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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
5章 友との約束

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69.白髪の女性

「全隊戦闘!」



 その場にいなかった現地隊長に代わりモニカが指示を飛ばす。

 人数は多いが、1人1人は然程強くない。

 が、いかんせん狭い部屋に大勢が流れ込んでくるものだから戦いにくい。

 特にモニカの能力は【雷】。

 本気で戦えば他のメンツが巻き込まれて卒倒は避けられない。


『モニカ。』

「……そうね、任せます。」

『エルナ!』


 ドロシーが呼び掛けるとエルナは頷いた。

 エルナは絡まれていた男に肘打ちを喰らわせると、ドロシーに近づき、彼女の肩を掴んだ。

 ドロシーがすぐさまスピーカーに繋ぐと音がキィン、と響く。



「『【音波共鳴】!』」



 2人が同時に能力を発動させた。

 エルナが触れていない、すなわち【共感】の能力が効かない敵達は思わぬ音に動きを止める。その技を知っていた味方たちは敵から一気に離れる。

 その瞬間を狙っていたように、モニカは全身から雷を放った。

 止まって、味方から離れてくれれば彼女が敵を一掃することなど容易だった。

 モニカの攻撃を食らった敵達は次々と倒れる。


「一気に片付けてください!」

「「はい!」」


 痺れて動けない人々を次々と捉えて拘束していく。

 どうやらこのフロアの敵はもういないらしい。


「凄いな、2人とも。」

『フェベが教えてくれたんだよ。私たちの能力の波長はよく合うって。』

「フェベさんが?」


 確かに思い返せば査定の時に言っていた気がする。

 波長が合うことで能力の組み合わせが可能なのか、はたまたエルナの能力の特異性が由来か。



「ずっと練習してたのよ。あたしの【共感】で、能力が効かないドロシーの状態をみんなと共有する。そうすれば音っていう全体攻撃を選択的なものにできるって。」

「……いいなぁ、それ。」


 ヒロタダも範囲攻撃となってしまうため、その技は羨ましかった。


「にしてもリーンハルトから返答がないわね。移動はしてないみたいだけど……。」

「なら、私が行きます。指揮系統は敵さえいなければ現地の副代表者に任せた方が円滑に進みます。ヒロタダさん、行きましょう。」

「はい!」


 モニカはドロシーとエルナに一言かけると、ヒロタダを伴って走り出した。














「【氷柱】!」

「アッハッハッハッ! 遅いね!」


 次々と氷の刺を放つが、彼は純粋なスピードに限ればリーンハルトと同等であった。

 刃に変化させた右手で砕いたり、身体強化を使ったりして器用に回避していく。


「速ェな! 紋付にも相当するんじゃねーか!」

「速さだけね! でもまぁ!」



 足元に小型爆弾が転がる。

 リーンハルトは回避してあたらなかったが周辺には爆煙が広がる。

 不意に背後に気配を感じ、しゃがんで避けたが髪を掠った。後方上部を視認すると凶悪な笑みを浮かべたセイがいた。


「殺す気で来ていないアンタを倒すにはオレの能力でも十分だね!」


 追撃をさらにかわし、リーンハルトは通路を凍らせていく。セイは凍った足元を砕き、鳥へと変身して一気に距離を置く。


「逃すかよ!」

「!」


 セイの背後に氷の壁を作り出す。

 彼はピタリと動きを止めると、再び人間に変化し、銃を構える。

 銃撃をリーンハルトは避けると、一気にセイに接近して作り出した氷のナイフで彼の腹部を狙う。


 やらなきゃやられる。


 セイはそれほどの実力をつけていた。いや、隠していたのか、今となってははっきりとしない事実であるが。彼が回避してしまうことも予想できていた。

 だからあえて退路を塞ぐ形で周辺を凍らせていく。さすがの彼も自身の身体でなく辺りを凍らせたことに一瞬驚いたようで注意が逸れた。


