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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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64.新人大会 -ペキン支部-

 ケイは少しばかり混乱していた。

 確かに自分はインターハイの直後、ハンフリーと戦った時から強くなった筈だった。実際に身のこなしも能力の使い分けも発現のタイミングも、全て上達していた。


 しかし、なぜかあの時のような最大出力の炎が出せなかった。


 はじめは焦ったが、そういう点に関してケイは恐ろしいほどに潔く諦められる人間だった。できることをできる限り、スポーツにおけるパフォーマンスだってその日のコンディションで変わる、そのことを重々知っていたからだ。

 気持ちの余裕ができると自ずと足運びも軽くなる。

 【黒炎】で砂鉄による猛攻を回避しながら、懐に潜り込み直接炎の拳を叩き込むが、ミートしない。相手の服が焦げるばかりだ。


 幸い向こうは能力を頼って戦うことに比重を置いているらしく、接近戦は極度に嫌がっていた。



「なかなか貫かれないねぇ。」

「たりめーだろ。お前こそ接近戦嫌がる割に逃げるのは速いのな。」

「は? 僕のことバカにしたな?! 太っているくせに俊敏だって?!」



 突然激昂したユーチェンに、ケイは驚き一瞬動きを止めた。

 自分は一言も体型のことを指摘していない。むしろ接近戦が苦手ということで嫌味を言ったつもりであったがそこまで歪曲されるとは計算外だった。



「いや、オレはアンタの体型になんて一言も触れてないだろ。」

「いいや、お前、それにハンフリーもだ! 細身に長身で爽やかな風貌しやがって! それだけで僕に喧嘩を売っている。」

「理不尽すぎだろ!」


 つくづく驚かされる。

 『Dirty』の紋付きにはこんなことをネチネチと責め立ててくる者もいるのか。



「あーもー、そんな知ったこっちゃねーよ! 【黒炎柱】!」

「お前は許さない! 【砂鉄針地獄】!」



 地面に砂鉄がずるずると蛇のように這って動くと四方八方からパウルの技のように次々と針山が出現する。

 【黒炎柱】は相手に避けられてしまったが、ケイは冷静に針を次々と避けていく。横目でユーチェンの動きを確認し、手を地面につく。

 そこからステージを伝って【赤炎】を彼に向けて這わせていく。砂鉄はそちらの消炎に注がれ、ケイへの攻撃が緩む。



「……チッ、やっぱりこのステージは僕に不利か。それに全然技を喰らわないし膠着状態。」

「燃やし尽くしてやるよ!」


 もちろんユーチェンの呟きはケイに聞こえていない。

 ケイがステージのターンテーブルを全て燃やし尽くそうと【炎】の出力を上げようとした時だった。








「は?」



 見覚えのある光景。

 燃やそうと思ったターンテーブルは存在せず、自分は空中に投げ出されていた。



「はぁああああ?!」



 一周回って冷静になった思考で辺りを見渡す。

 確かここは予選の時、ペキンチームの作戦に基づき磁力で機体が墜落させられそうになった場所だ。

 目の前にある渓谷は底無し、あそこに落ちたら間違いなく死ぬだろう。


「こっ、こく、うおあっ?!」


 渓谷から吹く多方向からの風にそもそも体勢が整えられない。しかも、身体は自由落下しどんどん加速していく。技を放とうとしたがそれどころではない。

 目の前に迫る死の恐怖に、徐々に冷静な思考は奪われていく。

 まずいまずいまずい、



「誰か、助け……!」

「ケイ!」


 突如横から何者かに抱き留められ、氷の通路を滑りながら縦方向への加速は緩和されていく。

 無意識のうちにつぶってしまっていた目を開くと、慣れ親しんだピンク髪の後頭部が目に入る。


「リーンハルトさん!」

「良かったぜ間に合って! 怪我はないか?」

「はい!」



 自分より体躯のいいケイを易々と抱き抱えるリーンハルトは氷の通路で上手く減速すると渓谷の上にゆっくりと降り立った。

 すぐにおろしてもらったが、流石のケイも腰が抜けていた。


「でも何でここって……。」

「予選の時からちょうどいい場所だなって思ってたんだよ。それにズーハオが、訓練場からワープホールで放り投げるならここが1番不意をついてやりやすいって。」

「ルイホァの兄ちゃんが……?」


 そっか、と力なく笑う。

 今回は早々にリタイアだな、と珍しく気の抜けている部下を思いながらリーンハルトは考えた。











 時は少々遡り。

