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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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81.審議はいかほどに

「連休明けの仕事ってキツいよなー。」

「今更だろ。」



 ヒロタダは年明けで鈍ったらしい同僚の言葉に苦笑した。

 特務隊は既に仕事が始まっており、訓練も実家から帰ってきてすぐに再開された。何ならリーンハルトはさっさと任務復帰も果たしていた。


 今日はヒロタダは本業の方だ。

 裁判所の方で、司法試験合格者の研修が始まる。ヒロタダはその合格者達の研修初日、事務手続きや施設案内の担当だった。

 名簿を見ていると何となく見覚えのある名前があった。はて、どこで見たのだろうと首を傾げながら研修室に向かう。


 途中、施設の外を歩くトレーナーを着たシュウゴがいた。声をかけると、彼は一礼して寄ってきた。


「お疲れ様です。」

「お疲れ、仕事か?」

「いえ、今日は国立図書館に。読みたい書籍がありまして。」

「そうなんだな。こうやってみるとシュウゴも学生だな。」

「……ヒロタダさんも。かっこいい社会人ですね。」


 じゃ、と颯爽と去っていく彼の背中を見送ると同僚は赤い顔をしながらそわそわとしていた。

 彼女かと尋ねられたが男だというと、彼は今日の資料をすべて落とした。











 今回の参加者はいわゆる刑事裁判の研修を受ける研修生達が集合していた。

 同僚が先程の傷など感じさせないほどテキパキと説明と研修の流れを説明していく。さすがに頭いい人達の集団だけあって作業もスムーズに終わる。


 気づけば昼休みになり、同僚とヒロタダは食堂へ行こうとした。

 すると背後からあの、と小さく声をかけられた。


「どうしました?」

「ひ、ヒロタダさんですよね? 覚えてませんか? 文化祭の時、少しだけお会いしたんですけど、シュウゴくんの、」

「あっ、ミホさん?!」

「はい! お世話になってます。」


 名簿にあった見覚えのある名前。

 それは文化祭に行った時に会ったシュウゴの同級生、ミホ・カスカベだった。確かに彼女は法学部と言っていたが、まだ学部生だったはず。

 しかし、彼女は予備試験を受け、司法試験にも合格したそうだ。類は友を呼ぶ、さすが彼の友人といったところか。


「ここで研修なんだな。」

「はい。抽選に当たって全部ターミナル範囲なんです。ご迷惑おかけしないように頑張りますのでよろしくお願いします。」

「うん、頑張ろう。シュウゴでも呼んで研修が落ち着いたらご飯でも行こうね。」

「……ッ、はい!」


 頬を赤らめると彼女はすでに友人になったらしい研修生に呼ばれて食事へ向かった。

 なるほど、彼の名を出してあのリアクションとは。ヒロタダは1人微笑ましく見守っていた。


 手を振っていると再び同僚が目をキラキラさせて近づいてきた。


「今の子可愛い〜。彼女?」

「たぶんさっきのトレーナーの子に片想いしてる。」

「何なんだよ今日……。」


 同僚は再び頭を垂らした。




 一度、事務室に預かった書類を置き食堂に向かう。2人で歩いていると、裁判員が歩いていたため、ふと同僚に尋ねてきた。


「今日何の裁判だ?」

「今日は、あの連続殺人犯の裁判だよ。新人類で、ほら能力は強力じゃないけど、身体強化も含め使い方が異様に上手いって話題になったろ?」

「あぁ……担当でなかったからそんなに気にしてなかったな。最近はそんな事件ばっかだよ。」


 物騒だねぇ、とため息をつく。

 『Dirty』関連の犯罪については、近年裁判もオープンにはされず、内々に済まされることが殆どだ。

 しかし、今回の事件は犠牲者5人のうち、1人は濡れ衣だと主張しており、それについて審議が問われるそうだ。


 そういえば、彼の班が見学する事例はその事件ではなかっただろうか。

 少しばかり嫌な予感はしつつもヒロタダは法廷を通り過ぎた。















 午後は2班に分かれて施設見学になる。

 ヒロタダの方は先に家裁や地裁の方をまわっていた。ちらほら一般の人も出入りしており、そこまで厳格な雰囲気ではないようだった。

 各部屋で行われる裁判の種類、座席や役割について簡単に説明し、書類などについても伝えていく。皆熱心にメモをとったり目に焼き付けようと集中して聞いていた。


 説明の最中、ヒロタダの嫌な予感は当たることになる。


 フロアの方から悲鳴が上がる。

