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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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75.慟哭の渓 -喧嘩-

※戦闘シーン、残酷な描写があります!

ーあらあら、あんな高い場所から落ちて生きているなんて幸運ですね。大丈夫そうですか?

ー……情けは不要、殺せ。

ー強がりですねぇ。


 不愉快だった。

 手に刻まれた『d』の文字、戦場に似合わぬ柔和な笑みも、穏やかな声も。


ー貴方はまだ生きたいんじゃないですか? まだ伝えたいことも、したいこともあるんじゃないですか? 沢山の後悔を抱えたまま死んでもいいんですか?


 後悔、強いて言えばアイツらの子どもの顔を見られなかったこと、プレゼントを渡せなかったことか。


ー本当にそれは貴方の願いなのでしょうか? もしかしたら、その願いを友人は滑稽に思っていたかもしれない。

ーそんな、こと。

ー君は否定できるのですか? 助けも来ずここで1人命の火を絶やそうとしている、見捨てられた君に。


 甘い匂いがした。

 甘美で、ひどく魅力的な香りだ。気づけば思考も、思い出も、感情もとろけてしまい、たった1つしか考えられなくなっていた。

 命の火を燃やせ、愛おしい、憎らしい、あの人たちを殺すために。











「【毒蛇】!」

「【鋼糸】!」


 複数の蛇が土から作り出され、ハーマンに襲いかかる。幸い、かつて蛇の種類については本人から聞いていたため、真っ先に切り刻まねばなるまい毒牙を持つ蛇についてはすぐに判断できた。


「遅い遅い遅い!」

「!」



 昔とは比べ物にならないくらい能力発動が速くなっている。

 加えて、一度に召喚する蛇の数もかなり多い。時間があったとは言え、施設にあれだけの蛇を召喚できるほどの実力は確かにある。

 しかし、ハーマンも負けじと次々に蛇を細切れにしていく。毒のない蛇についても踏みつけたり握り潰したりと手段を選ばずに倒していく。


 ふと、妙な動きをする蛇が視界に入る。


 その蛇は突如手足を生やして確実にハーマンの首を狙う。そこで初めて本体と思っていたルークが脱皮した抜け殻ということに気づく。


「もらったァ!」


 ルークが持つナイフがハーマンの顎をかすった。

 しかし、そちらは囮。

 右脇腹にルークの回し蹴りがモロに入る。強烈な一撃に一瞬息が止まる。ハーマンはぐらつく身体が倒れぬようどうにか踏ん張りルークの足を右手で掴む。そのまま彼の鳩尾を思い切り蹴る。

 リーチはハーマンの方が長いため、余裕で届いた。足をつかんでいるため彼の股関節もミシミシと嫌な音を立てた。


 突如掴んでいたルークの足がするりと抜ける。

 何が起きたか分からずそれを確認するとどうやら再び脱皮したようで、ルークはハーマンから距離をとったらしい。

 その隙に飛びかかってきていた蛇を一掃する。



「……残念だな。ハーマンが痛み分けとオレに与えたダメージは無駄。そして、怪我を負い脱皮するたびにオレは強くなる。」



 言った通り、はじめに与えた拳のダメージも、嫌な音を立てた足もどうやら無効にされたらしい。

 ルークの手に浮かび上がった瞳が2つ開いている。まだ瞑っている瞳はあと2つ。つまりは2回の攻撃のうちにルークを倒さねば、何らかの奥義が発動するのだろう。


 一応のためにハーマンも誰にも見せたことのない奥の手は準備してある。だが、それを発動するにはルーク同様時間が掛かるのだ。


「可能であればあと2回のうちにとどめを刺す、か。」


 ハーマンは1枚上着を脱ぎ正面に捨てる。

 ルークは余裕で身構えていたが、すぐに危険を察知する。ハーマンは上着の影に身を隠して、身体強化を伴い急接近してきたのだ。

 彼はかつても刑事課に所属しており敵と面と向かうことが多かった。しかし、得意としていたのは暗器の取り扱いや不意打ち、待ち伏せの類だった。


「不用意に接近とはお前らしくないな! 【蛇手拘束】!」


 ルークは手を蛇のように唸らせながらハーマンに巻き付かせた。ハーマンは糸を己が身に巻きつけるとその反動を利用して、身体を高速で回す。そこで初めてルークはせっきんじたいが罠ということに気づく。

