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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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番外編:ヴィリ

 これは少し時を遡り、文化祭が終わった後の話。



「では、オレは明日学会があるから帰る!」

「帰る! じゃないよ。ミホと一緒に帰ってよ。」

「ミホくんは君が送ってあげた方が喜ぶぞ!」

「寝てるじゃん。ちょっと、ミホ?」



 シュウゴは自分の肩に寄りかかって寝ているミホさんをゆさゆさと揺らす。もごもごと口を動かしているが一向に起きる気配がない。

 そんなことをしている間にチュウジロウさんは僕に挨拶をするとさっさと帰って行った。気を遣いすぎてる気もするが、これくらいの荒療治の方がにぶちん2人にはちょうどいいのかもしれない。

 長い付き合いらしい3人のことを鑑みると納得できた。


「もういいじゃない、お兄ちゃん。泊まってもらえば。私いるからセーフだよ。」

「いやダメだよ。って、チュウジロウは?」

「帰ったよ。」

「……信じられない。」


 シュウゴは頭を抱えていた。

 もし好きなら儲け物くらいに思えばいいのに、とミホと反対側に座り、シュウゴに尋ねてみる。


「ラッキーじゃないの?」

「……。」


 無言で太腿を抓られた。痛い。

 お酒が入っているせいか、普段よりありありと顔に感情が映る。


 その後、シュウゴがミホさんをシュカちゃんの部屋に運んだ。その時の顔はなかなか傑作だったけど、僕がいるにも関わらず普通に風呂に入り出す妹に気づいた時の顔はそれを容易に上回った。

 勿論僕も帰ろうと思ったけど、兄妹両方に止められた。


 結果としては、リビングでシュウゴと2人で飲み直すことになった。

 人付き合いの一環で酒を飲むことは成人になってから度々あったが、気のおけない友人とこんな風に過ごす日が来るなんて思っていなかった。

 シュウゴは若干今の状況に対して自棄になっている感じもしたけど見なかったことにした。



「こうやってシュウゴを揶揄える日が来るとは思わなかった。」

「揶揄う?」

「シュウゴってあんまり慌てなそうだから。」

「任務だと結構慌てる。シュカとか、ミホやチュウジロウに何かあっても慌てる。そういえば、ヴィリが泣いた時も慌てた。」

「ああ、あの時……。」


 確か、僕が自分をキメラと伝えた時。

 周りが様々なことを検討していた中でシュウゴは真っ先に僕を優先して庇ってくれた。

 僕自身も検討はすべきと考えていた。

 でも思わぬ言葉につい涙が止まらなくなってしまったのだ。


「僕も自分にびっくりした。でも兄さんみたいなことを言うから何か安心しちゃって。」

「お兄さんがいたの?」


 シュウゴの問いに僕は頷いた。

 何となく、あの悲しみに包まれていた思い出が懐かしく想われ、僕の口は澱むことなくあの日々のことを話し始めた。





 僕はかつては新人類の両親と双子の兄とともに貧しいながらも喉かな田舎で牧羊を営んでいた。一家の長男ということもあり、兄は年齢にそぐわずしっかり者だった。そして、兄は齢4つにして【超聴力】を発現させていた。

 村の中で能力を発現させている人物は少なく、また動物たちの声さえも拾える兄の能力は僕にとっても誇りであり同時に憧れだった。


 人生が変わるきっかけが訪れたのが6歳の時だった。


 ユーマニティ戦争。

 その戦禍が僕たちの村に及んだ。

 美しかった緑の草原は赤い炎に包まれ、僕たちが愛した人たちは骸へと化した。人々は死しているにも関わらず獣のような呻き声をあげながら生ける屍として徘徊していた。

 僕は確かその時に能力を発現したんだと思う。思う、というのはその時の記憶が曖昧だからだ。なんとか生き残った兄ととにかく逃げた。ただ、ただ、逃げた。

 でも、たかが6歳の子どもの逃げられる範囲など限られていてすぐに捕まり研究所に連れて行かれた。


 重ねられる実験の元、僕は数言だけ覚えている。

 兄が叫んだ言葉と、研究者の言った言葉だ。



『お願い、ヴィリだけは助けて!』

『自分の命が可愛くないのか?』

『それよりもヴィリが大事なんだ! そんなの、家族なんだから当たり前だろ!』

『安心しろ、お前のような役に立たない【超聴力】より【重力操作】ができる弟を使う。』



 コイツらは本当に自分と同じ生き物なのか?

