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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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77.友との約束

※残酷な描写があります。ご注意ください。

 今回の討伐は、爆発に巻き込まれた者の中から幾名か死者が出た。しかし、ジパングに蔓延っていた『Dirty』の研究所の1つを潰せたという成果はかなり大きなものだった。

 ハーマンは幸い急所を損傷することはなかった。

 肋骨を数本骨折、背部の火傷、左拳の裂傷、そしてリーンハルトが勢いよく引っ張りすぎて右肩をやってしまったらしい。

 その話を聞いた時のリーンハルトは気まずそうにしていたが、ハーマンをはじめ他の面々は笑っていた。


 そして、ルークの死体であるが渓の下流で発見された。みるも酷い姿であったそうだ。遺体は特務隊で回収され、検死をされたのち、墓に納められるそうだ。それを聞いたハーマンは安堵していた。




「にしてもハーマンが命令違反……まではいかないけど易々と単独行動に出るとはねー。」

「リーンハルトとヒロタダには事前に伝えていたんだがな……。」

「えー、私たちに言わないなんて水臭いなぁ。」

「本当ですよ。こっちの立場にもなってください。しかもオレのことかばって怪我まで……。」


 見舞いに来たエルナとルイホァがハーマンがくれた見舞品を消費する。その傍らでシュウゴが頭を抱えながら項垂れている。


「お前らには悪かったよ。リーンハルト呼んでくれたのもシュウゴなんだってな。助かった。」

「別に。実際蛇倒したのはヒロタダさんとケイですし、オレは何も。」

「というか、ハーマンも! 困ったときはあたしたちにも相談してくれて良いんだからね! そりゃ歳下のあたしたちじゃ頼りないかもしれないけど……。」


 エルナが指を落ち着きなく動かす一方でルイホァが力強く頷く。

 それを見たハーマンは笑いながら頷いた。


「ああ、次はそうするさ。」

「約束だよ! って言ってももう同じようなことはしなそうな気もするけど。」

「そうか?」

「そうよ、だってハーマン、憑物が落ちたような顔してるもの。」

「……そうか。」


 エルナとルイホァの指摘にハーマンは微かに笑う。

 そんな話をしているとリーンハルトが勢いよく病室の扉を開いた。その後ろから呆れたような顔でヒロタダがついてきていた。



「ハーマン、元気か? 今回の単独行動はお咎めなし、良かったな!」

「ああ、良かったが傷に響くからもう少し小さい声で頼む。あとでオリヴィアにどやされるぞ。」


 余程怒られたくないのかリーンハルトは素直に口を横一文字に結んだ。



「なぁ。リーンハルト、1つ聞いていいか。」

「何だ?」

「アイツの遺体から何か分かったか?」


 その場にいた4人は目を見張る。ハーマンからその言葉が出たことに驚きを隠せなかったのだ。

 リーンハルトの性格はハーマンもよく理解していた、そして反対もしかりだ。リーンハルトは淡々と答えた。


「はっきり言えば、新人類の身体強化や能力を向上させるような、いわゆるアドレナリン的な薬品の注入痕と活性後の細胞変異は見られた。

 だが、他には何も見つからなかった。」

「そうか……。」

「なぁ、そのアドレナリン的なのって?」


 ヒロタダの疑問にリーンハルトが答える。


「ここ最近の話だ。下っ端で確認されたことだが、一時的に新人類の身体機能や能力を強化させる薬剤が『Dirty』では開発されているらしい。」

「そんなことが可能なの?」

「ああ、だがそういった薬剤には必ず副作用がある。」


 ルイホァの質問に指を立てながらリーンハルトは要素を述べた。


「ルークさんの身体から分かったことは2つ、1つ目はその薬剤の使用により細胞の再生や死滅速度が格段に上がり心拍や全身の血液循環の向上があり得ること。2つ目はその薬剤が未完成であること、だ。」

