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Psychic Rulers 〜能力者たちの語りき話譚より〜  作者: ぼんばん
4章 兄と妹

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60.新人大会 -波乱だらけの予選-

 シュウゴの作戦は功を奏した。

 はじめにエルナとヒロタダが能力をうまく用いながら相手の出方を窺ったところ、半数は妨害工作を図っていた。


 しかし大抵はヒロタダの【無効化】の正体を知らず、能力が発揮できなかったため何もせず帰っていくより他無かった。

 多少粘っこい奴らもいたが、機嫌の悪いケイの顔を見て機体には何もできなかった。後から聞いた話だが、ケイの顔は紋付を倒したということでかなり有名らしく、向こうも下手なことはできまいと踏んだらしい。


 2日目は、こそこそと機体に触れようとする輩も出てきたが、エルナの【共感】で機体を点検し、ヒロタダの【無効化】で細工を外した。加えてシュウゴの情報戦は相手を易々と恐怖に陥れることに長けており、あることないこと出会った相手に言っていた。


 3日目は整備に殆どの時間を費やし、無事に企画内の機体を完成させることができた。

 シュウゴが最後までペキン支部代表が来なかったのが妙だとぼやいてはいたが気にしても後の祭である。    










 そして当日。

 シュウゴは朝一で会場入りして、機体の最終整備と何やらとある細工をしていた。

 尋ねると無言で首を横に振られたあたり、盗聴も警戒しているのだろう。目敏い男である。


「いやー、緊張しますね!」

「というか安全ベルトがあるといえど機体の上で立つとかよくもまぁやるわね。」

「エルナさんは座ってやる仕事なんですからいいじゃないっすか。今になってゴーシさんに『ルイホァの能力で浮かんだ状態を保ちつつ動けるようにしろ〜。』って言ってた理由が分かりました……。」


 ケイはため息混じりに呟く。

 そんな雑談を交わしていると不意に人の接近の気配がし、2人はその人物に向き直る。


 そこにはそれなりに長身の糸目の男がニコニコしながら立っていた。



「どーもー。やっと会えましたね。ジパングの皆さん。」

「初めまして。チャイナの方ですか?」

「あら、よくご存じで。挨拶に回っていたのはそちらのお嬢さんとうかがっておりましたが、キャプテンはどちらかな。」



 なぜかバレているらしい。

 シュウゴが機体の方から顔を出して駆け寄ってきた。


「一応チームのキャプテンは私で登録させていただいてます。それに彼女は聡いので、挨拶した相手の特徴についてよく教えてくれました。」


 【共感】で情報についてシェアしてほしいと言ったのはシュウゴのくせに、とエルナは内心で思う。彼は案外いけしゃあしゃあと嘘をつく。


「申し遅れました。オレはペキンチーム代表のサイ・チンヨウと申します。よろしくお願いしますね、シュウゴくん。」

「……、シュウゴ・ヒキです。よろしくお願いします。」


 軽く雑談を交わすと彼は軽やかに帰って行ってしまった。

 シュウゴは訝しげな顔をしながらも自身の身体を見やる。一応ヒロタダにより【無効化】で相手の能力の影響を受けないようにしたが特に何もないらしい。



「何だったのかしら。」

「……さぁ、ただ探知系の能力だったとすればオレの能力を知られたところで別に影響はないかな。」

「どっちかってーとヒロタダさんやエルナさんの能力の方が知られたくないっすよね。」


 ケイの言葉に3人は頷いた。

 開場のアナウンスが鳴る。開会式のアナウンスが鳴り、観客の入場も始まる。

 簡単な注目チームの紹介や来賓の挨拶も淡々と行われていく。その間にシュウゴは使用する武器の名前をメモ帳に黙々と書いていた。


 ヒロタダは全員きいていないのも何だろうと思い、スタート前の支部長の挨拶に耳を傾ける。



『このエリアにおいては兵は神速を貴ぶという言葉を胸に隊員の指導を行なっている。判断も行動も素早く行う事が成功につながるという意味だ。誤った判断も、鈍間な反応も強者には不要、それを念頭において新人諸君は戦ってほしい。

