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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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73.慟哭の渓 -攻城戦-

「こちらリーンハルト小班、聞こえるか?」

『こちらハーマン小班、チェックポイント到着。』



 リーンハルト達は皆とある大仕事に就いていた。

 イワテにあるこの渓は、エリア:ジパングでも有数の大きさを誇るものと言われている。場所によっては50mにも及ぶ高い岩壁も存在しているような所だ。


 リーンハルトはエルナ、ルイホァ、オリヴィアをはじめとして、本部近くに待機することになっていた。

 今回の任務は、最近見つかった現在も稼働しているらしきプラントへの特攻であった。相変わらずの監査局は見事稼働中の相手のアジトを見つけ、悟られることなく攻略作戦を組んだ。

 総力戦とまではいかないが、かなりの人数が呼び出されて十分な準備がなされていた。



「いいな。何かあればすぐに連絡。」

「了解っす!」


 リーンハルトは襲撃部隊となったハーマン、シュウゴ、ケイ、そしてヒロタダに通信機を渡しながら入念に確認をしていた。

 ヒロタダとシュウゴが通信機を設定していると準備が終わり暇を持て余しているらしいオリヴィアが話しかけてきた。


「そういえば最近あの能力を取り入れる武器の構造が分かったって知ってるかしら?」

「『Dirty』が使う特殊な銃弾や爆弾のことですか?」

「そうそう。まだ実用化まではいってないけど。シュウゴくんはヴィリくんから何か聞いていないのかしら。」

「探り入れるのやめてもらえます?」


 彼はため息をつきながら呟いた。そんな言葉でオリヴィアが引かないことはとうの昔に知っていたため、シュウゴは言葉を選びながら答えた。


「設計図をいくつかうっかり見てしまったことは認めます。でも、実用試験をクリアしていないものを作る気にはなりませんね。」

「まぁ暴発したら怪我するもんな。」


 ヒロタダの言葉に頷いた。

 一か八かの物をつくる暇があるなら彼は別の物を大量生産するだろう。オリヴィアは残念、と笑った。




 そんな雑談を交わしていると、指揮官から号令が掛かる。

 各小隊の動きの確認をする。

 ハーマンが率いる小隊は奇襲部隊に配属されていた。主な戦闘はケイやハーマンのようなタイプが、必要証拠品の回収はヒロタダやシュウゴのようなタイプが行うように指示されている。

 他の奇襲部隊も同様の編成らしい。


「もしオレが指示できない状態になったらシュウゴかヒロタダに任せるからな。」

「「了解です。」」

「ちょっとお三方。」


 先んじて施設の方を見ていたケイが3人を呼ぶ。

 ケイに倣ってハーマンが草むらから顔を出す。


「どうした?」

「なんか変な臭いしません? こっちちょうど風下ですしあの施設からでもおかしくないですよね?」

「……分かるか?」

「ハーマンさんが分からなかったら、僕は分かりませんよ。」


 首を横に振るヒロタダを他所にハーマンが顔を出していた場所からシュウゴが顔を出して目を細めた。


「ハーマンさん、ヒロタダさん。あの施設の構造って気になりません? 前にヤンさんが何か言ってた気がするんですけど。」

「……窓の位置とかか。」


 あ、とヒロタダは何かを思い出したかのように手を叩く。


「そういえばこの前の飲み会で耐震性とデザインの話してなかったか?」

「あ、それです。」

「酒入ってるとさすがのシュウゴさんでも覚えてないんすねー。」


 物珍しいものを見たとケイは楽しそうに笑う。

 それが少しばかり悔しかったのか、わずかに眉をひそめるとヤンの話を思い出すかのように思案する。



「確か、窓の位置、壁の位置が不規則なもの、構造上複雑なものだと、どうしても脆弱な場所ができる、って話でしたね。」

「……家建てるときにメーカーの販売員が言ってたな。」

「打ち合わせの時にみた上空図ってフツーに四角だった気がしますが。」


 ううん、とケイは首をひねる。

 確かにケイが言う通り四角だった。しかし上空図などあてにならない。ハリボテの可能性もあるのだ。


「屋根がハリボテの可能性もあるけど、そうなるとあえて崩れやすく作ってるってことだよな?」

「そうですね……。」

「大方、証拠隠滅はたまたオレたちを『Dirty』の人間ごと生き埋めにするつもりだろうよ。」

「……ケイ、さっきした臭いってアーモンド臭じゃない? 甘い臭い。」

「え、なんで分かったんすか?!」


 ケイの言葉で3人はその正体が分かった。

 ハーマンは通信機を繋ぎ、本部に報告を始めてしまったため、事情を飲み込めていないケイだけ目を白黒させていた。


「アーモンド臭のする薬品、授業でやらなかったか?」

「……あ、ニトログリセリンすか?」

「そう、ニトログリセリンはそのままだと小さな衝撃でもすぐに爆発する物質だよ。配合を変えて使われるのが常だけど。薬剤にも使われているから発注してもさほど怪しまれなかったんだろうね。」