 僕は持てる限りの能力を使って暴れた。

 後から僕を助けてくれたヤンさん曰く、僕は研究所の実験体保管室を大破し、その結果特務隊が施設を発見するに至ったらしい。


 次に目覚めた時には、成功だ、という言葉が聞こえた。分厚いガラスの向こうから、だ。

 そして隣に兄はもういなかった。僕は、兄の身体を使ったキメラになっていたのだ。


 数日後、特務隊により僕は救出された。

 その時は自分が生き残ったことなんてどうでもよかった。優しかった両親も、最期まで守ろうとしてくれた兄も、美しかった故郷も、生きる目的も、何もかもを失っていた。


 だから勧められるまま、言われるままにエリートコースへ進んだ。

 周りからも実験体ということで好機の目で見られていた。でも、それさえもどうでもよかった。


 セイと出会ったのは8歳の時だ。

 僕は自分で言うのもなんだが、成績は当時のコースでトップクラス、並ぶ者はある分野に限りほとんどいなかった。

 セイは唯一、身体強化の面で僕と並ぶ人間だった。



『君さー、バカにされたり動物見るみたいな目で見られてんのに何で何も言わないの?』


 今思えば失礼この上ない物言いだ。

 当時の僕は言い返すことなく顔を背けた。

 しかしセイはしつこかった。


『そろそろしゃべりなよー。口が開かなくなるよー?』

『つまんないのー。もう少し話したら?』

『ねぇねぇ、オレはセイ。暇だから構ってよねぇー。』


『話さなきゃ任務中のコミュニケーションも取れない。ただの役立たずじゃん。』



 役立たず、その言葉を聞いた瞬間に僕の中に眠っていた感情が爆発した。

 そこからは殴り合いだった。その時点で僕の方がセイより強かったため途中からは馬乗りになって一方的に殴っていたらしい。だが、セイも大人しく殴られているだけではない。

 両者顔面を腫らしているのをたまたま通りかかった先生に見られてこっ酷く怒られた。


 それから何を思ったか、セイはちゃんと謝りに来てくれた上に僕と仲良くしてくれた。寮も同じ部屋で僕たちは仲良く過ごした。

 あの頃が1番年相応の過ごし方をしていたと思う。奨学金でゲームを買って先生に見つかったりバカみたいな話をしたり。


 13歳、僕たちはベルリンの監査局員として任務にあたった。そこで能力を見込まれて僕はトーキョー支部へ、セイはモスクワ支部へ異動となった。


 当時、ジパングの各地でもいざこざは多く、正直レベルの低いこの支部では僕はかなり動ける方であった。気づけば15歳の頃には副局長までのし上がっていた。勿論周囲からの視線は鋭く決して居心地の良いものではなかった。

