私たちは3人でいることも多く、オリヴィアさんの話を笑いながら受け流したり、時に真剣に聞いたりと気のおけない友人であった。



「またオリヴィアのこと怒らせたの〜?」

「シモンさん。」

「いつもオリヴィアは2人のこと心配してるんだから程々にしてあげてね〜?」

「ちょっと! それ言わなくていいじゃないですか!」

「そお?」


 にこにこと笑っているシモンさんは当時は薬学研究員としてオリヴィアさんが実習に来ていた研究施設で働いていた。

 実習生にも関わらず、臆することなく意見を述べ研究の助けとなるアイデアを出す彼女に興味を抱いていたらしく度々ちょっかいをかけては今のように怒られていた。



「そういえば、明日から皆さんはウルツさんの班に配属されるんですよね? 準備は済んでいるのかしら?」

「まぁ任務に駆り出される程度には。シモンさんこそ、研究で忙しくて手についてないんじゃ?」

「僕はオリヴィアがついてるから大丈夫だよ〜。戦闘訓練もなんとか彼女と張り合えるくらいにはなったから。」

「それってどうなの……。」


 呑気に笑うシモンさんにゾエさんは呆れたようにため息をついていた。元々、能力も戦闘向きでなかった彼はオリヴィアさんとともにさまざまな戦闘スタイルを試した結果、速さ特化で回避に専念しながら後方支援を行なうスタイルに落ち着いたそうだ。


「でも、冗談なしに全力で生き残らないと。オリヴィア泣かせることになるわよ? ねぇ旦那様?」

「ちょっと!」

「まだ婚約しただけだから気が早いよ。それにこんな状況じゃ式も挙げられないしねぇ。」

「シモンもやめてください恥ずかしい!」

「照れちゃって可愛いねぇ。」


「惚気が凄まじいですね。」

「シモンさんデレッデレだもんね。」


 2人の微笑ましい光景にゾエさんと一緒に笑っていたのも懐かしい光景だ。

 そしてこの数日後、私が22歳の時、ウルツ班が結成されたのだ。












 それから1年近くはくる日もくる日も戦争だった。

 止まぬ戦禍に心が摩耗していく。そんな日々が続き、突如数日の休暇を与えられたのだ。

 これを機会にゾエさんは帰省、シモンさんは珍しくオリヴィアさんとゆっくり過ごす、とそれぞれが好きに時間を過ごしていた。


 私はAAに入ってから一度も帰らなかった実家に立ち寄った。決して顔を出さず遠目で見つめよう、ふと思い立ったのだ。


 遠目で見る実家の中では両親と妹が笑顔で過ごしていた。それだけで十分だと、私は思っていた。

 そんな幸せな日々を見つめていて完全に疲れが出ていたのだろう。不意に背後から現れた妹の気配に気づかなかった。


「……モニカお姉ちゃん。」

「アリア……。」

「家に寄って行かないの?」

「うん。たまたま近くを通っただけだから。」

「そっか……。」


 2人の間に沈黙が流れる。

 何となく居心地が悪くなったものだからモニカはわざとらしく伸びをして立ち上がった。


「パパとママには内緒にしてね。私も忙しいから行かなくちゃ。」

「……その、お姉ちゃん。」

「どうしたの?」


 彼女は何か迷っていたようだが、その場を去ろうとする私を見て意を決したらしく想いを口にしてくれた。


「特務隊、頑張ってるんだよね。時々くるウルツさんって人からの手紙、パパもママもちゃんと読んでるよ。ずっとお姉ちゃんが元気かなって心配してる。」

「……心配?」

「うん、ずっとずっとお姉ちゃんに酷いことしたって後悔してるの。だから、いつか会ってあげて。」


 それだけを言うと妹は何も言わずに、私に背を向けて家に帰って行った。

 その時、私はどんな顔をしていたのだろう。なぜだか無性に救われた気がしたのだ。私が選んだ道は間違いでなかったと。














 今思えば、これが更に激化する戦争前の束の間の休息だったのだろう。ここから戦況は一変した。

 はじめに私が遭遇した悲劇は親友のゾエさんの死だった。彼女は戦場において流行病に倒れ、ある村の療養施設で休んでいたところ、紋付の急襲に遭い、応援に行った私達の目の前で亡くなった。


 幸い、遺体は残ったが、決して見られるものではなかった。

 私はショックを受けると同時に、何が自分にできるのか、それが分からずひどく混乱したのを覚えている。狼狽えて失敗、それだけはゾエさんに顔向けができなくなるため絶対にしたくはなかった。

