61.新人大会 -仲間の括り-
『さて、本戦は明日より始まりますが、まず勝ち残ったチームの紹介を行います! 1位はペキンチーム!』
さすがは地元といったところか、観客は盛大に盛り上がる。
『2位はブエノスアイレスチーム、3位はトーキョーチーム! まさかの4位はなし、となります!』
観客はブーイングやら何やら。
ケイとエルナは苛立ちながらその反応を見ていたがヒロタダが嗜めると、なんとか我慢をしていた。
『では本戦の説明をします!
明日は準決勝、1位のエキシビジョンマッチ、そして2位対3位のチームによる試合、そして明後日が決勝となります!
試合内容はご存知の通り、1対1の試合2本、2対2の試合1本を交えた2本先取の団体戦となります! 会場はワープホール先のランダムなステージで各ルールに則った試合をしていただきます!』
「演習と同じ感じだな。」
「ええ。でも各ルールに則って、というのが気になりますね。それに2本先取なら温存も可能です。」
シュウゴは何かを考え込むように黙ってしまったため、それ以上言及することはなかった。
『試合前の選手同士の無意味な交流は禁止です。くれぐれも守ってくださいね。
それでは参加者、観客の皆様、また明日この会場でお会いしましょう!』
それから、ヒロタダ達は宿に戻る。
するとリーンハルトがすすすと4人に寄ってきた。
そういえば、宣戦布告をしたときに彼とゴーシはいなかった。パウルが報告または面白おかしく吹聴することで耳に入ったのだろう。
やはり怒られるのだろうか、萎縮してしまう。その後ろについてくるパウルはにやにやしている。
「何ビビってんだ?」
「いや、怒られるのかなと。」
「は? お前何したんだよ。」
「パウルさんが言ってた宣戦布告のことじゃないの?」
オリヴィアが言うと、ああと納得したようにリーンハルトは笑う。見たところ全く怒っていないようだ。
「今回はナイスだった。オレもお前に同意だ。アイツらのことがっちり仕留めてこいよ!」
「もちろんっすよ!」
「当たり前じゃない! 3人がどうにかするわ!」
「ぶは! 清々しいほどに他力本願だな!」
パウルが腹を抱えてゲラゲラ笑っている。
その後ろからゴーシが苛立ったように眉間にしわを寄せながら言い放った。
「そんな話をするためにロビーにいるわけではないだろう。さっさと用を済ませろ。」
「あ、すみません。ヒロタダ、シュウゴ、エルナ、ケイ、4人に会いたいって人たちがいるんだよ。」
「僕たちに?」
「ああ。」
リーンハルトが手招きする方についていくと知らない人たちが8人いた。
エルナとケイも顔を見合わせて首を傾げているあたり心当たりがないらしい。その中でシュウゴだけがあ、と声を漏らした。
「知り合いっすか?」
「いや2人が必死に助けようとしたチームの方々だよね?」
「「「あ!」」」
シュウゴの言葉に3人は揃って手を叩いた。
その様子に笑いながらもキャプテンらしき人たちがこちらへ寄ってきた。数名は包帯を巻いており傷が痛々しかった。
「予選の時は助けてくれてありがとう。僕たちのせいで君たちまで怪我をさせるところだった。」
「でも、お前らのおかげでオレ達は助かった。感謝の言葉しかない。」
「いや、そんな、特務隊の仲間として当たり前のことを……。」
ヒロタダの言葉に皆きょとんとした。
変なことを言っただろうか、不安になってリーンハルト達の方を見ると、先ほどから笑いを堪えているパウルが教えてくれた。
「いや、何となく支部が違うと仲間って意識が持てない特務隊員が多いんだが、ヒロタダが気にせずあっさり言うからみんなびっくりしてんだよ。」
「えっ、そうなんですか?!」
「そうそう、ま、ヒロタダらしいけどよ。」
リーンハルトもにこにこと嬉しそうに笑いながら同意した。
「君たちが助けようとしてくれて本当に嬉しかった。それに君たちが残ってくれて僕たちも嬉しい。ぜひ優勝してくれ。応援しているよ。」
「……はい。」
8人と順々に握手をしていく。
皆無事でよかった、とヒロタダは目頭が熱くなった。
部屋に戻ると早々にシュウゴから呼び出しが来た。