 スタジアムから出るところで、ルイホァたちはズーハオとすれ違う。


「どこへ行くんですか?」

「あー? あの砂鉄男がワープしてきそうなところ。」

「……そんな曖昧な感覚で向かうんですか? しかも2人で?」

「こっちに人数割けってか? 別にお前と親父さんいれば問題ないだろ。」

「そういう意味ではありません。早計だと言っているんです。」


 チッ、とパウルは頭の硬い教え子に向けて大人気なく舌打ちを放った。


「ルイホァ。お前もその考えに同意するのか?」

「……!」



 不意にズーハオが尋ねてきたため、身体が硬直する。いつもなら、ズーハオに迷わず従っただろう。

 しかし、自分の上司はリーンハルトだ。

 そのことは昨日再確認したばかりだ。

 ルイホァは、いいえ、と言いそうになった己の口をぐっと閉ざしてから、息を吐くためにゆっくりと口を開いた。



「……私の今の上司はリーンハルトとパウルです。例え兄様の考えが正しいとしても、2人の上司の命令を私は信じます。そのための、上司です。」



 ズーハオはその返答を予想していなかったのか、虚を突かれたように細い目を丸くした。

 そして、一瞬悲しげな表情をしたが、すぐに背を向けてポツリとつぶやいた。


「……そうだな、お前の言う通りだ。無駄働きにならないことを祈る。」

「はい! 行こう、パウル!」

「おお。」


 ルイホァは一礼するとすぐに踵を返した。

 どこか小さな彼の背中を一瞥するとパウルもルイホァ同様、ユーチェンが逃げるであろう場所に向けて走り出した。








 残されたズーハオは、パウルの視線が感じられなくなってから背後を振り返る。

 まじまじと妹の目を見るのは久方ぶりな気がした。いつの間にあんなにも強い目をできるようになったのだろうか。


「……どうでもいいことだ。そう、どうでも。」


 何かを振り切るように頭を横に振ると、恐らく分身使いの本体がいる方へ向かった。観客席の分身や誘導はペキン支部の隊員や、他の観戦に来ている特務隊員が行なってくれるだろう。

 ならばズーハオは迷わずその本体を叩く。それが仕事だった。


 予想される場所に駆けていくと、途中でチンヨウ達と出会した。6人は驚いたような顔をしていた。

 ズーハオとしては、チンヨウの探索能力があると言えど随分と早い到着だと内心で感心していた。



「ズーハオ様、なぜここに?!」

「監査局に集まった情報を踏まえればどうとでもなる。お前達も随分と早い到着で感心した。」

「ヴィリさんといいどこも監査局長は優秀だな……。」


 ヒロタダがポツリと呟くと、今まで固い表情だったズーハオが嫌そうに顔を歪めた。エルナとシュウゴはギョッとしたが、それ以上にチンヨウが驚いていた。


「……僕、何か変なこと言いました?」

「いや、ヴィリとは既知の仲なだけだ。相変わらずのようだな。」


 はぁ、とため息をついた。

 とても仲良くは見えなそうなリアクションをしたが、ズーハオは構わず話す。



「お前達はここから進む場所が見つからなかったんだろう?」

「ええ、おっしゃる通りです。分身の本体の臭いはこの辺が濃いのですがどこにも……。」

「なら、オレが行こう。ヒロタダさん、貴方は暫く能力を使わないでいただきたい。」

「なぜ?!」

「今から起きることを見ていれば分かる。それとシュウゴさん。」


 彼はシュウゴに手を出す。

 はじめは、シュウゴはその手を見つめるばかりだがハッと何かを思いついたように拘束具を作り出してその手に渡す。


「あとエルナさん。貴女の能力でオレの位置を感知しておくといい。そうすればヒロタダさんが能力を使うタイミングが分かるだろう。どうすればいい?」

「え、あぁ、触れば大丈夫よ。」

「なら早く頼む。」


 ズーハオとやんわり握手する。


「チンヨウ、面々に説明だけ頼む。じゃあまた。」



 それだけ言うとズーハオの身体はみるみる煙と化して消えてしまった。

 能力を知らない3人はつい驚いて退いたが、チンヨウは愉快そうにその様子を見守っていた。



「これが我らが副支部長の能力、【煙】ですよ。詳細は違うらしいですがね。あの人が本気を出せばこの混乱などすぐに収束します。」

「信頼してるんですね。」


 ヒロタダが嬉しそうに微笑むと、チンヨウは年齢相応の笑みを浮かべて返した。



「それは、あなた達も同じでしょう?」












「ひひひ、こんな地下なら誰も来るまい。」


 分身と同じ姿をした男が不気味な笑みを見せていた。

 男がいるのは監視室。

 床には警備員が転がっており、幾重にもなっている扉は全て溶接した。大掛かりな作業も分身があれば容易。最悪追い詰められることがあっても逃げるための秘策は用意してあった。