 まさかと思って部屋から顔を出すと何やらフロアで暴れている男がいた。警備員が集まり、受付の職員は腰を抜かしながらも特務隊と警察に連絡を入れている。


「みんな、非常口から逃げて!」

「はい!」



 とりあえず特務隊から指示はまだ送られていない。というのも、職員は緊急連絡ボタンは押したものの応答した電話口に何も伝えられないまま、男の能力に巻き取られたからだ。

 ヒロタダはアイパッチをつける。

 もしかしたら今日の法廷に関係した事件ではないか、直感的に思った。そうなれば、向こうの加害者の能力が解放された場合、厄介なことになるだろう。

 ヒロタダはすぐ近くにいる仲間に端的にメッセージを送る。まずは目の前の不審者を倒さねばなるまい。


 幸いヒロタダの能力の強さは段階的に最下層のCである。未だ特務隊からの能力解放については指示が出ていないが、彼には関係のないことであった。


 次々と襲いかかってくる蔦を捌いていると、男はヒロタダの存在に気づいたらしい。ナイフを向けてくる。


 しかし、先日戦った七賢人とは比べ物にならない遅さ。ヒロタダは蔦を全て消して男のナイフも避けた。

 直線的で分かりやすく、またナイフを押しつけるだけで引くことによる不意の攻撃もない。

 ヒロタダはナイフをはたき落とし、足を払うと前のめっていた男は顔面から転倒した。【無効化】で能力を消しつつ組み敷いた。


「おお、すげぇ……!」

「男性の方、取り押さえるのを手伝ってください! できるだけ早く警察か特務隊を!」


 ヒロタダの言葉で、蔦から解放された警備員や男性職員が駆け寄ってきてヒロタダが組み敷いていたところに加えてさらに身体中を押さえつけた。

 もちろん、男がそこから抜け出すことは叶わず、彼はそのまま諦めてぐったりと四肢を投げ出した。













 その男の罪状は、殺人、誘拐、強姦、死体遺棄、挙げたらキリがなかった。

 男の能力は都合の良いことにヒロタダ同様能力の強さはCランクに位置付けられていた。それもそうである。彼の能力は【人の五感を鋭くまたは鈍くする】だけなのだ。


 男は身体強化と併用しつつ、被害者達の五感、特に聴力と嗅覚を一気に低下させる。

 被害者が驚いている隙をついていいようにしてしまうのだ。


 男が捕まったきっかけはとある少女を捕まえようとした時だ。襲おうとした瞬間、上から死体が降ってきたのだ。これは事実である。

 頭部にぶつかり、気絶している合間に警察が男と死体を発見し、余罪も明らかになってしまったのだ。


 男には共犯者がいた。

 1人はヒロタダが捉えた男だ。もう1人はこの場におり、法廷にとあるガスを撒き散らした、何の能力もない旧人類の男である。



「テリーさん、こっちです!」

「おうよ!」


 ガスマスクをつけた人物が呼んでいる。

 このガスは、かつての犯罪にも使用していた便利なガスで、旧人類に限り、全身を麻痺させる効能があるそうだ。

 今日の法廷聴衆は、幸い新人類が殆どいない。いや、新人類は動けるため逃げ出したのだ。


「どうします? 女を少し掻っ払います?」

「いいねぇ。」


 テリーは辺りを見渡す。

 彼はとある女性に足を引っ掛ける。腹部に当たった痛みにミホは顔を顰めた。その感触でテリーの注意はそちらに向いた。


「おっ、ここにちょうどいい女がいるじゃねぇか。大してデカくないし、顔もいい。オイ、抱えろ。」

「オレがっすか〜?」

「たりめーだろ、オレは拘束されてんだ。おこぼれはやっからよ。」

「絶対ですよー?」



 見知らぬ男に抱えられたミホは顔を歪める。

 嫌だ嫌だと首を振ることさえも許されないほどに身体が麻痺していた。


「た……す……。」




 歪んだ視界が突如ブレた。

 男がミホから手を離した。しかし、彼女の身体は床に叩きつけられることはなかった。

 代わりに男が大きく吹っ飛び、マスクさえも外れた。頭を強く打ったため、彼は脳震盪を起こしているようで呻いていた。


 ミホは優しく床に下された。


「何だお前!」

「……。」


 シュウゴはテリーが放った回し蹴りを体勢を低くして避けた。

 恐ろしいことにシュウゴはそのまま床に手をついて思い切り跳ぶ。テリーの股に向けて蹴りを放ったのだ。急所に容赦のない攻撃が入り、彼は悶絶する。

 拘束された両手で股間を抑え、涙目になりながらシュウゴを見上げる。

 彼は過去にないほどの冷たい視線を男に送っていた。



「クソ……ガ……キ、」

「クソは貴方だ。ま、そのクソガキにこんなあっさり倒されてるならそれまでです。それとも、その粗末なもの、潰しましょうか?」

「ヒッ!」


 股間ギリギリのところに足をドンと叩きつけられついにテリーは言葉を失ったようだ。

