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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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82.選択は君の中に -嫌なきっかけ-

「えっ、私にお見合いですか?」

「そうだ。先方から強く希望があってな。」


 副支部長のゴーシに呼び出されたモニカは目を白黒させていた。

 こんな忙しい時期になんて話を持ちかけてくるんだと先方とやらを恨んでしまう。ゴーシも同様らしくため息をついた。


「断れませんか?」

「断れるものなら断っている。」

「そう……ですよね。」

「失礼します。」



 コンコンと軽快なノックとともに扉が開く。その正体はヴィリであり、深刻な表情をする2人を見て首を傾げた。


「取り込み中でしたか。」

「いや、ただの縁談話だ。」

「……縁談。」


 彼は驚いたのかゴーシの言葉を鸚鵡返しする。それに構わずゴーシは淡々と続けた。


「今回は特務隊の体術指導を代々行なっている御家の要望だ。とりあえず会ってほしいそうだ。直接お前が断った方が早いだろう。」

「……断って問題ないんですよね?」

「ああ、向こうがそう言っているからな。それに大概あの家は亭主関白、女は家を守ると代々言っている。お前には似合わんだろうよ。」


 ただ、と続ける。


「お前達の幸せが必ずここにあるわけではない。それだけは覚えておけ。」














「って言ってました。」

「「はぁ?!」」



 訓練室でヴィリの話を聞いていたリーンハルト、パウルが声をあげた。

 傍らではヤンが悩ましげな顔をしていた。


「なら今日の手合わせ断られたのは見合い行ってんのか?!」

「いや、今日は有休だそうです。」

「もしかしてオリヴィア誘ったら、今日はエルナちゃん達と買い物行くの〜って……。」

「そういえばアタシのとこにも珍しく化粧の相談に来たわねぇ……。」


 ヤンも頬に手を当てながら呟く。

 パウルはヴィリの肩をぐらぐら揺らしながら色々と問い詰めている。リーンハルトは自分の知らない世界を知らされているらしくぽけーと口を半開きにして固まっていた。


 揺らされていたヴィリの一言でその空気は一変する。



「というか、お三方。元班員なんですから直接聞けばいいじゃないですか。」



 ヴィリの視線に彼らは身体を強張らせた。


「リーンハルトさん、パウルさんもいつまでも少年でいないで女性関係のことにも向き合ってください。ヤンさんは2人を見守り過ぎです。現状で、僕は貴方達には協力しませんから。」


 鋭すぎる若き上司の言葉に3人はぎくりと身体を固まらせる。失礼します、というと彼はさっさと訓練室から出て行ってしまう。

 残された3人は顔を見合わせた。

 さて、これからどうするかと。










「おっ、お見合いですか?!」

『……聞いてない。』

「まぁ……。」


「……実はそういう事でして。」



 モニカの買い物に付き合っていたエルナ、ドロシー、オリヴィアは三者三様の反応だった。

 エルナはきゃあきゃあといつ、どこで、誰と、どんな経緯で、と年相応に騒いでいるが、一方で報告が遅れた事がご不満らしいドロシーは無言でモニカをジトっと見ている。


 一息ついたところでオリヴィアが尋ねた。


「仮にいい人だったとして貴方はそれでいいのかしら? もし御家に入るなら恐らく特務隊は辞めることになるのよね?」

「正直、結婚する気はないです。私は特務隊の中でしか私ではいられませんから。」

「それはずっと特務隊にいるってこと?」


 エルナの純粋な質問に彼女は微笑んで話す。



「……私はね、能力が強力だったからエリートコースに入れられたんです。かつてウルツ班にいたメンバーみたいに大切な人やものを奪われたわけではなかったんですよ。

 ただ、家族が突然変異した私の能力に恐怖した、ただそれだけなんです。」


「ただ、それだけ……じゃないわよ。」

『……。』


 きゅ、と手を握られたドロシーは一瞬驚いたように目を見開くが、少しばかり嬉しそうにコクリと頷いた。


「でも、私はそれで良かったんです。私を能力ごと受け入れてくれる仲間にも、オリヴィアさんにも、会えましたから。」

「そうね、貴女とお話しするのは私も楽しいわ。」

「私もです。だから、みんなが生きて目標に向かって走れるよう、一緒に戦えることこそ、私の全てなんです。」

「……そうね。」


 穏やかな笑みを見せながらオリヴィアは頷く。



『でもあそこって名家だし、礼儀とか所作とか厳しいんでしょ? 疲れそう。』

「まぁ、今回は本部で行われますから。ゴーシさんもついてくれますのでよほど変なことをすれば教えてくれると思います。」

『ふーん? 何かあれば言ってよ。最悪ボコボコにするからエルナと待機してるよ。ね。』

「もちろんよ! その日の午後と翌日は仕事休みだから!」

「なんで翌日なのかしら?」

「何か言われて腹立ったらやけ食いよ!」


 ふん、と拳をつく真似をする彼女をオリヴィアがまぁまぁと宥める。


「でも何か気に食わないこと言われたら言ってね。訓練の時、指導員を本気でやるから。」

「あまり怖いこと言わないでください……。」


 しかし3人の心遣いが嬉しくないわけはない。

 モニカは破顔しつつ、上機嫌にケーキを口に運んだ。














 そして迎えた当日。

 モニカに伝えられた通り、ゴーシと向こうのいわゆる師範と当人を含めた4人で会うことになった。なぜ、両親ではなく師範なのだろうと疑問に思っていたが、それは後に明らかになる。