 彼のインナーは鮫肌のように荒れており、ルークの手をボロボロにする。

 思わぬ痛みに顔を歪めるがもう片方の手を変形させると、ハーマンの頭蓋を砕くため振るう。


 彼は足底板を器用に外すとそこから針を無数に飛ばす。


 ルークの眼球に刺さったらしく彼は呻きながら腕を振り回す。予測できない動きにハーマンは吹き飛ばされる。

 すぐに体勢を立て直す。

 脱皮されたらせっかくの仕込みも意味を成さない。


「3回目ェ!」

「【鋼糸網】。」


 頭上にはネット状に配置された糸が振りかざされる。このまま攻撃を受ければ細切れだろう。しかし、ルークはにやりと笑うと手を伸ばしてあえて切られた。

 ハーマンはそこでこの技が愚策だったと気づいた。


 引こうとしたが手遅れ。

 彼は4回目の脱皮を行なった。


 刻まれた手は脱皮により再び無傷となる。

 ハーマンは本能的に逃げねばなるまいと感じた。明らかな狂気を含んだ視線が嬲るようにハーマンに絡みつく。

 しかし、彼に逃げるという選択肢はない。

 ハーマンは勝利のためにとある方向へ最後に糸を伸ばした。



「もはや何をしても無駄だ! 【岩蛇眼(メドゥーサ)】!」

「ぐっ!」



 動きがピタリと止まる。

 ハーマンは自身の四肢が岩になっているような感覚に襲われる。

 歯を食いしばって動こうと試みるもミシミシと身体は嫌な音を立てるばかりだ。



「……やっと、お前を殺す日が来た。」



 ナイフを手に持つと、興奮を抑えられないのか顔を紅潮させながら、蛇になった髪を蠢かせながら寄ってくる。


「お前は、昔からオレのことを殺したかったのか? お前が言った幸せは嘘だったのか?」

「幸せだったよ。だからこそ、お前らへの憎悪に気づけなかったんだ。」

「……オレ達の子どもを抱くまで死ねないっつった約束守ろうとしてくれたんじゃないのかよ。」


「……オレが、お前らの子を抱く?」



 ルークは首を傾げた。

 純粋に意味が分からないといった様子だった。



「おかしい、そんな約束してない。お前らは子どもができた時、オレに一切子どものことなんて。」

「そんなわけあるかよ。これを見ろ。」


 ハーマンは辛うじて動く左手で胸元から手帳を投げ捨てる。恐る恐る、といった様子で彼は拾い上げる。

 そこには見覚えのある “シオリ” が挟まっていた。


「娘から、借りてきた。返さねーと怒る。甘やかしすぎたせいかだいぶワガママになったな。」

「……見覚えがある、これ、」



『当たり前だろ。親友たちの子どもを抱くまで死ねないに決まってる。』



 その栞を拾うと頭が一気に熱くなりぐちゃぐちゃに掻き回されるような不快感が身体中に走る。


 ルークは知っていた。

 大切な人の笑顔も、言葉も、自身に向ける優しい感情も。

 知りたくなかった、いや、思い出したくなかった。こんな暖かい気持ちなんて。


 目元からは涙が勝手に溢れる。

 かつての自分が叫んでいる。だが、ルークはその気持ちに無理やり蓋をする。全てを切り捨てるために、ルークは刃を振りかざした。



「オレは知らない! 知りたくない! オレは、お前を……!」

「悪いな、オレも死ぬわけにはいかねーんだ。」



 ルークは不意に背後に気配を感じる。

 思わぬ巨大な伏兵に目を見開く。

 ギリギリのところで間に合った。ハーマンは辛うじて動く指を動かして絡繰を操るかのように蜘蛛を操る。


「【糸蜘蛛】。」

「……ッ、だが、」



 そう、この蜘蛛は他の能力のように本能を持ったものではない。あくまでも人形のようなものだ。

 蜘蛛が噴き出した糸を浴びてしまったが、然程の影響はない。多少ベタつくものの刃を振るうには問題はなかった。


「……悪かったな。道連れだ。」

「ッ、ライター!」


 糸を伝ってライターの火が辺りに一瞬で広がる。

 それは勿論、糸に纏われたルークの身体も同様だ。目の前の男の身体が火だるまになる。しかし、糸の着火などたかが知れている。

 本命は糸の足が焼けて失われた巨大な蜘蛛の傀儡がルークを襲うことだ。


 轟音を立てながら森中に木をなぎ倒し、ルークを押しつぶす。

 不意に身体の自由が効くようになり、ハーマンはぐらりと身体を地面に投げ出した。





 どうにか、倒せたらしい。

 安堵すると急に脇腹が痛む。恐らく肋骨が折れているのだろう。蛇に噛まれた小さな傷もジンジンと痛む。身体を無理やり叩き、どうにか立ち上がる。

 自分の肌さえも傷つけるインナーを脱ぎ捨て、上着を拾い上げて着る。それから潰された親友を引き摺り出す。


 やっと、やっとだ。


 じわりと目頭が熱くなる。

 最後の様子を見た限りでは恐らくーー。


 娘から借りた栞を手帳ごと上着のポケットに入れる。暫く起きそうにない彼に肩を貸してどうにかルークを背負う。

 痛みに耐えながら立ち上がる。


「……ッ、はぁ、」


 息を整える。

 2人を背負った状態で対岸に行けるだろうか。

 通信機をつけようとした時だった。




「哀れな者どもだ。確約のない約束のために己が身を焼き焦がしながら争い合う。」

「……お前、」



 この圧は知らない。だが確かに強者のもの。

 間違いない、七賢人だ。


 周囲に漂う靄に嫌な予感がし、ハーマンは背を見せないようにしながらも後方に逃げる。



「我を強者と見極め、逃げる。利口だ。だが。」


 突如足元の岩が崩れバランスを崩す。

 こんな風化した岩などあっただろうか。

 そして不意に迫った殺気に気づき、ハーマンは冷や汗を垂らす。すでに男が目の前に飛び込んできていた。



「哀れな特務隊に死を。」




 終わりだと、思わされた。




「殺させねーよ!」



 対岸から飛んできた氷の柱に男は吹き飛ばされる。

 ハーマンはそのまま尻餅をつきながらも、ほっと安堵する。だが、それも束の間。

 足元に転がる爆弾。ハーマンは息を飲んだ。


 次の瞬間には辺りが爆風に包まれる。



「「「ハーマンさん!」」」

「ハーマン!」



 同僚の悲鳴がその場に響く。

 いち早く対岸にたどり着いたリーンハルトとヒロタダはそれぞれ七賢人の男とハーマンに向かった。

【キャラクター紹介】


ルーク・オッターバーン (57話より)

34歳 174cm

うねった白髪を肩くらいまで伸ばしており優しげな顔をしている。元は真面目で誠実なお人好しであったが、現在は残忍で冷酷で交戦的な性格になってしまった。

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