 好機。


 リーンハルトが捉えた瞬間だった。

 それと同時にセイの口がゆがんだ。





「リーンハルト。」





 リーンハルトの動きが止まる。

 懐かしい、声だ。


 目の前では白髪の老いた女性が自分に微笑みかけていた。


 リーンハルトはこの女性を知っている。

 彼女が痩せているのは年齢のせいではない。

 彼女が白髪なのは年齢のせいではない。

 彼女が自分に微笑むのは、紛れもない愛情を持っていたからだ。


「もらったぁ!」


 その笑顔は一瞬で歪なものになる。

 リーンハルトの腹部に衝撃が走る。

 発砲音、すなわち彼が手にしていた銃が至近距離で当たったのだ。


 熱さと痛みで顔を歪めた。

 それと同時にリーンハルトはセイを生け捕りにすることを諦め、迷わず急所を狙ったが、セイは再び鳥に変身すると隙間から氷の壁を抜けて、リーンハルトと距離をとった。


「さすがのリーンハルトさんでもこの姿には動揺を見せるんだね。」

「何でお前、その人になれるんだ?!」

「本当に知りたいわけ?」


 彼の言葉にグッと下唇を噛んだ。


「呆気ないもんだね。七賢人相当の実力を持つ人間、っていうのも。これで終わりだよ。」


 膝を折ったリーンハルトに銃口を向けた瞬間だった。



「【雷槍】!」



 衝撃音とともに自身に向けられた紛れもない殺意にセイは銃を取り落としながらも大きく飛び退いた。


「【無効化】!」

「ヒロタダさ、」


 何とか全身が効力を被ることは回避できたが、顔の一部と腕の【変身】が解け本来のセイが顔を出す。

 しかしそれだけなら何ら問題は無かった。


 突如セイの頭には脳髄を突き破るような痛みが走ったのだ。

 まるで記憶をぐちゃぐちゃに混ぜられてしまうような気持ちの悪さだった。


「リーン、大丈夫か?!」

「オレに構うな、セイを仕留めろ!」

「言われなくとも!」


 モニカが【雷】を放とうとした瞬間、セイは消えた。気配はしていたのだが、それさえも徐々に消えていった。

 恐らく虫などの小さな生物に化けて退散してしまったのだろう。

 暫くすると通信機にドロシーから連絡が入った。



『任務完了、いずれの会場でも『Dirty』殲滅。エリア長会談も滞りなく終了。現場警備員に切り替えて、負傷者は本部に戻れとの指示。』

「了解しました。こちら、敵1名逃亡、5名意識不明、1名重傷。至急救援を。」

『了解。』


 その傍らでヒロタダはリーンハルトの腹部を強く抑え止血を試みる。


「リーンがセイに遅れをとるなんて……。」

「そうですね。彼は確かに優秀だったけど、能力込みの戦闘力はリーンハルトさんの方が上ですよ。一体何が……。」



 リーンハルトは自嘲気味に笑う。

 痛みのせいで脂汗が止まらない。


「……もう、忘れたと思ってたのに。」

「はい?」


 モニカとヒロタダは顔を見合わせる。

 銃弾に何か仕込まれていたのか、リーンハルトは意識が朦朧としてきたらしく譫言のように呟いた。



「……母、さ、」


「……。」

「え?」


 ヒロタダの肩に身を預けて、彼はふーふー、と苦しげに息をする。ヒロタダは彼を見つめた。目尻に浮かんだ涙を見ると何もできなくなった。

 モニカはわずかに目を細めると、リーンハルトの頬に優しく触れた。


「……バカですね。優しい貴方があの人のことを忘れられる訳がないのに。」


 悔しそうに、悲しそうに拳を握りしめたモニカは泣きそうになるのを堪えながら静かに立ち上がった。

【こぼれ話】


 和解?した後、エルナとドロシーはフェベの言葉が気になり、オリヴィアを尋ねて波長について調べてもらいました。

 脳波や心拍などがピッタリと合う場合、今回のように能力を組み合わせることができるそうです。非常に稀で原理はあまり明らかになっていませんが過去にも例はあったようです。


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