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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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62.新人大会 -確実な実力へ-

 翌日。

 まずはエキシビジョンマッチということで、ペキンチームと別のチームの試合が行われることになった。オーダーは朝のうちに出すシステムになっており、シュウゴが昨日の作戦通りさっさと提出したらしい。

 リーンハルト達は午前中は警備の仕事ということで観戦は出場者であるヒロタダ達4人のみで行うことになった。


 先頭は砂鉄使いの小太りの男だった。

 シュウゴの読み通り、チンヨウではなかった。陰鬱そうな、黒髪のワカメのような髪で目元があまり見えない。

 2番手は操縦をしていた男と武器を振り回していた女性。どうやら男の方はドール使い、女性の方は能力は明らかにならなかったがかなり高い身体能力を持つらしかった。



「シュウゴ、あの女の人って何の能力かしら。」

「さぁ……。そもそも使ってないと思うけど。」


 シュウゴもどうやら分からなかったらしい。

 ここまではペキンチームの圧勝、すぐに大将戦は始まった。

 チンヨウが大将戦に出て来た。

 彼は一定の距離を敵ととっており、余裕がありそうだ。相手は近接系の能力で突飛な攻撃はないが、速さは十分であった。しかし攻撃は全く当たらない。

 シュウゴは終始無言であり、ケイとエルナははてなマークを出しながら見ていた。


「シュウゴ、あれって……。」

「能力は使ってるんでしょうか、ただ違和感があります。」


 彼は時間をくださいと言ってまじまじと見ている。

 ある程度の時間、回避を続けて相手の隙が出たところでチンヨウがタコ殴りにし、試合は終了となった。4人ともほぼ無傷という結果に地元客は大いに盛り上がる。


 控え室に向かう途中にはもちろん観客席を通るため観客達の会話は嫌でも耳に入る。



「あーあ、今年もペキンチームの圧勝かね。」

「次の準決勝はどっちもレースでペキンチームにやられてたとこだろ? たかが知れてるっしょ!」

「しかも見たかよ、トーキョーチーム。ガキと女2人とガリ勉そうなメガネだぜ? ちょっと能力が強いだけでペキンチームには勝てないな。」

「そーそー。あ、でも女の子2人は顔良かったよな! アイドルでもやってりゃいいのによ!」


 エルナは特に何も嫌な思いはしていなかったが、残りの男性陣が明らかに血管を浮かべていた。



「ガキだからって舐めやがって、絶対鼻の穴あかす。」

「ボコボコにしてやる。シュウゴは優勝インタビュー低めの声で話せよ。」

「当たり前じゃないですか。」


「……まぁ、程々にしなさいよ。」



 自分が止める側になるとは、と苦笑いしつつ便宜上は止めておいたが無駄だろう。だが、本音はルイホァのためにも、あの男の鼻をへし折るためにもやってこい男共! という気持ちで無意識のうちに拳を握り込んでしまう。