 最も、本年は出場前に失格となった愚か者も多く居るらしいが。』


「そういえば結局何チームが失格になったの?」

「192チーム中、84チームらしいよ。」

「半数近くも? ウチ、ヒロタダさんいて良かったっすね本当に。」


 ケイが舌を巻きながら呟く。















『ではそろそろ始めましょう! 参加者の皆さんは自分のチームの機体についてください。』


「スタート、よろしくお願いします。絶対本戦に進みましょう。」

「「「了解!」」」



 エルナはベルトを留めてがっちりと機体にしがみつく。一方で後部座席のケイとシュウゴは作戦のためにベルトを留めつつも、能力を使う準備をしている。

 ヒロタダは運転席につき、フゥ、と息をつく。

 シュウゴの作戦はスタートと川沿いの地点で発動する。市街地や渓谷はヒロタダの運転能力が試される。

 しかし、それは彼の得意分野。


 グッとアクセルに足をかける。





『では、特務隊新人大会、予選レース……、開始!』


「【黒炎】!」



 ケイの能力が発動と同時に会場全体が発光した。

 無事浮上できたのは50機ほど、もちろんヒロタダ達の機体はシュウゴが施したブーストによりスタートダッシュを決めた。


「ひぇえええ!」

「……会場に細工するな、とは言ってなかったからね。」

「作戦成功!」

「しっかり捕まってろよ!」



「ブッハ! アイツらやったなぁ!」


 観客席ではリーンハルトが腹を抱えて笑っていた。

 小爆破により巻き込まれてスタートできなかった機体の持ち主達は悲鳴をあげていた。

 ヒロタダは見事な機体捌きでトップの群団に合流する。


「ここからは防御中心で。」

「了解っす!」


 市街地でそう指示したのも理由があった。

 無意味な追撃は市街地破壊や一般市民への危害となる。なるべくそのようにならないように配備はされているが間違いなく減点ではあるだろう、と。

 これはヒロタダの助言による判断であった。



「……2チーム、こちらに狙いを定めてる! たぶん後方!」


 エルナの声でケイは後方に注意を向ける。

 これが彼女に挨拶へ行かせた理由だ。エルナが触れることで能力を発動させることが可能である。つまりは思考を【共有】するのだ。

 しかし、参加者全員の思考を読むというのは彼女の負担になる。そのため、シュウゴは強い焦りの感情を探知するよう、エルナに指示を出していた。



「【黒炎壁】!」


 見事にケイは相手の能力を落とした。

 ヒロタダの見事な回避により、恐らく先頭から5チームに入るであろう順位で市街地を抜ける。


「シュウゴさん、エルナさん!」

「任せて!」

「はいはい。」


 彼が銃を構える。

 ケイは川に人がいないことを確認して一気に能力を発動した。


「【赤炎】!」


 とにかく広範囲の炎を出す。

 川からは水蒸気が噴射し、後方の機体達に襲いかかる。


「上方25°、距離24m!」

「はい。」


 シュウゴはエルナの言った方向に躊躇いなく狙撃銃を放つ。機体がバランスを崩す影が見えた。

 エルナは次々と指示を出し、後続機体を2人が飛行不可にしていく。その間にケイは前方の警戒に変更するが、案の定前方から銃撃が襲いかかる。


「ヒロタダ! 下!」

「【無効化】!」


 視線を移すことなく能力を発揮した。

 どうやら川の水を利用した渦の攻撃が襲いかかってきたらしい。




『殆どのチームが市街地を抜けた模様、残りは42チームです!』

『にしてもスタートの奇襲、あれはトーキョーチームの機転でした。ルールをよく理解しているのでしょう。』


「ふふ、うちのシュウゴがそんな穴見逃すわけねーだろ。」

「親バカだな。」

「だが確かに素晴らしいな。それにヒロタダの運転技術、エルナの能力の汎用性、ケイの攻撃力の高さも有効に使われている。」


 ゴーシが手放しで褒めるのも珍しいと思いながらもパウルも楽しげにレースを見ていた。



『しかし、後方から追い上げるは我がペキンチーム! さて、レースも折り返し、渓谷を抜けてチェックポイントを通過します!』



 実況の声を聞いて観客席が湧く。

 その様子をルイホァはリーンハルトの横で黙って見つめていた。







「4位、ギリギリ圏内だ!」

「前の機体も追いついたら仕掛けます?」

「……そうだね。」


 そう言いつつもシュウゴが気にしているのは後方だ。


「どうしたんすか?」

「いや、確かにすぐ後ろの機体はオレ達が遊撃したけどそれにしても気配が無くて気味が悪いなって。」

「確かに、そうだな。」



 集中して探知を行うエルナを横目で見たが、彼女は何も答えなかったが、決して安心しているようには見えなかった。

 チェックポイントには順位通りに辿り着く。

 1位の機体にはだいぶ引き離されてしまったが、前方に2機見えた。



「おし、ならあの2機押し除けて2位通過しましょう! 向こうはいざこざしてるみたいですし、何とかの利ってやつっすね!」

「漁夫、な。」


 そんなことを話しながらケイが攻撃の姿勢に入った時だった。



「後方……いや、上空からどんどん撃墜されてる! 逃げるわよ!」

「は、逃げ……?」

「ヒロタダさん、エンジンターボ!」


 勝手に改造したらしい機能を咄嗟に指示された。

 ヒロタダは上空に何が起きているか分からない状況でレバーを思い切り引く。


「砂?!」

「違う、砂鉄だ! ヒロタダさん!」

