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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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71.病院の噂

「いやぁ、すまんな!」

「本当だよ。食あたりで入院って何してるの。」

「研究室の飲み会でやってしまってな!」

「一人暮らしなんだから気をつけなよ。救急搬送って聞いたから何事かと思った。」



 病院の一室。

 皆が任務をしている間、シュウゴは学会準備の合間に同級生のチュウジロウの見舞いに来ていた。

 彼は先日研究室の飲み会で牡蠣にあたったらしく、一同で運ばれていた。一人暮らしの彼は両親が遠方かつ高齢であるため、シュウゴに頼んで着替えを持ってきてもらった次第であった。


「このまま帰るのか?」

「うん、チュウジロウの顔も見れたし。」



 そういえばここはオリヴィアが勤めている病院だったかとふと思い出す。彼女は新人類を対象として治療を行なっているはずだから隣の病棟か。

 せっかくだから挨拶でもしていくかと一言連絡を送り売店で差し入れを買おうと腰をあげる。


 オリヴィアは果たして何が好きだったか。

 酒以外思い当たるものがないまま、お菓子売り場を見ていた。何やら視線を感じながらも、彼女から返信が来たことを確認すると、適当に商品を買って売店から出た。


「シュウゴくん、わざわざありがとうね。」

「いいえ、休憩中でよかったです。これ、友人が世話になってます。」

「そんなの良かったのに。でもせっかくだからいただくわね。」


 ちょうど昼休憩だったらしい彼女は弁当片手に中庭に出てきていた。

 シュウゴも一緒に買ったコーヒーを片手に隣に座る。



「今頃みんなも任務ねぇ。」

「そうですね。留守番も落ち着かないもんですね。」

「私は遠出する任務は外されるからよくあるけど。リーンハルト班の一員としては寂しいわねぇ。あ、美味しい。」


 菓子が口に合ったらしいオリヴィアは顔を明るくする。シュウゴはそれを見てほっと安堵した。

 それから雑談を交わしていると1人の女性が2人に近づいてきた。


「あ、あの、特務隊の方ですよね?」

「……確か貴女、看護師の。」


 心当たりがあったらしいオリヴィアに対し、シュウゴは見覚えのない女性に戸惑った。

 女性はあわあわと手を横に振って小声で2人にしか聞こえないように言った。


「シンジュク駅での事件でお世話になったんです。あの時炎の子と戦ってましたよね? ヘドロから腕で庇ってくれた人ですよね?」

「ああ。」


 確か、怪我人を止血してくれた女性がいて、結果として逃げ遅れてしまった。その人を敵の攻撃からシュウゴが守ったのだ。

 言われてみれば確かにこんな顔だったと手を叩く。


「声で分かりました! あの時はありがとうございました。お陰様で元気にやってます。」

「何よりです。」



 素っ気なくも嬉しそうに呟くシュウゴをオリヴィアはにこにこと微笑みながら見守っていた。

 そういえば、とその女性はオリヴィアに向き直った。



「オリヴィア先生今日当直ですよね?」

「ええ、そうよ。……もしかして、また出たとか言うんじゃないわよね?」

「そのまさかですよ。」


 表情に翳りを帯びながら女性が言うとオリヴィアは呆れたような、しかし少しばかり嫌そうな表情を見せた。


「何が出たんですか?」

「そう、聞いてくださいよ。旧病棟の霊の噂。」

「……。」

「露骨に胡散臭いって顔しないでくれる?」


 シュウゴは興味が唆られなかったらしく、前のめりになった体勢をベンチにもたれさせてしまった。

 恐らく霊に対して怖い、という感情も持ち合わせていないらしい青年に、揶揄うことができず残念、と思いながらもオリヴィアは説明を引き継いだ。



「最近噂になってるのよ。旧病棟、今の当直室やら短期職員寮、倉庫がある場所なんだけどことのはじまりは2週間前。」

「……へぇ。」


 シュウゴは渋々話に耳を傾ける。

 女性も生き生きと話し始めた。


「はじめは看護師の仮眠室で事件は起きたんです。かたかた音が聞こえて、当日の看護師ははじめは同僚か担当の医師が何かしてるってくらいにしか思っていなかったそうです。

 でも、徐々に物音が大きくなるものだから気になって部屋を出てみたんです。」

「そしたら、廊下に赤い服を着た少女が何かを持ったまま歩いていたのよ!」

「何か、とは?」


 シュウゴの質問を2人は待ってましたと言わんばかりにズイ、と迫る。



「「ヒトの生首。」」

「……見間違いでは?」


「違うんですよ!」



 オリヴィアは案の定つまらない反応をしたシュウゴにやれやれと首を横に振る。


「噂によるとその女の子が持っている生首は毎回変わるらしいんです。その生首は本物ではないんですけど実在する人物の顔が映し出されているらしくって、その対象になった人は不幸になるんですよ!」

