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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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85.選択は君の中に -乙女3人-

※戦闘シーンありです!

 先ほどの爆音、すなわちパウルとヴィリの交戦が始まった頃、エルナとヤン、そしてキャプテンに任命されたドロシーは一緒に行動をしていた。



「始まったみたいねぇ。どうせパウルが暴れたのにヴィリが巻き込まれてるんでしょうねぇ。」

『監査局長も大概血の気の多い人だから……すぐにボール潰して大暴れしてるんじゃない?』


 ヤンとドロシーのコメントは概ね合っていた。

 しかし、エルナはずっとそわそわしながら辺りを見ていた。正直なところ、訓練指導員と戦って自分が勝てないことなど理解していたからだ。加えて能力も使えないというならば役に立てる算段がつかなかった。

 それならばヴィリと合流して情報収集とやらの手伝いをした方がいい気さえもしてきた。



「ねぇ、2人とも。あたしを囮にして逃げた方がいいんじゃない? 別に死ぬわけではないし……。」

『……本当にそう思ってる?』

「えっ?」


 ドロシーは厳しい顔つきで言う。

 それはヤンも同意らしく腕を組みながら頷いている。


「たぶん、アイツらアタシ達をここで仕留めるつもりよ。モニカを無理やり奪おうとした、因縁つけて喧嘩売ってきたってね。」

「は?! 何を目的に?」

「金と地位よ。人間のくだらない欲望。」


 ヤンはため息をついた。


「ま、アタシの弟子はすでにわかってるだろうから、あの爆発の戦闘に紛れてボールを潰されて、こっちに来るわよ。パウルは殺しても死なない奴だから。」

「えっ、ヴィリが脱落ってもったいなくない?」

『監査局長の【超聴覚】と身体強化は隠密に必要だよ。もちろん、エルナのもね。でも、私たちが潰しちゃったら、今から探索しますよ〜って言ってるようなものだからダメ。あえて、敵と交戦してからでないと。』

「なるほど……。」

「頑張って受け身とりなさいよ。」


 そんな簡単に取れるだろうか。

 利腕でない方の肩に装着して首を捻る。

 しかし、エルナも特務隊で経験してきたものが確かに身についていたようで、何者かの気配が近づいてきたことに気付いた。

 もちろんドロシーとヤンもすぐに感知した。



「んもう、ふざけてるわねぇ。乙女3人に向けて大群を送ってくるなんて。」

『乙女3人じゃなくて野獣と乙女2人でしょ。』

「アンタも失礼しちゃうわね!」


 2人はふざけあいながらも迎撃態勢に移っていた。

 だが、エルナはすぐに踵を返す。


「2人とも、逃げよう。」

「あら? 乗り気じゃないのかしら?」

『……別に逃げる必要なんて。』


 もちろん2人はエルナの言葉に渋る様子を見せたが、エルナは首を横に振った。


「2人は強いからそう思うのよ。だって異常じゃない、能力も身体強化も使えないのにあんな爆発なんて。今だってずっと轟音が響いてるじゃない。」

『爆弾とかでしょ?』

「そうかもしれないけど。でもドロシーが負けたらあたし達負けなんだから、他の人と合流すべきよ。」


 エルナの言葉にドロシーは納得したようで、気に入りはしないようであったがエルナの案を受け入れるようであった。

 一方でヤンは愉快そうに笑いながら頷く。



「そうねぇ、アンタの言うとおり。合流も手だし暴れん坊どもが仕留めてくれるかもしれないしね。」

『……そうだね。』

「でもまぁ、アンタも最初はただの女の子って感じだったけど立派な特務隊員になったわね。」

「……そうかしら。」

「ええ。」


 ヤンの言葉に照れたようにエルナは下唇を突き出しながら呟いた。










 暫く逃げるように走り続けたが、違和感は拭えなかった。確かに追手の気配はある、しかし一向に追いついてこないのだ。

 まるで袋の鼠、と言わんばかりに。


「……そろそろ来るかしら。」

「『……。』」



 3人が足を止めた。

 その瞬間だった。


 地面から手がぬるりと現れたのだ。

 近くにいたドロシーは咄嗟に避けたが、最も近くにいたヤンの足はその手に捉われた。


「ヤン!」

「こんの、腐れ外道がァ!」


 地面に引き込まれていたが、ヤンは血管を浮き上がらせながらその手を掴み、逆に引っこ抜くかのようにその正体を表に出した。


『その男、ボールがない!』

「んまっ、でも潰すことに変わりはないわ!」


 ヤンは今まで見せなかった男らしい笑みを浮かべると、完全に不意を突かれて動きを止めていた地面男に拳をねじ込み、吹き飛ばした。

 一方でドロシーは大男の攻撃を易々と避けると相手の懐に潜り込み、急所を容赦なく蹴り上げた。

 それを見たエルナは小さく凄い、と呟いた。

 しかし、すぐに己に向けられた殺気に気づいた。顔に向けて振られたナイフを避ける。


「弱そうな女のくせにお見事ね。」


 妖艶な笑みを浮かべた女性がナイフを持って追撃を繰り返すがエルナは確実に避ける。

 後方ではヤンとドロシーが次々と倒しているが一向にボールを持っている奴はいないらしい。恐らく目の前の女が持っているのだろう、最も弱い自分ばかりを狙ってくるのが証拠だ。