『では、早速準決勝始めましょう! 両チーム入場してください!』


「おっ、アイツらの番だな!」

「1番手はケイくんね。どうなるかしら。」

「すぐ終わると思うよ。」



 横からぬっと口を出したのはルイホァだった。昨日と打って変わって落ち着いている彼女は目元を柔らかくしながら呟いた。


 相変わらず観客は無駄口が多い。

 ケイは3人から離れ、ワープホールの方に向かう。演習と同様インク玉を割るか相手に参ったを言わせれば勝ちらしい。



『余程じゃない限りケイより強い新人はいないよ。』

『派手なパフォーマンス、期待してる。』

『この不快な会場を黙らせて来なさい。』



 味方の鼓舞は心地いい。

 ケイは自分でも気づかぬうちに口角を上げていた。

 実況のコールと同時に移動そして試合開始だ。




『では、訓練場No.084 水蓮の間、試合開始!』


「ガキだからって容赦しない!」




 観客も、相手も、皆黙り込む。

 訓練場の水蓮など無かったかのように、辺りは赤混じりの黒い炎で包まれている。まるで地獄の業火、その中に平然と佇む男を果たしてただのガキと呼べるのか。



「ハッ、こんな見た目だけの炎、オレが……。」

「ならさっさとやってみろよ。一瞬で終わるのはお前だ。」



 男が初動に入った時にはすでにその場にケイはいなかった。気配がした方、上方を見たがその時にはすでに目の前に少年の顔があった。

 避けようとしたが背後の炎にためらった。それと同時に一瞬で胸ぐらを掴まれ、一本背負いの要領で水場に叩きつけられ、すぐさま胸元のインク玉は握り潰された。



「見た目だけの炎なら、そのまま避ければ良かったのにな、オジサン?」

「……クッ、」


『……ハッ、し、試合終了〜!』

『圧倒的すぎて言葉も出ませんでしたね……。本当に彼は新人なのでしょうか?』



 実況者も解説者も呆然としていたが、彼の圧倒的な強さは観客のボルテージを上げるには十分だったらしい。会場中が一気に湧き上がる。

 紋付をほぼ単独で倒し、七賢人とも顔を合わせている彼の成長は著しい。支部長や視察に来ている他支部の面々もほう、と息を呑む。



「いぇーい、勝ちました!」

「ナイスよ!」

「僕この後出たくないんだけど。」

「すぐ終わらせれば問題ありませんよ。」

「お、シュウゴさん珍しくやる気満々ですね!」


 順々にハイタッチしたケイは足元をもらったタオルで呑気に拭いている。



「作戦は?」

「ケイと同じです、移動した瞬間から奇襲スタートです。オレを女って言った奴の期待を裏切るために頑張ります。」

「おお……?」


 無表情な彼の作戦は読めないままとりあえず従っておくか、とヒロタダは相手に向き合う。

 シュウゴにはすでに指示を受けているが自身の【無効化】の使い所により勝敗が決まる。今回に関しては絶対に負けられない。ヒロタダは集中して能力の使用について確認をした。


 その間にモニターの方では着々と次のステージが決定されていく。ステージの様相が表示されると観客席が湧き立つ。






『さて気を取り直して2戦目、訓練場No.013 密林の間、試合開始!』



 遠目でいて視認できた者は果たして何人いただろうか。

 リーンハルト、パウル、そしてゴーシくらいであろう。ワープ直前にシュウゴが何かを書き出したことに気づけた者は。



「さて、どうしましょうか。」

「あの女は予選を見る感じモノを創り出す能力だろう、メガネは知らん。鍛えられているようだがたかが知れたレベルだ。」


 男は2人の外見から淡々と自身の見当をつける。

 ふぅん、と聞きながら敬語で話していた男が距離を取り、能力を使おうと地面に手をつこうとした時だった。



「避けろ!」

「!」



 顔を上げること叶わず、肩に衝撃が走る。次の瞬間、視界に入ったのはシュウゴが己についたインク玉を潰す動きだった。

 インク玉は呆気なく割れてしまう。


 もう1人の男が能力を発動させたーーーはずだった。


「なっんで、」


 気づいた時にはすでに遅い。

 ヒロタダの【無効化】は発動していた。

 迷わずに追撃として放たれたシュウゴの蹴りを後退しながら、辛うじて避けた。しかし、シュウゴは避けられた足で力強く地面を踏みつけると踵から何やら煙のようなものを噴射させた。



