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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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66.兄と妹

 ペキン支部の隊員は優秀だった。

 観客への返金案内やら安全確認、そして謝罪については迅速に行われ、クレームも殆ど入らなかった。むしろ、支部長たちの働きを讃える言葉が多く聞かれた。



「ルイホァ! 怪我してんじゃねーか!」

「あの時のケイには及ばないよ!」

「……オレ、絶対今後アレ以上の怪我しないと誓う。」

「何それ。」


 ケイの誓いにルイホァは脱力し切って笑う。

 紋付を支部の者に引き渡すため、パウルに背負われて救護室に向かう途中、リーンハルトとケイと合流した。

 途中からはリーンハルトに背負われていたが、彼はルイホァの怪我の具合を確認すると致命傷ではないとすぐに分かったらしく安堵していた。一方でケイはプチパニックだったのだ。



「でもルイホァ紋付倒したんだな! それでこの傷具合ならさすがだな。」

「ううん、パウルのお陰だよ。それにこの男は明らかに戦い方が下手だったし天候が味方してくれなきゃどうなってたか分からないもん。」

「……相変わらずストイックなのな。」


 若者2人の会話を聞きながらリーンハルトはパウルとともに苦笑いしていた。

 途中でパウルとは別れ、3人で救護室に向かうとトーキョー支部用にあてがわれた個室にヒロタダとエルナ、オリヴィアがいた。



「「ルイホァ、ケイ!」」

「あ、2人も無事そうでよかった。」

「……貴女は自分の心配をなさいな。治療するから、ほら男の子2人は出なさい。」


 しっしっ、とカーテンの外に追い出されたリーンハルトとヒロタダは外に見張などがいないことを確認して口を開く。


「お前らもほぼ無傷で良かった。」

「まぁな、ペキンチームの人やズーハオさんと合流できたし。」

「シュウゴはゴーシさんと報告行ってるんだな。」

「僕が行くか聞いたけどキャプテンだし、って。」

「はぁ〜、優秀な部下だ。」


 かー、と頭を抱える。

 シュウゴならよほどペキン支部の人間やゴーシと揉めることはないだろう。



「つーか今回オレ足を引っ張るだけだったんすけど。」

「ケイは普段活躍してるだろ。」

「そぉすかねぇ……。」

「アンタが活躍してなかったらあたしなんか置物以下よ。」


 カーテンからエルナがひょっこりと顔を出した。

 中ではまだルイホァが治療を受けているらしい。大きい傷をオリヴィアに塞いでもらっているようだ。

 出てきたエルナが治療を受ける外の隊員に聞こえないよう小声でこそこそとリーンハルトとヒロタダに尋ねた。



「でもシュウゴが言ってたわ。今回のルイホァの手柄はペキン支部のものになるんでしょ? 納得いかない。」

「まぁ今回に関してはあくまでもペキン支部の作戦に参加、って形だからなぁ。」

「ルイホァが頑張ったのに……。」


 むくれたエルナをリーンハルトは微笑ましげに見つめる。


「まぁその分お前がたくさん褒めてやれよ。今のアイツは手柄よりそっちの方が喜ぶだろ。」

「うーん、そうなのかしら?」

「僕もそう思うよ。」


 ヒロタダのダメ押しが効いたのか悩ましげにしつつもとりあえずは納得したようだ。




 話が一区切りしたところで扉からやや強めのノックが聞こえる。恐らくパウルであろう、リーンハルトがはいはいと雑に返事をしながら開くと案の定、パウルが扉の前に立っていた。

 その背後にはシュウゴがいたが何故かフードを深く被り込んでいる。


「お疲れさんお前ら! ルイホァはいるか?」

「るんぐ「ルイホァはいないわよ。」


 ケイが答えようとしたところでエルナが彼の口を塞ぐ。隣に座っていたヒロタダはギョッと目を剥く。

 リーンハルトも驚いたようであったが、すぐに近くの青年がフードをとりエルナの行動の理由がわかった。



「残念だったなァ、ズーハオ。せっかくシュウゴに身代わりしてもらってまで見舞いに来たのにな。」

「黙ってください、パウルさん。あくまで状況確認に来たまでです。」

「かわいくねーな。」


 わはは、と笑いながら頭を撫でられたがズーハオはムッとしながらも振り払う。


「で、本題済ませろ。」

「分かっています。リーンハルトさん、および班員の皆さん。」



 出会った時と変わらない堂々とした態度に、自ずと身構えてしまうが、彼は驚くべき行動をしてみせる。

 深々と、頭を下げているのだ。



「今回は我らがペキン支部の討伐作戦に参加いただきありがとうございました。特にパウルさん、ルイホァが居なければ紋付を逃してしまっていたかもしれない。」

「……。」



 予想外の言葉にパウル以外の面子は動きを止めた。

 リーンハルトは横目でカーテンの奥の2人の気配を探るが見事に固まっているらしい。

 しかし、ズーハオは淡々とマイペースに言葉を紡いでいく。



「ヒロタダさん、エルナさん、ケイくんは新人大会も駄目にしてしまった。せっかくのトーキョー支部との交流も出来ず我が支部も残念に思う。

 謝礼や特別報酬もーーー。」

「要らないわ。」



 はっきりと真っ直ぐにズーハオを捉えながら言ったのはエルナだった。これにはパウルもリーンハルトも目を丸くする。


「ズーハオ、さん、とお父さんって何でルイホァにあんなに厳しいのよ。」

「……。」


 エルナの追及に静かに耳を傾けているようだ。

 それをいいことにエルナは続ける。


「ルイホァは、あたしが大切な人を亡くした時、そばに寄り添ってくれて、真っ直ぐな言葉を言ってくれる自慢の親友よ。

 親友が馬鹿にされたまま大人しく謝礼を貰うほど落ちぶれてないの。」

「……親友、なのか。」



 強く言い返すかと思いきや、意外にもエルナの言葉をゆっくりと飲み込んでいるようだった。

 伏せていた目を彼女に向ける。



「我がソン一族は代々ペキン支部を守るため、常に強者であることを強いられる。オレもルイホァもそのように育てられてきた。弱き者、才能なき者、特務隊に身を捧げられない者は一族を追い出される。