明日の準決勝についてだった。
昨日同様にヒロタダとケイ、シュウゴの部屋に皆で集まった。
「明日の準決勝なんですが。」
「ああ、どうするんだ?」
「1対1、2対2、1対1の順で行われる、で間違い無いですよね。」
「ああ、その通りだぜ。」
リーンハルトが頷くとシュウゴが迷わず言葉を発した。
「なら、1番手にケイ、2番手にオレとヒロタダさん、3番手にエルナを置きましょう。」
「えぇ?! あたし負けるわよ?!」
「……そもそも回さないってことだね?」
ルイホァが尋ねるとシュウゴはそ、とつぶやいた。
「あんな風にカッコいい宣戦布告をしたところ申し訳ないんですが、ペキンチームと当たることを考えるとエルナの能力を温存したいんです。」
「温存すか。確かにあの野郎の口調だとヒロタダさんの能力は薄々勘付いてる、って感じですよね?」
ケイの言葉に頷いた。
「ケイの能力と他の3人のことを考えると、ケイの機動力ならむしろオレ達はいない方がいい。特に、今回は現場じゃないからね。正直なところ、オレ達3人は単体で勝つのが難しいから2対2に賭けるしかないんだよ。」
実際にケイ以外の3人は、リーンハルト班の中で肉弾戦は苦手な部類だ。エルナがケイの肩をドンと叩く。
「アンタ、期待されてるのよ。頑張りなさいよね。」
「ぉ、勿論すよ! シュウゴさん、期待しててください!」
「……うん。」
ケイの嬉しい頑張る! というキラキラした笑顔が眩しかったのかシュウゴは目を細めた。
「で、2対2の方ですが、2人の能力はある種相性最悪です。だから、オレが2対2の方に出ます。ペキンチームの方が見たところ厄介ですし温存すべきです。……それに。」
シュウゴはヒロタダの方をチラリと見ると薄く笑った。いつもの微笑みというよりかは珍しく企むような悪い顔だった。
「ヒロタダさん、あの人と当たりたいですよね? たぶん、大将戦に出てきますよ。それに貴方の能力はおそらくあの人に太刀打ちしやすいでしょう。」
「え、あの人砂鉄使いじゃないの?」
「砂鉄使いはたぶん後ろに乗っていた別の男です。」
「……あの、どうしてそう思ったのかしら?」
オリヴィアが尋ねるとシュウゴはあっさりと答えた。
「あの人ともう1人……女の人かな、その人は武器を持っていました。砂鉄なんて能力があるならケイと同じ、武器なんて邪魔です。」
「よく見てるわねぇ。」
シュウゴの分析にオリヴィアは感心したように呟く。パウルも驚いたようにぽかんとしていた。
「それに予選後の挑発しに来たときの反応の遅さは決して近接戦をする人間のものではなかったです。
ということは、オレ達と同じ、攻撃力はないけど少し癖のある能力、そして体術戦を求める人でもないってことですよ。それなら、【無効化】で能力を無しにしてしまえば勝ち筋は見えます。」
「シュウゴ味方で良かったな。怖いわ。」
「どうも。」
パウルの言葉をさらりと流した。
「分かった。準決勝はストレート勝ち、決勝はみんなで2本、全力で取りに行く作戦で行こう。」
「「「了解。」」」
「シュウゴがキャプテンだろう、僕に押しつけないで。」
「バレました?」
部屋のメンツがケラケラと笑っている輪からルイホァは静かに離れた。それを横目で見ていたリーンハルトは追いかけようとしたが、パウルが肩を叩くと腰を上げた。
「……。」
ルイホァはため息をついた。
仲間が活躍して、他の支部の人たちを助けて感謝される。誇らしくないはずはなかった。
しかし、内心は複雑だった。
紋付きに臆することなく挑み大切な人を喪う辛さも乗り越えたエルナ、紋付を倒したケイ、七賢人と相対しても冷静に応戦したシュウゴ、そして今回真っ先に人を救う選択ができたヒロタダ。
自分が同じ立場だったとき、紋付を倒せるだろうか、ともにいる相手を救えるだろうか、冷静な判断を下せるだろうか。
あの場ではああ言ったけど自分は絶対に『新人類の先』には行けない。
父の言うことも兄の言うことも、残酷ではあるが正しかった。
「……情けない。」
「何が情けないって、お嬢さん?」
不意に現れた気配にビクッと肩を震わせる。
パウルはほれ、と烏龍茶を渡してきたため素直に受け取った。