「ほらほら、避けてるばかりじゃ倒せないわよ!」

「うっさいわね!」






 以前の訓練を思い出す。

 それはヒロタダとシュウゴとともにリーンハルトやハーマンとある相談をしていた。

 エルナを含んだ3人は身体強化があまり得意でなく、攻撃方法について話していたのだ。


『シュウゴは銃があるから避ければいいだろう?』

『……この前銃が効かなくて痛い目を見たじゃないですか。』

『でもヒロタダの言うことも一理あるぞ? お前は力はなくても速さは結構なもんだからよ。』

『ヒロタダは案外近接戦強いわよね。最初の頃はあたしといい勝負だったのに。』


 確かにな、とリーンハルトは呟く。

 新人戦近辺から彼は目覚ましい成長を見せており、また彼についてはパワーの強化が得意であることがわかってきたらしい。


『あたし1対1になったらどうしよ。武器使うのも苦手だし身体強化もそんな得意じゃないし。』

『訓練やってていいとこつく時もあるけどな、結構な頻度で躊躇うからなぁ。』


 ま、そんな優しいところがお前のいいところだけど、とリーンハルトはエルナの頭を撫でながら微笑んだ。


『だが戦い方はあるぞ。身体強化を身体の一部に限るとか、狙いを身体でないものにするとか、あとは……。』







 エルナは別れる前にヴィリから渡されたごく小さな折り畳みナイフを出す。

 エルナはずっと戦うのが怖かった。

 それは今でも変わらない。だからこそ、リーンハルトをはじめとした仲間達が出してくれた答えを証明したかった。


 見極めろ、経験をものにするのだ。



「ボールを潰されてから死にな!」


 エルナがあえて見せた隙に敵は真っ直ぐに飛び込んでくる。恐らくエルナが戦闘を得意としないことをしっているからこんな単純な攻撃を仕掛けてくるのだろう。


「好都合。」


 エルナはギリギリのところで避け、ナイフを振るった。勿論相手はそれを読んでいる。だからこそ、ナイフを避けた上でエルナに手を伸ばしたのだ。

 しかし、エルナはそのナイフを手放す。

 迷わず相手が伸ばしていた手を掴み、相手が突っ込んできた勢いを利用し、小手返しの要領で相手を投げる。

 その動きを予測していなかった女は素直に宙を舞い、地面に叩きつけられる。



「今!」


 エルナは見事にボールを潰した。幸い爪を立てて握れば割れるものであったため、苦労はしなかった。

 しかし、女は表情を一変させると般若のような面持ちで起き上がった。


「クソ! クソガキ!」

「ちょっ、アンタ脱落したんだから暴れないでよ!」


 突如掴みかかろうとしてきた女の攻撃をエルナは咄嗟に避けた。


「私がアンタみたいな素人に負けるわけないんだよ!」

「知らないわよ! ルールの問題でしょ!」



 まずい、と直感的に思った。

 奇襲によりナイフは取り落としていたが、その女は容赦なく身体強化を使っていた。先ほどの技は相手が油断していたからこそ決まったものだ。現状で対抗するのは無理に決まっている。