「うわ、なんだアレ。」

「アレってケイが戦った紋付の奴の仕込みに似てるな。」

「敵の仕込みをすでに自分の物にしてるって末恐ろしいわね。」


 観客席のパウルとリーンハルト、オリヴィアが苦笑いしながら話している。



「クッソ、なんだこれ目に染みる!」


 おそらく催涙スプレーのようなものだろう。

 顔を覆いながらさらなる追撃を回避しようと試みた時、後方から急に腰をに手を回された。


「なっ!」

「うおおおお!」



 その正体はガスマスクをつけたヒロタダである。

 そのまま腰を逸らせて自身より大きな男にジャーマンスープレックスを喰らわせる。脳天から落ちた男は立つことなどできなかった。

 のびている間にヒロタダが冷静にインク玉を潰し、作戦が成功したことに安堵する。彼が一息ついていると、シュウゴが近寄ってきた。


「背後から気絶させてくださいと言いましたがまさかジャーマンスープレックスでくるとは……ふっ。」

「仕方ないだろう、想像より大きかったんだから。というか笑うなよ。」

「笑ってな……ふふ。」


 顔は伏せているが明らかに肩が震えて彼は笑っていた。人間予想外のことがあると笑ってしまうらしい。

 2人の会話を聞いてシュウゴにあっさりとインク玉を割られた男は唇をわなわなと震わせていた。



「なっ、想定と違……、というか男?」


 相手の言葉に、突然動きを止めたシュウゴがゆっくりと振り返る。


「はい。見た目で判断しているからこうなるんですよ。」

「僕もシュウゴも確かに隊の仲間と比べるとまだ力はないけど、大人しく守られるだけじゃいられないんですよ。」

「……そうですか。」



『試合終了! まさかまさか、ストレート勝ち、圧勝です! 昨年の結果から誰がこの結果を予想できたでしょうか? 決勝は我らがペキンチームとトーキョーチームです!』



 会場が盛り上がる最中、2人も会場に戻ってきた。

 エルナは仲間達が勝ったことや褒められていることに加え、自分が出なかったことがなによりも嬉しかったらしくピョンピョン飛び跳ねて喜んでいた。

 その背後には先ほど当たった2人とケイと当たった男が不貞腐れながらも仲間に伴われていた。



「先程は申し訳なかった。君たちの言う通り見た目で判断したオレ達の落ち度だ。ほら、お前も子どもだと侮ったことを謝罪しろ。」

「嫌だねっ!」

「別にいらないっすよ。おっさんには一生負けないし。」

「はぁ〜〜〜?」

「あ? やるんすか?」


 額をこすりあわせて睨み合う2人をそれぞれのキャプテンが引き剥がす。


「また機会があれば手合わせをお願いします。シュウゴくん。決勝、頑張ってください。」

「こちらこそ。応援もありがとうございます。」


 やんわりと握手を握り返すと相手のキャプテンも微笑み返した。












 観客席でもリーンハルト達は興奮冷めやらぬまま話していた。ルイホァとオリヴィアは参加した4人の方に行ってしまったため、リーンハルトとパウルはのんびりと話していた。

 といっても前半はヒロタダのジャーマンスープレックスが面白かったらしいパウルが腹を抱えて咽せていたが。


「ヒロタダすげーな。笑ったわ。」

「いや笑いすぎだろ。確かにアイツは他のやつに比べて身体強化はそんな優れたものじゃねーが、身体も柔らかい。それに身体強化も筋力強化に縛れば結構上手くできるらしい。」

「逆にシュウゴはスピード特化か。ケイは全般的に優れてる。バラエティに富んでんな。」


 愉快そうに笑うパウルは何かを思い出したかのように手を叩く。


「ところでよ、シュウゴの先生はヴィリか?」

「よく分かったな。オレの身体の使い方が合わなかったからアイツに頼んだんだ。……本当は、セイに頼めれば良かったけどな。」


 リーンハルトの言葉に彼は目を細める。

 査定の時、とはいえど共に闘った仲間だったのだ。



「確かにアイツはスピード特化の上、瞬間的な出力強化に長けてたからな。ま、シュウゴ自身も教える方のヴィリも、それを意識してるだろうがな。」

「……予備動作、同じだもんな。」


 観客席の柵に寄りかかりながら2人はため息を重く吐いた。そんなことをしていると背後から聞き覚えのある声が2人を呼んだ。



「あの、お2人。少々よろしいでしょうか。」

「あ? ズーハオじゃねーか。どうした?」

「……。」


 雰囲気的に無駄話をしにきたわけではなさそうだ。リーンハルトもパウルに倣ってズーハオの方に身体を向けた。


「こちらで少々面倒事がありまして。お2人にご協力願いたいのですが構いませんか?」

「「?」」



 2人は顔を見合わせた。

 しかし、この若き監査局長から告げられた事実に2人は苦虫を噛んだような気分になった。


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