 分かっているのかいないのか、彼はほうほうと聞いている。解説が終わったあたりでハーマンの報告も終わったらしい。

 全体に向けても似たようなアナウンスがされる。勿論プラスアルファの情報を加えて、である。



「透視の結果、ハリボテらしいな。」

「もし爆発したらどうするかね。」

「爆発しないように、だろ。作戦変更、オレが先陣切る。爆発した時はシュウゴ、頼んだ。」

「わかりました。」


 シュウゴは作戦が始まるまでに武器などの文字を書くようだ。後ろに下がり作業を開始した。

 本部からはおおよその敵の人数、爆薬の位置、退避用ワープホールの位置などが次々と送られてくる。



「ヒロタダさん、ヒロタダさん。」

「何だ?」

「オレ、あんまりハーマンさんが戦うの見たことないからちょっとだけ楽しみなんすよね。」


 確かに、意外と現場で戦う姿は見たことがないかもしれないとヒロタダも思い返す。


「何かリーンハルトさんとかルイホァの戦いって結構派手じゃないっすか? でもハーマンさんって職人、って感じでかっこいいんすよね。」

「……そうだな。でも、あんまり呑気なこと言ってる場合じゃないからな。」


 そっすね、と無邪気に笑いながら前を向き直る。
















 作戦決行の刻だ。



『奇襲部隊、行動開始せよ。』



 ハーマンが片手を挙げると同時に、3人も動き出す。事前に聞いていたルートに飛び込む。

 シュウゴが窓を静かに鍵開けし、廊下に入れるようにすると、ハーマンがするりと入る。正面にいた研究員2人を一瞬で切り刻んだ。

 味方である3人も息を飲むほど、容赦なく一瞬だった。


「止まるな、いくぞ。」


 振り返り、口パクで伝えると、ヒロタダはすぐに頷いた。ケイもそれを見て頷き、シュウゴの手を引いた。彼もハッと正面に意識を戻すと、研究員の姿を認めてから3人について動き出した。

 研究室を開き、そこにいた職員をハーマンが無力化すると、シュウゴが本部から預かったハッキングウイルスを装置に挿し込む。

 慣れた手つきで機器を操作していき、パスコード入力も一瞬で複数パターンこなしていく。

 恐らく勘であろう、適当なファイルをパッと開く。



「開きました。」

「なんだ、この文字列。」

「……。あ、」


 シュウゴには何か思い当たるものがあったのだろう。何かを口にしようとした時だった。

 画面前面に一気にアラートが広がる。


「向こうにバレたな。ケイ、ニトロの臭いは?」

「この辺はしません。」

「なら、暴れろ。」

「……了解です。」



 勿論、着火しないようにケイが出すのは【黒炎】である。

 本部の指示もほぼ同時だった。


 ケイが廊下に飛び出ると、案の定敵人員がこちらに来ていた。しかし、ケイは臆することなく次々と倒していく。

 さらに起きようとすればハーマンが弱った者たちにトドメを刺していく。

 シュウゴも顔を出し、確実に足など相手の動きを封じる箇所に銃口の狙いを定めていく。ヒロタダはその者たちの能力を無効化にしながらも急所に攻撃を入れていく。


 各部隊から制圧完了の連絡が来る。

 ハーマン達も同様に制圧を済ませたところであった。


 ケイはピタリと動きを止める。

 先程外で嗅いだ、アーモンド臭というやつが急に香る。しかも、先ほど嗅いだような微かなものではない。強く、殺意を感じるような。



「ハーマンさん! 脱出しましょう!」

「……分かった。」

「うわ!」

「っ!」

「せーのっ!」


 ケイが窓ガラスを近くにあった消化器で割ると、シュウゴを脇に抱え、ヒロタダの首根っこを掴んだハーマンが飛び出す。それに続いてケイも飛び出す。

 それと同時だろうか。

 背後で嫌な焼ける臭いがする。



「ケイ、オレに捕まってシュウゴも抱えろ!」

「ハイ!」

「【鋼糸】!」


 ハーマンが糸を木に巻きつけると同時にケイが器用にも空中でシュウゴを抱え、ハーマンの腰に抱きつく。

 その感触を確認するとハーマンは手に持っていた糸を一気に短くして移動する。その速さにヒロタダもシュウゴもそれぞれハーマンとケイを必死に掴む。


 そして4人の耳には、猛烈な爆音が届き、身体は熱を孕んだ塵風によりぐんと一気に加速した。


 その姿を見つめるとある男の視線には気づかぬまま。

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