「死ねぇ!」

「っ、」


 身体強化を使わない故に、攻撃を見極めることも叶わずエルナは蹴りを防ぐも、頭突きを喰らう。

 嫌な気配を感じ、身を返したが、蹌踉めいたところで破裂した音がした。


「ボールが……!」

「これでお前を!」


 しかし、エルナは口角を上げた。その表情に女の動きは一瞬だけ止まったが、それで十分だった。

 身体強化が使える者がその女を倒すには。


 突如増した重力の重みに彼女は地に身体を伏す。



「遅いわよ、ヴィリ。」

「ごめんなさい。でも今の悪足掻き、記録に残せたんで許して。」


 脳震盪を起こしたのか。

 へたり込んでいたエルナに手を差し出したのは僅かに額に汗を掻くヴィリだった。



「冗談よ。急いで来てくれてありがと。」

「びっくりするからやめて。貴女に何かあったらリーンハルトさんに僕達が怒られる。」

「でも、これであたしはヴィリの手伝いができるのよね。」


 エルナの言葉に目を丸くした。

 しかし、彼女から話題が出たというのが好都合だったのかヴィリも頷いた。


「あっ、そういえば2人は……!」


 エルナが慌てて後ろの2人を見やると、ヤンの野太い声とともに男が吹き飛んでいた。

 まさに死屍累々、のべ十数人の男達がのびていた。



「あんらまっ、エルナ大丈夫?!」

「怪我の具合は?!」


 ちょうど女をのしたドロシーが慌ててエルナに駆け寄る。その見かけに合わないハスキーな声にヤンとヴィリは目を丸くした。


「大丈夫よ。ドロシーは?」

「多少かすっただけ。エルナは自分の心配しなよ。」

「うん、でも本当大丈夫だから。」

「んもー、2人ともお互いのことばっかねぇ! エルナも仕事して偉いしドロシーもちゃんと敵倒して偉いわ! 乙女組の勝利ね!」

「乙女?」


 後ろで訝しげな顔をしながらヴィリは首を傾げていたが、ヤンの背後から感じる気に圧されたのかそれ以上言葉を放つことはなかった。



「……僕はエルナさん引き取りたいんだけど。一応不正のコピー渡しとくね。」

『分かりました。』


 ドロシーは素直に受け取った。


「パウルは単独行動?」

「リーンハルトさんたちに合流するって言ってましたけど、どうでしょう。」

『私たちは少し身を隠そうと思います。監査局長は……。』

「調査しながらボールない奴倒していくよ。」

「頼んだわよ〜。」


 ヤンがヴィリの背をぽんぽんと叩く。そしてヤンはエルナにも微笑んだ。



「アンタも頑張りなさいよ。正直、戦えると思ってなかったから見直したわ。」

「……リーンハルトのおかげよ。」



 エルナはぽつりと言う。









『合気道の動きとかだな。』


 あの日の相談で彼はそう言ったのだ。


『基本的に合気道はカウンター技とか護身術とか言われてるくらいだからエルナにはうってつけだろ。あと獲物を利用するんだ。武器を武器として使うんじゃなくて、例えば囮として使うとかな。やってみようぜ。』

『え、でもアンタ時間……。』

『オレは大概本部にいるし、エルナの時間に合わせるよ。それに、この練習でエルナの怪我が減ったり守れるものが増えるなら無駄になることはないだろ。』


『……うん、頑張る。』


 それからリーンハルトは言葉の通り、さまざまな型や方法を試した。何回もいつでもやってくれた。










 恋愛を差し引いてもエルナはリーンハルトを強く信頼して好んでいた。それを感じ取ったヤンは穏やかに微笑む。


「本当、リーンハルトには嫉妬するわ。あの子の審美眼もそうだけど、アンタ達の関係もね。」

「?」


 ヤンの表情の真意が図れないらしいエルナは首を傾げていたが、ヴィリがなんとも言えない表情を浮かべたまま呟いた。


「時間が惜しいです。移動しましょう。」

「そうね、じゃあヴィリ、エルナ、頼んだわよ。」

「2人も気をつけて。」


 そういうとエルナとヴィリはテキパキと打ち合わせをしながらその場から離れた。

 それを横目で見送っていたヤンにドロシーは尋ねた。



『ヤン、さっきのどういうこと?』

「さっきの、って?」

『リーンハルトに嫉妬、とか。言葉のままには聞こえなかったけど。』

「……それは本当にそのままの意味なのよ。」


 ヤンは過去に想いを馳せているのか懐かしそうに目を細めた。



「アタシ達は、同じチームだった。そこに確かに絆はあったけど、あの戦争で歪になってしまったのよ。でも、リーンハルトは、あの男は変わったの。誰よりも打ちのめされていたのに。

 今回ここにアタシ達が集まったのも歪なりに何かを確かめたかった、あるいは変わりたかったのかもしれないわね。」


 決して主語を明かさないヤンにドロシーはぽつりと呟く。



『私は集まったこと自体が答えだと思うけど。』


「……そうかもしれないわね。」

『ほんと、大人って拗らせてて嫌になる。早く行こう。』



 ため息まじりに言った彼女の皮肉にはヤンは苦情を漏らすしかなかった。

 しかし、彼女の言っていることは言い得て妙なのかもしれない。ヤンは不意に同志に会いたいと思いながら目の前の敵に集中することにした。

【こぼれ話】


 ヤンは化粧品会社の重役を務めています。

 特に仕事をする女性のスキンケアをはじめとした化粧品を扱っているため時々試供品を持ってきてくれるそうです。

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