「不謹慎だけど、死期の近い人や、今まで事故した人とかの生首を持ってたってことですか?」

「ビンゴです!」


 そんなこと当たっても1ミリも嬉しくない。

 シュウゴはほぼ初対面の女性に対して呆れたように言い放った。


「それは、何かを少女と見間違えた状態で看護していたあるいは担当していた人の顔がよぎっただけでは?

 もしくは疲労が溜まっていた矢先そんな幻覚を見て思い込みをした職員がたまたま事故したんだと思いますが。」

「私もそう言ったのよ、でも。」

「いいえ、その現象は断固として事実です!」


 シュウゴとオリヴィアは顔を見合わせた。

 他の班員であればもう少し信じたり怯えたりなどリアクションを取ったであろう。しかし、女性が相手しているのは、リーンハルト班の中でも筆頭の博識者達であり生粋のリアリストだ。

 そのような霊現象は基本的に信じない。


「最近は、その噂のせいでみんな仮眠室に寄りつかないですし、夜勤もみんな嫌がるんです。しかもその事故に遭った人たちの穴埋めもしなきゃいけませんし。

 オリヴィア先生信じてないならどうにかしてくださいよ!」

「とは言ってもねぇ……。」



 オリヴィアは横目でちらりと見る。

 シュウゴも目線を逸らしたが無駄な努力だったようだ。


「特務隊はそういう仕事は承ってませんが。それに病院に部外者が入るのはよろしくないのでは?」

「不審者対策だし大丈夫よ! 万が一、新人類による悪戯だったら問題だし、報酬弾むわよ? この前言ってた学術書、この病院の名前使えば安く取り寄せられるんだけどなー?」


 シュウゴの肩が揺れる。

 ひとしきり悩むと誘惑に勝てなかったのか、分かりました、と了承する。オリヴィアと女性はにこやかに手を叩いていた。















「で、何で俺が呼び出されたんだ?」

「どこか行こうぜって言ったじゃないですか。」

「いやいやシュウゴくん、オレは飲みに行くとかメシに行くって意味で言ったんだぜ? 何でまた夜の病院……。」


 青い顔で呟くのは、たまたまシュウゴを食事に誘おうとしたパウルだった。あの後、大学に行っている間にオリヴィアが正式に任務として依頼したらしく迅速にシュウゴに連絡が来た。