 見合い相手の名はエタロウ・スギハラという。

 体躯はかなり良い割に身のこなしは軽やか、パウルを想起させるものであったが、段違いに彼とは現場での経験値に差があるのだろう。

 彼の表情や雰囲気からすぐに分かった。


 彼の御家は、いわゆる旧家であり、多くは旧人類が占めている。しかし、近年は新人類と旧人類の差別に対して世間は反対するような風向きにあり、スギハラ家も嫁に新人類を迎える方針となったのだ。

 そこでどういうきっかけだか、お眼鏡にかなったのはモニカだったそうだ。


 本音で言えばモニカはこの男は苦手であった。

 口調は柔らかいものの、どこか特務隊や新人類を馬鹿にするような態度、自分の家が無ければ特務隊が成り立たないような言動を時折とるのだ。


「ところでモニカさんは今までご結婚を考えたことは?」

「仕事で手一杯でしたので具体的には……。」

「そうですか。ですが、ぜひ今回の話は前向きに考えていただきたい。やはり女性の幸せといえば結婚して子を成すこと。古臭い考えとお思いかもしれませんが、我が家に入った方は皆そう仰います。」

「さぞ素晴らしい御家なのでしょうね。仕事を生きがいとする私には荷が重いかもしれませんね。」

「いえいえ、そんなことはありませんよ。」


 皮肉が通じなかったのか。

 普段は弱気なモニカであったが、内心では呆れていた。


「そうだ、私の家にいらっしゃいませんか?」

「……急にお邪魔してご迷惑ではありませんか?」

「滅相もありません。聡明なお嬢さんですからぜひ両親にも会っていただきたく思いますし、宜しければ訓練指導もご覧になってください。」



 向こうも一切引く気はない。

 チラリとゴーシを盗み見るが、元来気の長い方ではない彼は先ほどからのエタロウの発言に苛ついているらしく、目が据わっていた。

 しかし、無理矢理表情筋を使って作った笑顔を貼りつけて、どうにかフォローをしてくれた。


「お言葉ですが、彼女には明日も任務がありますし負担になります。そして、人生の岐路を早急に決断させるようなことはやめていただきたい。」

「そんなに遅くはなりませんよ。それにそんな下心ございません。」

「それともアレですか? 現役の特務隊員はそのような外出程度で任務に支障が出てしまうほどヤワな鍛え方なのですか?」


 不意に口出ししてきたエタロウの師範の言葉に、モニカとゴーシの血管は浮き出た。

 そして我慢できなくなったのはモニカだった。



「分かりました、見学だけ伺います。」

「オイ。」


 ゴーシはモニカにしか聞こえない程の小声で諫めたが、モニカは目で訴えた。

 喜ぶ相手方を尻目にゴーシはため息をついた。


「本人が言うならばお任せします。15時には迎えの者を送りますのでよろしくお願い致します。」

「……そんなもの、必要はございませんが。承知しました。」



 彼はモニカをエスコートしながら出て行く。

 これを無碍にするわけにも行くまい。モニカは笑顔で応じる。


 ゴーシとは本部のフロアで別れ、彼らの車まで歩いて行く。



「さて、2人きりになれましたがモニカさん?」

「先生がいらっしゃるではありませんか。」

「いえいえお気にせず。先程は申し上げませんでしたが、貴女は我が家に嫁ぐのが賢いと思いますよ?」

「……どういう意味でしょうか?」

「そのままの意味です。」


 にこやかに水面下で互いの腹の中を探り合う。

 しかし、モニカはエタロウの言葉に驚かされることになる。


「現在の特務隊の体術指導員の教育費、それのお陰で多くの旧人類の指導員がそちらについているのですよ?」

「……教育費、だけではないということですか?」

「さぁ。ですが、その巡りを管理しているのは我が家であることに違いはありません。それを止めたらどうなるか、貴女ならすぐに想像がつくはずです。」


 確かに旧人類の体術指導員は常に不足しているのが世界的な実情である。特にジパングのエリアに住う人々は古き良きを知る、といった過去の風習を大切にする傾向にあり、新人類向きの体術はあまり好みでないらしい。

 そのためか、新人類を相手取ること自体を嫌がる者や旧人類の技術を提供することに抵抗を感じる者も多いようだった。


「それは脅しですか?」

「いいえ、交渉です。決断のためにも、我が家に来ていただくのですから。」

「……そうですか。」


 自己判断で動くのは特務隊の損失にも繋がる。

 嫌な汗が背中を垂れるが、決してその男の手を振り払うことも出来なかった。




「……あれ、モニカか?」

「そうっすね。何か、嫌そうな顔をしているような?」

「車も見覚えのないナンバーだな。一応報告するか。」


 ちょうどそのやりとりをしている時、遠目でケイとカジェタノはぽつぽつと会話を交えつつ本部へ急いで足を進めたことにも気付かぬほどに、彼女は余裕を失っていたのだ。

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