 だが、僕にとっては幸い、セイが一般隊員としてトーキョー支部へ異動してきたのだ。



『セイ。』

『おっ、ひっさびさじゃん。元気そうだね〜。監査局副局長なんてやるじゃん。』

『……うん。』

『どうしたの?』


 あからさまに僕は表情を曇らせていたのだろう。

 ついセイに内心を吐露した。彼は何も言わずにこにこと笑顔のまま聞いていた。でも僕の話が終わった途端、表情をスッと消して簡単に言いのけたのだ。


『ソイツらってヴィリの能力侮ってるか、強くて怖がってるかのどっちかでしょ? そんなの実力でねじ伏せればいいんだよ。一活躍してやりなって。』

『できるかな……。』

『できるよ! だってヴィリはオレが認める唯一の親友なんだし!』


 あの時みたいにぶわっと感情が胸に湧く。




 それから数ヶ月後、終戦間際の監査局総出のプラント急襲作戦があった。当時の監査局長は僕の能力を高く買ってくれており、易々と1部隊を僕に預けてくれた。

 戦況は不利に傾いており、僕たちの部隊は運悪く紋付と出会していた。


『副局長、もう保ちません!』

『先に行って情報を持ち帰ってください!』

『でも副局長が……!』

『必ず生きて戻る! 皆さんは情報を持ち帰って!』


 そう言って部下たちを能力で吹き飛ばした。

 1対1、辛うじて上腕骨の骨折と背中の大火傷で済んだ。当時同じ班の部下たちは全員無事で皆に泣きながら感謝を告げられた。

 あの戦いからやっと他の局員との絆ができたような気がする。それからやけに構われるようになったし相談事をされることも増えた。


 戦争の中で局長は殉職、気づけば終戦時には局長となっていた。

 その時も、セイは僕にあの時と同じ笑顔で、誇りだと言ってくれた。








「僕は今でもその笑顔を忘れることはないよ。たぶん、これから一生会えなくても。」


 僕がうつらうつらと船を漕ぎ始めた頃、シュウゴはぽつぽつと溢した。


「また、会うんじゃない。そんな気がする。」

「そう? そうだと嬉しいな。……もしこの先が分つものなら、せめて、」



 二度と交わらない、敵だとしても。

 叶うことなら、再び親友として。

 その言葉は口にすることはなかったが、シュウゴには伝わってしまった気がする。僕は頭の隅でそんなことを考えながら眠りについた。




 翌日、脇腹に蹴りが入り目が覚めるとシュウゴは無防備に隣でぐーすか眠っていた。案外男らしい寝相だなと思いながら、顔を洗っていると小さく悲鳴を上げながら起きてきたミホさんとそれを見てクスクス笑うシュカちゃんがいた。



「おはようございます。」

「おはよう。ミホさんも。」

「おおおおおおはよう! 私……なんてことを……!」


 わっと顔を覆って首まで真っ赤にしながら彼女は慌てふためいていたため、シュカちゃんと可愛い人だなと笑って見守った。

 結局僕が彼女を送っていくことになったけど、シュウゴは起きてくることはなかった。


「ううう……、ヴィリさん。私変なことしてなかったですか?」

「シュウゴの肩にもたれて寝てましたよ。」

「なななななんてこと……。」


 ずぅん、と目に見えて落ち込む彼女に好奇心で、妹に聞こえないように尋ねてみた。


「ミホさんはシュウゴのこと恋愛的な意味で好きなんですか?」

「へへぁ?!」


 これは、図星。非常に分かりやすい。

 彼女は頬を両手で覆いながら呟く。


「だってシュウゴくん、ここぞとばかりに優しいでしょ? それにちゃんと大事なことは言葉にしてくれるし、私が本読んでても怒らないし……。」



 まるで惚気話を聞かされているようだ。

 にしても面白いことに彼女の口から彼の容姿や能力に関することは一切出てこない。



「……どうしたの?」

「いいえ、見かけのことや能力のことについては気にされないんだなって。」

「気にならないわ。それで彼を評価するのは、不器用だけどしっかり向き合ってくれる彼に失礼だもの。」


『……さっきからヴィリさんの様子気付いてますか? 何で、実験前提でお話しされているんですか?』

『そんなの、友だちだからでしょ。』



 そうだ、彼の周りはいつだって温かい。

 願わくは、僕もその中にいたい。

 彼と同様真っ直ぐな瞳をした彼女に微笑む。



「ミホさん、頑張ってシュウゴのこと落としてくださいね。」

「えぇ?! う、うーん、頑張ります……?」


 付き合った暁には絶対からかってやろう。

 そしていつか、彼らのエピソードを親友に言いふらして笑ってもらおう。


 僕はふくふくと笑いながら秘めた野望を胸にして、朝焼けの中帰路を歩いた。

 まさかこの後のストレスフルな日々がやってくるとは露にも思っていなかったが。

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