「支部の偉いさんが集まるここでこれだけ大掛かりなパニックがあれば、このエリアの建造物地図を回収することも容易いだろうよ。」

「ほお、詳しく聞かせてもらおうか?」



 突如現れた首元にヒヤリとした感覚。

 椅子から立とうとしたが、動くなと言わんばかりに喉元に刃物が食い込む。

 薄く血が滲んだことがわかった。男は大人しく椅子に座り直す。



「これはこれは。ペキン監査局長殿。どうしてここがお分かりに? ひっ。」

「質問しているのはこちらだ。答えないというならばその不要な口と喉を裂いてやろう。」

「こ、答えますからぁ!」


 情けない声を出した男に一切の容赦なく彼は歯を食い込ませる。


「我々は歴史的建造物の遺構、そして構造を学ぶことで来たる日に備えてるんですよぉ。」

「来たる日?」

「えぇ、詳細はこんな下っ端には伝えてませんよ。ねっ、もういいでしょ。命だけは……!」



 能力発動の気配を機敏に感じ取ったズーハオは首元に突きつけていた刃を振るったがすんでのところで男は避けた。

 避けた、というよりは分裂したという方が正しいか。

 鬱陶しいほどにたくさんの小さな男がわらわらと足元で蠢いているのだ。虫の大群を見ているようでズーハオは生理的に受け付けないと感じ、顔を顰めた。


「ぬかったな! 僕はこうやって分身できるんだ! 通気口から逃げてやるぜ!」

「……シマッタ。」


 明らかに棒読みなズーハオの言葉に得意げになった男は高笑いしながら次々と通気口に逃げ込んでいく。

 しかし次の瞬間断末魔のような声が密室に響き渡る。

 分裂していた男はみるみる実体へと戻り呻き苦しみ始める。皮膚は一部変色しており、まさに細胞死を迎えているようだった。



「お前何をした!」

「通ってきた道に忘れ物をしただけだ。揮発性の猛毒をな。」

「ど……でも、何であそこに止まっている?!」

「冥土の土産に少しだけ教えてやろう。」


 泡を吹く男に再度刃を押し当てた。

 しかし、彼は能力を聞き出せると油断した男の肩にを突き刺した。その刃には何らかの薬品が滴っており、男はびくりと身体を震わせると気を失った。


「本当に言うと思ったのか? 愚か者め。」


 シュウゴに貰った拘束具を装着して彼は毒の回収に向かう。




 なお、ズーハオの能力は【粒子操作】である。

 彼は好んで煙を主として使うが、ここに辿り着いたのも自身の身体を煙と化して通気口を通ってきただけ。

 毒も揮発性のものであれば操作など造作もないことであるがズーハオは滅多に明らかにすることはなかった。











 同時刻。

 ズーハオが男と相対していた頃。

 『Dirty』の中でも然程強くはないが、今回集められた勢力の6、7割がエリア:チャイナの遺構を示した資料を奪いに近隣の国立博物館に襲来していた。

 しかし、彼らは動けなかった。


 それには理由があった。



「数で攻めてこよう、とは、ペキン支部も舐められたものだ。」

「な、なぜ支部長のお前がここに……、来賓でスタジアムの方にいるのでは……。」


 キメラと多数の組織員を率いていた男が尋ねた。

 目の前に佇む男、ジュンシーは笑顔を一切崩さずにその男に淡々と答えた。


「我が支部の情報網を侮るなかれ。貴様らの愚かな行為なぞ、鼻からわかっていたことよ。そして、お前達など私1人で十分だ。それに有象無象となった観客を率いるのは私の性分に合わん。」


 目の前には男1人であるのに。

 組織員も、理性を失ったはずのキメラも恐怖で動けなかった。この威圧感は七賢人に匹敵するほどである。



「ツァイチェン、もう二度と会うことはあるまいよ。【天候操作:辻】。」



 次の瞬間。

 ジュンシーの目の前に立つ者はおらず。

 そこには凪のような穏やかな風が吹くばかりであった。


【こぼれ話】


 ズーハオの能力は正しくは【粒子操作】です。

 粒子状物質と定義されるものは基本的に操作可能ですが風の流れがある方が有利に能力を発揮できます。


 ジュンシーの能力は【天候操作】です。

 雨、風、雷全てを司る最強クラスの能力と言われています。しかしすぐに鼻血が出るそうで彼はかなり修行を積んだようです。

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