 そしてたまたま本部で会ったパウルを連れてきた次第である。


「あー、パウルさんもきたのね。」

「何だよそのリアクション。」

「自問自答してみればいいんじゃないですか?」


 バツが悪そうに彼は舌打ちをした。

 シュウゴは何が問題だったのか心当たりが無く、首を傾げたがすぐに考えることをやめた。



「基本的に案内はするけどコールが入ったら私は離脱するわ。何かあれば通信機で連絡してね。」

「はい。」

「さっさと終わりにして飲みに行こうぜ〜。」


 パウルは先ほどから重いため息を何度もつく。

 そこまでかと、少しばかり罪悪感が湧いたがシュウゴはさっさと解決をする方が大事と思い、その場の現象に集中した。



「それで、例の少女が現れる日時場所なんだけど、曜日は決まってなくて、大概夜に何回か出てくるのよ。主に仮眠室と手術室、当直室も時々。」

「ありきたりな霊安室とかには出ないんですね。」

「まぁ行く人も少ないもの。」


「おいお前ら。」



 不意に声をかけられて2人は振り向く。パウルは神妙な顔をしている。



「不審者を捕まえる仕事じゃないのか?」

「……不審者の少女です。」



 この恐がりな男がついてきた理由がオリヴィアはやっと理解できた。

 恐らくシュウゴはパウルの弱点などと夢にも思わず、自身が報告した不審者対策という内容をそのままパウルに伝えたのだろう。

 彼の顔はいよいよ青くなった。


「バッッッカお前、それって例の少女じゃなくて確実に霊の少女じゃねぇか! そんなん対策しようがねーだろ!」

「そんな非科学的なこと信じているんですか。」


 シュウゴは純粋に驚いたらしく目を丸くしていた。気まずそうにしていたパウルは完全に油断しきっていたシュウゴの頬をやんわり抓る。


「むしろ能力による幻影だとか、不審者の方がよっぽど怖くねーんだわ。こう、正体が分からねーからこそあれなんだわ。」

「怖いんですよね。」

「……。」



 オリヴィアの追撃を受けて黙り込んでいると、パウルの首元に何かひんやりしたものが触れる。

 この後輩はとことん人を揶揄うのか、リーンハルトに後からクレームを入れねばなるまいと考える。


「シュウゴお前ふざけんなよ。やっていい冗談とやって悪い冗談があんだろ。てか手冷たすぎだろ。」

「……パウルさん、貴方誰と話してるんですか。」



 喉がひゅっとなる。

 確かにシュウゴとオリヴィアはそれぞれ横と正面におり、ジッとパウルを、いや彼の背後を見つめている。今自分が払った手は一体誰のものなのか。

 背中をだらだらと汗が滴り落ちる。ゆっくりと背後を振り返る。




『オ……ニイ…チャン……。』


「で「キャアアアアアア!! 出たァァァァ!!」



 視界の端に少女を捉えたパウルはシュウゴとオリヴィアを抱き抱え全力で走り出す。そのまま3人は渡り廊下に飛び出た。

 寒気が治ったため、パウルはその場に2人を下ろして肩で息をする。思わぬ速さにシュウゴは呆然としていた。


「ちょっと、身体強化使ってまで逃げないでもらえるかしら?」

「いやいやいや逃げるだろ。やべ、腰抜けたわ。」

「情けないですねぇ。」

「……オレは戻ります。」


 気の抜けたやりとりをしていた横で何やら勝手に思案していたらしいシュウゴはさらりと言うと立ち上がった。


「いや、お前正気か!」

「オリヴィアさんは今バイタルに問題ある人がいないか確認してください。新人類の、小児病棟。特に重症だったり他科と接することが多いとか。」

「……なるほどね、分かったわ。私は後から追うわね。」

「ちょっと?!」



 パウルのことなど構わず2人は頷き合うとそれぞれ目的に向けて移動し始める。パウルは流石に1人で不審者の元へ行かせるわけにはいかないとシュウゴについていく。



「お前、行動するのはいいけど説明しろ!」

「簡単な話ですよ。能力の暴走です。」

「は?」


 一瞬意味が理解できなかったが、すぐに思い当たる節があった。

 どうやら自身は恐怖のせいで思考が鈍っていたらしい。苦虫を噛んだような表情を浮かべる。


「看護師さんが言っていた目撃談、恐らく検査の際に救急搬送で運ばれた、いわゆる死期の近い人たちではないでしょうか。

 ……さっき逃げ去る時、女の子が抱えていた生首は牡蠣であたった友人のものでした。見舞いに行きましたけどとても死ぬ様子ではなかったです。」


「なら、出会した後事故に遭った人っつーのは。」

「正直なところパウルさんみたいな人だと思います。もしくはーー。」


 バカにされたことに腹を立てつつも、シュウゴが続けた言葉を聞いてなるほど、と納得した。





 しらみつぶしに少女が現れたことのある場所を探すと彼女は人の気配のない仮眠室前にいた。



『オ……ニイ……チャン?』

「いた。君、どういうつもりでこれやってるの?」

「普通に話しかけんのかよ。」


 パウルはさらに青年の行動に驚かされる。

 彼は躊躇うことなく少女の手をがっしりとつかんで見せたのだ。