 シュウゴは興味を失ったようで、すぐにミホの方に駆け寄ってきた。


「ごめん、触られるの嫌だと思うけどとりあえず廊下に出るよ。」

「……ッ。」


 ミホは少しだけシュウゴの服を摘んで答えた。













「あれー、仕事もう終わったの?」

「ああ、ルイホァ。わざわざごめん。」

「まぁ、ヒロタダもシュウゴも能力制限ないから動けるだろうけどー。動きにくい格好だろうし気をつけてよー?」

「すまん。」

「……ごめん。」



 それから5分もしないうちに特務隊は到着した。

 シュウゴが換気をしたおかげでさほど被害は大きくなかったらしい。殆どの者は動けるようになっていた。

 ヒロタダはふとシュウゴの方を見ると彼はどこかをじっと見つめていた。ルイホァもそれに気づいたらしく2人に声をかける。


「護送も後始末もこっちでやるから1回向こう行ってきたら? 2人とも今日は特務隊の仕事じゃないし。あとで報告書追記してもらえればいいからさ!」

「ああ、ありがとう。シュウゴ、行くぞ。」

「え、ああ、はい。」


 彼の手をやや強引に引き、彼の視線の先に行く。

 ちょうど打ち身の手当てをされていたミホがいた。彼女は2人を見つけると安堵したように微笑む。


「シュウゴくん、ヒロタダさん、今日はありがとうございました。本当、打ち身で済んでよかったです。」

「ごめん、オレがもう少し早く着いてれば……。」

「どうして謝るの? 私、シュウゴくんに助けてもらえて嬉しかったよ。」



 シュウゴは無意識だったのだろう。

 彼女の頬の傷をさすっていたが、彼女がその手に頬擦りしたものだから、自分の行動に気づき固まった。



「シュウゴくんの手はすごいね。研究でも、仕事でも、いつだって人を助けるために頑張ってるんだもん。だから、そんな顔しないで。」

「それでも無性に嫌だったんだよ。」



 ポツリと呟いた言葉にミホは目を丸くした。

 その真意を尋ねようとしたとき、彼女を呼ぶ声がした。どうやらヒロタダの同僚と事情聴取を行なっている婦警らしい。

 ミホは2人に席を外すと告げるとそちらへ向かった。


 ヒロタダはその背をじっと見つめるシュウゴに声をかけた。



「あのさ、シュウゴ。怒ってるのか?」

「……そうかもしれません。ミホが、あの男に触られてた時、腹わたが煮え繰り返る思いでしたからね。でも、それだけじゃないんです。」

「どういうことだ?」


 不機嫌そうにポツポツと呟く。


「今、貴方の同僚と話してるのさえ少し嫌な感じがするんです。ミホは人の本質を見られるいい子なので人が集まってくるのは分かるんですが……。」

「それって、」



 やきもちじゃないか、とヒロタダは漏らしてしまう。シュウゴはその言葉に驚いたように目を丸くした。

 余計なことを言っただろうか。恐らくそのような経験はなさそうだから混乱するのではないか、とヒロタダは彼を心配するがそれは杞憂に終わる。


「なるほど、しっくりきました。ちゃんと説明ができると落ち着きますね。」

「……え、何その感想。」

「何かおかしいことでも言いましたか?」


 ヒロタダは逆にその落ち着きようが心配だった。

 照れるとか、そういう雰囲気もなさそうだ。

 そこへ話を終えたらしいミホが戻ってきた。


「今日はとりあえずのところ自宅療養になりました。また研修が始まったらよろしくお願いします。」

「ああ、そうだね。ところで、シュウゴ、送ってあげたらどうだ?」


「「え。」」



 ミホは分かりやすく真っ赤になってワタワタしながら申し訳ないやら何やら話していたが、シュウゴは特に表情を変えることはなかった。

 もう何を言っても照れないだろう。

 ヒロタダはコソコソと彼に耳打ちをした。


「好きな子は、送るもんだぞ。」

「……分かりました。」


 そういう彼は意外にも耳が赤くなっていた。気まずかったのか、ミホに帰ろうと声をかけると彼女も素直に頷いた。

 ああ、この子は自分より年下なんだなぁ、と遠目に見送りながらヒロタダは後処理をすべく、同僚の元へと向かった。

【こぼれ話】


 男性の中でモテるのはシュウゴですが、彼は差出人の分からない手紙贈り物は無視します。他にはルイホァ兄、ケイ、リーンハルトがモテますがケイ以外はこっ酷く振ります。

 女性でモテるのはエルナが筆頭ですが彼女は場馴れしており易々と振ります。他だとモニカ、若き頃のフェベがモテます。オリヴィアは美人なのですが大概が酒癖と押しの強さに引いてしまいます。


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