「未完成なんですか?」

「あぁ。遺体によって効能が異なる。つまりは実験段階ってことだろうよ。」

「……実験か。」


 ハーマンはため息をついた。しかし気遣わせる間もなくリーンハルトに質問を続ける。


「だが、それが完成して七賢人にも投薬されるようになれば……。」

「あぁ、事態は最悪。ただでさえ数人がかりでどうにかするしかない相手が化け物になるようなもんだ。」

「そうだな。」



 実際気圧されたことのある面々は渋い顔をする。

 この場を沈黙が支配しかけたところで、さて! とリーンハルトが少しばかりわざとらしく手を叩いた。



「そろそろハーマンのご家族さんも来る時間だし、オレらは退散の時間だ! ほれ、いくぞ!」

「分かりました。」

「うん! あ、ハーマン!」


 ルイホァの呼びかけにハーマンは顔をそちらに向ける。


「怪我治ったら気分転換にみんなで出かけよう! エルナとケイと計画中だからさ! 楽しみにしててね!」

「……ああ、ありがとな。」

「うん! じゃあまた!」

「お大事に。」


 シュウゴに続いてルイホァ、エルナと退室する。一瞬シュウゴが固まっており、その背にルイホァがぶつかったが、エルナが誘導し3人はさっさと出て行ってしまった。

 ヒロタダも3人に倣って退室しようとした時だった。



「なぁ。リーンハルト、ヒロタダ。」

「はい?」


 思わぬ呼びかけにヒロタダは驚きながらも足を止める。リーンハルトは呼び止められるのを分かっていたのか、先ほどの位置から一歩たりとも動いていなかった。

 ハーマンは先ほどまでの冷静な表情など嘘のように悔しげに下唇を噛んでいた。



「オレは、何か守れたのか。」

「……。」

「それは、」


 ヒロタダは言葉を紡ごうとしたが、彼の震える手を見たら、とてもではないが何も話せなくなってしまった。


「分かってるんだ。オレがアイツと面と向かえたこと自体が奇跡で、勝てたことも幸いな結果だったって。あそこでルークがオレの手を離してくれなきゃオレも岩壁の下に落ちていた。

 だからこそ、オレが何か1つ違うことをしてたら、また3人で笑う未来があったんじゃないかって思っちまう……。」


 先程から彼はずっと悪い、悪いと呟く。


「オレだって、同じだ。あの時、こうしていればなんて沢山ある。でも時間は戻らない。分かってるんだけど、どうしようもねーんだよな。」


 リーンハルトの言葉にハーマンは頷く。


「最期、どんな会話したかは知らねーけどその価値について問うのはオレじゃねぇよ。」



 チラリと彼が出入口の方を向くと、ハーマンの妻であるサクラが目を真っ赤にして、リツキを抱えシオリの手を引きながら立っていたのだ。

 リーンハルトに倣ってヒロタダも道を譲る。

 ハーマンは驚いたように口を開けたまま彼女を凝視していた。

 サクラがつかつかと歩み寄ると、先ほどまでのエルナとルイホァが座っていた椅子に子供2人を座らせ、自分はハーマンの傍らに立つ。



「……ルーク、何て言ってた?」

「オレたちのことをが大好きだったと。本当は死にたくないって。オレが生きて誰かのために戦い続けて、幸せになれって……。」

「なら、私たちにはその言葉を実現する義務があるわ。」


 ベッド横に置いてあった、今回の戦いでハーマンが持ち出した栞に優しく触れながらサクラは、涙をこぼしながら花開いたような笑顔を見せた。


「貴方はこれからもこの子たちのために、そして貴方の仲間たちのために戦うの。でもこれからはルークの願いも背負っていくわ。

 私には戦えないけど、その願いを一緒に背負うことはできる。だから、」



 彼女の言葉にハーマンは再び涙をボロボロとこぼす。そして優しく包み込んだサクラを抱き返す。

 その両親の様子をシオリとリツキが不思議そうに覗き込む。



「パパもママも泣いてるのー?」

「泣き虫さんだ! リツが慰めてあげる!」

「あぁ……ありがとな。オレは幸せモンだよ。」


 両親の頭を撫でる2人を見てリーンハルトとヒロタダは顔を見合わせた。



「ハーマン、色々報告もあると思うが急がなくていい。ゆっくり休め。」

「ああ。」

「そんでまた、オレたちのことよろしくな。」


「……恩に切る。」



 リーンハルトは手をヒラヒラと振るとヒロタダと共に病室を出た。

 今日はヒロタダが車で来ていたため、本部に戻るべくリーンハルトは同乗させてもらうことになっていた。慣れた様子で助手席に乗るとヒロタダは口を開く。


「正直、僕もさ。迷ってたんだ。」

「ハーマンを1人で行かせたことか?」

「うん。あの場ではケイとシュウゴがいた。ケイは賛成するだろうし、シュウゴは反対するだろうから、結局は僕次第だったんだろう?」

「まぁ、そうだな。」


 事情を知らなくとも、ケイはハーマンが一言昔の知り合いだと言えば迷いなくハーマンに行くことを勧めただろう。一方でシュウゴは可能であれば止めたかったはずだ。そして、ヒロタダがそれに賛成すれば迷わず止めたはずだ。

 事情を知るヒロタダの言葉を、ハーマンを信じて、追いつけないとか言い訳を重ねてどうにか己を押し留めたのだろう。


「だが、オレは誰の選択も間違いとは思わねーよ。行かなきゃハーマンは怪我しなかった、行けば、まぁ命の危機には至ったがちゃんとけじめがつけられた。

 どっちでも良かったのさ。」

「なら、いいんだけど……。」

「ハーマンはどっちにしろ、お前にもう1回くらい礼を言いそうな気もするけどなぁ。賭けるか?」

「いやだよ。リーンそういうのは強そうだ。」



 本気で嫌がるヒロタダの顔を見てリーンハルトはくすくすと笑った。

 さて、冷えてきた空気を窓から車内に入れつつ、リーンハルトは遠くの空を見つめつつ目を細めた。

【こぼれ話】


 ハーマンのライターはルークがこっそり誕プレにあげたものです。

 サクラはタバコを猛反対していたため、これは2人だけの秘密です。

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