「【無効化】!」


 エンジンの出力とヒロタダの能力により辛うじて墜落は免れた。


「お先にー!」

「さっきのペキンの奴らじゃないっすか!」

「うわああああ!」


 憤るケイの声に被さって悲鳴が聞こえたため、4人はそちらを見た。

 先に飛んでいた機体がみるみる落下しているのだ。

 ちょうどここは渓谷、このままいけば2機は無事で済まないかもしれない。



「もしかして砂鉄でエンジン系統が……?」

「助けよう! 【無効化】!」

「えっ。」


 ヒロタダの言葉に彼は目を丸くしたが周辺の状況を見たのと、ヒロタダの言葉で反射的に動いたケイを見てすぐさま決めたらしい。

 ヒロタダはすぐさま2機にかかる磁力を【無効化】させた。


「ヒロタダハンドル!」

「エルナ頼む!」

「嘘でしょ?!」

「お願い、エルナ。【具現化】!」


 シュウゴがワイヤーを創り出し、2機をどうにか固定する。もちろん、2機分の重さがかかった機体はぐん、と傾く。

 姿勢を崩し、落ちかけたシュウゴをヒロタダががっしりと掴みなんとか転落を免れる。シュウゴを抑える役をエルナとすぐに代わり、彼はハンドルを掴む。



「オレがフォローします! 捕まっててくださいよ! 【炎柱】!」

「うわっ!」

「きゃっ!」

「ッ!」


 ケイが全力で出した炎は3機を引き上げ、どうにか上昇した。

 渓谷の上になんとか2機を放り出した。



「し、死ぬかと……。」

「おっしゃ、シュウゴさん、切断してさっさとゴール向かいますよ!」

「え、あ、うん。」


 無事に着地させたことを確認するとシュウゴはワイヤーを外した。

 真っ青な顔をしているあたりかなり怖かったのだろう。同じく青い顔で彼に抱きつくエルナと呆然としていた。



「ケイは大丈夫か?」

「え、面白かったっす! ヒロタダさんも大丈夫そっすね!」

「まぁ、運転する側はどういう動きするかってある程度予想できるしな。」


 まるでジェットコースターに乗ったかのように楽しむ彼に苦笑しつつ、ヒロタダは持てる速度で急いでゴールに向かった。

 幸い途中妨害もなかったため2人が放心していても問題なかったが、すぐに意識を取り戻したらしく最後まで警戒を怠ることなく経過した。









 結果からいえば3位だった。加えてビリ。

 つまりは3チームしか残らなかったのだ。



「お前らよく耐えたな!」

「……心臓飛び出るかと思ったわよ。」

「……オレも落ちかけたときは本当に。」


 パウルに労られながらもエルナとシュウゴは今さらになって緊張してきたのか手が震えていた。


「ケイくん、能力の出力も範囲も段違いね。凄いわ。」

「2つの炎をコントロールできるようになってからは今まで以上に使いやすくなって。いやー、楽しかったです! でも、あそこまでやる必要はなかったですよねぇ。」


 オリヴィアに褒められ素直に喜びつつも、ペキンチームの方を見ながらぽつりと呟く。

 それを見守るヒロタダにルイホァが尋ねた。


「ヒロタダ、よく助けようと思ったね。自分たちも危なかったのに。」

「気づいたら、っていうか。うーん、何でかね。」


 自分でもよくわかっていないらしいヒロタダも大概お人好しだとルイホァは笑う。

 そんな穏やかな空気の中に、開始前と同様に胡散臭い笑みを浮かべたチンヨウがやってきた。



「皆さん予選通過おめでとうございます。厄介な能力をお持ちのようで。」

「……ありがとうございます。」



 たまたま近くにいたヒロタダが愛想笑いを浮かべながら礼を述べる。

 ケイとエルナは明らかに嫌そうな顔をしたが、シュウゴは無表情のままことの成り行きを見守っている。そのリアクションを一通り見やると、チンヨウはただ、と次の句を告げた。


「あの無能どもを見捨てていればもっと楽に戻ってこられたと思いますが。」

「お前らな、程度ってもんが「確かに、貴方たちはルールに則ってレースをしただけですものね。」


 咄嗟にケイのことをオリヴィアが抑えると同時にヒロタダは2人の間に立ちはだかった。



「ですが、わざわざあの渓谷で行う必要はありましたか? それに川場の方が砂鉄を含む砂も多くあり、容易だったのでは?」

「何、試しただけですよ。」


 チンヨウは笑顔を崩さず淡々と述べた。


「あんなトラブルさえも自らどうにかできない隊員などいつか死ぬ。どこで死ぬかの問題です。それが今日だった。それだけです。」

「……そうですか。」



 それからヒロタダの行動を予見できた者はいただろうか。

 彼は自らより大きなチンヨウの胸ぐらを掴んだ。

 あまりにも2人とも笑顔を微動だにさせなかったため、周りが全く反応できなかった。



「あなたの言うことは正論かもしれませんが仲間に向けるものではありません。はっきり言うとその考え方に嫌悪感さえも抱きます。」

「なら私も貴方の考え方は嫌いですね。」

「ええ、だからこそ、本戦ではっきりさせましょう。どちらの考えが正しいか。」


 ふは、とチンヨウは笑う。



「いいでしょう、その度胸買いました! 是非貴方に当たることを祈っていますよ!」



 殺伐とした空気のままその場はお開きとなった。

 しかし、ヒロタダはこの宣戦布告を後悔していなかった。

 改めてこの戦いは負けられないと心の中で呟いたのであった。



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