 弱き者が淘汰される世界でオレたちは生きている。」


 カーテンの向こうでの話を聞きながらオリヴィアはルイホァを盗み見る。

 揺れる瞳がそれを事実と告げている。


「ルイホァは確かに努力していた。能力に関してはオレよりも遥かに優秀だった。だが、決定的な才能が欠けていたんだ。」

「才能……?」

「ああ、人を殺す才能だ。」



 覚悟はおそらく彼女もできているのだろう。

 しかし、その才能の欠如が土壇場で命を失うきっかけになることをリーンハルトとパウルは知っていた。



「……人の根幹は変えられない。ケイくんは確か妹がいるそうだな。」

「何で知ってるんすか……。まぁ、いますけど。」


 ケイの質問はスルーしてズーハオは続ける。


「仮に自分の妹が人を殺そうとする。お前はどう思う?」

「んなもん嫌に決まってる。」



 つまりはそういうことだ。

 ケイはその言葉でズーハオの真意に気づいたのかつい口元を緩める。



「父様は恐らく違う。沢山いる次世代の1人としか考えていないだろう。だが、オレにとっては勘当されようともたった1人の妹だ。例え嫌われようと憎まれようと、オレの存在や言葉に恐怖し、逃げてしまえばよかった。自分の好きなことを見つけて好きに生きれば良かったんだ。

 だが、今日のことを見て、分からなくなったのも事実だ。」


 再度この場にいる面子の顔を見回し、視線はリーンハルトに行き着く。



「ルイホァを、貴方の元へ行かせてよかった。

 部下として、同僚として、友人として今後とも彼女を宜しく頼みます。」

「……やけに素直じゃねーか。」



 愉快そうに囁くパウルの足を彼は思い切り踏んづけた。キメラと戦ってもほぼ無傷だった男は情けなく悲鳴をあげて蹲み込んだ。



「この部屋に来た時からエルナさんが能力をオレに使っていたから無駄だと。それに話を始めた途端、気を遣って【無効化】を使い出す隊員もいたもので。」


「バレてた……。」

「こわっ。」


 ヒロタダとエルナは顔を見合わせて震えた。

 しかし、その横で顔を綻ばせていた青年はズーハオに笑いかけた。



「でもズーハオさんはそれ、はじめから言うつもりでここに来たんすよね。じゃなきゃあのパーソナルスペースの広いシュウゴさんが上着なんて貸してくれないと思いますけど。」

「どうだかな……。オレはもう用は済んだ。戻らせてもらう。」


 ケイの言葉を鼻であしらうと踵を返す。

 あ、と何かを思い出したかのように振り返って言う。



「ぜひ機会があったら手合わせを頼みたいものだな。今後ともペキン支部と宜しく頼む。」



 それだけ言うと、彼はさっさとフードを被り直して部屋から出て行ってしまった。

 ケイとリーンハルト、パウルはからからと笑うばかりだった。



「……良かったわね、ルイホァ。貴女は間違いなく認められていたのよ。」



 一方でカーテンの奥。

 オリヴィアは治療を再開させながら、ルイホァに語りかける。

 彼女の表情は俯いており見ることは叶わなかったが、シーツには雫が滴っていた。















 翌日。

 ゴーシが見送りを辞退してくれたが、是非と言ってペキンチームに所属していた3人が見送りに来てくれた。


「私どもの見送りのみで申し訳ない。」

「こちらこそ、わざわざありがとうな。」


 リーンハルトが礼を述べるとチンヨウが微笑んだ。

 そしてヒロタダとシュウゴ、エルナ、ケイに向き直る。



「あのズーハオ様が、トーキョー支部の皆さんの働きに純粋に感心されていました。そして私たちにもお褒めの言葉をくださいました。」

「……別に普通では?」

「いえ、今までのズーハオ様がそのように口にすることはありませんでしたよ。」


 ケイは昨日の様子も相まってかイメージが混乱しているらしく首をひねる。


「私たちも、支部の括りに捉われないあなた達の戦いを見て精進すべきと勉強になりました。また機会がありましたら、真の意味での決勝を行いましょう。」


 すっと出された手をヒロタダは見つめる。

 横からシュウゴに小突かれてハッと顔を上げる。シュウゴが小さくヒロタダに耳打ちをした。



「人の機微はよく分かりませんが、キャプテンとしてでなく決勝の相手としての握手でしょう。」

「……!」


 チンヨウの顔を見ると少しばかり照れたようにはにかんでいた。ヒロタダはその手を素直に握った。

 その横では、シュウゴにケイが後ろから抱きつき、エルナが肩を叩く。


「シュウゴさんもキャプテンお疲れ様っす。」

「報告とかもありがと。」

「……。」


 表情は変わらないながらも照れ臭そうにふん、と鼻を鳴らした。

【キャラクター紹介】


サイ・チンヨウ (60話より)

21歳 186cm

好きなもの:犬、散歩

嫌いなもの:ネギ類、チョコレート

ペキン支部の新人。糸目でサラサラの銀髪。掴み所のないふわふわした性格を装っているがかなり計算高く、ズーハオを尊敬している。

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