 そこで行動に出たのはシモンさんだった。


「ウルツ班長、僕にご遺体の解剖をさせてください。」

「しかし……。」

「僕が勤めていた感染症センターなら、ここから最も近く最も設備が整っています。それに病の拡大を踏まえると時間はありません。こういう時こそ、僕の能力である【診断(イグノーシス)】の出番です。

 職員にも、話は通してあります。」

「オリヴィアさんにもですか……?」


 私が尋ねると彼はゆっくり頷いた。


「もう、覚悟はできていた。ゾエちゃんが必死に残してくれたヒントなんだ。1mmたりとも無駄にしたくない。それが僕たち医師と研究員の総意だよ。」

「……分かった。任せていいか?」


「はい。」



 シモンさんは強く頷いた。

 それから間もなく検死は始まり、流行病の真の原因も明らかになった。それから間も無くだった。


 彼の訃報が届いたのは。


 あの時オリヴィアさんがボロボロになっていくのを遠目で見ていた。後から聞けば元感染症センターの職員であり七賢人であるアドルフの手引きにより、シモンさんは亡くなり、遺体さえも残らなかったそうだ。

 しかし、残された職員達が必死に抵抗し、特務隊の派遣もあり、ご遺体の殆どは無事とまではいかないが守ることができた。











 結果だけ見れば、戦争は辛くも勝利した。

 でも、たくさんのものを失った。命も、自然も、街も、挙げたらキリがないほどに。

 あの時のこともあってオリヴィアさんとは疎遠になっていたが、ジパングの査定で再会した時は向こうから話しかけてきてくれた。


「久しぶりね。元気にしていたかしら?」

「戦争、以来ですね。私は何とか。オリヴィアさんはターミナル:トーキョーで働いてたんですね。」

「ええ、ジパング全域は新人類に対する医療が遅れているから。」

「リーンハルトさんの班に所属なんですね。」


 オリヴィアさんは頷いた。


「……あの時の私の崩れ具合を見て誘ってくれるとは思っていなかったから驚いたけど、少しだけ嬉しかったわ。また関われる機会が来るなんてね。」


 彼女は昔と変わらない柔らかな笑みを浮かべていた。心の傷を隠すように。

 だから私も気づかないふりをして、酒を差し出した。彼女は目を丸くしていたが、すぐに杯を合わせてくれた。

 それが私は嬉しくて、気づけば飲みすぎて2人で肩を組んでベロベロにカラオケ店で横になっていたのはいい思い出だった。













 私は目を覚ました。

 見慣れぬ天井に、ああそういえば検査入院していたんだっけと自分の置かれた状況を思い出す。



「モニカ、起きた?」

「……ん。」



 ふと声がした方を見ると、オリヴィアさんとパウルさんがちょうど話していたらしく2人がこちらを見ていた。



「良かったな。あの香の副作用ないらしいぞ。」

「検査上は、です。気分は?」

「ちょっと怠いけど大丈夫です。少し慣れたら動けると思います。」

「良かった。」



 彼女は心から安堵したような優しい声音で呟いた。

 そんな彼女を放っておけなくて、私はオリヴィアさんの手を握った。彼女は驚いたように目を見開いた。



「……私はいなくなりませんよ。頑張って、頑張って生き抜いていきますから。」

「……そう。そうよね。」


 オリヴィアは顔を伏せると少しばかり咳き込む。

 しかし、顔を上げたときにはいつもの笑顔だ。


「なら無理しないように。隠しても無駄ですからね。ゆっくり休んでください。」

「……はい。」



 それだけ述べるとオリヴィアさんは席を立った。

 パウルさんがオリヴィアさんに一声かけると、傍らの椅子に腰を下ろした。



「本当無事で良かったぜ。まー、これに懲りたら暫く見合いはやめるこったな。」

「そうですね。私にはまだまだ結婚は似合わないです。」

「……そうは言ってねーだろ。相手を選べってことだ。」


 呆れた顔をしながらも手提げから土産を取り出し、ベッド横のテーブルに置いた。


「パウルさんもそんな風に考えることあるんですね?」

「そんなこたぁ言ってねーだろが。大体お前はガキの頃からなぁ。」



 変わらない。

 変わってしまったもの、変わりゆくもの、たくさんあるけれども。

 私たちの変わらない絆と繋がりに温かい気持ちを抱きながら、私は彼の小言を甘んじて聞いていた。

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