『……!』

「逃さないよ。意図的なら悪質だし、無意識でも傍迷惑すぎる。」

『ハナ……、シテ……。』


 シュウゴは何も言わずに握る力を強めた。


 その時、通信機がけたたましい音で鳴り響いた。

 どうやらオリヴィアから連絡がきたらしい。膠着しているシュウゴに代わりパウルが出た。



「はいど『ちょっと、パウルさん?! 女の子に何してるんですか?! みるみる手首が赤くなってるんですよ?!』

「あ、それオレです。ほら、ついてきて。」

『……。』


 シュウゴはどうしようかと思案していると、じれったいと言わんばかりにパウルが女の子を滅多に見ない強引な様子で抱えた。


「……大丈夫なんですか?」

「大丈夫も何もお前こうでもしないと動かないだろ!」


 パウルはオリヴィアに現在地を尋ねると歩き出した。一方で少女は諦めたのかぐったりと体を弛緩させている。

 オリヴィアに言われた通りに行くと、そこは小児病棟の個室だった。



「結構強引に連れてきたのね。」

「すみません。」

「……会話なんてままならないでしょうけどね。」


 申し訳なさそうに呟くシュウゴの肩を優しく叩く。

 パウルはお構いなしに部屋にずかずかと入り、抱えていた女の子をベッド横に立たせた。彼女は目を丸くした。

 オリヴィアは少女に視線を合わせると優しく問いかけた。


「あなた、名前は言える?」

『マユリ……。』

「何で目の前に自分が寝てるか分かる?」


 少女は首を横に振った。

 その様子を見たオリヴィアは諭すように話す。


「あなたの能力なの。あなたは自分の体からどこにでもいけてしまう能力。その日の、印象に残ったものをその手鏡に映せてしまうのよ。」

『気持ち悪い……、どうせ、死んじゃうんでしょ。』



 パウルはそこで理解した。

 恐らく女の子は救急搬送される人々や人の死と隣り合わせで疲弊しきった人達の顔を見ることが多かったのだろう。

 そして、彼女の入院の理由は能力の暴走。

 能力を発現したばかりの子にはよくあることであるが、稀に長期的にコントロールできず入院する子もいると聞いたことがあった。

 よりにもよって【幽体離脱】とは、思わなかったが。


 しかし、オリヴィアは否定するでもなく肯定するでもなく、そっと彼女を抱きしめた。



「この世に気持ち悪い命も能力もないわ。

 これはあなたの一部。いつか好きになれる日が来るわ。」

『……本当?』

「ええ。」


 そっか、と少女は小さく呟いた。

 彼女の身体はみるみる薄くなり、最後は霧のように消えてしまった。













 翌日。

 シュウゴとパウルはオリヴィアに夕食に誘われた。

 どうやら少女の容態は朝方には落ち着いたらしく、驚いたことに能力制御もある程度できるようになったそうだ。



「オリヴィアはともかくシュウゴはよく気付いたな。」

「……妹が発現した時、今の状況とよく似ていたんです。高熱に浮かされて。オレと妹の能力は恐らく父の能力の派生だったので。妹も能力を認めたくないとごねてましたから。」

「ふーん?」


 シュウゴの妹を知らないパウルは特に追及することなくその場では納得したようだった。


「でも2人のおかげで助かりました。」

「オレ何もしてねーけどな。」

「パウルさん居なかったら部屋に連れていけませんでしたよ。」


 少しばかり嬉しくなり、そうか? と尋ねるとシュウゴは首肯した。



「それにしてもあの子の能力不思議でしたね。」

「どうしてそう思うのかしら。」

「別に【幽体離脱】なら何も疑問ねーだろ。」

「そういうことではないんです。」


 シュウゴの言葉に2人は傾げる。

 ここで話題を変えればよかった。

 数秒後の2人が後悔することも知らずに、怖いもの知らずの彼は淡々と続けた。



「はじめにパウルさんが女の子に掴まれたって言ってた時。冷たい手、って言いましたよね? オレが触った時はとても冷たいなんて感じませんでした。」

「そういえば……。」

「それに、はじめ会った時。あんなに遠い距離にいたのに手でパウルさんに触れられた。不思議だと思いません?」


 シュウゴの言葉にオリヴィアとパウルは顔を見合わせるとサッと血の気がひいたのを互いに自覚した。

 当の本人は修行したら便利そうですね、と呑気に話している。


 それから数日、パウルからカジェタノやヤンの元へ連絡がたくさん入ったとか、オリヴィアが何となく背後の気配に敏感になったとかはまた別のお話。

【こぼれ話】


 お化けについて各人の反応


リーンハルト 怖くはないけどびっくりはする

ヒロタダ びっくり系は滅茶苦茶苦手

エルナ 普通に怖い

ハーマン 怖くはないけどびっくりはする

オリヴィア 原理が分からないものは怖い

シュウゴ 何も感じない

ルイホァ 興味ある

ケイ ちょっと怖い

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