「悩みか? 同じチームの奴に言いたくなければオレに言ってもいいぞぉ。」
「……悩んでるように見える?」
「とても。特にケイとエルナは分かりやすく心配してるぞ。」
ルイホァはコップに口をつけながらぽつぽつと合間で語る。
「みんなはさ、紋付や七賢人と会って戦って、強くなってるし、強くなる可能性も秘めてる。でも私は七賢人や紋付と会ったことも戦果も挙げたことがない。
そもそも、戦って勝てるのかなって。」
「勝てねーと思うか?」
「……分かんないよ。」
不貞腐れたように呟く。
パウルは何かを思い出すかのように目を細めて話し始める。
「まぁ、天才に囲まれるとそう思って当たり前だ。オレも戦争の時はそう思った。」
「……そうなの?」
「ああ。」
かつての仲間達を回顧する。
懐かしい笑顔が脳裏にははっきりと浮かんでくる。
「リーンハルトはご存知の通りだろ。モニカも似たようなタイプだ。あとはアイツの親友も、抜群のセンスだった。生きてたらリーンハルトとどっこいどっこいだろうな。あとウルツさんな。
で、ヤンはエルナと似た感じ、前線でバリバリってタイプじゃなくてサポート特化だろ。
フェベの娘さんが音使い、ハーマンみたいに冷静で秀才って感じだったな。あとはオリヴィアの元婚約者、頭のキレるシュウゴみたいなタイプのやつだった。
オレは不器用だし能力はそんな派手じゃねーし、困ったもんだったよ。」
ハッハッハッと大柄に笑う。
しかし彼は心の底から笑っているわけではなく、どこか悲しそうだった。
「オレもあの頃は若かった。だから、戦果を焦ってウルツさんの指示を無視して好戦的な人にテキトーについて行って危うく死にかけた時もあったさ。その時はヤンとシモンにこっ酷く怒られたけどな!」
「そりゃ……怒られるよ。」
「今思えばそう思う!」
だからな、とルイホァに彼は真っ直ぐ向き合った。
「紋付や七賢人と交戦することだってあるだろうな。でも、戦果を焦るな。お前ができる方法で相手と向き合うんだ。」
「……うん。」
「それに、今のお前の上司は誰だ?」
「リーンハルトだけど。」
フッと彼は微笑んだ。
「アイツは戦果を焦るような奴か?」
「ううん。」
「なら、焦る必要もないだろ。お前にできることをやればいい。それを冷静に考えること、お前はできるだろ。」
それになー、と急に呑気な声で話し出す。
「オメーの兄貴もよ、前にヴィリに演習で負けて今のお前みたいにやさぐれてたんだぞ。やっぱり兄妹じゃねーか。」
「兄様が……?」
「アイツ、兄様なんて柄じゃねーよ。偉そうにしてっけどただの兄ちゃんだ。まぁ、いつか殴り合いの兄妹喧嘩とかしてみたらどうだ? アイツ逆らわれないってタカ括ってるから奇襲すればいけるかもしれねーぞ。」
「いやいや、私何するつもりなのさ。」
パウルはジョークのつもりで言っているのか、はたまた本気も混ざっているのか。真意は分からなかったが突拍子のない提案にルイホァは噴き出した。
「そうだね、考えすぎても仕方ない! とにかくやれることをやって強くなるしかないよね! 困ったらリーンハルト達にホウレンソウ! ありがと、パウル!」
「おー、早く元気な顔見せてやれよ。」
ルイホァは頷くと、一気に烏龍茶を飲み干して部屋に駆けて戻った。
その姿をパウルは笑いながら見送ると、ホテルから見える夜景を見下ろしながらため息をついた。
『オレは強くならなければならない。とにかく修行し、やることをやるしかないんだ。』
「……兄妹揃ってまるで同じこと言ってんだもんなぁ。似たもの同士の癖にうまくいかねーもんなんだな。」
幼き頃の兄を思い、パウルは苦笑を浮かべると片手に持っていた酒を一気に煽った。
【こぼれ話】
特務隊の中で指導がうまいのはパウル、次いでハーマン、ルイホァ、ヴィリです。
リーンハルトやモニカは理論はしっかりしていますが、動きのコツなどを伝えるときは抽象的でわかりにくいようです。その点ではケイは辿々しくも伝えるのが上手いです。
ゴーシも上手いですが、専門用語をバシバシ使うので上級者向けです。オリヴィア、シュウゴもこのタイプです。




